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[GDC 2024]「Venba」がたどり着いた,いい感じの妥協。開発者が語る制作秘話
そんな注目のインディーゲームであるVenbaのポストモーテム(事後検証)講演が,Game Developers Conference 2024で開催された。登壇者は本作の開発元であるVisai GamesのAbhi氏だ。
Venbaは,1980年代後半にカナダへ移住したインド人の母親視点で描かれる,物語性の強いクッキングゲームで,Abhi氏がデザインとライターを務めた。
本作は,Abhi氏自身のインド系カナダ人としての経験が反映されており,Abhi氏の母親の姿が作品構想のきっかけになったという。
Abhi氏の母親は家事に勤しむ一方で,自分の存在を主張する機会が少なかったそうだ。Abhi氏は,そんな母親の人生そのものに物語性を感じ,料理を通じて家族への愛情を示す彼女に,ゲーム化する価値を見出したのだという。
ゲームの企画が固まり,2020年初頭からAbhi氏は低予算ながらもパブリッシャに提案を重ねた。だが,ビジュアルノベルに料理要素を融合するという,前例があまりないタイトルの商業的な不確実性を指摘され,資金調達は難航する。「特殊すぎてリスクが高い」と一蹴される状況が半年近く続いたそうだ。
しかし2020年10月,救いの手が差し伸べられる。Wholesome Gamesのコンテストで選ばれ,Venbaのプロモーション映像を製作する機会を得たのだ。プレイ映像はほとんどなかったものの,Abhi氏は弟の作曲した楽曲を乗せ,ミュージックビデオのような雰囲気のトレイラーを完成させた。
結果,トレイラー公開は大成功となり,予想を遥かに超える反響があったそうだ。さまざまなメディアで注目作として紹介され,認知度が一気に高まった。そして最大の転機となったのが,任天堂,Sony Interactive Entertainment,そしてMicrosoftというプラットフォームホルダー3社からVenbaの支援を打診されたことだという。当初はパブリッシャ頼みだった資金調達が一気に解決した。
しかし,資金面での不安は払拭したが,開発は簡単ではなかったという。Abhi氏は南インドの家庭料理レシピを忠実に再現しようと完璧主義に囚われ,ユーザービリティを損なう設計になっていたそうだ。
例えば,本来の調理手順をすべてゲーム内で再現しようとすると,プレイヤーは情報過多に見舞われる。さらに,作中の限られたレシピで南インド料理の多様性を描き切ろうとすると,物語が散漫になってしまうなど,開発は行き詰まった。
ちなみに,南インドを代表する料理であるビリヤニの調理工程は,スパイスを自分でつぶし,肉に下味をつけて漬け込むなど、多くの手順が存在する。Abhi氏はこの全工程をゲーム内で体験させようとしていたそうだ。
そんな状況を打破したのは,アメリカのシットコム「Community」(邦題:コミ・カレ!!)の一場面を見たことだったという。Communityの主人公が完璧至上主義にとらわれ,CMの製作プロジェクトが暴走してしまう描写に影響を受けたAbhi氏は,「十分によい(Good Enough)」ことに価値を見いだす。
そしてAbhi氏は,細かい調理工程を省略し,ゲームとしての本質的な楽しさに焦点を当てる方針に転換した。また,南インド料理の多様性を網羅しようとするのではなく,ある一家族の物語と,その家庭料理に的を絞ったという。
そうした思い切った“妥協"を経て,Venbaはようやくリリースを迎えた。良好なレビューと売上げに加え,多くのプレイヤーから“母”という存在の重要性を改めて実感させられたという感動の声が寄せられたという。中には,本作をプレイしたことがきっかけとなって,母親の元を実際に訪れた人もいたそうだ。
講演の最後にAbhi氏は「ゲームデザインは本当に難しい。しかしその問題の多くは,我々クリエイター自身が作り出してしまうものなのかもしれない」と振り返った。完璧を求める姿勢が,時に窮屈となり,ゲームの本質を見失う元凶となるのかもしれない。
真に重要なのは,Venbaのように“Good Enough”な落とし込みを行い,プレイヤーに新しい体験と気づきを与えられるかどうかなのだろう。
「Venba」公式サイト
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著作権 2023、Visai Games Inc
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