インタビュー
[インタビュー]坂口博信氏と吉田直樹氏が語る“王道の魅力”とは。「FANTASIAN Neo Dimension」は,RPGに必要なものが全部詰まった作品だ
※PC(Steam版)は2024年12月6日発売
開発は,オリジナル版と同じくプロデューサーの坂口博信氏率いるミストウォーカーが担当。パブリッシングは,スクウェア・エニックスが手掛けており,同社の取締役/執行役員で,「ファイナルファンタジーXIV」のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏がCo-プロデューサーを務めている。
声優陣によるキャラクターボイスや難度設定の追加などによって,新作とも言えるタイトルに生まれ変わった本作。9月に開催された東京ゲームショウ2024では,試遊台が出展されていたほか,両氏と音楽を担当した植松伸夫氏による鼎談も行われている。
FFシリーズとのBGMコラボも発表された「FANTASIAN Neo Dimension」スペシャルトークステージをレポート[TGS2024]
TGS 2024の3日目,スクウェア・エニックスによる「FANTASIAN Neo Dimension」のスペシャルステージが開催された。吉田直樹氏がMCを務めるこのステージでは,坂口博信氏と植松伸夫氏による「FANTASIAN」の魅力や開発秘話などが語られたので,その内容まとめてお届けする。
「FANTASIAN Neo Dimension」TGSバージョンプレイレポート。高画質・大画面で楽しめるようになった坂口博信氏の王道RPG[TGS2024]
スクウェア・エニックスは,東京ゲームショウ2024の同社ブースにファンタジーRPG「FANTASIAN Neo Dimension」を出展している。家庭用ゲーム機やPCでプレイできるようになった坂口博信氏が手がける王道RPGは,キャラクターボイスも入って臨場感が大幅にアップしていた。
同鼎談では本作の魅力や開発秘話などが語られたが,TGS 2024明けのタイミングで坂口氏と吉田氏にインタビューする機会を得た。
「FANTASIAN Neo Dimension」の開発の経緯や“Neo Dimension”としての魅力,さらに今後の作品への取り組みなどについて話を聞いてきたので,その内容をお届けする。
坂口博信氏(右),吉田直樹氏(左) |
「FANTASIAN Neo Dimension」公式サイト
坂口氏と吉田氏の出会い。そして「FANTASIAN Neo Dimension」開発のきっかけは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,ミストウォーカーのIPである「FANTASIAN」を,スクウェア・エニックスで扱うことになった経緯を教えてください。
吉田直樹氏(以下,吉田氏):
東京ゲームショウ2021(TGS 2021)のとき,坂口さんと自分で「RPGの魅力と可能性」というテーマの対談をしたのですが,それをきっかけに坂口さんが「ファイナルファンタジーXIV」(以下,FFXIV)をプレイしてくださるようになったんです。
[TGS 2021]RPGの魅力と可能性とは。「ファイナルファンタジー」の生みの親・坂口博信氏と,シリーズ最新作を手がける吉田直樹氏の対談をレポート
東京ゲームショウ2021の3日目となる本日,主催者番組「RPGの魅力と可能性 〜坂口博信 × 吉田直樹/TGS2021 ONLINE 特別対談〜」が配信された。「ファイナルファンタジー」の生みの親である坂口博信氏と,そのシリーズ最新作を手がける吉田直樹氏の対談が行われた本番組のレポートをお届けする。
4Gamer:
坂口さんが「FFXIV」を始めたのは,大きな話題にもなりましたよね。
吉田氏:
はい。当時から坂口さんは「FANTASIAN」のコンシューマ版を考えていらして,「吉P,やってくれないかな」と直接声をかけてくださったんです。
