インタビュー
[TGS 2013]SCEとしてやらなければならないのは,ゲームの活性化。SCEJAプレジデント 河野 弘氏インタビュー
多彩な製品の発表ラッシュに加えて,最近はインディーズゲームへの取り組みでも話題となっているSCEJAだが,そのプレジデントである河野 弘氏は,今後をどう見据えているのだろうか。TGS期間中に行われた合同インタビューの模様をお届けしよう。
待ってくれるファンに,もう1つ誠意を見せたい
──本日はよろしくお願いします。9月9日にプレスカンファレンスが開催されて,新型PS VitaとPS Vita TV,そしてPS4の国内発売日が発表されました。それに対する反応をどのように捉えていますか。 とくにPS4の発売日については残念という声が多いようですが。
河野氏:
──たしかにイメージはやわらかい感じになりました。
河野氏:
想定外だったのはPS Vita TVです。実は「あの場所ではそれほど盛り上がらないかな」と思っていたんですよ。
──え,そうなんですか。
河野氏:
PS Vita TVにはとても期待していて,私も毎週会議に顔を出しているんですが,そこでは「ゲームから離れている人」を狙う製品という位置づけで考えられていたんです。
──私も発表を見てそう感じました。
河野氏:
ただ,ふたを開けたら意外にゲーマー層からの反応がよくて。ソニーストアのデータを見ると,新型PS VitaとPS Vita TVを一緒に予約する方が非常に多いんです。「Vitaのゲームを大画面で遊びたい」ということのようです。リモートプレイを楽しむために,PS4とあわせて購入することを考えている人もかなりいらっしゃるようです。
価格が手ごろということもあるのですが,案内している数はすべて予約済みになっています。これは予想外でした。
──PS VitaやPS4とあわせて購入する人が多いというのは,ちょっと驚きました。
河野氏:
そしてPS4の発売日ですが,「がっかりさせてしまうだろうな」とは思っていました。
ただ,SCE全体のことや各地域の事情,タイトルの充実度などを総合的に考えて,日本は2月にしようと,会社として決めたので,覚悟していたというか,発表のときには「ひるむことなく話そう」と思っていましたね。
──2月になった理由はすでにいくつかのメディアなどでSCEの方が話されていますが,改めて河野さんからご説明いただけますか。
河野氏:
地域を比べて,どこを早く,どこを遅くというのはないんです。各地域の事情や立ち上げ準備が整う時期を考えて,ですね。今回は早めに準備ができて,しかも据え置き機が市場のメインとなっているアメリカが結果的に最初になった,ということです。
──「日本より発売が早い地域はあるだろうけど,遅くても年内だろう」と思っていた人が多かったようですね。
河野氏:
当然ですが,「がっかりだ」という声を多くいただきました。ただ,そういった声を届けていただける人はすごく期待してくれている人だと思うので,そういった方にどう応えるかが課題だと思っています。「なにか誠意を見せたいよね」という。
──カンファレンスで,初回版には「KNACK」と延長保証が付属すると発表されましたね。
河野氏:
ただ,KNACKは新しいIPなので,その価値がある意味計り知れないんです。あれが例えばファイナルファンタジーシリーズの作品であれば,価値が分かりやすいですよね。
もちろんKNACKはPS4を1番よく知っているマーク・サーニーが作っていますから,素晴らしいものなのですが,それを伝える努力はするにしても,もう1つ何か誠意がないかと。
──さらに何かが付属するのでしょうか。
河野氏:
反応が悪かったから「ごめんなさい」で出すものではなくて,「何かやれることがあればやろうよ」という気持ちです。それはいずれ皆さんに打ち出すつもりです。
ほかの地域よりも早くすればいい,というわけでもないと思いますし,自分達で2月が最善だと決めたなら,それを理解していただけるように,できるだけのことをしたい,と思っています。
──来年2月という時期になるからには,品切れという事態は避けていただきたいですね。
河野氏:
台数はなんとしても揃えなければいけないと思っています。発売日に,欲しい人全員へ届けるというのが最低限だと。
