インタビュー
[インタビュー]愛犬との散歩でトークンを稼いで,自分も犬も幸せに。「LOOTaDOG」が目指すのは,社会問題の解決ができるブロックチェーンプロジェクト
そんな中に,犬の散歩とブロックチェーン界隈を絡めて,飼い主も犬もハッピーになろうという,こう言ってはなんだがちょっと地味な作品がある。地味ではあるが,犬の幸せが自分の幸せである筆者にとってはまさにど真ん中ストライクの素敵なプロダクトだし,犬と一緒に暮らしている人であれば,そういう人は決して少なくないだろう(犬の飼い主さんはぜひダウンロードしてみてほしい)。
そんな“大切な愛犬の健康とウェルビーイング向上を目的としたお散歩アプリ”(公式談)である「LOOTaDOG」(iOS / Android,ルータドッグ)の,グローバルマネジャーである亀澤 凌氏を会場で捕まえることができた。ちょっとだけ時間をもらって,お話を聞いてみよう。
アプリを起動した状態で(リアルの)犬と散歩すると,歩いた距離によってトークンであるLADTを稼げたり,自動的に一定割合を愛護団体に寄付したりできる。散歩中には,宝箱……ならぬキャリー(犬を運ぶケースのことだ)を拾うことがあり,それをあけると(ゲーム内の)犬が身につけるアクセサリや満腹度回復アイテムなどが入手でき,ゲーム内の犬をレベルアップさせることで,トークンの稼ぎやすさやキャリーの拾いやすさが変わっていくなど,ゲーム要素も強い。
「LOOTaDOG」ダウンロードページ
「LOOTaDOG」ダウンロードページ
4Gamer:
お忙しいのに,無理矢理お時間いただいてしまいました。ありがとうございます。
なんかやたらに派手で賑やかなこの会場において,「LOOTaDOG」(ルータドッグ)ってちょっと地味ですよね。扱うテーマは犬の散歩ですし。
亀澤 凌氏:(以下,亀澤氏)
まぁ地味なことは否定できません(笑)。
4Gamer:
でも,ゲームよりも暗号資産よりも犬が好きな私としては,LOOTaDOGにもっと頑張ってほしいので,今回お時間いただいた次第です。
そもそもこのプロジェクトを立ち上げた理由って,どんなことがきっかけだったんですか?
亀澤氏:
もともとの開発会社であるLehmanSoft(リーマンソフト。本社はオーストラリア)は,ペット好きが集まっている会社だったんですけど,COVID-19を期に,犬の散歩に行かない/行けない人たちが増えていってしまったことが問題視されたんです。
4Gamer:
田舎暮らしの私は毎日普通に行ってましたけど,都心部とか,海外での都市ごとロックダウンとか,そういう場所では散歩に行くわけにもいかなかったですもんね……。
亀澤氏:
ええ。なのでその結果として,肥満になったり,病気のリスクを抱えたりしている犬が増えてきていたんです。なので,こういった問題を何とか解決しようと思って「LOOTaDOG」を立ち上げたのが最初です。
4Gamer:
プロジェクトの立ち上げはいつごろですか?
亀澤氏:
2021年の後半くらいですね。ローンチは2022年前半で,日本では2022年10月くらいだったはずです。
4Gamer:
さっき自分のアプリを見たら,私が始めたのは2023年9月15日でした。1年くらい存在に気付いてなかったんですね私。
亀澤氏:
プロモーション不足ですみません……。
4Gamer:
いえ。でも「STEPN」※的なアプローチと犬の散歩は,確かに相性がよさそうです。
※ランニングしたりウォーキングしたりすることで暗号資産を稼ぐことができるという,画期的コンセプトを持って登場した,いわゆるNFTゲーム。登場時には業界を席巻し,「STEPNより前/後」みたいな時代の変遷の区切りにさえ使われることが多い。
LOOTaDOGは「日常の散歩をゲーム化して,Web3わんこを育成する」という楽しさを提供するサービスですが,散歩を楽しくするというのは,イコール人間の行動パターンを変えるということで,そういうときにはやはりゲーミフィケーションってすごく有効だと思うんです。
4Gamer:
犬と暮らしてるのに,毎日散歩に行かない人って結構いますからねえ。
亀澤氏:
まぁいろいろな事情はあると思うんですが,それでなんであれ,明確に散歩と経済的価値を結びつけることができるので,結構有効だと思います。シンプルに「なぜ散歩しなきゃいけないのか」という説得が簡単というか。
4Gamer:
まぁ動機はなんであれ,散歩さえしてもらえるなら,犬もヒトもハッピーでいいと思います。
亀澤氏:
ええ。なので当時,ゲーミフィケーションと相性がよさそうなブロックチェーンなるものも登場してきたし,ブロックチェーンを使って“散歩”という課題を解決しようということで,合体させてLOOTaDOGを立ち上げたという背景があります。
4Gamer:
それこそ,目指せSTEPN的な?