ただ大切な「FANTASIAN」をお預かりするとなると,1人でも多くの方にプレイしていただくためにはどうしたらいいのか,どうやってビジネス的に成立させるかなどを考えなければなりません。そこで,その時点では大変光栄であることと,前向きに検討することをお伝えしました。
4Gamer:
そこから開発の決定までは,時間がかかったのでしょうか。
吉田氏:
時間は受け取り方によって長さの感じ方が異なるので,一概には言えません……。ただ慎重に検討させていただきましたが,時間がかかった,というほどではないかもしれませんね。
お話を聞いたあと,その足で会社に戻って当時の社長のところに行き,「こんなお話をいただいていますが,何の問題もありませんよね?」という確認をしたところ,「むしろ大変ありがたい」と,即快諾してもらえました。
その後,Apple Arcade版の認知度やメタスコア,どのような国や地域でプレイされているのか,プラットフォームは何機種くらいにすればいいのかなどを確認しました。
さらに我々スタッフも通してプレイをし,どのようなゲームで,どんな人たちに届けていくのかということも考えました。それらの結果,スタッフからは「これは何としてもやりたい」という強い希望があり,僕自身もそう思ったので,坂口さんに条件やお願いしたいことをまとめてお伝えした次第です。坂口さんは,「慎重だなあ」と感じられたかもしれませんね(笑)。
4Gamer:
両社でのやりとりはスムーズに進んだのですか。
吉田氏:
はい,とてもスムーズだったと思います。ただ,TGS 2024のステージでも話しましたが,「是が非でもボイスを入れたいんです」とお伝えしたら,坂口さんが「いや,要らないんじゃないかな」とおっしゃったので,自分とスタッフが凍りついたというエピソードがあるくらいですかね(笑)。
4Gamer:
坂口さんは,「FANTASIAN」の開発当初からコンシューマ機向けにもリリースしようと考えていたのでしょうか。
坂口博信氏(以下,坂口氏):
「FANTASIAN」の権利は,すべてミストウォーカーが持っているんですよ。Apple Arcadeは期間独占配信だったので,期間が終了した後にさらに展開していくことも考えていました。
ただ吉田さんと会ったのは,純粋に「FFXIV」プレイヤーとして話をしたいと思って,一緒にご飯を食べる機会を作ってもらったからなんです。そこでたまたま,コンシューマ機での発売の話題が出たんですよ。
4Gamer:
スクウェア・エニックスからリリースしたいという気持ちはあったのですか。
坂口氏:
正直に言うと,僕が辞めてからスクウェア・エニックスさんとは付き合いがないし,あえて扱ってもらう必要はないかなという感覚がありました。
でも,「FFXIV」プレイヤーとして吉田さんにやってほしいなと思ったんです。何より吉田さんは,「FFXIV」に対して真摯で真剣なんですよね。そういう人柄のよさも織り込みつつ,一緒にやれたらなと考えました。
オリジナル版「FANTASIAN」について
4Gamer:
オリジナルのApple Arcade版についておうかがいします。開発中のエピソードや,坂口さんが自信を持って送り出した部分などを教えてください。
坂口氏:
手掛けてきたゲーム全般に言えることなんですけれども,できあがって「遊んでほしいな」と思えたら,それはもう自分の中で100点なんですよね。そう思えるまで調整しているので,自分ではどのゲームも自信を持って世に出しています。
4Gamer:
「FANTASIAN」も,自分が思っていた通りに作れたということですか。
坂口氏:
それ以上に,ということもあります。ゲームを作っていると,想定していなかったいい出来事が起きることもあるんですよ。
「FANTASIAN」のときだと,思っていたよりすごくいいジオラマができてきたことがありましたね。ジオラマを3Dで取り込む手法も,最初に考えていたものとは別のより良い方法に変わりました。
これはプログラマーが,プロジェクションマッピング的な手法を使うとより綺麗になるし,カメラの回り込みも付けられるという提案をしてきたからなんです。
