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    印刷2013/09/12 00:00

    インタビュー

    ゲーム機の復権なるか――PlayStation 4の国内販売が遅れる理由,そしてサプライズ発表されたPS Vita TVについて,SCE WWSプレジデント・吉田修平氏に話を聞いてきた

     ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(以下,SCEJA)は2013年9月9日,「SCEJA Press Conference 2013」を東京都内で開催した。このカンファレンスでは,既報のとおり,PlayStation 4の国内発売日の発表や,新型PlayStation Vita(PCH-2000),PlayStation Vita TVのお披露目など,多くの重大な発表が行われた。

    2013年9月9日に行われた「SCEJA Press Conference 2013」の様子
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     なかでも,PS4の国内販売が来年の2月22日になったことは,日本のゲーマーにとっては大きなニュースだったろう。11月発売の欧米より大幅に遅れることに対して,少なからず失望の声が上がったのも確か。一方で,新型PS Vitaの発売や,手のひらサイズの新端末PS Vita TVは,世界に先駆けて日本で先行販売されるなど,欧米と日本では,重視するポイントを切り分けてきた印象もある。とくにPS Vita TVは,ゲーム機というよりはセットトップボックスの色合いが強く,これまでのPlayStationと方向性が異なるように思える。――なぜ,こんな製品を?

     4Gamerでは,さっそくソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ(以下,SCE WWS)の吉田修平氏にインタビューを申し込み,日本でPS4の販売が遅れる理由や,PS Vita TVの狙いについてなど,いろいろな話を聞いてみた。当のSCEは,PlayStationプラットフォームの戦略をどう考え,日本という市場をどう捉えているのだろうか。

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    ソニー・コンピュータエンタテインメント 代表取締役社長 兼 グループCEO アンドリュー・ハウス氏。持っているのはPS Vita TV本体
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    PlayStation 4の国内発売が遅れるのは“万全を期す”ため


    4Gamer:
     本日はよろしくお願いします。まず単刀直入にお聞きしたいのが,PlayStation 4の国内発売が北米や欧州と比べて遅くなるのはなぜか,というところです。

    吉田修平(よしだしゅうへい):1986年にソニー入社。1993年には,SCEの設立メンバーの一人として参加し,久夛良木 健氏の下,「プレイステーション」プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースしてきた。2008年からはSCEワールドワイド・スタジオのプレジデントに就任。PlayStation 4やPlayStation Vitaなどのハードウェア開発にも深く携わる
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    吉田氏:
     そうですよね。まずはそこからご説明しないといけませんよね。

    4Gamer:
     やはり,みんなが気になる部分だと思いますので。

    吉田氏:
     ええと,これは当然,さまざまな戦略的判断を行った結果――ということになるんですけれど,まず先行して発売する欧米ゲーム市場の事情から説明しますと,欧米市場では,現世代機(PlayStation 3)の普及がとても早かったことが挙げられます。その結果として,高画質なHDゲームの需要が非常に高くなったという流れがありました。

    4Gamer:
     HDテレビの低価格化が凄い勢いで進み,HDテレビが一気に家庭に普及したという背景も大きいんでしょうけど。

    吉田氏:
     ええ。それにHDゲームの開発環境がPCベースになっている昨今は,PCベースで開発した高品質なものを,ゲーム機で動かすためにクオリティを落とさなきゃいけないとか,そういう無駄や手間もあって。欧米の市場では,ゲームメーカーさんからしても,ユーザーさんからしても,より高性能なコンシューマゲーム機を求める機運が強くなっています。

    4Gamer:
     PS3が発売されてから,もう7年が経ちますしね。

    吉田氏:
     実際,早く次のゲーム機を出してくれ!という声は,本当にいろいろなところから頂いていたんですよ。その意味でも,PS4は,本当に満を持して発売される商品なんです。我々SCEとしては,製造ラインから販売ラインも含めて,欧米での準備は万端という状況ですし,それに加えてゲームメーカーさん側の準備も整う――次世代機向けのタイトルを揃えられる――タイミングが,今年のホリデーシーズンでした。もう,ユーザーさん的にもそうだし,市場の動向としても,PS4の発売は「ここしかないだろ!」という。欧米のゲーム市場は,PS4発売に向けたあらゆる条件が整った状態になっています。

    4Gamer:
     一方で日本の市場はどう分析されているんですか?

