企画記事
学業用のノートPCでPCゲームは遊べる? 統合GPUのノートPCでどこまでゲームが動くか調査してみた
きっかけとなっているのが,学校でPCに関する教育カリキュラムの導入が進んでいること。2023年2月に行われた若年層のPC所有に関するBCNの調査レポート※によると,比率が最も高かった「写真の編集・データ保存」(27.1%)に続く26.1%が「学校の授業・課題のため」と回答している。
※対象はスマートフォン(スマホ)を所有する若年層(15〜39歳)の男女796人
BCN調査レポート「ホントにPC離れ? 若年層の6割以上がPCを所有」
大学や専門学校,高等学校などで推奨されているBYOD(Bring Your Own Device。授業や課題のため自身が所有するPCを持参すること)もまた,それを後押ししているもののひとつだ。
とくに大学ではBYODが一般的となっており,各大学のサイトには学生向けのBYOD情報ページが設けられ,大学生協では新入生向けの「おすすめPC」が販売されている。
そういった背景を踏まえると,学生のなかに授業や課題のためPCを持つようになってからPCゲームの世界を知り,遊んでみたくなったという人はいるのではないだろうか。
さらにそのなかには,PCを持つようになってPCゲームに興味がわいたものの,「ゲーム用PCではないからPCゲームは遊べない」と諦めているだろう。
メーカーや大学生協などで販売されているBYOD推奨モデルは,当然ながらそのほとんどがゲームPCではない。ゲームをするにはゲームPCが必要で,学業用に買ったPCではゲームはできないだろうと思い込んでいる人は多いのではないか。
しかしそれはもったいない。今どきのCPUに組み込まれている「統合GPU」(統合型グラフィックス機能,iGPU,オンボードグラフィックスとも)のグラフィックス性能は,非常に高くなっている。
ゲーム用PCでなければ成しえない高画質と高フレームレートによるリッチなゲーム体験は(当然)無理だが,たとえビジネスノートPCでも,設定次第でゲームそのものの面白さや体験は十分に味わえるのだ。
ということで「統合GPUのノートPCで,どこまでゲームが遊べるのか」をテーマに,実際にいろいろなジャンルのゲームをプレイして調べてみた。その調査結果をお届けしよう。
目次
※クリックすると該当する項目へジャンプします
セッティング1:テスト用PC
セッティング2:使用するゲームと調査基準
テスト1:2010年代以降にリリースされた大型タイトル
テスト2:インディーゲーム
おわりに:自分なりの設定を見つけ出し,手元のノートPCで特別なゲーム体験を
※とても大事なお話:ノートPCの冷却
セッティング1:テスト用PC
さて,少々長くなってしまうが,まずは今回の企画で用意したテスト用PCについて説明したい。この調査を始めるにあたって,テスト環境として何を用意するかという点は大いに揉めた。本当に揉めた(大事なことなので2回言う)。これはもう仕方ないことだ。
とはいえ何らかの条件に絞らなければ野放図に広がるので,「BYODを掲げる国立大学の大学生協が推奨しているPCを調べ,そこで示されている平均的なスペックのPC」を基本とした。
それで定めたスペックが,第13世代Core i7と第12世代Core i5の2パターンだ。構成は以下のとおり。
パターン1:第13世代Core i7 | パターン2:第12世代Core i5 | |
---|---|---|
OS | Windows 11 |
|
CPU | Intel Core i7-13xxx |
Intel Core i5-12xxx |
メモリ | 16GB |
|
ストレージ | SSD 256〜512GB |
SSD 256GB |
ディスプレイサイズ | 13.3〜14インチ |
基準としたのは2024年度入学生向けのBYOD推奨スペックで,1つめの第13世代Core i7はそのなかでも最高スペック,つまり高価なPCになる。第12世代Core i5は必須条件をクリアし,かつ比較的求めやすい価格帯で購入できるPCを想定したものだ。在学1年以上で,すでに学業用PCを使用している学生のなかには,後者が参考になる人もいるかと思う。
この基準をもとに,テスト機材としてDynabookとマウスコンピューターに以下のPCをお借りした。
パターン1:第13世代Core i7
Dynabook RZ/MW Webモデル ダークテックブルー
CPU:Core i7-1360P
メモリ:16GB(16GB×1)
ストレージ:SSD 容量512GB
ディスプレイサイズ:14インチ
画面解像度:1920×1200 WUXGA
Dynabook公式サイトの製品情報ページ
パターン2:第12世代Core i5
mouse F4-I5U01OB-A
CPU:Core i5-1240P
メモリ:16GB(8GB×2)
ストレージ:SSD 容量256GB
ディスプレイサイズ:14インチ
画面解像度:1920×1080 フルHD
マウスコンピューター公式サイトの製品情報ページ