エンカウントした敵を異次元空間に溜めていく「ディメンジョンシステム」も,「もっとジオラマの上を探索して自由に歩きたい」という発想があって,そうなると「エンカウント,邪魔じゃね?」という無茶ぶりから生まれたという経緯があります。
いい偶然が積み重なるときは,いいゲームになるという感覚があって,それが「FANTASIAN」では結構な数,起きてくれました。
吉田氏:
だから「FANTASIAN」をプレイしても,えぐみのようなものを感じないんです。開発している途中で停滞したりトラブルがあったりしたゲームは,「この辺,ヤバかったんだろうな」って,プレイしたときに少し苦さを感じるんです。
でも「FANTASIAN」にはそれがないから,坂口さんを中心に皆で前向きに作って完成に至ったんだろうなと感じますね。そういった「スカッとまっすぐ遊べます」というゲームは最近だと意外とないので,ここはすごくオススメしたいポイントです。
坂口氏:
少人数で作っているからでしょうね。ジオラマの製作を外部の職人さんにお願いしたので,チームにはCGの背景担当がほとんどいないんですよ。
そのためコアチームは30人くらいと少なくて,それこそスーパーファミコンのゲームを作っていたころの規模なのでまとまりやすいし,焼き肉の会なんかもやりやすい(笑)。そういった人間関係も大事だったのかなと。
4Gamer:
実際に「FANTASIAN」をプレイした人から寄せられた意見や感想で,印象的なものがあれば教えてください。
坂口氏:
やっぱり「ゲーム後半が難しい」でしょうね。それは自分たちも分かっていたんですけど,「最後だからいいか」って(笑)。
吉田氏:
当時,坂口さんは引退作のつもりで「FANTASIAN」を作っていたそうなんですよ。
坂口氏:
過去40年近くにわたって,「ゲームはエンターテイメントだし,作品であると同時に商品でもあるから,最高の形で人を楽しませるものを作ろう」と心がけてきたんですが,「最後だから,ちょっといじめちゃおうかな」と,プログラマー2名と僕とで好きに調整しました。
ただ「FANTASIAN Neo Dimension」は,せっかく機会をもらえたので,しっかりしたバランスになっています。単に難度を下げたわけではなく,僕の中で「こうあるべき」というバランスをあらためて取り直しました。
吉田氏:
「FANTASIAN Neo Dimension」の難度ノーマルは,坂口さんが本来考えていたバランスに仕上がっています。その上で,当時引退を決意していた坂口さんが「よし,やったるで!」と調整したほうも難度ハードとして用意したので,腕に覚えのある皆さんはぜひ挑戦してみてください。
4Gamer:
吉田さんは「FANTASIAN」をプレイしてみて,例えば「坂口博信らしさ」のようなものを感じたりはしましたか。
吉田氏:
坂口さんが中心になって開発された初代FFからFFVIですが,敵キャラは独特のポリシーや毒を持っているんですけれども,結局のところ憎むべき存在ではないことが多い。
また主人公たちは,最終的に闇や虚無といった概念のようなものを倒してスカッと話が終わるんです。そういうところは,完全に坂口さんの作家性なんだなと,「FANTASIAN」をプレイしてあらためて感じました。
「FANTASIAN」はそれくらい前向きに作られていて,王道として押さえられるべきポイントをすべて押さえているところが,逆に最近では珍しいと思いましたね。
4Gamer:
王道ならではの分かりやすさと気持ちよさ,ということですね。
吉田氏:
最近のエンタメだと,どこかひねくれたり,あるいは尖ったりと,自分も含めてですが,どうしても難しく考えてしまいがちな面があります。でも「FANTASIAN」は,そんな小手先のやり方じゃなくて,まっすぐ「これなんだ」と。
この点は若い世代の皆さんにも伝わると思いますし,僕みたいなオールドゲーマーにとっても,かつてお小遣いを握りしめて並んで買ったゲームと同じ感覚を味わえるはずです。
