プレイレポート
10年越しに初めて手に取る「S.T.A.L.K.E.R.」は“強烈”そのものだった――。「Legends of the Zone Trilogy」を通して見る,シリーズの個性と来たる未来
ほかのプレイヤーと関わる機会のあるオンラインゲームは「楽しい」。画面の手前にいる私と,向こう側にいる人。“人と人”でしか成しえない瞬間が必ずあるからだ。笑ったり,時に悔しがったり,泣いたり,怒ったり……。こうした感情や意識の共有は,NPCやCPU相手では得られない。
だけど,ふとした時に「今日は1人でゲームで遊びたいな」と思う時がある。そんな時はSteamなどのライブラリから目ぼしいゲームを探すわけだが,まさにそんな時だった。4Gamerの担当編集から「S.T.A.L.K.E.R.シリーズ三部作のコンシューマ版が出るので,プレイレポを書かないか」と連絡が来たのだ。願ったり叶ったりである。
と言いつつも,筆者は「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズを名前だけ知ってはいても,実際にプレイしたことはなかった。難しそうというかなんというか,様々な経験を積んできたベテランのゲーマーではなく,筆者のようなニューエイジ(20代半ば)……正直に言えば“ひよこゲーマー”に,このカルト的人気を誇るシリーズは少し縁遠い存在だった。
だが,本作をプレイして一段落を迎えた今,その考えは間違っていたことを告白せねばならない。どこまでも暗く,泥臭く,人間臭いウクライナの大地が,その人の感性に刺さる刺さらないはあるにしろ,このゲームは間違いなく「経験して損はない」と感じたからだ。
正直に言うと,バグるし,フリーズする。セーブを怠った結果,何時間もかけてプレイした成果が一瞬で吹き飛ぶことなどザラにあった。本来ならばコントローラが宙を舞うところだが,それでも大地を駆け続けたのは――その意欲を駆り立てたのは――,「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズが持つ唯一無二の個性的な魅力,ただそれだけである。というわけで,本稿では「ニューエイジがプレイする」という観点から,「S.T.A.L.K.E.R.」の魅力を語ってみたい。
伝説の三部作がコンシューマ版で蘇る
さて,先に「S.T.A.L.K.E.R.シリーズ三部作のコンシューマ版」と書いたが,これは2024年3月7日,GSC Game Worldより電撃発売された,「S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy」(PS4 / Xbox One)のことを指す。Trilogyの名を冠する通り,いわゆる“S.T.A.L.K.E.R.3部作”と呼ばれる「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chornobyl」「S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky」「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Prypiat」の3作品を収めたバンドルであり,また,本シリーズがコンシューマ機に移植されるのはこれが初めてだ。
また,今回のリリースに伴い,上記の3作が「公式に日本語対応(字幕)した」というのも,見逃せないポイントだ。これまではゲーム内に公式の日本語設定も存在しなかったため,英語が苦手な場合は,有志によって制作された日本語翻訳MODが必要であったり,そもそも作品がPC版しかリリースされていなかったこともあって,プレイのハードルは決して低くはなかった。こうした環境が,巷で「カルト的人気」などと表現される所以であったりもするのだが。
今回は前述した日本語字幕のほか,コンシューマ機への移植ということで,操作系統もコントローラ向けに最適化がなされている。エイムアシストを含めた射撃周りであったり,武器の選択ホイールなどは,作品が持つ雰囲気やプレイフィールを損なわないよう,GSC Game Worldのパートナー企業である,Matabooとの連携によって実装に至ったものだ。これについては,こちら(外部リンク)でも触れられているので,気になる方はぜひチェックを。
粗さこそあるがプレイフィールは良好。シリーズ未経験でもしっかりと遊べる
さて,ここからは実際に「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Prypiat」をプレイした感想だ。なお,執筆にあたっては,PlayStation 5の後方互換機能を利用し,PlayStation 4版をプレイしている。