以下,第13世代Core i7のDynabook RZ/MWは「i7モデル」,第12世代Core i5のmouse F4-I5U01OB-Aは「i5モデル」と表記する。いずれも統合GPUの「Intel Iris Xe Graphics」を使用する製品で,内蔵する単体GPUは持っておらず,外付けGPUボックスも一切行わない。
また,ゲームの実行ファイルはすべてUSB-C接続の外部SSDに保存し,そのSSDをノートPCのUSB Type-Cポートに接続した状態でプレイしている。
学業用PCでゲームを遊ぶテストなので,「ゲームに容量を圧迫されて課題を保存できない」なんてことになったら本末転倒だ。なので,家に帰り,勉強がひと段落したところでゲームを保存したSSDをPCに接続してゲームを楽しむ……という使用シーンを想定してこの方法をとった。
本項目の最後に重要な点として強調しておきたいのが,「決してテストモデル2機種の性能比較をするものではない」ことと,「ゲームができるか否かを明らかにするものではない」こと。
あくまで「それぞれの条件で,どれくらいゲームが動くか」を調べ,読者が「自身が所持している学業用PCであれば,どういう設定でゲームが遊べるか」を考えるうえでの参考になる情報を示すことが目的だ。
セッティング2:使用するゲームと調査基準
ここからはテストに使用したゲームと調査基準について説明しよう。こちらも少々長くなるが,大事なところなのでしっかりと伝えたい。
まずゲームだが,「2010年代以降にリリースされた大型タイトル」(いわゆるAAA)と「インディーゲーム」という2種類に分けてテストをした。テストをしたゲームのなかから,本稿でその結果をお届けするのは以下のとおり。
■2010年代以降にリリースされた大型タイトル
The Elder Scrolls V: Skyrim
Grand Theft Auto V
Monster Hunter: World
Far Cry 6
サイバーパンク2077
■インディーゲーム
バックパック・バトル
Severed Steel
Kenshi
8番出口
Omega Crafter
Mount & Blade II: Bannerlord
前者はわりと分かりやすく,各時代の大作として知られるゲームといったラインナップに。後者は軽量級から重量級まで,現在はPCでしか遊べないものを含む多彩なジャンルのゲームをまとめてみた。
なお「INDIE Live Expo」は,今回の記事に合わせて「学業用ノートPCでも快適に遊べるインディーゲーム」をSteam上に公開している。本稿とともにこちらもチェックしてみてはいかがだろうか。
INDIE Live Expoの「学業用ノートPCでも快適に遊べるインディーゲーム」ページ
続いて「どの程度遊べるか」だが,いささか判断基準が主観的になってしまうが「それなりに遊べる」を基準点とした。
……というだけだとさすがに抽象的すぎるので,それなりに遊べるラインをどのように定めたかを説明しよう。
・フレームレート(fps)は平均30fpsを確保
まずフレームレートだが,ゲーム用PCの世界では60fpsですら過去の話。3桁すら当たり前な時代である。
といっても,60fps以上で表示できなければゲームを楽しめないわけではない。表示がカクカクしない程度でゲームそのものを楽しむのであれば,30fpsが妥当な線かと思う。もちろんジャンルによって異なるものではあるが,格闘ゲームが30fpsだった時代だってあるのだ。
・ゲームプレイに支障をきたさない解像度
続いて解像度。これはスタート地点としてまず各PCに合わせて「i7モデル」が1920×1200(WUXGA),「i5モデル」が1920×1080(フルHD)で,それぞれフルスクリーン表示に設定。そこから解像度を下げていき,平均30fpsが出るラインを探った。
といっても,30fps確保のために解像度を下げ過ぎると,視認性などの面でゲームプレイに支障が出る。このあたりのジャッジは筆者の主観が強くなる部分ではあるが,どう調整したかはその都度指摘している。
・ゲーム体験が大幅に失われないような画面表現
こちらもけっこう主観が絡む。ゲームを彩るエフェクトはさまざまあるが,そのほとんどが統合GPUにとって高い負荷となる。情報量の多いテクスチャも同様だ。こちらも解像度と同じく30fpsの維持を前提に,もはや元のゲームとは似ても似つかないというレベルまで落ちないよう,テクスチャのレベルなどを調整した。
なおプレイ時間は,タイトルにもよるがほとんどのゲームで2時間程度,最低でも30分の連続したプレイを行って平均フレームレートを測った。あまりに短時間のプレイだと,サーマル・スロットリング(システム内の温度上昇を防ぐ機能で,作動するとクロックが低下する)によるフレームレート低下を計測できないからだ。
なお,フレームレートの計測にはNVIDIAのベンチマークツール「FrameView」を使用している。また,テスト結果のスクリーンショットに一部フレームレートの計測表示が残っているものがあるが,こちらはご容赦いただきたい。
といったところで,長かった説明はここまで。ここからはテストの結果を届けよう。
テスト1:2010年代以降にリリースされた大型タイトル
■The Elder Scrolls V: Skyrim
設定