チーム内の初期レポートには,「全世代の人たちに手に取っていただけるゲーム」と記されていますし,チーム内の総意として,最終的に会社に提出した提案書でも,最大のポイントとして訴えました。
坂口氏:
今,吉田さんが言ってくれたところは,自然とそういったデザインになりました。2017年に発売された「ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコン」にFFVIが収録されているんですけれど,そのプロモーションの中に収録タイトルを開発者自身がプレイするというものがあったんです。
ちょうど引退作をどうしようか考え始めていた頃だったので,FFVIをあらためてプレイして感じたことが「FANTASIAN」のベースになっているところがあるんですよね。それが初期のFFと似たようなテイストにつながっているのかもしれません。
吉田氏:
だから「FANTASIAN」には,“もう1つのFFVII感”があるんですよ。オリジナルのFFVIIは,ボックスで作ったポリゴンの透明壁に,プリレンダリングしたCGをテクスチャとして貼り付けることで,当時のハード上で信じられないくらいのクオリティのグラフィックスを実現したわけです。
これは偶然の結果だったと思うんですが,その手法と「FANTASIAN」のジオラマを使った手法はアプローチがすごく近いと思うんですよね。
坂口氏:
「FANTASIAN」の場合は意図してやったわけじゃなくて,ジオラマの上をどうやって歩かせたらいいのかなというところから,3Dスキャンしてプロジェクトマッピングするという手法を使ったんです。この前,吉田さんから指摘されて,確かに一緒だなと。FFVIをあらためて自分でプレイして「FANTASIAN」を作ったら,手法はFFVIIに似ていたというね(笑)。
4Gamer:
確かに「FANTASIAN」でジオラマのマップを歩く感覚は,FFVIIのマップを探索する感覚に近いかもしれません。
吉田氏:
そうなんです。FFVIIは当時最先端のCGの上を,「FANTASIAN」は人間がフルスクラッチした,歪みも含めたジオラマの上を歩くようになっているんですよね。これは本当にすごい偶然の一致だなと思います。
4Gamer:
「FANTASIAN」をApple Arcadeでリリースして良かったと思う点を教えてください。
坂口氏:
まずは,Appleの力で150もの国や地域で配信されたことですね。たぶん,僕のゲームを見たこともないような人たちも手に取ってくださったんじゃないかなと。
SNSなどでアフリカからの反応もあったりして,そういう面白さがありました。あとはApple本社に行けたのは嬉しかったですね。外観が宇宙船みたいなんですよ。ガラス張りなんだけど,常に細かく振動していてホコリが付かないっていう謎の技術にびっくりしました。
ただ,プレイするにはAppleの端末が必要があり,さらにサブスクリプションにも入る必要がありますから,ややプレイするハードルが高かったかもしれません。
4Gamer:
プレイできる環境がない人から,遊んでみたいという声は寄せられたのでしょうか。
坂口氏:
結構ありました。ワールドワイドで見ると,Android端末の比率が大きい国や地域が結構あります。その国や地域の方は,なかなか遊びたくても遊べない状況だったかもしれません。
4Gamer:
吉田さんは,機会があればApple Arcade向けにゲームを作ろうと思ったりはしますか。
吉田氏:
僕はもう手一杯です(苦笑)。それに今やゲームの最大のプラットフォームはPCで,配信ブームもあってゲーマーもPCをベースにするのが主流になっていますし。ただその一方で,若い世代にとってスマートデバイスは誰もが持っているプラットフォームになっています。
それらを踏まえると,できれば個別のプラットフォーム向けに作るのではなく,どのプラットフォームでも遊べるようにしたほうが,はるかに多くの人に届きます。それを基本的な考え方として,作ろうとしているゲームがスマートデバイスでもきちんと動くかどうか判断するみたいな感じですね。
