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印刷2025/12/08 17:00

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[レビュー]1つのアパートの,かつての住人の物語を描く。小さな人生を通して世界を照らす“これぞインディー”な一作「The Berlin Apartment」

 2025年11月18日にリリースされた「The Berlin Apartment」は,ドイツ・ベルリンの古いアパートの一室を舞台としたアドベンチャーゲームだ。その部屋と“かつての住人たち”の物語をとおして,100年にわたるアパート,そしてベルリンという街の“記憶”を旅していく。

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 開発を手がけるのは「Trüberbrook」で知られる独立系メディアbtfのゲーム部門を前身にもつBlue Backpack。日本およびアジアではPARCO GAMESのパブリッシングタイトル第1弾としてPC,PS5,Xbox向けに展開されている。

 同じく日本向けにはPARCO GAMESからリリースされている「Constance」(PC,2025年11月25日)とともに高評価を獲得。本作はアジア最大級のインディーゲームアワード「Indie Game Award 2026」のベストナラティブ部門ファイナリストとしても名を連ねている(関連記事)。
 本稿では,そんな物語性や表現に注目が集まり,いま静かに話題になっている「The Berlin Apartment」を紹介しよう。なお今回プレイしたのはPlayStation 5版だ。

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[2025/12/06 12:00]

遠くの国の,遠い時代のお話だけど,なにかが自分に響いてくる。ベルリンの一つのアパートの物語


 物語は2020年のベルリンから始まる。部屋の改修を任された父マリクに同行した少女ディラーラは,薄暗い廊下や剥がれた壁紙,瓦礫の山が残る一室へと足を踏み入れる。
 古い壁紙を剥がすと,その裏から一通の手紙が現れ,そこから“かつての住人”の人生へと時間が遡っていく。

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 ゲームはディラーラのいる現代を軸に,4つの時代に刻まれたアパートの記憶を描く。
 1933年,ナチス政権の圧力が強まり,映画館を営むユダヤ人の老人は住み慣れた家を離れようとしている。1945年,分割統治下にあるベルリンでは,戦争の影を抱えた少女が家族とのクリスマスの夜を迎えていた。
 1967年には描きたい物語と出版当局の規制との狭間で女性SF作家が苦悩し,東西の壁の崩壊を目前にした1989年,一人の青年が紙飛行機で壁の向こうの女性と交流している。

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 時代ごとに主人公が替わるたび部屋の風景や空気,そしてゲームプレイは変化し,プレイヤーは父の語りを聞くディラーラであり,同時に住人たち自身になったかのような感覚で物語へ引き込まれていく。

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 100年のあいだ人々の生活を支えてきたアパートは,全編を通しての“もうひとりの主人公”だ。間取りこそほとんど変わらないが,家具や装飾,暮らしの在り方は時代とともに大きく姿を変える。
 1933年には部屋の棚に映画のフィルム缶が並び,1945年には戦争が残した冷たさが漂う。1967年にはタイプライターが静かな存在感を放ち,1989年には“西側のカルチャー”を感じさせるロックバンドのポスターが壁を彩る。窓から見下ろす外の景色も“時代”を映し出す。

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 ビジュアルは親しみやすいトゥーン調ながら,どのオブジェクトも現実のような質感がある。またその色合いからは,当事者としてその時代を体験しながらも,過ぎ去った時代の空気も感じられるようだ。
 各時代の象徴的な出来事や当事者の心情を描く演出も豊かで,「アパートの一室が舞台なのに,こんなに多彩な“絵変わり”があるのか」と驚かされた。

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 本作をプレイして心の底から実感したのが,これこそがインディーゲームだ! という感覚だ。
 1933年の老人は街を去り,1945年の少女は父の不在や戦争の影をまだ理解しきれず,1967年の女性作家は創作への想いと規制の現実に揺れ,1989年の青年は新時代の兆しを感じながら紙飛行機を飛ばす。そして2020年の学校に行けない状況にあるディラーラは,コロナ禍のロックダウンの記憶と自然に重なる。

