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[GDC 2024]「MapleStory N」がNFT要素を活用して目指す,MMORPGへのリアルな経済原理の導入
登壇したのは,子供のころからメイプルストーリーの熱狂的なファンだったというKeith Kim氏だ。現在,MapleStory Nの開発者となったKim氏は,本講演にてメイプルストーリーというIPの未来についての考えを披露した。
MapleStory Nは,ブロックチェーン技術でさまざまなゲーム,アプリ,キャラクターが連携するバーチャルワールドのプラットフォーム「MapleStory Universe」に提供される最初のタイトルだ。
Kim氏によると,従来のMMORPGでは,アイテムが無尽蔵に生み出される構造を避けられなかったという。これは1人用ゲームには適していたが,MMORPGは複数のプレイヤーがリソースを争うため,無限のアイテム生産は必然的にインフレを引き起こし,プレイヤーの努力と報酬の間に大きな矛盾が生まれてしまう。
一方で現実世界を見ると,あらゆる資源には希少性とそれに見合った価値が存在する。Kim氏は,ゲーム内のアイテムを有限とすることで,よりリアルでサステナブルな経済モデルを実現できると考えた。
2つの革新的改革
そこでMapleStory Nでは,以下の2つの大きな改革が行われた。
・各アイテムの最大発行量設定
キャラクター数,レベル分布,需要予測などを勘案して,アイテム別に最大発行量を事前に設定した。これによりゲーム内に本物の希少資源が存在するかのように設計される。また,ブロックチェーン技術で発行量の透明性も保たれる。
・需要主導のプライシングシステムを導入
アイテムの強化コストが,需給関係によってリアルタイムで変動するシステムが導入された。需要増によるコストアップ,需要減でコストダウンするように調整される。
最大発行量の設定プロセスは複雑で,試行錯誤を重ねたという。例えばピーク時の想定プレイヤー数が400人だったら,各キャラクターに必要なアイテム総量は400個とする。さらにそのアイテムがレベル10〜20用かレベル50〜150用かで,それぞれ異なる配分率を設けた。需要予測も加味し,最終的な発行数値を決定したそうだ。
一方の需要に主導されるプライシング(値付け)では,0コストから始まり,一定期間のデータ収集フェーズを経て変動価格が決定する。前日の平均需要を基準に,それを超えればコストアップ,下回ればコストダウンするアルゴリズムが用意されたという。実際の価格変動は公開され,プレイヤーはリアルタイムで確認可能だ。
改革の効果と課題
これらの新システムによって,MapleStory Nは経済的な深みとリアリティを獲得したという。プレイヤーの行動にも新たな戦略性が生まれている。
例えば,人気アイテムの強化コストが需要過多で高騰しても,コストの低い別のアイテムを選択するなど,柔軟な対応が可能になった。リアルタイムの価格変動を読みながら,成り行きで行動を変えられるからだ。テストに参加したプレイヤーからは「まるでリアルなオークションのよう」と評価されたという。
一方で,序盤はプレイヤーの学習コストが高かったという。従来のゲームとはシステムがまったく異なるため,ローカルアイテムやチェーンドアイテムなどを用意し,徐々にメインの有限システムに慣れさせていく工夫が必要だったとKim氏は感じたそうだ。
長期的にはこうしたシステムによって,市場価格の安定化とゲームの持続可能性が高まることを期待されていたが,そのためには実際の運用と長期検証が重要になってくるのだろう。
MMORPGに現実世界と同じような経済原理を導入することは,ゲームにリアリティと戦略性をもたらす可能性が示された。この試みは,さらに大きなバーチャルワールドプロジェクト「MapleStory Universe」においても,将来的な応用が期待できそうだ。
「MapleStory Universeには多様な要素が含まれ,MapleStory Nはそのコンテンツの1つに過ぎない」とKim氏は語っていたが,MapleStory Nで生まれた経済原理は,MapleStory Universeにおける経済モデルの基盤となり得る,重要な一歩なのかもしれない。
さまざまな経済発展を経た現実世界を,メタバースでどう再現するか。その挑戦の端緒ともなりうるのがMapleStory Nの試みと言えそうだ。
「リアル」と「バーチャル」の垣根が曖昧になるなか,バーチャル世界への経済原理の導入は,現実世界とゲーム世界をつなぐ重要な鍵となるだろう。まだまだ全貌が見えないMapleStory NとMapleStory Universeだが,どのような形でリリースされるのか,興味は尽きない。
「GDC 2024」公式サイト
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