どうしても動かせない部分がゲームの面白さとイコールだったら,スマートデバイスを諦めて面白さを取ります。
逆にスペックにしっかり収まって,しかも端末が熱を持ちすぎて触れないような状態にならずに遊べるなら,スマートデバイス向けも作ったほうが絶対いいです。もう僕の頭の中では,プラットフォーマーみたいな考え方自体がなくなりつつあります。
「FANTASIAN」の最終形態として考えうる限り最高の形に
4Gamer:
「FANTASIAN Neo Dimension」について教えてください。そもそも“Neo Dimension”というサブタイトルを付けた理由は何でしょう。
吉田氏:
Apple Arcade版が先行してリリースされているので,何かしら差別化をしたいと考えました。
正直なところ,スクウェア・エニックスが「FANTASIAN」を宣伝すればするほど,Apple Arcade版にお客様が流れるような事態になってしまうと,我々は一体何をしているんだという話になってしまいますから。
もちろん,「興味があるから,先にApple Arcade版を少し触っておこう」ということであれば,全然悪くはないと思います。
しかし今回は,もともと坂口さんが目指していた,言わばディレクターズカット版ですし,また調査から認知度が低いことも判明していました。そこで,あらためて皆さんに知っていただくためにも,ゲームのテーマとなっている“次元”を意味する“Dimension”,さらに新次元,次の次元ということで“Neo”を付けたわけです。
坂口氏:
ゲーム内で一番特徴的なシステムがディメンジョンですから。ただ,こちらの英字表記は“Dimengeon”で,“Dimension”と“Dungeon”の造語なんですけれどもね。ゲーム内では別次元に飛ぶようなところがありますから,世界観的にも合致しています。なかなかしっくりくるサブタイトルかなと。
4Gamer:
「FANTASIAN Neo Dimension」の開発にあたり,心がけたことを教えてください。
坂口氏:
心がけたというのとは少し違うのですが,iOS向けアプリには,未圧縮サイズで合計4GB未満という容量の制約があるんです。そのためApple Arcade版では,4K解像度で撮影したジオラマの写真を圧縮せざるを得ませんでした。そこで今回は,すべて生データを使って最高の形にしようと考えました。
ボイスは最初に話が出たとおり,僕はなくてもいいと考えていました。でもTGS 2024で紹介したあと,あらためて「FANTASIAN Neo Dimension」をプレイし始めたところ,ボイスがあることで主人公と2人の女の子の掛け合いでニヤッとしてしまうことに気が付いたんです。テキストだけでは得られない,感情表現が豊かなものになったので良かったですね。
4Gamer:
プレイ感がいい方向に変化したんですね。
坂口氏:
あとは「FANTASIAN」の最終形態にしたかったので,考えうる限り一番いい形にしたいと思いました。細かいところでは移動速度が1.2倍速くらいになっていたり,コントローラで快適に遊べるようにしたりといった改良を結構施しています。また吉田さんたちからのリクエストで,マウス&キーボード操作にも対応しました。
吉田氏:
僕らのほうでは,もともとメタスコアが非常に高いタイトルであることもあって,下手に手を加えるのは止めましょうという話になっていました。こういうときは,アレもコレもと盛ってしまいがちなのですが,それよりも早く皆さんにお届けすることを考えました。完全新規に等しい作品ですから,長く市場で遊んでいただく方が,結果的に良いだろうと考えました。
坂口さんがおっしゃったように,4Kの生データがあるからそのまま使おう,当然テキストもすでにあるからそれにボイスオーバーしようといった進行でしたね。
4Gamer:
ボイスの追加は簡単にできるものなんですか。
吉田氏:
いえ。ただ一言にボイスオーバーといっても,本作はもともとボイスが入ることを想定していないので,カットシーンの組み方などは変えなければなりません。ボイスラベルを入れていくだけでも細かく大変な作業だったのですが,それを徹底して2言語分対応していただきました。