亀澤氏:
うん,そうですね。ただ,そういうほかのMove to Earnと比べると,稼ぐというよりは“社会課題の解決”に寄せたいです。解決して,かつそれを収益化できるというブロックチェーンプロジェクトはほとんどないので,そういうものになれたらいいなとは思っています。
素晴らしいです。
あ,社会問題の解決と聞いて思い出したんですが,これ,歩いて得られたトークンが一定の割合で寄付されるじゃないですか。
亀澤氏:
はい。
4Gamer:
寄付先が選べたりすると嬉しいんですけど,そういうのは難しいですか?
亀澤氏:
今まではマニュアルで,たまにXとかで投票を募ったりしてるんですけど,これをDAO的にして,トークンを持ってる人たちが持ち分で投票数が決まったりとか,そういう風にやるのも一つの形かなとは思っていますが。
4Gamer:
うーん,そういうのでもいいんですけど,結局愛護団体ってそれこそクオリティがピンからキリまであるわけで,例えばDAO的にして組織票などでよく分からない団体にいったりするよりは,公式に認定したところのほうが安心安全だと思うんです。そこにWeb3的アプローチは要らないと言いますか。
亀澤氏:
でもそれ,認定が結構難しくないですか?
4Gamer:
でもいまでも,ピースワンコさんやライフボートさん※など,ある選別してますし。あとは……例えばアニマル・ドネーションが認定しているところから選べるとか。
※ライフボートは,保健所からの救命を専門とする千葉県の大手保護団体。活動自体は1998年からやっている歴史ある団体だ。2023年10月27日付けで,LOOTaDOGから1.0ETHが寄付されたことを告知している。(NPO法人犬と猫のためのライフボート)
亀澤氏:
なるほど。
4Gamer:
「あの団体に少しでもお金がいくなら」と,ちょっとこちらのモチベーションも上がるというものです。
亀澤氏:
Petfile Card(ペットファイルカード)※で,かざすたびに寄付されるみたいな取り組みとかどうですかね。
※ペット専用デジタル名刺で,2024年5月15日にリリースされた。NFC機能を内蔵したペット用名刺,という表現が一番正しそう。筆者のような,ちょっと多めの多頭飼いにも対応しているのが嬉しい(犬のサービスは,2頭までや3頭までなど制限付きのことが多いので)
Petfile Card(ペットファイルカード)公式サイト
4Gamer:
あぁ,そういうのもアナクロな感じで逆にいいかもしれませんね。カードに存在価値が生まれますし。※
※実際にゴールデンウィーク期間中は,1回カードを読み込むごとに10円が保護犬団体に寄付されていた模様
亀澤氏:
そうなんです。今回のペットファイルカードもそうですが,Web3ユーザーだけではなくてWeb2ユーザーも囲い込んで,エコシステムを拡大させていきたいと思ってます。
4Gamer:
逆にWeb3的な意味で言うと,Discordもちょこちょこのぞいていますが,ロードマップが見えづらいのはちょっといただけないかなぁ,と思ってます。
「LOOTaDOG」公式Discord
亀澤氏:
そこはよくお叱りを受けるところです。
4Gamer:
あんまり長期なことを話してもちょっとアレなので,短中期的なスパンでどうしていきたいかがもうちょっとクリアになっていると,ユーザー側としても嬉しいし楽しいと思います。
亀澤氏:
そういう風にしていきたいです。
4Gamer:
LADT※なんかの上場についても絶対聞かれますでしょう? するならいつまでが予定,しばくらしないならしない,と明言してくれたほうがいいのかなぁと思います。
※LOOTaDOGが使っている仮想通貨。犬と散歩することで稼げるもので,発行枚数の上限値がないユーティリティトークンだ
亀澤氏:
上場について言うならば,やはり一番重要なのは「どういう手段を使って収益化するか」だと思うんです。
4Gamer:
あぁ……確かに上場ありきでロードマップが組まれてるプロジェクトが多すぎる感じはありますね。あとそういう場合は“上場メイン”……というか実質上場ゴールなので,それ以外はおざなりになったりとか。
亀澤氏:
ですので上場に頼らない形で,LOOTaDOGという事業が回っていくことが一番大事で,そういった意味では,近いところでペットファイルカードが大事かなと。
4Gamer:
なるほど,そのための第一歩。まだそれ触ったことがないんですけど,どんなアイテムなんですか?
