プレイレポート
[プレイレポ] アクワイアの新作ローグライト・リアルタイムRPG「スカーズ・オブ・マーズ」は緊張感が持続する画期的な戦闘システムが光る
Steamでは体験版を配信中の本作だが,事前に製品版をプレイする機会を得たのでレポートしよう。
新時代のリアルタイムバトル
新しいだけではない,確かな緊張感と没入感
本作の舞台は2158年。未確認生命体に占拠されたという情報を最後に連絡が途絶えていた火星の研究施設から,SOS信号を受信する。
「信号の送信者である博士の捜索と保護を最優先に動きつつ,生存者は見つけ次第保護し,地球へ帰還せよ」というミッションを受けたヒューマノイド部隊の指揮官として,プレイヤーは4機のヒューマノイドに指示を出しながら任務の遂行に挑む──これが物語の導入だ。
ゲームの流れとしては,ローグライト系ではよく見られるタイプのマップを進んでいき,戦闘やイベント,ショップで買い物などを行っていく。ゴールまで行くとボス戦となり,見事撃破すれば次のエリアが開放される。
ここまでの話を聞けばローグライトのテンプレのようだが,本作の特徴の1つは「リアルタイム」であることだ。ヒューマノイド部隊がミッションを開始すると,画面上部に「バッテリー」の数値が表示され,これがカウントダウンのように少しずつ減少していく。
マップ上でどちらのマスに進むか迷っている時間,イベントで選択肢を迷っている時間,ショップで買い物をしている時間,そして戦闘時間。すべてリアルタイムで時間が流れており,時間経過でバッテリーは減っていく。
また,イベントの選択肢によっては,バッテリーが一気に20%ほど減ることもある。
こうした“リアルタイムな時間の流れ”がベースにありつつ,本作の核と言える特徴が画期的な戦闘システムだ。ものすごく噛み砕いて説明すると,「ダンジョンRPGの戦闘シーンをリアルタイムにして,フォーメーションと位置取りを重要にしたシステム」といったところだろうか。
一見すると,まさにダンジョンRPGの戦闘画面だが,味方のヒューマノイド4機は自陣(縦3マス×横3マスの9マス内)を自由に移動できる。
敵が攻撃をしてくる直前に自陣のマスが赤く光り,ここにいるとダメージを受けるので,数秒のうちに移動させなければならない。味方1機であれば大したことはないが,1回の攻撃で3機が待機しているマスが赤く光ることもあるので,大慌てで移動させることになる。
こちらの攻撃はクールタイム制で,[LB]/[RB]ボタン(Xbox用コントローラの場合)が各ヒューマノイドの左右の手に割り振られている。クールタイムの短いナイフ,ナイフよりは長くなるが安定した強さを持つブレイド,両手持ちのカタナ,攻撃レンジが長いスピアといった豊富な近接武器に加え,片手持ちのハンドガン,両手持ちのアサルトライフルといった銃器類も充実。回復用の「レストアユニット」もあり,これを装備していると隣接する味方を数秒おきに回復できる。
つまり,頻繁に赤く光る範囲から4機のヒューマノイドを逃がしつつ,各ヒューマノイドの左右の手から繰り出される攻撃のクールタイムに気を配るという,リアルタイムで大忙しな戦闘が繰り広げられるのだ。
もちろん,戦闘中もバッテリーは消費し続けているので,敵の攻撃からひたすら逃げ回っているだけでは時間を無駄に浪費する。アグレッシヴに攻めて戦闘を早く終わらせないといけない。
こちらのマスが赤く光っているときに,その攻撃を仕掛けようとしている敵を攻撃すると「カウンターアタック」となり,大ダメージを与えられる。最大のリスクが生じる場面に最大のリターンがある,スリリングなシステムだ。
さらに,本作には「フレンドリーファイア」もある。銃で攻撃するヒューマノイドの前方に,ほかのヒューマノイドがいたら,そのまま銃を撃てば味方にもダメージが入ってしまう。そのため,銃で攻撃する場合は前方を空ける必要がある。
面倒な要素に見えるフレンドリーファイアだが,実際にプレイしてみると,これがいいアクセントになっている。
前方1マスしか届かない近接武器を持ったヒューマノイドは攻撃のたびに前列に出る必要があり,銃装備者ならば前を空ける必要がある。回復役のレストアユニットも,初期装備では自分の前方1マスしか回復効果を与えられないため,回復対象を前に持ってくる必要がある。それぞれの役割に何らかの制限があり,ひっきりなしに飛んでくる敵の攻撃を避けているうちにバラバラになったフォーメーションから,各々の必要とする位置取りに修正していく。