その上で,1人でも多くの皆さんに手に取っていただくべく,5つのプラットフォームに対応して同時リリースする。そこが大きなポイントだったので,それこそ正統かつ王道にやったという感じです。
実際にプロジェクトがスタートして,条件面が整ってからマスターアップまで1年くらいですから,このプラットフォーム数では驚異的なことです。頑張ってくださった,ミストウォーカーのプログラマーさんのおかげですね。
4Gamer:
複数のプラットフォーム対応以外で,新たなプレイヤーを取り込むための施策などを教えてもらえますか。
吉田氏:
「FANTASIAN」を知らないという人たちが相当数いたので,プラットフォーマーさんにも協力してもらって周知に努めています。また,Apple Arcade版を気に入って遊んでいた皆さんが,面白さを発信してくださっています。
だから特別に何かをやるというよりは,「面白いんです,大丈夫です」ということをまっすぐに広めるのが,パブリッシング上の戦略になるかなと考えています。ですので,発売初動も大切ですが,面白さが徐々に伝わって。手に取る方が段々と増えていく,だからこその対応プラットフォームの多さにも繋がっています。噂を聞いたら,どのハードでも遊べる,というイメージです。
4Gamer:
TGS 2024でも,名前は知っていたけれども触っていなかった人や,初めて知ったという人が結構見受けられたように思います。
吉田氏:
僕も,空いている時間帯は試遊コーナーの様子を眺めていたんですけれど,皆さんかなり夢中でバトルを遊んでいらっしゃっていて。「知っていたけれど,今まで遊べなかった」「どんなゲームなんだろう」と興味津々の方は,年齢層もバラバラというところに,とくに手応えを感じました。
坂口氏:
皆さんが熱中して遊んでくださったのは嬉しかったですね。また,「すぐに予約しました」というSNSの投稿も結構あったので,やっぱり大きなイベントでの告知もプロモーションとして大切なんだなとあらためて感じました。
TGS 2024で試遊できた範囲は,ミストウォーカーではなくスクウェア・エニックスさんのスタッフが選定したんですよ。「ここが一番響くんじゃないか」とすごく熱を入れて選んでくれて,ありがたかったです。
ゲームに限らない話ですが,商品を世に出すということはプロモーションや営業の熱量もセットで成り立つものなので,本当に嬉しかったですね。
4Gamer:
どのプラットフォームで一番多くプレイされると思いますか。
吉田氏:
お客様の属性的には,やはりSwitchが一番多くなるのかなと思います。とくに本作は,ディメンジョンシステムも含めて,すごく携帯して遊びやすいところがあると捉えています。
例えば電車で移動している間にストーリーを進めて,エンカウントは全部ディメンジョンでストックし,帰宅してからまとめてバトルをこなすといった遊び方もできますから。その意味では,Steam Deckのような携帯型のゲームPCもいいですよね。
また小中学生,いわゆる多感なタイミングの皆さんにまっすぐ遊んでほしいという思いもありますから,その点でもSwitchでたくさんプレイしていただきたいです。最近のスクウェア・エニックスのタイトルは,年齢高めの人向けだというご意見もよく寄せられますから。
4Gamer:
PCやコンシューマの据え置き機でも楽しめますよね。
吉田氏:
もちろん,ほかのプラットフォームでもたくさん遊んでいただきたいと考えています。
今回は,Xbox Series X|S版も同時にリリースします。今後,スクウェア・エニックスのタイトルは,各プラットフォームで同時リリースすることが増えていく予定ですが,その第1弾にも近しいので,ぜひXboxユーザーの皆さんにも遊んでいただきたいです。
ミストウォーカーの皆さんにはご苦労をおかけしましたが,これだけのプラットフォームで同時リリースされること自体が全体の盛り上がりにつながっているので,よくやっていただけたと感謝しています。