──新型ゲーム機はTGSにプレイアブル出展されて,そこから2か月くらいで発売,というスケジュールが多いですよね。今回はTGSから発売までの時間が空いてしまうので,その間に何かイベントでもあるのかなと思っているのですが。
河野氏:
やるとしたらPS4だけではなくて,新型PS VitaやPS Vita TVも体験していだだきたいですね。場所の選定も難しいところです。PS Vita発売のときには5か所で開催しましたが,「なぜ四国に来ないんだ」という声をいただいたりしましたし……。
──PS4の発売がほかの地域より遅れる分,新機能のようなものが搭載される可能性はありますか。
河野氏:
ゲーム面での特別な仕様は難しいかもしれませんが,日本にしか出してない製品に対応させることはもちろん考えています。例えばnasneですね。PS4の位置づけを考えたとき,nasneへの対応はマストだと思います。
──nasneに限らず,VAIOやXperiaといったソニーグループ製品との連携はPS3でも可能でしたが,これがPS4になると何が変わるのでしょうか。
河野氏:
例えば,自分達のプレイをストリーミングでネットに流すといったことが可能になります。夢を語れば,そのストリーミングを見た人からの反応を表示させて,見ている人がプレイヤーにパワーやモチベーションを与えられるような仕組みを作れるかもしれません。そういった意味では,PS3とPS4ではまったく違う体験ができると思います。
──ゲームプレイのストリーミングというと,これまでは著作権の問題がついてまわりましたが,PS4の標準機能になるということは,サードパーティ各社との間でその問題もクリアされているということですよね。
河野氏:
はい。基本はSHAREボタンでのストリーミングが可能ですが,タイトルメーカーさんから「この部分は流したくない」「音楽を入れるのはやめてほしい」という要望があれば,それを反映させることになっています。
──そういった交渉を行うとき,タイトルメーカーの反応はどんな感じなのでしょうか。
河野氏:
非常にポジティブに捉えてもらっています。著作権をクリアにするためにかかる手間や費用などの問題はもちろんあるのですが,どれだけの人に見てもらえて,どんな効果があるのか,という面ではすごくポジティブだと思います。
──ちょっと意外ですね。動画サイトのゲームプレイムービーが次々に消されたり,タイトル画面の前に警告のメッセージが流れたりという感じなので,満足にストリーミングができるかどうか心配だったのですが。
河野氏:
そこは安心感があるからではないでしょうか。トレンドとして,ゲームプレイを配信する方向に行くのは避けられない,そうであれば,プラットフォーマーが正式にサポートするものを選ぼうということになるのではと。
──PS3からPS4への乗り換えはどのように促進する予定でしょうか。
河野氏:
例えば,PS3版とPS4版両方がリリースされるタイトルで,PS3版の購入者が通常より安くPS4版を購入できたりといったことですね。FFXIVはそれを無料にするという発表がありましたが。
──難しい問題だとは思いますが,いずれはPS4への移行を本格的に行う時期が来るわけですよね。
河野氏:
そういう潮目の時期がありますよね。携帯機に関して言えば,今年は“PSPからVitaへ”という時期だと思います。もちろんPSPの生産を打ち切るという意味ではありませんが。
──新型PS Vitaにはその移行を促進する役割もあるんですよね。カラーバリエーションも,よりカジュアルな層に向けたものと感じました。
河野氏:
私達のような50歳代の人間からすると,「ちょっと弱くないか?」と思うのですが(笑),新型PS Vitaを担当した20代の女性社員の意見を総合すると,あのカラバリになったんです。
──PS Vita TVは,どんな製品なのかを一言で表すのが難しいと感じるのですが,今後どんなプロモーション活動を予定していますか。
河野氏:
製品の魅力を分かりやすくアピールするために,動画のコンテンツを用意しています。「PS Vita TVって何?」というところから始まるような。加えて,ゲーム専門のメディア以外にも強くアピールしていこうと思っています。
実際のところ,あれはどの売り場に置くのがいいのかなと考えてしまう製品ですね(笑)。
