企画記事
これ,何だか分かります? 「Unpacking」に登場する“ある人には身近,しかし別の人には謎の物”になりそうなアイテムたち
本作に登場する部屋や荷物(アイテム)はすべてドット絵で丁寧に描かれており,そこが魅力の1つにもなっている。
アイテムのほとんどは鍋や歯ブラシといった,多くの人にとって身近なものだが,中には一部の人しか知らない/分からないようなものも。ゲーム中にそれが何であるかのはっきりした説明もないため,SNSなどで「これは何だろう?」といった投稿をする人もいるようだ。
本作を開発したWitch Beamも,その状況を楽しんでいるようで,「勘違いされたアイテム」を紹介する動画を公開している(外部リンク)。
この中でも特にインパクト大なのが「ゲームキューブ(らしきもの)をトースターだと思ってキッチンに置こうとする」プレイだろう。
筆者も含めて「そんな人いる!?」と感じる人は多いかもしれないが,ゲームキューブが発売されたのは2001年なので,もう20年以上の時間が経過している。実際にゲームキューブで遊んだことがない人も増えているはずで,そんな人からすれば,意外とトースターに見えてしまうのかもしれない。
ゲーム内でアイテムの“正解”が提示されないのは,それが何なのかを推測したり,分かるものと分からないもののギャップに驚いたりするのも本作の面白さだと,開発者が捉えているからではないだろうか。
ということで,本稿ではゲーム中に登場するアイテムのうち,筆者の頭を悩ませたものを紹介していきたい。物知りな方は「それも知らないのか!」と思うかもしれないが,そういう人もいるということで,温かい目で見守ってもらえれば嬉しい。
なお,ゲームを進めるために必要な「そのアイテムを置ける場所」は記述しないが,若干のネタバレ要素はあるので,その点を了承のうえ読み進めてほしい。
「Unpacking」は,荷物を片付けるだけなのに楽しいゲーム
本作を知らない人のために,ゲームの概要を改めて紹介しておこう。公式の説明によれば,「箱から持ち物を出して新しい家に置いていくという,ありふれた体験が題材の,禅の要素を含むゲーム」なのだという。
遊び方は非常にシンプルで,先ほどの説明どおり「部屋に置かれたダンボールからアイテムを取り出して,適した場所に置く(片付ける)」という内容。
言ってみれば「部屋とダンボールと私」……いや,本作には「私」どころか人物(主人公やその同居人)の姿も描かれない。プレイヤーは(おそらく引っ越し当日の)部屋で粛々と荷物を片付けていくだけだ。
アイテムの置き場所はピンポイントで決められているわけではなく,比較的自由に置ける)。とは言え,キッチンの戸棚に靴をしまったり,トイレに鍋を置いたりするようなことはできない(設定によってこのルールをなくし,自由に置くことも可能)。
本はデスクに置いても本棚に並べてもいいし,ぬいぐるみはチェストにしまってもベッドに置いても構わない……と言えば自由さの度合いが伝わるだろうか。現実の生活空間でも「これ,どこに置こうかな?」と迷うことがあるが,そういったリアルな感覚を味わえる。
1997年の小さな部屋からスタート
持ち物などから主人公が子供であることがうかがえる。鍵付きの日記帳を枕の下に置いてみた
すべてのアイテムをダンボールから出すと,正しい位置に置かれていないアイテムには赤い枠がつく。どこに置けばいいか再考し,すべてのアイテムをしかるべき場所に片付けられれば,次に進む。引っ越しはエンディングまでに何回かあり,“見えざる主人公”も成長していくため,部屋が大きくなったり,持ち物が増えたりして,難度が上がっていく。プレイヤーは引っ越しを通して主人公の人となりを知り,その人生――「物語」を感じるのだ。
誰かと同居している家では,相手の持ち物(すでに置かれている物)を動かせる場合もある
なんだかよく分からなかった/頭を悩ませたアイテム5選
「ツイスターゲームで使うルーレットかな?」と思っていたら,担当編集者に突っ込まれ,「サイモン」というゲーム機だと知ることに。
サイモンは,まず4色のボタンが光る順番を覚え,次にその順番通りにボタンを押していく……ということを繰り返していく,記憶力ゲーム。ラルフ・ベア氏(関連記事)が開発し,1978年に発売された。ゲームシステム的には「スペースチャンネル5」の“ご先祖様”と言えなくもないようだ。
そんなゲームの歴史に残る存在を知らなかったとは……。「ゲームキューブを知らないなんて信じられませんわね!」なんて,どの口で……と言われてしまっても仕方がない。
これがゲームに登場するのは,最初の部屋である1997年(主人公はまだ子供と思われる)だが,この年代にサイモンを持っている子供はけっこう珍しいのではないだろうか。もしかしたら,主人公の親が遊んでいたものを譲り受けたのかもしれない。
2010年の部屋と荷物を見ると,主人公が同棲することになったと推測できる。このアイテムはダンボールを開ける前からキッチンにあるため,同居人の持ち物のようだ。
