レビュー
2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本
●まきちゃん
1995年生まれの兼業フリーライター。クィア。かつては暴力ゲームを専門にプレイしていましたが,最近は個人的な経験・感情を取り扱った小規模な作品を多くプレイ・紹介しています。お気に入りのクィアなゲームは「Going Under」。
Stray Gods
価格 | 2990円(Steam版),2970円(PS5,PS4版),2950円(Nintendo Switch版)/すべて税込 |
ジャンル | RPG |
メーカー | Humble Games(発売) |
公式サイト | https://store.steampowered.com/app/1920780/Stray_Gods_The_Roleplaying_Musical/ |
「Stray Gods」をひとことで表すなら,「ライフ イズ ストレンジ」ミーツ,ニール・ゲイマンである。本作は現代社会のなかで細々と生きるギリシャ神話の神々のコミュニティと,そのなかで起きた殺人事件とその謎の解明を描いている。開発は「Dragon Age:Origins」のリードライターを務めた人物が中心となり,BioWare作品のように,選択によって分岐していく物語が特徴だ。
本作の最もユニークな点はミュージカル要素だ。主人公のグレースは物語の冒頭で神々のひとりから力を受け継ぎ,音楽の力を得る。それは歌うことで周囲の存在を歌の世界に引きずり込み,音楽に乗せて彼らの心情を半強制的に歌わせてしまうというものなのだが,それがゲームシステムとして物語とゲームプレイの両方においてフィーチャーされているのである。
物語の分岐の多くはミュージカル場面のなかでの選択によって発生する。グレースの歌の途中で,プレイヤーは相手へのアプローチのスタイルを選択し,それによって曲調も変わり,イベント後の相手の対応も変わってくるのである。
物語の分岐のパターンは多彩かつスムーズで,どんな選択をしてもかなりの満足感を得られるようになっている。選択によってキャラクター間の関係やイベントの展開が大きく変わるため,多くのプレイヤーは喜んで2週目,3週目のプレイを楽しんでしまうはずだ。
個性的なキャラクターたちとのロマンスも見逃せない! このミュージカルと殺人ミステリーをめぐる冒険のなかで,グレースと協力者たちとの関係はロマンスに発展することがある。相手はギリシャ神話オタクの南アジア系女性のフレディ,山羊の目を持つ妖しい神のパーン,陰気な神のアポロ,ナイトクラブの女王ペルセポネ。彼らはみなセクシーで,たまに提示されるロマンスの選択肢はどれも魅力的だ。もちろんロマンスでなく,プラトニックな友人の仲良し関係のままプレイを終えることもできる。
本作でうれしいのは,「Hades」(これまた名作クィアゲームだ)と同じく,古典的な神々が登場するが,みなルーツも見た目も多様であることだ。特にサブキャラクターとして登場するヘルメスがノンバイナリーなのがいい。Hadesのカオスはthey/them存在で,これはこの神の虚無的な「非人間」的な属性に紐付けられているものだと感じるが,Stray Godsのヘルメスは神の特性とはまったく関係なくジェンダークィアなのである。
また,本作はゲームのキャラクターや展開とは関係ないところでもしっかりと親クィアである。グレースの自室にはプログレスフラッグ(注:LGBTの象徴であるレインボーフラッグに,トランスを示すブルーとピンク,人種的マイノリティを示す茶と黒を加えた,より包摂的なクィア・プライド・フラッグ)が掲げられ,開発の公式アカウントの投稿などでもクィアライツやアクセシビリティに力を入れていることが感じられるのである。
Switch含め複数ハードでプレイ可能で,日本語ローカライズもしっかりされていて,1周のプレイ時間もそんなに長くないということで,かなりプレイしやすい作品だ。
Tchia
価格 | 4070円(税込) |
ジャンル | アドベンチャー,アクション |
メーカー | Kepler Interactive(発売),Awaceb(発売,開発) |
公式サイト | https://store.epicgames.com/en-US/p/tchia |
「Tchia」(チア)はオープンワールドのアクションアドベンチャーだ。プレイヤーは少女チアとして,冒険を繰り広げる。
本作の特色は,フランス領の小さな島,ニューカレドニアの文化や歴史をフィーチャーしているところ。自然豊かな環境はもちろん,音楽やトーテム作りや石積みなどのアクティビティまで,あらゆる部分で実在の島の文化へのリスペクトが見られる。また,キャラクターたちのアフレコや音楽の演奏も現地のアーティストによってなされているという。
