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[E3 2016]西川善司の3DGE:E3 2016で見えたMicrosoftのXbox戦略(1)「Xbox One S」の新機能は誰のためのもの?
「Xbox One S」発表。新要素「4K出力対応」「HDR対応」とは
メインプロセッサであるAMD製カスタムAPUを製造するのに用いる製造プロセスが,従来機の28nmプロセスから微細化を果たしているのは確実だ。Microsoftが明言しているわけではないが,AMD製プロセッサがGLOBALFOUNDRIESの14nm FinFETプロセス技術へ移行しつつある以上,Xbox One SのセミカスタムAPUも同じプロセス技術を採用している可能性は極めて高い。
製造プロセスの微細化によってプロセッサの消費電力が劇的に下がり,発熱量も低減されることから,本体の体積は従来比で約40%減となり,ちょっとしたモーニングスター的な武器っぽかった巨大な電源ユニットもXbox One Sでは本体に内蔵することができている。
Xbox One発売当初の価格が499ドル(税別)だったのに対し,Xbox One Sは299ドル(税別)へと下がったのもトピックといえるだろう。価格も体積と同じく約40%のシェイプアップを実現したというのは,興味深い偶然である。
そんなXbox One Sの,機能面における注目ポイントは以下の2点だ。
- 4K(3840×2160ピクセル)出力対応
4Kテレビと接続して4K解像度の映像を見ることができるようになった - HDR(High Dynamic Range,ハイダイナミックレンジ)出力対応
HDMI 2.0aで規定されている最大輝度1万nit(=1万カンデラm2)を表現できるように,また,現実世界に存在する物体色のほぼすべてを記録したデータベース「SOCS」(Standard Object Color Spectra)をカバーできる「ITU-R BT.2020」の色域規格に対応するようにうなった。そのため,対応ディスプレイデバイスと組み合わせたときに,まばゆい逆光表現や,鋭いハイライト表現,鮮やかな原色表現などを行えることになる
この「4K出力」と「HDR出力」のセット対応は事実上,従来のXbox Oneになかった,HDMI 2.0a(もしくは2.0b。以下同)対応を,Xbox One Sが果たしたということと同義である。
ただし,GPU性能自体は従来のXbox Oneと変わらない。そのため,リアルタイムに4K解像度のゲームグラフィックスを描画する,なんてことをXbox One Sが行えるわけではない。
Xbox One Sでは,NETFLIXをはじめとしたネットワークVOD(Video On Demand)サービスなどにおいて4Kコンテンツの再生に対応し,また,4K Blu-rayこと「Ultra HD Blu-ray」にも対応した。これら4Kソースの映像を4Kテレビへ出力できるようになったということなのだ。
ネットワークVODサービスやUHD Blu-rayといった4Kビデオコンテンツは,HDRコンテンツである場合も多いので,4KかつHDR対応は,そうした4Kビデオコンテンツをフルスペック表示するとき,活きてくることになる。
なお,UHD Blu-ray Discの読み出しに対応したということは,Xbox One SのBlu-ray DiscドライブがBDXL規格の3層100GBメディアに対応したということでもあるのだが,ゲームディスクが3層100GBになることは,少なくとも当面はないだろう。
ゲームには関係のない4K出力対応。しかしHDR対応はゲームと大いに関係する
つまり4K出力対応とHDR出力対応はいずれもXbox One Sのビデオコンテンツ再生面における強化ポイントなのだが,ゲーム用途ではまったくの無関係なのだろうか。
まずはっきりさせておくと,前述のとおりGPUの性能強化がなされていない以上,Xbox One Sにおける4Kレンダリングは従来モデルと同様に無理である(※厳正を期せば,グラフィックス品質を大きく下げるなどすれば,HDMI 2.0aで出力できるかもしれないが,それはそれ)。
しかし,HDR出力対応のほうは,現行Xbox OneのGPU性能のままでも活用でき,実際,Xbox E3 2016 BriefingでMicrosoftは,「Xbox One SはHDRゲームに対応する」と謳い,さらには新作タイトル「Forza Horizon 3」をXbox One S上で実行した場合にはHDR出力が可能だと明言してもいる。
HDR(とBT.2020広色域)は4K映像とセットで扱われることが多いのだが,HDMI 2.0aの規格上,フルHD解像度の映像とHDRやBT.2020広色域を組み合わせることに何ら不都合はない。そこで新型Xbox One Sでは,ゲームにおいて「フルHD
GamesIndustry.biz Japan Editionにおける筆者のレポート「シリコンスタジオ川瀬氏が説く ゲームグラフィックスをHDR映像としてHDRテレビに出力する方法」でも解説したことがあるが,ゲームグラフィックスのHDR対応は「トーンマッピング工程をHDRに対応させる」ことと「コンテンツ制作時や描画時において,目的の色空間へ対応させる」ことを意識すればよく,GPUへの大きな追加負荷はない。
おそらく,これから発売になるXbox One S向けビッグタイトルの多くはHDR対応になると見られるが,ひょっとすると,この負荷の低さを活かす格好で,既存タイトル向けのHDR対応パッチといったものが出てくる可能性もあるだろう。
Xbox One Sは日本でどうなるのか
日本では14日1:30からの開催だったので,Xbox E3 2016 Briefingを通しで見た人がどれだけいるかは分からないが,見た人は,1つ違和感を覚えなかっただろうか。
Xbox E3 2016 Briefingを見た印象で述べるなら,Xbox OneにおけるKinectの活用は,1つの区切りを迎えた可能性が高そうだ。
また気になるのは,Xbox One Sが日本でいつ発売されるか,いや,そもそも発売されるのかという点だ。この点について,日本法人である日本マイクロソフトからのアナウンスはまだない。
日本で低迷を続けるXbox Oneプラットフォームに,Xbox One Sは果たして「喝」を入れることができるのか,注視していきたいと思う。
なお,続く第2回では,性能強化版Xbox Oneとして2017年の発売が予告された「Project Scorpio」(プロジェクトスコーピオ,開発コードネーム)を取り上げる予定だ。
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