    吉田氏:
     日本でのPS3世代の普及は(他の地域と比べると)比較的ゆったりとしたものでした。日本では,どちらかというと携帯ゲーム機の方が先行していて,市場的にもそちらの割合が大きいのが特徴ですよね。ですから,欧米の動向と比べると,据え置きゲーム機に対する反応も結構違うんですね。

    4Gamer:
     そうしたことも含めて,日本では年末にPS4を出す必要はない,ということですか?

    吉田氏:
     いえ,出すからには“万全を期したい”ということですね。焦って発売するのではなく,ちゃんとユーザーさんにとって「今が買うタイミングだな」「すぐに欲しい!」と思ってもらえるような状態で発売すべきだと。そう判断したんです。

    4Gamer:
     ローンチ時に海外のタイトルばかりだと,確かに国内市場では苦戦することになるかもしれません。

    吉田氏:
     ですから,国内でPS4を立ち上げるタイミングでは,同時発売のタイトルを含めて,いろいろなものの足並みを揃えます。すでに発表させて頂いたように,国内では,PS4の発売に合わせて「龍が如く 維新!」や「真・三國無双7 with 猛将伝」といったタイトルがリリースされますし,「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」のβテストもローンチと同時に始まります。国内のゲームメーカーさんと足並みを合わせて,「ここだ!」と思えるタイミングが2月22日という日付だったんです。

    4Gamer:
     しっかりと準備することを重視したわけですね。

    吉田氏:
     もちろん,理想から言えば,全世界で同時に発売をして,国内は国内でちゃんとタイトルを揃えるということが,並行してできるのがベストです。しかし,ローンチタイトル以外の課題――すぐに売り切れてしまうことのないようしっかり台数を揃えること,それに加えて我々の予想を超える引き合い(受注台数)の多さがあっただとか,そういったもろもろの状況を考慮した結果,まず北米と欧州を中心に販売し,それ以外の地域ではタイミングを遅らせるという決断に至りました。

    4Gamer:
     まぁ「なんですぐに買えないんだ!」というのは,ある意味で期待の裏返しなのかなとも思うんですけどね。

    吉田氏:
     期待してくださってるファンの方には,本当に申し訳ないと思っています。そのぶん,国内での発売には万全を期して臨みますので,ぜひお待ち頂ければと思います。

    4Gamer:
     ちなみに,国内発売時のPS4のローンチタイトル数はどのくらいになりそうですか?

    吉田氏:
     現時点では,ファーストパーティとサードパーティを併せて19タイトルを予定しています。


    PS Vitaをもっと盛り上げたい


    4Gamer:
     PS4の発売が遅れる一方で,日本では,PS Vitaの新型や「PS Vita TV」という新製品が世界に先駆けて先行販売されます。その意図や狙いはなんでしょうか。

    吉田氏:
     日本はポータブルゲーム機が非常に強い地域で,今年に入ってからはPS Vitaも,とてもよい形で盛り上がってきました。私たちとしては,その“良い流れ”をより加速させるためにも,PS Vita関連の新しい製品をいち早く日本市場に投入したいと考えました。

    4Gamer:
     今回のカンファレンスでは,PS Vitaの新作タイトルが数多く発表されましたよね。あれだけ密度の濃い発表会は海外のイベントを含めても珍しいような……。