まず,「S.T.A.L.K.E.R.って名前は聞いたことあるぞ! よく分かんねぇけど!」という方のために,本シリーズの世界観を簡単に説明しておくと,
1986年,未曽有の大事故を起こしたチョルノービリ原子力発電所。それから時を経た,2006年。その跡地で,再び原因不明の大爆発が発生する。周辺は放射性物質により汚染され,放射線の影響によると思われる突然変異を起こした生物が闊歩する危険地帯,通称「ZONE」と化した。このZONEで,生死に関わるような依頼と引き換えに多額の報酬を得て生計を立てる,「ストーカー」と呼ばれる者たちがいる……。
というものである。分かりやすい言葉で言うなら,ポストアポカリプスとか,ヒャッハーしてない「北斗の拳」とか,そんな感じだろうか。ただ,本シリーズに共通するのは,「退廃的な世界観・サバイバル・ホラー」といった要素を,FPSというシステムで見事にまとめあげたという点にある。この点こそ,「S.T.A.L.K.E.R.」シリーズの唯一無二の魅力であり,シリーズが後の多くのゲーム作品に多大な影響を及ぼしたと言われる所以でもある。
コンシューマ版では操作系統の最適化のほか,グラフィックスのリマスタリングも行われている。とはいえ,あくまで「リメイク」ではなく「リマスタリング」であるため,元は2000年代後半の作品ということもあり,最新世代の作品と比較すれば劣るものではある。ただし,それでも十分にプレイできるクオリティではあるし,そうしたグラフィックスが一種のレトロ感も演出している(これが世界観とも絶妙にマッチしている)。個人的には,十分満足できるものだった。
インタフェースに注目してみると,キーボード&マウス環境でのプレイを前提に開発されたUIを,やや扱いにくいと感じる点こそあるものの,コントローラでもしっかりとプレイができるように制作されている。エイムアシストも動作しており(少し不安定と感じる節はあったが),戦闘も問題なく行えた。筆者は日頃から,キーボード&マウスを用いてFPSをプレイしているため,少々苦戦する場面もあったが,普段からコントローラでFPSを遊んでいる人には問題はないだろう。
ただし,いくらリマスター作品といえど,やはり不満に感じた点があったのも事実で,文字サイズが変更できない(かなり小さい)のは,ユーザーフレンドリーではないところだ。また,日本語化がされているとは言っても,これはUIや会話のテキストのみであり,フィールドの探索中,ミッションの進行中といった場面でNPCが発する音声(重要なことを言うことも多々ある)については,字幕が表示されないため,日本語化も行われていない。
なので「もうまったく英語が分からない(イタリア語, ウクライナ語,スペイン語,ドイツ語,フランス語,ポーランド語,英語とあるが,多くの日本人は英語を選ぶだろう)」というプレイヤーには少々キツい仕様であるし,聴覚に障害を抱えるプレイヤーにもフレンドリーではない。
こうした点は「時代とともに経たゲームの進化」を感じさせるもので,本作が「古き良き名作」になりつつあることの証明にもなっている。これ以外にも,冒頭にも記した通り,頻繁にバグが発生するうえ,フリーズも多発した。また,特定の場面で一定の手順を踏むと,必ず進行不能になったのだが,これについて調べると,本家でも同じく発生するバグのようだ。こうしたバグも修正されていないし,現代基準で見ると,そのクオリティはけっして最高と呼べるものではない。
だが,それでもとにかく面白い。オートセーブこそあるものの,昨今の作品ほど頻繁にセーブしてくれるものではないため,何かするたびに手動セーブをし,進行不能で泣く泣くロードし直し,すごくいい場面でフリーズして「虚無の表情」となったり,時にコントローラをぶん投げたくなる時もあるのだが,不思議なことに,それでも「あぁ,もうちょっとやりたい……あそこまで行ってみたい……」と,内なる冒険の意欲が無限に掻き立てられる。まだ見ぬウクライナの土地を,荒廃した世界を,さらに歩んでみたいと本能が欲するのだ。
「親切さ=面白さ」ではないことを,現代に証明する
さて,ここまで書いたように,現代基準で考えれば,本作のプレイフィールは「かなり不親切」である。マップ内のファストトラベルにはけっこうな金額を要求され(序盤はとくにそう感じるだろう),そのファストトラベルに必要なNPCもいたりいなかったりする。彼らも「A-Life」と呼ばれるゲーム内の生態系シミュレーターに則り,生活をしているためだ。
