企画記事
「ニンジャスレイヤー」は忍殺語が面白いだけではない! その魅力を語り,「ネオサイタマ炎上」でフジキドと一体化して爆発四散
今宵は2Dアクションゲーム「ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上」(PC/Switch)を通して皆さんに恐るべきニンジャの真実を知らしめてゆく。覚悟せよ。
などと言いつつ,ゲーム発売のこの機会に,「ニンジャスレイヤー」の魅力をお伝えしたいというのが,本稿の趣旨である。「ニンジャスレイヤー ネオタサイタマ炎上」は,KADOKAWA Game LinkageとABCアニメーションによるインディーゲームプロジェクトの第1弾として,2024年7月24日に発売されたタイトルだ。
まずはニンジャスレイヤーとは何なのか,その魅力を語らせてもらい,今回発売のゲームはどのようなものになっているかを紹介していこう。
そもそもニンジャスレイヤーとは
原作はブラッドレー・ボンド氏およびフィリップ・ニンジャ・モーゼズ氏。日本語翻訳は,本兌 有氏,杉 ライカ氏を中心とする翻訳チームが手掛けている。
舞台となるのは,国家を上回る巨大企業群が台頭する近未来都市・ネオサイタマ。平凡なサラリマンであるフジキド・ケンジは,秘密裏に社会を支配する伝説の半神的存在――ニンジャたちによる大規模抗争に巻き込まれ,愛する妻子を失ってしまう。
自身も深い傷を負い,絶体絶命に陥るフジキドだったが,突如として正体不明の邪悪存在「ナラク」が憑依! ナラクと一体化することで死の淵から蘇ったフジキドは「ニンジャを殺すニンジャ」,すなわちニンジャスレイヤーとして,壮絶な復讐の戦いに身を投じることになるのだった……。
というのが基本的なあらましだ。本作は2012年にエンターブレインから物理書籍形式で出版され,漫画家であるわらいなく氏のデザインをもとに,ドラスティックな描写が光る田畑由秋氏と余湖裕輝氏によるコミック版,さおとめあげは氏による「グラマラス・キラーズ」など,複数作家によるコミカライズも展開され,2015年にはTRIGGERによってアニメ化もされた。今回のゲーム化も,ベースとなっているのはコミカライズ版だ。
ほかにもトレーディングカードゲームやTRPGなど,さまざまな媒体を通して,現在進行形で恐るべきニンジャの脅威を我々の社会に発信し続けている。
ニンジャスレイヤーの魅力……というか目立つ部分は,やはりトンチキ日本描写だ。とくに,いわゆる「忍殺語」と呼ばれるユーモラスな語彙群は,まったく原作を知らなくても,ネット上で見たことがある人は多いだろう。「実際安い」「マルノウチ・スゴイタカイビル」「平安時代の剣豪にして哲学者であるミヤモト・マサシ(誰……?)」「カチグミ・サラリマン(※「サラリマン」に関しては,サイバーパンクの祖であるウィリアム・ギブスン氏の作品内で描写される「さらりまん」が元ネタと思われる)」「アイエエエ!」「カワイイ! ヤッター!」などなど……。
ほかにも日本古来の四聖獣として「ドラゴン,ゴリラ,タコ,イーグル」が祀られていたり,ミスを犯したサラリマンが人食いズワイガニの泳ぐプールに落とされたりなど,曲解された日本描写が随所に散見される。
しかしそれだけで,いたずらにニンジャスレイヤーの世界を測るのは得策ではないと申し上げておこう。
本作の大きな特徴として「ニンジャヘッズ」と呼ばれるファンによる実況を前提としたリアルタイム更新連載と,意図的に時系列をシャッフルした「カットアップ形式」を採択していることが挙げられる。
バラバラのエピソード群が次々と畳みかけてくる独特の方式に,はじめは面食らうかもしれないが,前出のエピソードとはとうてい結びつきそうにない唐突な展開が徐々に補完されていく楽しみや,その隙間をヘッズ同士で考察する面白さなども存在する。過去には,別アカウントでヘッズとの交流や質問コーナーを受け持っていたザ・ヴァーティゴ=サンが,そのまま平行して更新され始めた本編に飛び入り参戦するなど,Twitter連載という強みを活かした非常にユニークな展開も見受けられた。
そして何より注目すべきは,本編の純粋な面白さだ。
先述したように,本作で描写されるのは大袈裟に誇張された日本の近未来だ。しかし,架空の近未来都市であるネオサイタマを通して描写される日本の姿は,現実のそれと肉薄している。年功序列や面子に裏打ちされた重圧,格差に貧困,少年少女を苛む過酷な学歴社会,強者が弱者を搾取する非人道的な世界……。ときにそれは邪悪なニンジャを通して,必死に耐え続ける人々のささやかな幸福や暮らしを踏みにじる。