本作はアクションゲームとしてもかなりユニークだ。本作独自のアクションに「ソウルジャンプ」 というものがある。これはチアが周囲のオブジェクトや生物に乗り移るアクションである。これを使用するとチアは乗り移った生物/無生物として行動することが可能になり,鳥として空を飛んだり,魚として海を素早く移動したり,石として崖をころころ転がったりといったアクションが可能になるのだ。他にも移動手段は多く,空中をグライダーで滑空したり,イカダで航海したり,さまざまな形でプレイヤーは島の環境を探索することができる。Tchiaの世界の景色が美しく移り変わるように,ゲームプレイもまた非常にカラフルなのである。
開発や環境破壊に対しても焦点を当てているのも特徴で,そのことは探索できるふたつのエリア間の違いから感じ取ることができる。片方は自然と地元の昔ながらの文化が残ったカラフルで美しい島なのだが,独裁者が支配するもう片方のエリアは無機質な灰色の島なのである。自然=良い,開発=悪い,というようなメッセージは少し単純すぎるかもしれないが,それでもプレイヤーは本作をやればニューカレドニアやその他の世界の開発されていない(そして今開発されようとしている)地域について考えてみようと思うはずだ。
そしてもちろん,堂々とクィア! 「Tchia」はビデオゲームだけでなく,他のメディアのなかでもなかなか描かれることのない高齢女性どうしのロマンス関係をフィーチャーしていて,ここは間違いなく本作の最もキュートな部分である。他にも,海上での移動に使うイカダにさまざまなプライドフラッグを掲げられるなど,全編にわたって親クィアな雰囲気が漂っている。
さて,大自然のオープンワールド,空中でのグライダー移動などの要素を見て気づくかもしれないが,本作は明らかに「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の影響下にある作品である。ここで考えたいのは,多くのクィアなゲームファンが,任天堂のスタンスに保守的なものを感じてきた,ということだ。
任天堂は会社としては2021年から社内パートナーシップの導入や差別発言・アウティングの禁止を掲げており,その点は先進的だが,他社と比較すると相対的に,マイノリティのサポートを対外的にアピールした事例が少ない(例えばソニーおよびソニー・インタラクティブエンタテインメントは,東京レインボープライド2023にシルバースポンサーとして参加している)。
また,クィア表象の扱いに関して,これまで何度か問題視されることがあった。2014年には「トモダチコレクション 新生活」で同性婚がしたいと要望を出したアメリカの男性に,要望に応じないかのような回答をしたためにSNSなどで騒動となり,その後謝罪コメントを発表した。2019年に「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」で,あるユーザーが作ったカスタムステージについて,そこに掲げられたトランス・プライド・フラッグを不適切だとみなして削除したという事例などは,特に象徴的だろう。
いずれも数年前の話なので,現在では姿勢に変化があると信じているが,このような過去の事例の蓄積を参照すると,今もクィアをめぐる姿勢に対して心細さを覚えているゲームファンがいることも想像できるだろう。
よって,任天堂フォロワーである本作がクィアの権利や気候正義の精神をハッキリと叫ぶことの頼もしさは,クィアゲームシーンの動向として注目に値する。任天堂関連作品の影響を受けて作られた親マイノリティな雰囲気のゲームは多数あるが,本作はそのなかでも特にハッキリと親クィア・反開発を掲げていると感じるタイトルである。
ちなみに,クィアなブレス オブ ザ ワイルドフォロワーには「Lil Gator Game」というものもある。このゲームのプレイヤーキャラの小さなワニはノンバイナリーで,他の登場キャラも代名詞they/themを使うものが複数いる。ゼルダシリーズのパロディも多く,これは英語圏のクィアコミュニティではリンクがノンバイナリーとして解釈されることがあるのを考えるとかなり面白い。こちらも楽しいゲームでオススメだ(残念ながら日本語ローカライズはされていない)。
Mediterranea Inferno メディテラネア・インフェルノ
価格 | 1700円(税込) |
ジャンル | ビジュアルノベル |
メーカー | Santa Ragione(発売) Eyeguys, Lorenzo Redaelli(開発) |
公式サイト | https://store.steampowered.com/app/2103680/Mediterranea_Inferno/https://store.epicgames.com/en-US/p/tchia |