i7モデル:ゲーム側の設定で「High」 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲーム側の設定で「High」 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:46fps
i5モデル:45fps
まずは小手調べ的に,2011年段階での超大作だった「The Elder Scrolls V: Skyrim」から。いずれも推奨設定「High」でプレイしたが,フレームレートは安定の40fps超えで,なんの支障もなくゲームを楽しめた。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均46fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均45fps) |
少し設定を上げて試してみたところ,それでも実プレイに問題ないくらい動いてくれる。ゲームのファイルサイズも,今にして見ると非常に小さく,「ああ,10年ちょっと前はこれくらいだったよな……」と,あらためて痛感させられた。
MODの導入によって今なお十分に楽しめる作品であり,開発中という新作「The Elder Scrolls VI」が出るまでにスカイリム地方へと足を運び,TESというゲームに触れておくのもいいだろう。なお,MOD導入による動作への影響は“そのMOD次第”で,ともあれPCゲームの大作デビューにオススメできる一作だ。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均46fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均45fps) |
■Grand Theft Auto V
設定
i7モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:30fps
i5モデル:30fps
2015年に発売され,「Grand Theft Auto VI」の開発がアナウンスされた今もなお熱心にプレイされ続けている,不朽の名作にして超大作。近年では「GTAオンライン」でのメタバース的な盛り上がりもあり,そこに参加したいという人も珍しくないはず。
フレームレートはソフト側の制御されているようで,30fpsで張りつき状態となった。画質やエフェクトなどはデフォルト設定でまったく支障なくプレイできるレベルで,久々にプレイして「そうそう,当時もこういう感じだったなあ」と素直に納得できるものだった。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均30fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均30fps) |
解像度を一段階下げても体験の質はほとんど変わらないので,長時間のプレイでどうしても重さを感じるようになったとしても,設定を変えてゲームを継続できそうだ(その場合,自身とPCを休ませてあげるべきだけど)。
注意点としては,基本設定が解像度800×600のウインドウモードの設定なので,ゲーム開始直後はそこだけ変更する必要があること。
また,これは本作に限った話ではないが,大きな外部ディスプレイでプレイするとなると,最低でも解像度1920×1080を維持しないと画質が気になるかと思う。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均30fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均30fps) |
■Monster Hunter: World
設定
i7モデル:ゲームの「低」設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームの「低」設定 / 解像度1366×768
平均fps
i7モデル:55fps
i5モデル:59fps
2025年の発売に向けて制作中の「モンスターハンターワイルズ」も気になるモンスターハンターシリーズ。現行のシリーズ最新作としては2022年発売の「モンスターハンターライズ」があるが,美麗な映像表現やマップ移動のシームレス化の実現で話題となった本作も根強い人気を誇っている。
Steamのセール時期に大胆な値引きが行われることがよくあり,また2019年9月に発売された拡張セット「Iceborne」も遊び応えのある内容で,始めやすくてたっぷり楽しめるシリーズ作品として未だ現役だ。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均55fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均59fps) |
解像度を落とすとモンスターの足跡の識別が難しくなるので,可能なかぎり高い解像度を維持したい。しかしモンハンというゲームはアクションの精度も要求されるので,フレームレートもなるべく高いままに……という,本作は実に調整の難しい作品だった。