──テレビに接続する小型のAndroid端末というのが少し前にいくつか出てきましたが,PS Vita TVはそれらと比較すると,コンテンツの面でかなり有利ではないかと感じます。PS Vitaタイトルや動画サービスに加えて,ゲームアーカイブスもありますし。
河野氏:
ええ,ゲームアーカイブスは,PlayStationプラットフォームの資産をどうやって再活性化するかという点で非常に重要だと考えています。ビジネス的にもそうですが,ゲームを産業として見た場合に,古いものを再評価してもらえる仕組みがあるということは凄いことだと。PlayStation Plusのフリープレイの中にもゲームアーカイブスのタイトルを入れていこうと,メーカーさんと調整を続けているところです。
──本当に名作揃いですからね。
河野氏:
そういう意味では,PS Vita TV用の新たなタイトルというのは,それほど必要ではないのかもしれません。新しいものはPS Vitaに向けて作ってもらえればいいのであって。
むしろPS Vita TVでは,過去のコンテンツをどう面白く見せるかということのほうが大事だと思っているんです。最初にPS Vita TVを見たとき,月額500円のPlayStation Plusを楽しむ機器としてリリースできたらいいかもね,といった話もしていましたね。入会するとついてくる,といった感じで。
──あぁ,それはユニークですね。自分なら即入会します(笑)。
ゲーム業界に可能性を感じる人をできる限りサポートする
河野氏:
ところで,SCEのブースはご覧になりましたか。
──ええ,「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」のステージイベントを取材しましたが,小島秀夫監督がサービス精神旺盛で,すごく盛り上がっていました。スネークが「待たせたな!」と言った場面では歓声があがってましたね。
河野氏:
へえ,歓声ですか。それはすごい。
──TGSでは歓声があがるイベントってなかなかないですよね。
河野氏:
小島さんも,「deep down」のステージに出ていただいた小野義徳さんも,サービス精神が凄いですよね。そこが皆さんに支持される理由の1つじゃないでしょうか。
──ああいった形で,PlayStation 4のタイトルに力を入れてもらえるのは心強いですよね。
河野氏:
もちろんです。PlayStationを代表するようなタイトルには,ぜひ新しいプラットフォームに来てほしいと思っているので,そういったタイトルのクリエイターの皆さんが,新しいプラットフォームを見て「こんなことができるようになるんだ」と思ってもらえるのは嬉しいですし,心強いですね。ただ,それだけに縛られるのはよくないと思っています。
──縛られる,ですか。
河野氏:
ええ,以前からPlayStationプラットフォームを利用していただいている人に継続してもらうのはもちろん大事ですが,一方で,プラットフォームは開かれたものでなければならないとも思っています。新たにチャレンジする人を応援したいということですね。
──それがインディーズですね。
河野氏:
そうですね。インディーズというのは,ある意味宝の山です。PlayStation 4でのインディーズサポート体制がよく話題になりますが,初代PlayStationのころから,「ゲームやろうぜ!」などのインディーズに対しての取り組みは行っていました。
──はい。そこからゲーム業界に入って,今では有名クリエイターになった方もいますね。
河野氏:
つい最近も,角川ゲームスさんと共同で「Project Discovery」(関連記事)という,ユーザー発のコンテンツを発掘する取り組みを行いました。
──「PlayStation Mobile GameJam」(関連記事)というイベントもありましたね。
河野氏:
そういったクリエイターの発掘企画を継続して行っているのは,SCEにソニーミュージックの血が濃く流れているからではないかと思っているんです。レコード会社の生命線はタレント発掘ですから。
──なるほど。SCEは音楽業界の手法をゲーム業界に持ち込んだ,とよく言われますよね。
河野氏:
──今「同じ顔ぶれ」という言葉が出ましたが,業界で人材の入れ替わりが少ないことに危機感を感じているのでしょうか。
河野氏:
入れ替わりというよりは,若い人が入りづらくなるのでは,という心配ですね。実績のある方に頑張っていただけるのは,先ほども言ったように心強いことですから。