「敵の攻撃の回避」と「こちらの攻撃」,そして「役割ごとに必要な配置にするための移動」が加わり,3種類の忙しさが適度に脳汁が出る程度で実に“ちょうどいい”のだ。状況によっては,「構わん,やれーっ!」的な勢いでフレンドリーファイア上等,味方ごと撃ち抜くのもアツい。
ただ,戦闘不能になったヒューマノイドはそのマスから動かせないため,残ったヒューマノイドが敵の攻撃を避けようとするときの邪魔になる。後述する「スペシャルアビリティ」の使用や,セーフルームに辿り着けば完全回復できるが,戦闘不能だけはできるだけ避けたいところだ。
戦闘が終わると経験値を獲得し,ヒューマノイドのレベルが上がるものの,レベルアップによる強化はその回だけに限られる。拠点に戻るとレベルは1に戻ってしまう。マップでは戦闘のマスを選んだほうが成長する回数を増やせるので,「今回はボス戦まで行くぞ」というときは積極的に戦闘マスを選ぶといいだろう。
ひとときの休息と,次回への準備。拠点でできること
1つのマップには「セーフルーム」に入る機会が2回あり,そこまでに手に入れたアイテムを持って引き上げるか,先に進むかを選択できる。インベントリには限りがあるので,まだ戦える余力がある状態であっても,持ち物がいっぱいなので帰還したほうがいい状況は多い。
なお,道中でバッテリーが尽きたり,戦闘で全滅したりすると,手持ちのアイテムの約半分をランダムに失って拠点に戻される。
「そのマップのボスを倒す」「セーフルームからの帰還」「途中で倒れる」のどれかで拠点に戻ると,ヒューマノイドや武器の強化が行える。
各ヒューマノイドには「FRAME(フレーム)」「CLASS(クラス)」「PRIMARY WEAPONとSECONDARY WEAPON(両手の武器)」という,3種の装備カテゴリがある。
まず,フレームは役割の方向性を大雑把に定めるものだ。例えば「防衛タイプ」のフレームは,ほかと比べてHPが上がりやすいが,攻撃力は下がるといった感じだ。
クラスはそれぞれに特殊な能力が設定されていて,より詳細にヒューマノイドの役割を決定づける。「ヒーラー」のように直球なクラスも存在し,その場合はフレームを「支援タイプ」または「防衛タイプ」にすることで,明確に回復役として設定できる。
両手に装備する武器群は試行錯誤が楽しく,本作の最も重要な部分だ。銃やスピアは自身が前列にいなくても敵に攻撃が届くので,敵の攻撃範囲から常に逃げ続ける本作では,それだけで有利な武器。敵は必ずしも前列にいるとは限らないので,後方まで攻撃できる銃を持ったヒューマノイドは部隊に最低1体は欲しいところだ。
レストアユニットの上位的存在である「レストアユニットSP」もあるが,回復範囲を「自身の前方1マス」から「自身を中心とした全方向1マス回復」という強化と引き換えに,両手持ちのアイテムとなり,クールタイムが大幅に延びている。
「全方向1マス回復」は強力だが,欠点もある。本来は後方に位置することが多いヒーラーも,赤い範囲から逃げ続けているうちに前列に出てしまうことは珍しくない。このとき,自分の後方のヒューマノイドを回復しようとすると,敵の前列にも回復が及び,相手を回復してしまうのだ。
さて,前述のとおり,マップの探索中にはさまざまなアイテムが手に入る。武器は当然ながら,フレームやクラスも「設計図」として手に入る。各設計図は拠点のメニューから,「強化する(同じもののレベルを上げる)」「所持数を増やす(同じものの数を増やす)」「強化ポイントに変換」といった選択ができる。
未所持のものは,まず「所持数を増やす」で0から1にすることで,1つ目が手に入る。すでに持っている設計図を手に入れた場合は,基本的には「強化する」で性能を上げることに使う。片手持ちの武器を二刀流にしたいときなど,「あと1つ欲しいな」というときには数を増やすこともあるだろう。
武器やフレーム,クラスを設計図で強化すると,ヒューマノイド全員に恩恵が得られる。例えば,設計図でハンドガンのレベルを上げると,同じ種類のハンドガンを装備している全員が一気に強化されるわけだ。