4Gamer:
あらためて,「FANTASIAN Neo Dimension」のここがすごいというところを教えてください。
坂口氏:
先日発表した,FFシリーズとのコラボも楽しいですよ。
4Gamer:
FFシリーズの楽曲が「FANTASIAN Neo Dimension」に収録されて,バトル中にBGMを切り替えられるという内容のコラボですね。
坂口氏:
僕自身が「FFXIV」プレイヤーなので,「極バルバリシア討滅戦の曲で遊びたい」という話からスタートしたコラボなんですけれども(笑)。
FFシリーズも「FANTASIAN」も,植松伸夫さんが楽曲を手掛けているからすごく親和性があるし,自然と入ってくるんです。また,バトルでピクセルリマスターの古いFFの戦闘曲が流れたりすると,少し不思議な面白さもありますね。
ゲームそのものの楽しさだけでなく,そういったパッケージングされた遊びも入っているので,ぜひ味わってほしいです。
吉田氏:
坂口さんが,日本の代表的なRPGシリーズの1つとなった初代FFを作ってから35年以上が経ちます。そこから現在までに多くのRPGが積み上がって来たわけですけれども,ハードのスペックが上がったことによりグラフィックスが突出して進化したり,バトルもリアルタイムで表現できるようになったりしました。
でも大元を辿るというか,RPGに必要なものを突き詰めると,その全部が「FANTASIAN Neo Dimension」に詰まっていると感じます。「王道のRPGとはこれだ」という決定版として,ぜひ手に取っていただきたいタイトルに仕上がりました。
あとプレイの感想や意見は,SNSなどに投稿していただければ,それが坂口さんに直接届くと思います。そうなると,きっと坂口さんが「次もやるかな」と思ってくださるはずです(笑)。
坂口氏:
「FFXIV」の中で言ってくれたら,さらにリアルタイムで伝わります(笑)。ぜひ感想を聞かせてください。
坂口氏と吉田氏が,一緒に新しいゲームを作るとしたら……?
4Gamer:
リメイクやリマスターなども含めて,今回のように再び世に出したいゲームがあれば教えてもらえますか。ご自身が関わっていなかったタイトルでも構いません。
坂口氏:
「TERRA BATTLE」(iOS / Android)のことはずっと考えてはいます。僕自身,思い入れがある作品で,とくに挟み将棋のシステムはうまくできたと捉えています。
藤坂(「TERRA BATTLE」キャラクターデザイン・藤坂公彦氏)も,いい絵をいっぱい描いてくれましたし。いろんなところに話を持ちかけているんですけれども,なかなか進展しないんですよ。
吉田氏:
ファンの皆さんからの声も結構ありますよね。
坂口氏:
そうなんですよ。今のままだと消えてしまうので,クラウドファンディングでもやってみましょうか。「皆さん,協力してください」って(笑)。
吉田氏:
僕は松野泰己さんの信者なので,「ベイグラントストーリー」や「ファイナルファンタジータクティクス」を常にどのプラットフォームでも遊べるよう,後世に遺していきたいという思いがあります。
正直なところ,僕自身はリメイクやリマスターにあまり関心がないのですが,超名作がそのときのテイストを伴ってきちんと遊べることはとても大事だと考えていますから。あとは坂口さんのお孫さんがお生まれになったということで,「パラサイト・イヴ」の続編を……。
坂口氏:
ああ,あのタイトルの主人公の名前は,僕の娘から取ったんですよ。
吉田氏:
だから続編を作って,今度はお孫さんの名前を主人公に付けましょう(笑)。ゲーム業界に長くいないと思いつかないような,そのくらいの楽しさで新作を作ってもいいのかなと思ったりもしますね。
4Gamer:
「パラサイト・イヴ」は結構昔のタイトルですけれど,今でもファンがいますよね。社内でシリーズを続けようという話は出ないのでしょうか。
吉田氏:
ゲームを作るには,「ここを目指そう」と中心で旗を振る人が必要なんです。その人が抜けてしまうと,話に出たとしてもなかなか実現しません。