平均フレームレートの結果だけ見るとスペックが高いはずのi7モデルのほうが低いが,i5モデルは解像度をさらに一段階低く設定しているためである。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均55fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均59fps) |
今回はフレームレートにこだわって55〜60fpsキープできる設定にしたが,「30fpsあればいい」と割り切るなら,グラフィックスの品質を上げてもいいだろう。実際,i5モデルで1920×1080(FHD)でプレイしても,45fps前後の数値を出していた。
ただ,理由は不明だがプレイ途中で画面にバグ(文字化け)が発生したので,安定を取るなら解像度を一段階下げたほうが無難……というのが,今回のテストでの印象である。
■Far Cry 6
設定
i7モデル:ゲームの「中」設定 / 解像度1440×900
i5モデル:ゲームの「低」設定 / 解像度1366×768
平均fps
i7モデル:36fps
i5モデル:36fps
2023年に発売されたFar Cryシリーズ最新作。ストーリーを楽しむ,オープンワールドのFPSという,ハードウェアにとって負荷が高めな作品だ。
本作に注目した理由は,狙撃の重要度が高いということ。オープンワールドのため交戦距離が長くなりがちで,かつ正確な狙撃が重要となる状況も珍しくなく,必然的に高いフレームレートと解像度を要求されることになる。さすがにビジネスノートPCではキビシイか……?
i7モデル(解像度1440×900 / 平均36fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均36fps) |
平均フレームレートの結果にあるとおり,どちらも平均30fps超えの設定はできた。だが,i5モデルは「やはりけっこう厳しかった」というのが率直な感想だ。
解像度はi7モデルと大差ないように思えるが,このちょっとした差でも,狙撃にはまぁまぁ影響が出るし,そこにグラフィックス設定「低」が輪をかける。
と言ってもこれは「第12世代のCore i5でFPSは無理」という話ではない。具体例は後述するが,もっと軽く動くFPSであればプレイできるのも事実だ。少し前の時代のゲームであれば問題なくプレイできる可能性も高い。FPSをプレイしたいという人は諦めないでほしい。
なおi7モデルの場合,解像度1920×1200でもグラフィックス設定を「低」にすれば平均32fpsをキープできる。
i7モデル(解像度1440×900 / 平均36fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均36fps) |
■サイバーパンク2077
設定
i7モデル:ゲームの「低」設定 / 解像度1280×800
i5モデル:ゲームの「低」設定 / 解像度1280×720
平均fps
i7モデル:44fps
i5モデル:29fps
大作ゲームのトリを飾るのは,2020年の超大作にして,2023年に発売された大型DLC「仮初めの自由」で再ブレイクを果たした「サイバーパンク2077」だ。
本作は,発売時の不安定さや長きにわたる最適化が行われたことなどで,非常に重たいゲームという認識が一般的ではないだろうか(PS4版にいろいろと問題が発生したことも,この認識を加速したように思える)。それとともに,「その重さをものともしない環境でプレイする価値のある作品」であることも。
普通に考えれば「今回のテスト環境でのプレイは無理」と思える作品だが,結果はご覧のとおり。i5モデルは30fpsをギリギリ保てるかどうかだが,i7モデルではなんと30fpsどころか40fps以上を叩き出したのだ。
i7モデル(解像度1280×800 / 平均44fps) |
i5モデル(解像度1280×720 / 平均29fps) |
長辺1280ピクセルかつグラフィックス設定「低」というセッティングを見て,「平均30fpsを超えても,ゲーム体験として終わってるんじゃ?」と思うかもしれない。
だが実際にこの解像度でプレイする本作がどのような雰囲気かは,先に掲載した街並みと,次に示すジャッキー&ジュディのスクリーンショットを見ていただきたい。路地で怪しく光るネオンや住人たちのサイバーウェア。ゲームが提供する世界観を十分に楽しめるものではないだろうか。テキストが少しぼやけてしまうが,ゲームプレイに支障はない程度だ。
驚いたのは,i5モデルでも設定次第でちゃんとゲームを楽しめるということだ。テスト前は,i7モデルは解像度を限界まで落とせばまあどうにか……くらいに思っていたが,正直12世代Core i5はゲームにならないと思っていた。
平均30fpsにギリギリ届くかどうかではあるが,カクツキが気になって遊べないということはない。サイバーパンク世界が十分に表現されて,なおかつアクションRPGとして問題のない挙動が統合GPUで実現できたことは,なかなかに驚異的だ。
ちなみにi7モデルはまだフレームレートに余裕があるので,多少解像度を上げても問題ない。実はi5モデルも1366×768までは上げてもなんとかなるが,この場合平均26fpsとなり,随所で軽いカクつきを感じるプレイとなる。3の違いでけっこう変わるが,このあたりは好みの範囲でもある。