亀澤氏:
有料(3500円)で販売しているもので,今後は自分たちのワンちゃんの写真を入れたりデザインもカスタマイズできるようになります。それをWeb2,Web3ユーザーの両方に対して販売して収益化をしていければなと思っています。
4Gamer:
それをきっかけにして収益化がうまく軌道に乗ったとして,その先には何を見据えてます?
亀澤氏:
LOOTaDOGのブランドを高めて,エコシステムを作りたいですね。散歩してトークンを稼いで,オンラインならeコマースで遣ったり,リアル店舗だったら引き換えで店舗でクーポンがもらえたり,LADTを使った経済圏を作りたいです。
4Gamer:
あぁそれはいいですね。そのときも「犬」という枠からは出ないと特徴が出ていいかも。
亀澤氏:
そしてゆくゆく上場したら,トークンの一部をオンチェーンにしたりして。まぁそれをLADTにするのか,またオンチェーン用の別のトークンを作るか,そこは分からないですが。ともあれ上場したら上場したで,そこにオンチェーンのエコシステムを作って,そこではWeb3ユーザーさんが楽しんでもらえるようなものを提供したいです。
4Gamer:
でもそんなにWeb3に詳しいユーザーさんって遊んでるんですか? テーマ的に,もしかしたらそこは微妙なのかもしれないなと思ってたりします。あと,最終的にはどういうユーザー比率にしたいと思ってますか。一般の飼い主さんとWeb3ユーザーと。
亀澤氏:
最終的には,だいたい7〜8割ぐらいが一般の飼い主さんがいいですね。普通に散歩を楽しんで,楽しんだ分だけちょっといいことが起こるような。あとの20%くらいは熱狂的なWeb3ユーザーさんで,稼ぐためにLOOTaDOGをやる,みたいな。
4Gamer:
これがもっとゲームっぽいタイトルだと,まだ稼ぎたい人のほうが強い印象があるんですよね。でも今まで,そういう人ばかりがいて長く続いているゲームってあんまりない気がしますし。
亀澤氏:
そうですよね。そんなにない気がします。
4Gamer:
まぁLOOTaDOGは,ゲームというよりは,なんかもっとこう……。
亀澤氏:
そうですね。エコシステムにゲーム機能がある,というプロダクトの性格付けが一番正しい表現な気がします。
4Gamer:
確かに言い得て妙だと思います。であれば,もうちょっとそれらしいゲーム機能を付けてほしいです! 例えばすれ違い機能とか。
私,犬以外だとクルマも趣味なんですが,「みんカラ」というサービスの「ハイドラ!」っていうアプリが,クルマ同士のすれ違いを記録してくれるんです。それがちょっと面白いので,犬にもあったらいいのになぁと思ってまして。
亀澤氏:
なるほど。すれ違い機能は,ちょっと形が違うかもしれませんけど,ペットファイルカードで出来ると面白いかもしれませんね。例えば,かざした人同士がお互いのワンちゃんをフォローできたり,ペットファイルカードとLOOTaDOGを連携させて,散歩の記録がペットファイルカードのプロフィールに自動でUpされるようになったりとか。
「あ,昨日ここにいたんだ」的なやつが見えるということですか?
亀澤氏:
そうなりますね。
4Gamer:
なるほどちょっと楽しいかもしれません。犬友達がどこに散歩に行ったとか,どこのドッグランに行ったとか,そういうのは情報として割と重要ですし。
でも犬の散歩はドライブと違って「自宅と密接に関わってる」ことも多いと思うので,あんまり細かく見られないほうがいいかもですね。いまのLOOTaDOGの散歩記録とかをそのまま出されると,ちょっとイヤかもしれない。
亀澤氏:
あぁそこはもちろん,ざっくりした地名とかだったらいいと思うんです。散歩してる人たちとかって,承認欲求みたいなものがあると思うんですよね。承認欲求というと言葉のイメージがちょっと悪いですが「今日も散歩お疲れ様です!」みたいな。
4Gamer:
なるほど,そういうのであれば。
あとはまぁ,キャラクターである犬の犬種を増やしてほしいですね。やはり自分の愛犬と同じ犬種で散歩したいです……。
亀澤氏:
そうですよね。やっぱり愛着を持ってもらうのが大事ですし。
4Gamer:
写真が入るからまだいいんですけどね。
……もうついでなので言いたいこと言ってもいいですか?(笑) 散歩を記録してくれる時間が短すぎだと思います。10分ですよ10分! 私,NFTを買って4頭増やしましたが,それでようやく20分です。朝の散歩はどんなに短くても30分くらいあるのに(笑)。
亀澤氏:
いやそこはすみません……。
4Gamer:
逆にNFTを買わない状態だと,皆さんどうやってプレイしてるんですか?