    吉田氏:
     はい。ずっと我慢して溜めに溜めて……ようやく発表できた!という感じです。本当に楽しみなタイトルをたくさんお知らせできて,こちらについてはとても嬉しく思っています。PS4では,国内のメーカーさんとの足並みが揃うのが少し先になりますが,一方でPS Vitaは,かなり良い感じでタイトルが揃ってきて,ようやくユーザーの皆さんにお伝えできるタイミングになった。
     ――であれば,国内ではもっとPS Vitaというプラットフォームを盛り上げていこうと。PS Vitaというプラットフォームをまず日本できちんと成功させて,そのうえで他の国へもその勢いを波及させていきたいと考えているんです。

    9月9日の「SCEJA Press Conference 2013」でアナウンスされたPS Vitaの新作タイトル群。「PHANTASY STAR NOVA」や「絶対絶望少女 ダンガンロンパ AnotherEpisode」,「ソウル・サクリファイス デルタ」など,注目作が多数発表された
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    4Gamer:
     さきほどのPS4の話とは逆で,PS Vitaは国内での準備が万端,ということですか。

    吉田氏:
     今回,PS4の発売日とPS Vita関連の発表を併せて行いましたが,これには大きな意味があるんです。というのも,据え置きゲーム機への期待値がとても高い欧米ではPS4を,ポータルゲーム機が人気の日本ではPS Vitaをそれぞれ先行して展開し,その勢いや盛り上がりといったものを,双方から流せるような形にしていきたいんですよね。

    4Gamer:
     ああ,なるほど。

    吉田氏:
     それに,ユーザーさんの立場からすれば,同時期にすべての製品を一斉に発売されても,それはそれで負担になってしまいますよね。

    4Gamer:
     PS4と新型PS Vitaを一緒に買うのは,確かに負担が大きいです。

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    吉田氏:
     であるならば,欧米と日本,それぞれの特性を考慮したうえで,PS4とPS Vita(の新製品)というプラットフォームは,あえてずらして展開した方が戦略的にもよいと判断した。実はこれも,PS4の国内発売が遅くなった理由の一つです。発売時期をずらすことで,マーケティング的にも焦点を絞った展開が可能になりますからね。

    4Gamer:
     日本の市場を軽視している,というわけではないんですね。

    吉田氏:
     当然です! 日本は,その市場的な規模感はもちろんですが,何よりも,新しいタイトルが作られる土壌がある重要な地域ですから。ただ,先ほどもお話したような各地域の事情であったり,我々のリソースの問題であったり,それらを広く考慮した結果,今回の判断(展開をずらす)がベストであると考えたんです。

    4Gamer:
     ふーむ。

    吉田氏:
     とくにPS Vita TVは,我々としても挑戦的な製品だと考えていますし,私が言うのもなんですが,かなり“面白いハードウェア”だと思います。日本のユーザーの皆さんには,ぜひ手に取ってみて頂きたいですね。

    新型PlayStation Vita(写真左)と,従来の機種(写真右)との比較写真。一回り薄くなっているのが分かる。実際,実機を持ったときの感触もかなり“軽い”と実感できる。心配される液晶ディスプレイも,視野角の広さを含めてなかなか良好であった
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    PS Vita TVという製品のポジショニング


    吉田氏:
     あの,これは私から4Gamerさんにお聞きしたいんですけど,PS Vita TVの発表についてはどう感じられました?

    4Gamer:
     正直,全然想定していない方向の製品だったので,とても驚きました。そして同時に,「これは面白い製品だな」とも思いました。Apple TVやAndroidベースのSTB(セットトップボックス)と比較しても,PS VitaやPSPのゲームがさらに遊べますし。

    吉田氏:
     ありがとうございます! いやぁ,これは私自身も,発表できる日を楽しみにしていたんですよ。

    4Gamer:
     Huluなどのビデオ配信サービスが利用できるだけではなく,PS VitaやPSP,初代PSアーカイブスのゲームまで遊べるのは普通に魅力的ですし,1万円を切る価格設定ですから。お世辞は抜きにしても,かなり興味深い製品だと思います。

    吉田氏:
     さらに補足させて頂くと,PlayStation Plus (以下,PS Plus)のフリープレイを組み合わせれば,より充実したゲームライフを満喫できると思います! PS Storeで買ったものであれば,そのまま課金無しにPS Vita TV上で遊ぶことができますし,PS Plusでセーブデータをサーバ上にアップしておけば,他の機器で途中まで遊んだゲームの続きをPS Vita TVで楽しむこともできます。実際,これは便利だと思うんですよね。

    4Gamer:
     企画そのものは,いつぐらいに立ち上がったものなんですか?