テストの後編「インディーゲーム」入る前に,非常に重要な注意点を強調しておきたい。それはノートPCの冷却についてだ。
本テストでは,ノートPCの冷却に市販の冷却台を用い,ゲーム起動時から終了時まで冷却を行い続けた。
学業用PCは少なくとも4年間は使い続けることを前提に購入するものである。PCの寿命を延ばすためにも「負荷がかかる作業をするときは冷却する」ことは習慣づけたほうがいいだろう。
また,第13世代と第14世代のCore i7 CPUについて,非常に高負荷をかけたときに問題が発生するというニュースを耳にしたことがある人もいるかと思う。これは基本的にCore i9のK型番やKF型番といったハイエンドCPUで確認されている症状だが,Core i7でも起きたという報告もある(なお,今回のテストで利用したCore i7-1360P,Core i5-1240Pは不具合リストに入っていない)。
いずれにしても,ノートPCで高負荷な作業を行うときに冷却は必須と考えてほしい。
テスト2:インディーゲーム
■バックパック・バトル
設定
i7モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:60fps
i5モデル:60fps
無料配布されたデモの段階で大ブレイクした非同期型対戦ゲーム。オートバトルとバックパック整理を組み合わせた新感覚のゲームプレイが特徴で,早期アクセス中でもアップデートでキャラクターも増え,メタゲームとしても大きな変化を見せている。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均60fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均60fps) |
見た目の印象からして,いかにも負荷が軽そうなゲームだが,第7〜第8世代のCPUを積んだPCでプレイすると,意外と高負荷なことに驚かされる。ゲームの性質上,プレイに支障が出るわけではないが,戦闘の処理がコマ落とし的な表現になることも珍しくない。
といっても今回のテスト環境では問題なし。いずれのPCでも60fps張り付きで,解像度などの設定を調整する必要なく余裕でゲームを楽しめた。ゲーム仲間同士で誘ったり誘われたりしやすいタイトルなので,初めて知ったという人はこれを機にプレイしてみるといいだろう。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均60fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均60fps) |
■Severed Steel
設定
i7モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:57fps
i5モデル:42fps
流れるようなパルクールアクションとスローなバレットタイム,破壊可能なボクセルで作られたステージが特徴のFPS。なかなかに容赦ない攻撃を仕掛けてくる敵を,超人的なムーブとガンアクションで倒していくのが爽快なゲームだ。
「自由に破壊可能な3D空間でFPSを遊ぶ」ということで,いかにも動作が重くなりそうな本作だが,いずれのPCでも40fpsを維持できた。i7モデルではほぼ60fpsに到達する勢いである。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均57fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均42fps) |
一方,ハイスピードバトルが展開する本作では,40fpsはちょっと厳しいと感じることも多い。i5モデルでも解像度1366×768にすることで60fpsが出たので,操作感が気になる場合は解像度を落とすといい。そこまで遠距離狙撃が重要なゲームではないので,解像度を犠牲にしてでもFPSを確保したほうが,ゲーム体験が良いと感じる人は多そうだ。
なお,Far Cry 6のくだりで「FPSを諦めないで」と言ったのは本作の結果があったからで,ともあれ,「統合GPUではFPSはできないわけではない」と証明してくれたゲームだ。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均57fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均42fps) |
■Kenshi
設定
i7モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:58fps
i5モデル:51fps
明確なストーリーやゴールは存在せず,過酷な世界で生きる人々の人生をプレイヤー自身が作っていく“超異色”なオープンワールドRPGだ。
個性的という言葉の限界を思い知らされるかのような世界を堪能できる一作で,「インディーゲームとはなにか」は大いに揉める議題だが,本作がインディーゲームであることを否定するインディーゲーム好きはいないだろう。