──おなじみの顔に新しい顔が加わっていく,ということですね。
河野氏:
それはメーカーさんとの関係でも言えますね。2010年にSCEに来て以来,いわゆる大手メーカーさんを訪問したり,そこの開発部からのプレゼンテーションを受けたりということはもちろんやっているのですが,それ以外のメーカーさんやデベロッパさんとコミュニケーションを取ることを意識しています。
──大手メーカーだけではいけないと。
河野氏:
はい。サイバーコネクトツーさんとか,ガンバリオンさんとか……。私が福岡出身なので,福岡の会社が最初に出てきましたが(笑)。
──郷土愛ですね(笑)。
河野氏:
そういった会社さんを訪問して,開発現場を見させてもらうと,希望が感じられるというか……やはり現場にはその業界の勢いみたいなものが表れると思うので,そこと関係を持つことは大事だと思うんです。
──なるほど。
河野氏:
もちろん大手さんとの関係も大事ですが,「何か面白そうだ」と感じたところにはできるだけ足を運ぶようにしています。「普通そういうことしないですよ」と言われたりもしますけどね。
──来られたほうはびっくりしますよね(笑)。
河野氏:
(サイバーコネクトツーの)松山 洋さんを訪ねたときは面白かったです。会うなり「(同じ福岡にある)レベルファイブさんにはもう行かれたんですか?」と聞かれたんですよね(笑)。
──いきなり(笑)。
河野氏:
「いえ,今回は行く予定ないです」と答えたら「え,レベルファイブに行かないのにウチに来たんですか?」とびっくりされてましたね。
──いつもは「レベルファイブの後」なんでしょうね。
河野氏:
そうしたら松山さん,俄然やる気が出たみたいで(笑)。さらに「博多の出身なんです」と伝えたら「もう友達ですね」と(笑)。
──なんだかその光景が想像できます(笑)。
河野氏:
そういった感じで,開発現場にいる方のモチベーションを上げたり,何かを作りたい,という思いを支援していきたいと思ってるんです。
──これからはPS4という新しいプラットフォームの開発になって,作業も大変になりそうですが。
河野氏:
PS4タイトルの開発サポートについては,SCEとソニー本社のサポートチーム両方が対応することになります。その2つのチームは,こなれてくるまで相当忙しくなると思いますね。PS4ではソーシャルやマルチデバイス対応といった機能が重要になるので,そのあたりはとくに厚くサポートしたいです。
──中小規模のメーカーやデベロッパの場合,サポートが必要なのは開発よりむしろ宣伝や販売面,というところもあると思うのですが,そのあたりはどうお考えですか。
河野氏:
そういったメーカーさんやデベロッパさんが開発するのは,ダウンロードタイトルが中心になると思うので,PlayStation NetworkやPlayStation PlusといったSCEの媒体でどうアピールしていくか,ということになるでしょう。自社媒体なので,できることはいろいろあると思います。それもプラットフォーマーの役割ですね。
──それでは,残り時間も少ないようなので,最後にこれからの意気込みを聞かせてください。
河野氏:
スマートフォンのソーシャルゲームが業界にもたらしたインパクトは大きくて,いい意味でコンシューマゲームが学んだ,得られたものは多いと思うんです。例えばFree-to-Playですね。最初のハードルを下げて,まず触ってもらってからビジネスに移るという発想はコンシューマゲームにはありませんでした。PlayStationにもFree-to-Playタイトルが増えましたが,それは紛れもなくソーシャルゲームからの影響があったからだと思います。
──確かにそうですね。
河野氏:
でも,全部がソーシャルゲームのようになればいいかというと,そうではありません。コンシューマゲームには,完成度の高さや没入感といった良さがあります。PlayStationは,ゲーム業界の中のコンシューマゲームを盛り上げていかなければならないと思っています。
クリエイターの方達のモチベーションにもなりたいと思っていますね。「こんなゲームを作りたい」という思いに応える場を作りたいと。
そうやってゲーム業界全体を盛り上げていきたいと思っているので,見守ってください。
──ありがとうございました。