そうして弱者たる市井の人々(モータル)を襲う絶望と悲哀,己を取り巻く理不尽への怒りが読者と完全に一体化したとき,「Wasshoi!」の掛け声とともに現れる復讐者の凄まじい戦い,「イヤーッ!」「グワーッ!?」で描写される凄まじきカラテの応酬(実際にこの珍妙な描写に大興奮することになる),その水面下で人々が振り絞る精一杯の勇気や優しさは,鮮烈な人間賛歌として私たちの心を強く打つ。
当初はフジキド1人で始まった孤独な戦いも,凄腕のハッカーであるナンシー・リー,凄惨な運命に巻き込まれた少女ニンジャ,ヤモト・コキ,武装霊柩車ネズミハヤイ号を駆る凄腕の運び屋デッドムーン,キョートで探偵業を営むタカギ・ガンドーなど,彼を支える協力者,あるいは強力なライバルを増やしながら,次第に物語は群像劇的な多面性を見せてゆく。
さらには第二部以降,そもそもニンジャとは? 憑依合体することで人間をニンジャへと変貌させるニンジャソウルの正体,キンカク・テンプル,三種の神器,ヌンジャ……などなど,神話とバーチャルが交差するサイバーパンクSFとしての深みも増してゆく。
それはさておき,いきなり野球回や寿司バトル回が始まったり,恐怖のヤクザ天狗が降臨したりもするが……。
2024年現在,連載開始から14周年を迎えたばかりの公式アカウントは,今もなお精力的に第四部を連載中だ。きみも決断的に公式アカウントをフォローして,新鮮なニンジャ・アトモスフィアを暮らしに取り入れよう!
※余談だが,第二部連載当時,白熱する最終決戦が連日2:00くらいまで続いていたため,リアルタイム連載を追うサラリマンや無軌道学生たちはタイムラインに張り付いて,「ニンジャスレイヤー=サン,はやくそいつをやっつけて,おれたちの毎日の生活のなんかを守ってくれ……!」と睡眠時間を犠牲にして,ニンジャスレイヤーたちと一緒に巨大ななんかと必死に戦い続けていた。
それで,どういうゲームなの?
ニンジャスレイヤーの魅力を完璧にご理解いただいたところで,ようやく本題の「ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上」に入ろう。
本作において,プレイヤーはニンジャスレイヤーを操作して,押し寄せるクローンヤクザたちをカラテやスリケン投擲でハイスピードに蹴散らし,ステージの最奥で待ち受ける「ソウカイ・シンジケート」の邪悪ニンジャたちをスレイすることになる。
ネオサイタマに巣食うニンジャは8人。1人倒すごとに新たなアクションや強力なヒサツ・ワザが開放される。高速移動にしてそれ自体に高い攻撃判定を持つニンジャダッシュ,ゲージを溜めて放つヒサツ・ワザなど,戦闘を有利に運ぶシステムを駆使して復讐を完遂するのだ!
各ステージでは,Unreal Engineで描写されたハイテックな幕間が電撃的にエントリー! ニンジャの死闘を盛り上げる。
また本作に残機の概念はなく,何度やられても灰の英雄よろしく即座にリトライできる。さらにプレイ中,体力がなくなったら「ナラクモード」が発動。謎の邪悪存在による圧倒的なパワーによって一発逆転を狙うことが可能だ。
ステージによっては,道中に配置された大型イカやオハギなどをうまく利用することで戦いを有利に運べる。また秘密裏に配置されたバリキドリンクや謎めいたシークレット・ミッションを収集する楽しみもあり……フーリンカザン,チャドー,そしてフーリンカザン……。さまざまなニンジャ・アクションを駆使してネオサイタマの夜を縦横無尽に駆け抜けよう。
そして筆者はネヴァーダイズする
猥雑なLEDネオン光に満ちたネオサイタマの夜景,疾走感のあるハードロック調のBGM,各ステージの8人のボスを撃破するごとに開放されていくアクションなど,そのあまりにも斬新な……いや岩男めいた気配もするが,ゲーム化されたニンジャスレイヤーの世界に,筆者の体温はいやおうがなしに上昇した。ワオ……,ゼン……。まさに王侯のような精神生活である。
そうして赤黒のニンジャ装束と首布を身に纏い,電子ネットワークが覆う未来都市を駆け抜け,哀れなモータルを虐げる悪しきニンジャを痛快に,無慈悲にスレイする……。そのようなカートゥーンめいた夢想をする筆者に叩きつけられたのは――あまりにも過酷なネオサイタマの実情だった。
そろそろ正直に話さねばなるまい。このゲームはハードコアだ。
ステージ中に所せましと配置されたクローンヤクザたちの放つ銃弾やロケット弾による弾幕,野生化したバイオスモトリやメキシコライオンによる異常膂力の応酬,それとなんか下のほうからいきなり飛び出してくる殺人マグロによる事故的な衝突は,無慈悲に体力ゲージをすり減らし,筆者の操るニンジャスレイヤーは成す術もなく蹂躙され,何度も何度も爆発四散していった。コワイ! これが古事記に予言されたマッポーの世の一側面なのか!?