また今のスクウェア・エニックスは,坂口さんたちの作られてきたゲームのファンが集まっている会社です。とくに開発者の大部分がそうなので,きっと「果たしてこれは自分たちがやっていいものなのか」となってしまいますし,実際に自分たちでやる覚悟もなかなかできないと思いますね。
でもファンの皆さんからのお声も非常に多いですし,今の技術で作ったらもっといろんなことができるタイトルだとも思います。
坂口氏:
続編を作ってもらえるなら,吉田さんが言ってくれたようにぜひ孫の名前を使ってほしいです。
4Gamer:
坂口さんが直々に作るつもりはないのでしょうか。
坂口氏:
僕はもう面倒だから(笑)。誰かが続編を作ってくれるなら,孫と一緒にプロモーションに出ますよ。
4Gamer:
坂口さんは,新しいゲームを作ってみたいという気持ちはありますか。
坂口氏:
「FANTASIAN」の開発メンバーは,先ほど言ったように30人の1チームなので,一緒に働いていて単純に楽しいんですよ。
今も新作を同じメンバーで作っていて,その中で僕はどちらかと言うと楽しむために参加しているところがあるんですよね。一度は辞めようと思ったのですが,いざ辞めるとなると楽しい時間がなくなるなと。
4Gamer:
吉田さんは,坂口さんとまた何か一緒にやりたいと考えていますか。
吉田氏:
「FANTASIAN」と「FFXIV」でクロスオーバーしたいと,本気で坂口さんに持ちかけているんですけど……。
坂口氏:
プレイヤーでいたいから,シナリオとか絶対やりたくない(笑)。
吉田氏:
そこを何とか,クエスト1本だけでもと言ってるんですけどね。
坂口氏:
いや〜,ダメだね(笑)。
吉田氏:
でも気持ちは分かります。純粋に見られなくなるというか,仕事になってしまうんですよね。あれだけ楽しそうに遊んでくださっているのを見ると,それを崩したくないという思いもありますし,さてどうしようかなと。
でも坂口さんと何かやるのであれば,「最近,どんな面白さを考えてますか?」というところから始めたほうがいいかなと思います。
4Gamer:
今の話の流れからすると,子育てゲームならぬ,孫育てゲームなんかはどうでしょうか。ターゲット層は,60〜70代くらいで。
吉田氏:
おじいちゃんが,ただ孫にデレデレするだけのゲームになるじゃないですか(笑)。
4Gamer:
孫が喜ぶことをすると,おじいちゃんポイントが上がる。ライバルはおばあちゃんです。おじいちゃんが頑張ってポイントを上げるんだけれども,おばあちゃんがちょっと孫を可愛がっただけで,おばあちゃんポイントがドカンと上がるような。
坂口氏:
それは,かなりムカつくでしょうね(笑)。
吉田氏:
課金でアイテム買って孫をあやせるようにしたり,実際の孫の写真や声を取り込めるようにしたり……意外とイケそうですね(笑)。
4Gamer:
それでは最後に,「FANTASIAN Neo Dimension」に注目している人たちに向けてメッセージをお願いします。
吉田氏:
12月5日のリリースを発表しましたが,幸いなことに予約の初動は非常に順調です。繰り返しですが,本当にまっすぐ楽しく開発されたということを感じていただける最高のRPGですので,ぜひじっくりとマイペースで遊んでくださると嬉しいです。
あと「FFXIV」プレイヤーの皆さんはマストプレイだと思っていますので,ぜひプレイして坂口さんに直接感想を伝えてください(笑)。
坂口氏:
お話ししたように,ボイスが入ったことで主人公と2人の女の子の掛け合いがより楽しくなって,自分で作ったゲームなのにニヤニヤしてしまうんですよ。
そんなことは今まであまりなかったので,ボイスの力,声優さんの力を感じます。何か不思議な立ち位置まで来たという感覚があるので,ぜひそこも味わってください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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