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 しかし本作は,彼らの物語を通して時代を批評したり,なにかしらの主張を押しつけたりはしてこない。
 各時代の物語で描かれているのは,それぞれの時代の出来事や変化に振り回されながらも,ただ自分の目の前にあることに向き合い,人生を生きている人々の姿。それは国や社会といった大きな枠組みではなく,家族や個人の心情や揺らぎを丁寧に描くことで,結果として世の中の普遍的なテーマが静かに浮かび上がってくる。
 だからこそ,他国の遠い時代の話であっても,ふと自分の経験と重なる瞬間が生まれるのだ。

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 筆者はインディーゲームを知る前から,インディペンデントなバンドや映画が好きだった。少数の人が身の回りの出来事や実感をもとに作られた表現や物語が自分にも響いてくる。そんな感覚に惹かれてきたのが大きな理由の一つだが,その意味で本作は,自分が好きな“インディーらしさ”がまっすぐに感じられる一本だったのだ。

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こちらの記事でも書いた通り,実は筆者はベルリンに住んでいたことがあり,個人的にものすごく刺さるものがあった。暮らしていたのは2010年代だが,ゲームの舞台のイメージに近い旧東側の地域だったので,アパートの佇まいや中庭の雰囲気,窓からの景色は,そのころ感じていた空気と重なる部分が多かったのだ
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特に音楽のカルチャーが好きで住んでいたので,壁にバンドのポスターが貼られた1989年の部屋の様子は「俺の部屋!」というなつかしさ。またマリクとディラーラの親子の雰囲気からは,当時のベルリンで触れてきた多様な文化や人々の暮らしが蘇ってきた(ベルリンにはトルコ系の人たちが多く,二人の名前からそのあたりの作品背景がうかがえる)
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これは日本での話だが,昔住んでいた家に屋根裏部屋があり,引っ越してすぐに片づけをしていたとき,そこに忘れられたスケッチブックを見つけたことがある。あらためて部屋の隅や壁を見ると,絵の具の跡や画材を置いていたと思われる痕跡が。「ここをアトリエに使っていたのかな」と前の住人に思いをはせたことがあったが,そんな“場所に積み重なる記憶”に注目したゲームが出たことにも驚かされた

 本編はじっくり遊んで5時間ほどで,サクサク進めると3〜4時間でクリアできるだろう。
 各時代の背景に触れられる細かな要素が豊富で,クリア後に歴史を調べてから“読み返す”ように再訪するのも楽しいはず。構成や演出にもオムニバス映画のような味わいがあり,一度で終わりではなく,ふとしたときにまた見返したくなるような感覚がある。

一度エピソードをクリアすれば,以降は2020年のパートでそのエピソードを選択してプレイできるようになる
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 また「ストーリー中心のゲームはプレイが単調なのでは?」と思う人もいるかもしれないが,“ゲームとしての手触り”もしっかり感じられた。
 紙飛行機を折り,風を読みながら飛ばす。荷物をパズルのようにバッグへ詰める。クリスマスの飾りを探し,自由に飾り付ける。時代や場面によって,ミニゲーム感覚の遊びが用意されている。
 個人的には,ディラーラになって父のリフォームを手伝い,タイルをハンマーで割る“コンコン”という感触がお気に入り。ぜひ体験してほしい!

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 「こんな人がいたかもしれない」という小さな人生を丁寧に描くことで,世界のかたちや時代の影がふと浮かび上がるような感覚が「The Berlin Apartment」にはある。
 そしてその物語は一つの答えに収めようとするのではなく,それについて自分であれこれ考えたくなるような――そうした“考える時間”を静かに促してくれるところがこのゲームの魅力だ。

リリースすぐの時点では映像やテキストの一部の表示がおかしくなる部分などもあったが,この辺りはアップデートなどで改善されるかも。物語を伝える翻訳は丁寧で,各時代のまったく異なる人たちの人となりが,文体を通して伝わってくる。なお音声は,個人的にドイツ語に設定するのをオススメしたい。言葉が分からなくても,より“本当にあったかもしれないお話”感が強まるし,ミニシアター系のオムニバス映画っぽさも出ていい
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 生きた時代も背景も異なる住人たちの人生が,一つのアパートという小さな場所で静かに重なっていく。そこから時代を越えた人のつながりを感じられるような,その不思議な感覚に少しでも触れてみてもらえたらと思う。

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