レビュー
2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本
どこから話せばいいんだろう?
〈クィア〉というテーマを扱うとき,いつも迷うことだ。世の中の大多数の人は,この言葉を知らなくても特に苦労なく自分を説明できてしまう。だが,一部の人にとっては,クィアは自分のあり方を説明するときのきわめて重要な語彙となる。自分を「クィアである」としか言えない,という人も少なくない。マイノリティにとっては,それくらい大切な言葉なのだ。だが,まだその知名度は高くない。
従来のレインボーフラッグにトランスジェンダーカラーと人種を表すカラーを加えた,プログレス・プライド・フラッグ。クィアのシンボルだ |
語源から話してみようか? クィアは英語で書くと〈Queer〉,意味は「奇妙な」,あるいは「変態」。最初はマジョリティからマイノリティに対する侮蔑語だった。「男性」と「女性」による「異性愛」に参加しない/できないお前はクィア,生まれたときに割り当てられた性別のまま生きていけないお前はクィア……。レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランス,あるいはそれらの言葉にも当てはまらないあり方で生きている人たちは,クィアという単語を使って激しく差別されてきた。だからそれを逆手に取ったのだ。そうだよ,自分たちが誇り高いクィアだ!
その攻撃的な応答は,クィアという言葉を奪い返す/ハックする戦略だったのだ。今ではシスジェンダー(※1)かつヘテロセクシュアル(※2)という社会のマジョリティとは異なる,非規範的な性を指向する多くの人を指して,クィアという言葉は使われている(※3)。
あるいは,クィアは性に関して非規範的な状態を指す。一見異性愛として読解されるものを非異性愛のコードで読み解く行為は「クィア・リーディング」と呼ばれるし,さまざまな場所に存在する(主に性に関する)規範を脱中心化する営みは,「クィアする」という動詞で表現される。
クィアフラッグの例(1)。あなたはいくつ知っている? |
これを読んでいるあなたが,クィアであるかどうか,私は聞くつもりもないし,確かめようもない。ただ少なくとも,4Gamerというメディアは,クィアに向けて作られたメディアではない。確実なのは,ここはゲームに関心を持つ人が読むサイトで,あなたも少なからずゲームに興味を持っているようだ,ということくらいだ。
そんな場所で,なぜクィアの話をするのか? ゲームとクィアに,いったいどんな関係があるというのか?
関係ならある,とまずは言い切りたい。理由なら山ほどあるから,順番に説明してみよう。
まず根本的に,クィアと関係のないカルチャーのほうが少ない。どんな場所にもクィアは確かにいた/いるのだ。だが,一部の特例を除いて,たいていの場合不可視化されている。あなたの周りにクィアがいないというのなら,それは容易に名乗り出られないだけだ。カミングアウトには比喩でなく命がかかっている(「本当に?」と思った人は,「一橋大学アウティング事件」で検索してほしい)。
この苦しい状況を変えるためには,まず雰囲気を変えなくてはいけない。クィアの不在が当たり前になっている空気を,クィアがいて当たり前の空気に入れ替えるのだ。いつもすれ違うあの人が,もしかしたらクィアかもしれない。すべての人がその想定に基づいて言動を選べば,無数のクィアたちが傷つかずに済む。だからこそ,クィアはすでにあなたの周囲にいるのだと宣言しなければならない。
同時に,これまでコミュニティの中に居場所がないと感じて肩身の狭い思いをしていたクィアに,「ここにもあなたの居場所がある」と伝える必要がある。本当は誰一人,社会から存在を無視されていい人なんていないのだから。ゆえに,「クィア向け」と銘打たれていないメディアでこそ,クィアのライターがクィアなカルチャーの話をするべきなのだ。
次に,ゲームは数多くのクィアな作品を生み出してきた,豊かな土壌だからだ。今回紹介する作品群がそうであるように,ゲームは規範から外れた人間の生を語ること、そのような生を隣人に追体験させることに,極めて適したフォーマットである。たとえば,さまざまな事情――トランジション(性別移行)など――によって一直線の時間軸ではない形で編まれた生があれば,ゲームはその時間的な往還をありのままに表現できる。クィアなキャラクターの目を通して,どのように他者が輝いて見えるのか,どのような壁が立ちはだかってくるのかを,ゲームは想像させてくれる。それらの作品は,ある人には「自分は一人ではない」という勇気を与え、ある人には他者を知るための契機を提供するだろう。
また,今回紹介する作品の中には,世間ではクィアである(=非規範的な性のあり方を扱っている)と認識されていないゲームもある。クィアの認識論は,そのような作品に新しい評価を与え,新たなプレイヤーを作品へといざなう。クィアな読みは,プレイヤーコミュニティにも新しい風を吹かせてくれるのだ。要するに,あなたが誰であれ,クィアゲームはあなたの視界をより広げ,世界を豊かにするかもしれないのである。
クィアフラッグの例(2)。覚えておくとゲームの中でも「お!」と思う瞬間があるかもしれない |
以上のことから,私は4Gamerで,「2023,個人的クィアゲーム大賞」を企画した。今回お声がけしたのは3名のクィアゲーム有識者だ。
クィアなエンタメを愛するライターのまきちゃんさんは,個人的にクィアゲームリストを作成するなど,インディーゲームを中心にクィアゲームに強い情熱を傾けている書き手である。
美術史研究者の近藤銀河さんは,Wezzyにて連載「フェミニスト,ゲームやってる」を執筆するなど,コアなフェミニスト・クィア・ゲーマーとして積極的に発信を続けている。
そしてゲーム翻訳者のラブムーさんは,自身もクィアなゲームの翻訳を多数手がけるほか,クィアゲームのレビューも執筆しているハイブリッドなライターである。
この3人に「2023年にプレイした中で,心に残ったクィアゲーム」を3本選んでいただき,紹介してもらう。選出タイトルは,基本的に発売時期ではなく「各人が2023年にプレイしたゲーム」からセレクトしてもらったが,いずれも近年の作品が並ぶこととなった。
「個人的クィアゲーム大賞」とは言っているが,決して「1番」を決めようという腹積もりではない。ただこれを読んでいるあなたに,心を落ち着かせられる居場所としてのゲームが,あるいはあなたやあなたの隣人を描いた作品が,こんなにあるよ,ということを示したいのだ。さらに年末は,帰りたくない実家に帰らねばならないクィアも少なくないことだろう。今、ここにいたくない。そう思ったなら,クィアゲームの世界へ逃避してほしい。それがあなたの心を守るための選択肢になればいいと思う。
さて,長い前置きになった。それではさっそく,実は身近に広がっているクィアゲームの世界へ旅立とう。
脚注
※1 生まれたときに割り当てられた性別で人生を過ごすことに困難を感じない人。
※2 「男性」ジェンダーの人物と「女性」ジェンダーの人物によって営まれる「異性愛」を指向する人。
※3 クィアはいわゆるLGBTQ+全体を指す言葉だが,カテゴライズできない形で自分は性的マイノリティだ,と感じている人が自分を指して使う言葉でもある。また,人のあり方のほかにも,非規範的な事象のあり方について「クィアだ」と称する場合もある。
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- 編集部:町田
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