何度もやられた場面で,画面にポッと「ヒント」みたいなのが浮かび上がってくることもなければ,チュートリアルすらない。いきなりポイっと放り込まれ,後はお好きにどうぞというストロングスタイルである。ゲーム側に優しさはなく,手取り足取り教えてくれることもない。たとえば,中立で比較的友好的なNPCであっても,プレイヤーが銃を手に持って近づけば警告を発し,立ち去らないと撃ってくる。そう。素手で近づかなければならないのである。
「銃構えたまま近づくバカがいるか。それくらい考えろ」なんて言われてしまいそうなものだが,最初は意外と気づかないのだ。こうした場面を経て,死体は幾重にも重なり,昨今の「死んで戦い方を覚える」とは異なる,「死んで世界の理を覚える」というスタイルでプレイヤーは強くなっていく。金の稼ぎ方。戦闘方法。交渉術。こうして,ZONEに生きる泥臭い人間としての生き方を叩き込まれていく。
一癖も二癖もあるNPCとの会話に耳を傾け,物騒かつグロテスクなミュータントとの戦いに挑み,アイテム回収に励み,時に騙し,時に騙され,時に人助けをし,時に嵌められる。プレイヤーは決して万能の神ではなく,あくまでZONEで活躍したりしなかったりする,一人のストーカーに過ぎない。生態系の一つなのだ。
こうした「手探りでやってみる面白さ」というのは,どんどんゲーム側が親切になる昨今においては,どうしても薄れてしまいがちな要素の一つである。だからこそ,「今の時代にS.T.A.L.K.E.R.という作品が,プレイしやすくなって登場した」という事実は,ただひたすらに「今から考えれば不親切だけど,ひたすらに面白かった。ガムシャラにセーブとロードを繰り返していたあの頃」というノスタルジアへ回帰させる。そして,こうしたゲームをプレイしたことがない若い層にも,その身をもって「古き良きゲームの面白さ」を示すのである。
昨今,「ポストアポカリプスもの」はゲームジャンルを問わず,多く制作されている。だが,とにかく「S.T.A.L.K.E.R.」はハード極まりない。そこにいるのは,むさ苦しい男どもとミュータントであり,酒におぼれ,灰皿には吸い殻が山盛りで,泥臭く,人間臭く,放射能で汚染される極限の環境の中で,照準通りになんて飛ばない銃を撃って戦うのだ。そして,アイテムを使い果たし,ボロボロになりながらも拠点に帰ってきたとき,NPCがギターを弾いていたりする。どこまでもリアルで,どこまでも尖りまくっているこの世界は,プレイヤーを歓迎せず,ただただ,“そこにあるもの”として扱う。
そして,この伝説的なシリーズもいよいよ,「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl」として,いよいよ長き眠りから再び目覚めることになる。シリーズ最新作は2024年9月6日の発売が予定されている。
なお,デベロッパのGSC Game Worldは,ウクライナ・キーウに拠点を構えており,ロシアによるウクライナ侵攻の影響を多大に受けた。現在の主要な開発拠点はチェコ・プラハに移転しているが,一部のメンバーはウクライナに残って開発を続行し,ウクライナ軍に入隊したメンバーもいるという。今回プレイした「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Prypiat」に登場するNPCのモデルとされ,元GSC Game World社員で「S.T.A.L.K.E.R.: Clear Sky」の開発にも携わった,Volodymyr Yezhov氏が従軍中に戦死したことが伝えられるなど,極限の環境の中で開発が進められている。
筆者一個人として,少しでも多くの人々に「S.T.A.L.K.E.R.」という偉大な作品,そしてその世界を歩んでもらいたいという一心で本稿を記した。リマスタリングされたZONEで,この世界観を一人でも多くの方に味わってもらえれば嬉しく思う。グッドハンティング! ストーカー!
「S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy」公式サイト
- 関連タイトル:
S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy
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S.T.A.L.K.E.R.: Legends of the Zone Trilogy
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- S.T.A.L.K.E.R.: LEGENDS OF THE ZONE TRILOGY - PS4
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