結果は,解像度はそのままのデフォルト設定で,平均フレームレートはi7モデルが58fps,i5モデルが51fpsだった。i7モデルはほぼ60fpsである。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均58fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均51fps) |
さて,本作はソロで旅をすることも可能だが,原則的にはけっこうな大人数のパーティ(あるいは部族)を編成するゲームである。時と場合によっては大量の(本当に大量の)キャラクターが同じ画面内で戦ったり食い合ったりするゲームなので,そのような状況で,果たして安定したフレームレートを出せるのかが気になっていた。
本当はこのあたりをちゃんと検証すべきなのだが,久々にKenshiを起動したところ,セーブデータがクラウド上になかったという悲劇が発生。大量のキャラがひしめき合う場面は確かめられなかった。
拠点の建設も謎に重くなるので,ちゃんと見ておきたかったが……デフォルト設定で50fpsが出ているので,ゲームができなくなるほど低下することはないと思いたい。
ともあれ最序盤の数時間を修行した範疇で言えば,PCのスペックがゲーム体験を阻害するようなことは起きなかった。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均58fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均51fps) |
■8番出口
設定
i7モデル:ゲームの「高」設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームの「高」設定 / 解像度1366×768
平均fps
i7モデル:26fps
i5モデル:36fps
2023年末に登場し,国内外に大量のフォロワーを生み出した傑作ホラーゲーム。2024年4月にNintendo Switch版もリリースされ,幅広い層の人気を獲得している。続編とも言える「8番のりば」が2024年5月にリリースされており,こちらもゲーム実況などで人気のタイトルだ。
そこまで重くなさそうという印象だったが,これが意外と処理負荷はけっこう高い。i7モデルは基準として定めた平均30fpsを下回る26fpsとなった。しかしこれは,筆者があえてそれを選んだというところもある。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均26fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均36fps) |
というのも,ゲームシステムの基本が「間違い探し」なので,解像度やグラフィックス設定は落としたくない(落とせない)。なのでi7モデルは「解像度もグラフィックスのクオリティも欲張った」設定に,i5モデルは「解像度を落としてグラフィックスのクオリティを維持した」設定にしたのである。
i7モデルも,グラフィックスのクオリティを維持しつつ解像度を落とせば40fpsを優に超えるのだが,それはしなかった。少し解像度を落としただけで,なぜか異変に気づけないことが増えたからだ。個人的な感覚や慣れの問題かもしれないが,本作はそこまで厳密なアクションを要求されるゲームではないので,フレームレートではなく画質を優先した。
厳密なアクションを求められないとはいえ,プレイヤーを殺しにくるタイプの異変に遭遇したとき,一瞬のカクつきが死を招くといった展開はあり得るし,この線引きはプレイヤーによって変わるだろう。このように「どこで折り合いをつけるか」が,プレイヤーごとに大きく変わるゲームだと感じた。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均26fps) |
i5モデル(解像度1366×768 / 平均36fps) |
■Omega Crafter
設定
i7モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1200
i5モデル:ゲームのデフォルト設定 / 解像度1920×1080
平均fps
i7モデル:36fps
i5モデル:29fps
2024年6月現在,アーリーアクセス中のオープンワールド・サバイバルクラフトゲーム。ある意味で定番と呼べるタイプのゲームだが,プログラミングすることで自律的な行動をとる相棒グラミーの存在が大きな特徴となる。
プレイヤーのコーディング能力によって各種生産ラインの効率は変わるが,ゲーム側が用意したテンプレートをクリックするだけで自動的にコードが作られる機能もあるので,プログラミングを学びながらゲームを楽しめる。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均36fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均29fps) |
けっして負荷が軽いタイプのゲームではないが,いずれの環境でもデフォルト設定で平均30fps前後を確保できた。ただ,ゲームが進んで大量のグラミーを動員して巨大な生産ラインを組んだり,超大型建築物を作ったりした状態でもこの数値を維持できるかは分からない。