※PC版は7月26日のアップデートで,全体的に難度が少し抑えられている。
「ネオサイタマ,いい加減にしろ……!」
はじめに選んだステージのタイム計測が三十分を越え,数十回死亡することで開放される実績を解除したころ,筆者のニューロンにそのような無惨なソーマト・リコールが浮かんだ。アイエエ……。お気楽に遊べる痛快ニンジャアクションゲームだと思っていたのに,こんなの,テストに出ないよぉ……もう嫌だ……。もっとやさしい,ニンテンドーとかのゲームで遊ぼう……。
そのあまりにもダイハードめいた艱難辛苦ぶりは,ともすれば先日影の地で遭遇した約束の王の脅威にも匹敵しており,すっかり心折られた筆者は思わず手元のスマッホンでかわいいペンギンやアザラシ,あるいは水産業者が黙々とウニをハンマーで割り続ける動画に耽溺しそうになった。おれたちは……人類はもっと,ラッコやイルカについて考えないといけないんじゃないかな……大自然……地球……そういうものについて……――その時である!
「――つらく,ままならない日々は楽しいね」
筆者の脳裏によぎったのは,令和時代の天才科学者にして新進気鋭のマスター級学園アイドルであるヒロ・シノサワの哲学的格言であった。
おお,ゴウランガ……! 必要なのは困難を楽しむ心の弾力である。スウーッ,ハーッ! スゥーッ,ハーッ……! 胸の前で無意味に腕を交差させ,チャドー呼吸で乱れた心身を整える。筆者はオハギよりも甘い己の認識を恥じた。
自己批判せよ! これはおだやかな動物たちの村落でスローライフを営んだり,ビンの中のフルーツをくっつけてスイカを目指すような実際カワイイなゲームだったか……? 否! 断じて否! ここにあるのはネオサイタマの過酷な日常であり,たった1人で巨大な暗黒ニンジャ組織に立ち向かうフジキドの壮絶な復讐の旅路だったはずだ。それがイージーなものであるはずが……ない!
Wasshoi! 己を鼓舞するチャントを唱え,自らを鼓舞しながら筆者はUNIXに接続したゲームパッドを手に取りネオサイタマの闇に立ち向かった。
なせば,なる。エルフのせんしは光るし,トム・クルーズは今日もどこかで世界を救うために全力でトム走りする。いつの時代も,カラテを極めるやつが上をゆく。ノーカラテ・ノーニンジャ……。
筆者はとにかくがんばった。ニンジャダッシュをうまく制御できずに押し寄せるヤクザに背を向けたまま一方的にタコ殴りされたり,ニンジャの卑劣攻撃によって空中で硬直したフジキドがそのままトゲトゲの生えた危険な穴の底に落ちても,めげずに一生懸命がんばり続けた。
圧倒的な困難に傷つき,疲弊しながらもそれでもたった1人で戦い続けるそのありさまは,奇しくも作中で繰り広げられるフジキドの孤独な戦いと酷似していた。
ニンジャスレイヤー・ネヴァーダイズ……。
ああ,そうか……。おれ自身がフジキド……ニンジャスレイヤーだったのか……。それは錯綜したニューロンがみせた異常マニアクスめいた倒錯だったのかもしれない。しかし数えきれないほどに繰り返される死と再生の先に見えてきたのは――真のニンジャのイクサだった。
プレイ開始当初とは比較にならないニンジャ動体視力で,降り注ぐ敵の攻撃や殺人トラップを電撃的に掻い潜り,ブリッジ回避にスリケン投擲,抜け目のないスシ補給,ポン・パンチにサマーソルト・キック,チャドー暗殺拳奥義タツマキケン……戦局に合わせて柔軟にヒサツ・ワザの使い分けを駆使できるようになったころ,筆者はフジキドとの深い一体感を覚えた。いや,むしろ筆者自体がフジキドに取り憑いたナラクの一部と化したのか? どっち? とにかく,だいたいそんな気持ちになった。
ゲームの画面に映るのは,まさにネオサイタマを舞台に繰り広げられる強敵とのハイスピード・ニンジャバトルであり――そして筆者は深く確信した。つまり本作は,ニンジャスレイヤーが直面する壮絶な死闘と不屈の精神をゲームを通してプレイヤーに追体験させることで,無力なモータルたちを真のニンジャせんしへと育成するおそるべき教導的ゲームだったのだ,と。
そう,賢明な読者諸君にはもうおわかりだろう。
すべては,ニンジャなのだ……。
「ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上」公式サイト
「ニンジャスレイヤー」公式X
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ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上
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