    吉田氏:
     確か,2011年の夏くらいです。元々PS Vitaは,「究極のポータブルゲーム機」というコンセプトで開発をしてきたわけですけれど,開発中に「PS Vitaのアーキテクチャを応用すれば,いろいろ面白いことができるはずだ」とはずっと考えていて。

    4Gamer:
     なるほど。結構前から動いていた企画だったんですね。

    吉田氏:
     はい。PS Vitaの技術を使った商品開発というのは,社内でもさまざまなトライ&エラーが行われていて,その中で形になって出てきたのが,このPS Vita TVという製品なんです。これはちょっと面白いから世に問うてみよう,という。

    4Gamer:
     ただ,PS Vitaって背面タッチやモーションセンサーといった,独特の要素も多いじゃないですか。そことの整合性はどうなっているんですか?

    PS Vita TVの本体(写真左)と,バリューパックに付属する「DUALSHOCK 3 PS Vita TV edition」(写真右)
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    吉田氏:
     そのあたりについては,多少の“対応作業”が必要になります。ですから,残念ながら全部のPS Vitaタイトルが遊べるというわけではありません。具体的には,背面タッチ操作をワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 3)で擬似的に再現できるようにするだとか,タイトルによってはちょっとした改修も行っていて。ただ「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」のような,PS Vitaの機能を本当にフルで使っているようなゲームは,なかなか対応が難しい状況です。

    4Gamer:
     なるほど。やっぱり……とは思いつつも,それはちょっと残念ですね。

    吉田氏:
     申し訳ありません。ただ,対応タイトルは現時点でもPS Vitaだけで100タイトル以上を予定していますし,これから発売される新タイトルに関しては,かなりの割合でPS Vita TVで遊べるようになると思います。その点についてはご安心ください。

    4Gamer:
     そもそも,これは「ゲーム機」という枠組みの製品なんですか? 見た目はゲーム機っぽくないですけど。

    吉田氏:
     小さいですからね! でも中身は基本的にPS Vitaですから,ゲームを中心にした商品であることは間違いないです。それにテレビにつなぐ機器という意味では,PS Vita TVは,これまでのゲーム機とはまったく違う感覚が味わえる製品だと思いますよ。

    4Gamer:
     どういう意味ですか?

    吉田氏:
     いや,当たり前なんですけど,中身がPS Vitaですから,まるでモバイル機器のような手軽さというんですかね。ポンと立ち上げて,ゲームを途中でスリープさせて中断したり,またすぐに立ち上げたり。取り回しの良さは従来の据え置きゲーム機とは比較になりません。PS4を買うほどではないけれど,ゲームが遊べて,かつ各種ビデオサービスを利用できる導入機的な製品が欲しいという方にとって,PS Vita TVは魅力的な選択肢の一つになっていると思います。

    4Gamer:
     まぁただ,最初に飛びつくのは,割と“コアな人”な気もしますけど。

    吉田氏:
     そうですね。PS Vitaカードがそのまま使える,あるいはPS Storeの資産をそのまま活かせるという意味で,既存のPS3&PS Vitaユーザーの方にも勧められると思います。タイトルによっては,大画面で遊びたいゲームもあるでしょうし。
     それに,中身はPS Vitaですから,PS4のリモート端末としても活用できます。リビングルームにあるPS4をほかの部屋から遊ぶ――なんてことも可能になるんです。いろいろな用途でご利用頂ける製品になっていると思いますよ。

    プレスカンファレンスで発表された,PS Vita TV対応のコンテンツサービス。ビデオや音楽,カラオケなども提供されるとのこと
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    • 関連タイトル:

      PS4本体

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