i7モデル(解像度1920×1200 / 平均36fps) |
i5モデル(解像度1920×1080 / 平均29fps) |
とはいえ,この数値は解像度を最高に設定したときの数値なので,「重くなってきたら解像度を落とす」という対応で処理できるかと思う。ただ,プログラミングが前提の文字情報を大量に扱うゲームのため,あまり解像度を落としすぎるとプレイしにくさを感じるかもしれないので注意は必要だ。
■Mount & Blade II: Bannerlord
設定
i7モデル:ゲームの「高」設定 / 解像度1280×800
i5モデル:ゲームの「中」設定 / 解像度1280×800
平均fps
i7モデル:40fps
i5モデル:44fps
2022年にリリースされた,超大型ストラテジー・アクションRPG。「Kenshi」同様にストーリーが設定されているわけではなく,なんならゴールも自由に決めて構わない。戦乱の世界にあって騎士として主君に仕えるもよし,下剋上で国盗りをするもよし,悪党として生きるもよし,商人として財を成すもよしと,大変に自由度が高いゲームだ。
本作は今回の設定でとても苦労したゲームだった。というのも,本作は最終的に「大軍(しかも騎兵)を率いて敵の大軍と戦う」「場合によっては攻城戦もする」というゲームである。とりあえずは40fps以上で動く設定は見つけられたが,果たして大軍同士がぶつかり合う状況下では,どの程度フレームレートが維持できるかまではちょっと分からない。
では,解像度やグラフィックスのクオリティを下げ,さらなる高フレームレートを狙うのがいいのかと言うと,これまた実に悩ましい。ストラテジーゲームという一面のある本作は,画面上の情報量が多いため解像度はなるべく下げたくない。とはいえグラフィックスのクオリティを下げすぎると,「これはもう別のゲームなのでは?」と感じるくらいにゲーム体験が変わってしまう。本作のグラフィックス設定は,一段階ごとのディテールの変化がかなり大きいのだ。
けっきょくはディテール重視,フレームレート重視,情報重視など,プレイスタイルによってベストなセッティングも変わり得るというのが筆者の結論だ。序盤〜中盤にかけてはディテール重視で問題なく楽しめるので,ゲーム自体の面白さは今回の環境でも十分に味わえる。大軍を率いるようになったとき,プレイヤー各々が最も重視するものに寄せた調整を見つけ出すといいだろう。
おわりに:自分なりの設定を見つけ出し,手元のノートPCで特別なゲーム体験を
というわけで,なかなか手間のかかる調査とボリューム感ある調査報告となったが,その結果はなかなか興味深いものになったように思う。
第12世代のCore i5搭載PCでもまったく動かないということは発生しなかったので,2010年代に作られた大型タイトルであれば,基本的には問題なくプレイできると考えてよさそうだ。
以下,いくつか気になったことをまとめてみた。
・解像度とフレームレート
全体的に,どんなに設定を頑張っても,平均30fpsを大幅に下回ってしまう……という事態には至らなかった。課題が残ったタイトルもあるが,どちらかを妥協すればプレイできないことはない。
・ローディング時間
外付けSSDのためローディングに時間がかかる可能性はあったが,いずれの作品もそこまで長時間待たされることはなかった。学業に支障をきたすことなくゲームを管理できそうだ。
・電源供給とPCの冷却
バッテリー駆動させている間は処理能力を落とす(これによって駆動時間を伸ばす)設定をキープせざるを得ないこともあり,外部から電源が供給されている状態でのゲームプレイは必須だ。そしてトラブル回避やPCの寿命を延ばすためにもPCの冷却も!
今回は各大学の推奨OSや大学生協の勧めるPCなどを調べた結果,とくに選択肢の多いIntel製CPUのPCでテストを行ったが,筆者としてはAMDのRyzen搭載PCでも当然調査すべきだと考えている。
またOSでいえばmacOSもBYOD推奨となっていることが多いので,学生にはMacで遊べるゲームも重要な情報となりそうだ。
さて,本企画は学業用PCを手にした学生向けという形ではあるが,テストの結果は学生以外のゲーム用PC“ではない”PCを持つ人たちにも参考になると思う。
PCにはSteamをはじめ,こういった名作ゲームをいつでも(タイミングによってはとても安価に)購入できるプラットフォームがいくつもある。この企画が,PCを手にしたことでPCゲームに興味を持った人の“PCゲームの世界への入口”になれば幸いだ。
ハイスペックのゲームPCでのリッチな体験だけを「正しいPCゲーム体験」と考えていては,PCゲーム文化は広まりようがない。勉強用,仕事用などさまざまな理由で手元にあるノートPCでも,設定次第でゲームがプレイでき,人それぞれの特別なゲーム体験が得られる。この知見が広まることは,日本のPCゲーマーを増やすにあたって重要な意義があると信じる。
筆者としても今回のテストが完全版であるとはまったく思っていないので,今後も継続的な調査を続けていきたい。
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