亀澤氏:
いや,NFTがないとすごく時間かかると思います。
もうちょっと増やしてもいいのではと思うんです。そもそも散歩してトークンを溜めて経済圏を作ろうというデザインなのに,1回の散歩が10分しか認められないとか。ちなみに1回の散歩を何分くらいだと想定してるんですかこれ。
亀澤氏:
だいたい……20分から30分くらいでしょうか。
4Gamer:
うーん……買わない人にちょっと厳しすぎる気がします。……と口にしてから思ったんですけど,もしかしてみなさん結構NFT買ってるんですか?
亀澤氏:
Genesisのときは,どうしても数が限られていたのであれなんですが,今はだいたいユーザーさんの6割くらいがNFT DOGを持っていらっしゃいます。
4Gamer:
あ,そんなに。思ったよりいました。みんな歩く気満々ですね。
あとは……なんだろう。稼ぎたい層から「上場いつなの?」というプレッシャーがかかるくらいですか?
亀澤氏:
そのあたりのお気持ちも十分理解しているんですけれど,我々がやらなきゃいけないことは,繰り返しですけど収益化の道筋と,どうやってゲームを面白くさせていくかということなんです。
4Gamer:
はい,分かります。
亀澤氏:
一番理想なのは,上場しなくても経済が回ってて,純粋にゲームをやって面白いという状態になることです。上場はやはり「手段」でしかないわけですから。
4Gamer:
じゃあやはり,プレイヤー的にはまずゲーム機能の拡充からですね。
亀澤氏:
そうですね。ゲーム機能で差別化できてるかといったら,十分には出来ていないと思うのでいろいろやってみたいですね。例えばスタンプラリーみたいなものとか。
4Gamer:
お,それどんなものなんですか。
今ってチェックイン機能があって,店舗Aと店舗Bを回った人にアクセサリーを配る,みたいなことをマニュアルでやったりしてるんですけど,これを機能の一部として,指定した店舗を回ると自動的に限定のアクセサリーがもらえるみたいな感じの。
4Gamer:
なるほど。そういう移動が絡んだやつはいいですね。でもアクセサリーって,“何のためのアクセサリー”なのか,いまちょっと弱すぎませんか?
亀澤氏:
そうなんですよね。もっとバリエーションがあってもいいかな,とは思っています。例えば,このアクセサリーを付けると歩ける時間が増えるとか,スタミナやスピードの上限が上がるとか。
4Gamer:
普通にRPGの装備品みたいになる感じですね。ちょっといいかも。
亀澤氏:
はい。
4Gamer:
であれば,ドラクエ的アプローチというか「かわいさ+2」とか「かっこよさ+1」とか,そういうステータスも入れてコンテスト※に結びつけたりするのも楽しそうです。
アクセサリーってキャリーからランダム入手で,我々プレイヤーが自分では選べないので,逆にゲーム性が高いというか。
※とか言っていたら,本稿執筆中の2024年7月23日に導入された!
亀澤氏:
キャリーといえば,アクセサリーだけじゃなくてお店のクーポンとかも拾えるようにしたいなとかもちょっと思っています。
キャリーから出てくるもののレパートリーが増える感じですか?
亀澤氏:
ええ。お店のクーポンだったり,オリジナルグッズだったり。
4Gamer:
ん? リアルグッズ?
亀澤氏:
はい。LOOTaDOGのオリジナルグッズって,ちょっと人気あるんですよ。なので結構いいかなと。ユーザーは日本に限られてしまうんですけど……。
4Gamer:
あぁ,本当に送られてくるんですね。
亀澤氏:
あとは,チョコボールみたいに10個集めたらTシャツ1枚と引き換えとか。
4Gamer:
ソシャゲの“キャラクターのかけら”みたいなやつですね。確かによさそうですが,どんどんインベントリーが圧迫されていきますね……。
亀澤氏:
そうなんですよね(笑)。私はいつも,あれやろうこれやろうって言うんですけど,やっぱりエンジニア側の負担は大きいですし。
4Gamer:
あんまり増やすとUI的にも難しそうですね。キャリーだってちょっと油断すると結構溜まりますよあれ。
亀澤氏:
そうですね,どんどんどんどん。
4Gamer:
ともあれこういうサービスは,急に終わっちゃうのが一番寂しいので,末永く続くようにぜひ頑張ってください。お時間ありがとうございました!
亀澤氏:
もちろん頑張ります! これからもよろしくお願いします。
―――2024年7月5日収録
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(C)2022 LehmanSoft Corporation Limited
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