Z世代であることは最悪だ。上の世代たちにAからYまでをやり尽くされた後に,最後に残った小さなZを差し出されて「さぁどうぞ! 後は君の自由に生きるのだ!」と社会に放り出され,その先に待っているのは気候変動(ひどく暑かった2023年の9月と10月を思い出そう)と,社会運動への冷笑的な空気と,本当に,本当にくそったれな労働規範だけ。我々は食い尽くされた地球を死にながら生きる,まさにゾンビ(Z)のような世代である。「Mediterranea Inferno」(メディテラネラ・インフェルノ)はそういったことを,あらゆる比喩を使って叫んでいる。
本作の舞台は2022年。我々の世界と同じようにパンデミックが起こった後のイタリアだ。パンデミック下で行われた厳しいロックダウン政策の後,三人のゲイな仲良し青年グループが久しぶりに再会するのである。
しかしその集まりは楽しいものにはならない。彼らはそれぞれまったく別の悩みを抱えている。ひとりは有能な祖父を持つZ世代であることに起因するアイデンティティの揺らぎについて。ひとりは仲間との繋がりと孤独について。ひとりはインフルエンサーであることと友人からの評価について。本作のストーリーでは,ロックダウン期間のなかで熟成されたそれぞれのトラウマと欲望が絡み合い,溶けあい,爆発するのである。プレイヤーの選択によって彼らの関係が捻じれていくさまは必見だ。
注目は鮮烈なビジュアルだろう。まぶしい色彩,各キャラクターのトラウマと欲望を象徴するモチーフの繰り返し,いたるところに散らされたセックスやオーガニズムのメタファー……。この開発者は前作「Milky Way Prince - The Vampire Star」で,幾原邦彦氏のアニメ作品からの影響を隠すことなく見せているが,今作ではそのセンスをさらに洗練・独自化させている。特にストーリーのなかで何度か挿入される幻覚的な「ミラージュ」シークエンスは超サイケで,連発される美しく妖しいカットに,プレイヤーはスクリーンショットのボタンを押す手が止まらなくなってしまうだろう。開発者みずから手掛けたサウンドトラックもすばらしく,物語の奇妙なムードをさらに高めている。この,尖った個人の尖ったセンスの下で各要素が完全にコントロールされ,がっちりと噛み合う感覚は小規模開発のゲームならではのものである。
本作はビジュアルノベルのジャンルの極北といえる存在であり,2023年の隠れた宝石である。殺人,セックス,トラウマを含む,エンパワーメント色のまったくない作風はすべての人間にオススメできるものではないが,プレイすればそれは忘れられない体験となるはずだ。
総括
この記事を読んでいる読者,とくにクィアな読者にひとつ,伝えたいことがある。それは,今のゲームシーンはめちゃくちゃクィアで,面白いゲームはだいたいクィアな開発者によって作られているということだ。日本語圏のインターネット空間でクィアなゲーマーであるということは「難易度:ベリーハード」のようなものだ。世界のゲーム業界は明らかに親マイノリティの方向に舵を切っているにも関わらず,日本のシーンは奇妙に感じるくらいに鈍重である。単に消極的というならまだマシで,一部の有名ゲーム関係者は大っぴらにミソジニーや反クィア・反社会運動を叫んでいる。それならと思って海外のゲームに目を向けようとすると,ゲームの親クィアなメッセージがローカライズや宣伝の過程で漂白されていたりする。
だから,今回のような企画にはかなりの意義がある。「クィアなゲーム,いっぱいあるぜ!」,「クィアな開発者,ゲーム作ってるぜ!」,「クィアなゲームのこと書くライター,いるぜ!」,クィアゲーマーのコミュニティに今必要なのはそういう情報だからだ。
さて,今回は3つのタイトルを選んで紹介したが,これらは氷山の一角にすぎない。2023年に出た面白い・ユニークなクィアな作品はまだまだある。アセクシャルのノンバイナリーが主人公の「In Stars and Time」,かわいい異種族間同性カップルが出てくる「スター・ウォーズ ジェダイ:サバイバー」,南アジア系のバイセクシャル女性が元恋人たちと対峙する「Thirsty Suitors」……。直接にクィアでなくとも開発者がクィアだったり,親クィアな態度をハッキリさせているものだって多い。本当に,世の中には面白いクィアなゲームにあふれていて,開発者やゲームスタジオの多くも,みんなクィアな人々をサポートしたいと思っているのだ。日本でゲーマーをやっていると実感しにくいかもしれないが,あなたは一人ではないのである。
2024年も,おそらく日本のクィアにとっては厳しい年になると思う。それでも,ゲームがあなたに寄り添ってくれるのは間違いない。自分も,そういったゲームをプレイし,紹介することで自分なりに戦っていけたらいいなと思っている。
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- 編集部:町田
- ライター:ラブムー
- ライター:近藤銀河
- ライター:まきちゃん
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