各武器には「アビリティ」が付いているが,左右の手を使って1つしか装備できない「両手持ち」の武器には,アビリティが2つ用意されている。両手武器の2つ目のアビリティはクールタイム付きの特殊能力になっていて,けっこう強力なものが多く,片手武器の二刀流によるスピーディーさと引き換えにしてでも選択したくなる魅力がある。
豊富な武器,アビリティ,フレーム,クラスの組み合わせによって,ヒューマノイド4体をどういう役割にするのか。その奥深さが楽しい。
例えば,レストアユニットによる回復は自身を含まないため,回復役が1機の場合は要注意だ。敵の攻撃範囲が表示されたら,回復役を真っ先に退避させないとHPをジワジワ削られていく。回復のチャンスがあるとはいえ,回復役のHPが少ない状況はハラハラさせられる。
そうした危機を回避するために,レストアユニットを複数のヒューマノイドに装備させてもいいが,それだけ攻撃の手を減らすことになる。つまり戦闘に時間がかかるということであり,バッテリーの消費が多くなることにつながる。
また,前述のレストアユニットSPは両手持ちなので,これを装備するとヒューマノイドは完全に回復役として動くしかない。これは安心感がある一方,味方がダメージを受けていない状況ではすることがなく,実質3機で戦闘することになる。通常のレストアユニットは片手持ちなので,もう片方の手に武器や味方の攻撃力を上げる支援アイテムを持たせられる。
本作は突き詰めると「4機のヒューマノイドの両手,8つの手に何を持たせるのか」の選択であり,バッテリーの持続時間による「急ぐことの重要性」を取り入れたことで,攻撃的な編成と安全を求める編成,それぞれにリスクがある。本当によくできた戦闘システムだと感心してしまう。
戦闘を重ねて拠点に戻ってくると,得た経験値が「研究ポイント」に換算されて溜まっていく。拠点メニューの「研究」では,研究ポイントを使って「スペシャルアビリティ」の習得,ヒューマノイドのHPや攻撃力といった性能の強化,特定のフォーメーションで一時的に特殊効果を付与するなど,さまざまな強化項目を選べる。
スペシャルアビリティには「戦闘不能になった仲間全員を一気に復活させられる」など,超強力なものもあるが,1回の探索で1回しか使えない。スペシャルアビリティ自体を強化する項目もあり,使用回数を増やせないわけではないが,必要な研究ポイントはかなり多い。
拠点ではさまざまな強化を図り,再び「出撃」して設計図を持ち帰ったり,研究ポイントを溜めたりしていく。ボスを倒して新しいエリアに進むと敵は強くなるが,たとえ全滅して拠点に戻ってきても,何も得られないまま時間だけが過ぎたということはない。何かしらが前進するので,モチベーションがまったく下がらないところもよくできている。まれに見る中毒性の高さだ。
戦闘システムは文句なしの傑作
ただし,ボリュームは物足りない
新たな「ローグライト・リアルタイムRPG」として,本作には文句なしだ。ただ,いかんせん,ボリュームに欠ける点は否めない。
最低難度のNORMALだったとはいえ,筆者は約5時間でクリアできた。パーティメンバーの強化を堅実に図ってからボス戦を目指すようにしていたので,苦戦しながらも先へ先へとガンガン進めたがるタイプのプレイヤーであれば,さらに短時間の可能性がある。
なお,難度はNORMAL,HARD,EXTREMEの3段階。EXTREMEはHARDをクリアしないと挑戦できないが,ストーリーが変わるわけではない。
とはいえ,本作の価格は2200円(税込)だ。短時間で一気に没入させて,クリアまで夢中で遊ばせる力を秘めていることを考えると,筆者は自信を持って本作を推せる。
HARDになると,予告から2秒程度で攻撃されたりするので,すべてを避け続けることは不可能だ。回復役の重要性は高まるが,バッテリーの減りが早く,敵もタフになっているため,攻撃の重要性も変わらず高い。本作の戦闘システムをしゃぶり尽くしたい人には,魅力的な挑戦になるだろう。
実に気が早い話になるが,筆者は本作の戦闘システムをベースにした続編を待ち望んでいる。無限に潜れるダンジョンとセットにしてハクスラ風のゲームができたら,とんでもない時間泥棒が誕生するのではないだろうか。妄想がどんどん膨らむ。
本作が少しでも気になった人は,とにかく体験版だけでもプレイしてほしい。画期的な戦闘システムが持つ可能性が感じられるはずだから。
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