一瞬,何に使う道具か分からなかったのだが,調理用具に絞って調べたところ「調理用温度計」であると判明。
最近はデジタルが主流なので,この形のものを見たことがない人も多いはず。筆者が料理をしないから分からなかったわけではない……と言い訳させていただく(とはいえ,温度計を使うような料理はほとんどしない)。
余談だが,2010年の部屋からは,同居人の人物像や主人公の関係性までうっすら見えてくるのが面白い。筆者は調理用温度計や,同じように元からあった「ワイン栓」を並べた瞬間,プロファイリングに成功した。
筆者の読みだと,「やたらと夜景が綺麗なマンションを選び,インテリアはモノトーン&シック。映画や音楽などのサブカルも一通りたしなみつつ,体も鍛えていそう(リビングにかなり重そうなダンベルがある)なことから,自分に自信がある意識高い系の男性。たぶんそこそこモテる。だが下着のしまい方に若干のだらしなさが垣間見えるので,表だけ取り繕うタイプでもある」という感じだ。
さらに,下着は適当にしまうくせにキッチンはきれい過ぎるので,自分で料理をしない可能性も考えられる。よって,この調理用温度計は以前付き合っていた人が置いていったものという予想も立てられる。本作をプレイした人なら同意してもらえると思うが,主人公との相性はあまり良くなさそうだな……と,おせっかいながら感じてしまった。
主人公が実家に帰ったとおぼしき2012年の部屋には,いきなりミシンが登場する。次の引っ越しには持ち出していないことから,これは主人公が家を出た後にこの部屋を使っていた家族(姉か妹?)のものだと推測した。
そのため,ベッドのそばに掛けられていたこの5色の布については「家族が裁縫に使う材料かな?」ぐらいにしか思っていなかったのだが,それにしては妙に分厚くて細長いことが気になり始め,「柔道の帯」ではないかとひらめいた。柔道の有段者は黒帯だが,初心者や「級」持ちの人は,明るい色の帯を締めるのだ。
地域によって若干の違いはあるようだが,本作を開発したWitch Beamがあるオーストラリアの色分けだと,6級は白,5級は黄色,4級はオレンジ,3級は緑,2級は青と,部屋にある5色とぴったり一致する。短期間にここまで進級するのは難しいはずなので,やはり主人公が家を出たあとに使っていた誰かのものではないだろうか。もしかしたら,姪や甥といった可能性もあるかもしれない。
主人公が再び一人暮らしを始めたと見られる2013年,手の形をした壁に掛けられるアイテムが登場する。これ,どこかで見たような……と記憶を探ってみて,以前海外旅行好きの筆者の友人からイスラエル土産として見せてもらった,「ハムサ」だと思い出した。ユダヤ教やイスラム教のお守りのようなものだという。
この流れでもうひとつ,正体が分かったものがある。それは,テーブルに飾られる変わった形の燭台だ。こちらは「メノラー」と呼ばれるもので,ユダヤ教の儀式などで使われる。
アイテムの解像度が高まると,人物像や物語に深みが生まれるなあ……などと思っていたら,さらに判明したものがある。それが,1997年に登場していた,コマのようなものだ。
「サイモン」と同様,軽く「まあ,なにか遊びに使うおもちゃだろう」とスルーしていたこのアイテムは,ユダヤ教のお祭りなどで子どもたちに与えられる「ドレイドル」という遊び道具らしい。分からなかったアイテムが年代を超えて判明し,またスッキリ体験ができた。
メノラー |
ドレイドル |
2015年に片付ける荷物は主人公のものではなく,「主人公の部屋で新たに同居することになった相手(おそらく女性)」のものだ。この中にあった「いくつかの棒を束ねたもの」には,かなり悩まされた。
最初は箸かと思ったのだが,キッチンには置けない。それなら「お香」かもしれないと仮説を立ててみた。2013年から登場する謎のクジラの置物がお香立てっぽいと思っていたこともあり,一緒に置こうとしたが,どうも置ける場所が合わない。悩みつつ再プレイしたところ,この棒が「赤い板状のアイテム」と続けて箱から出てくることに気づいた。
筆者はこの板っぽいアイテムを温度計だと思いこんでいたのだが,それにしては壁にかけられないことが引っかかっていた。
そして,よく見ると溝が掘ってあるようにも見えるし,こうした形状のお香立てを見たことがある……! これが正解だと言い切れるほどの確信はないが,悩みに悩んだ末にたどり着いた答えだけに,自分がそう思うんならそうなんだ,と思うことに。
ちなみに,この年に同居することになった人物についてもプロファイリングしてみた。この人物は,服や化粧道具からおしゃれな女性と予想。さらに言うと「お香をたしなみ,かなりの映画好きか映画関連の仕事についている。炊飯器っぽい荷物や醤油の大瓶などから,アジア系である可能性もある」と見た。また,持ち物や趣味の傾向からして,主人公とは非常に気が合うのではないかな,と感じた(またしてもおせっかい)。
番外編:逆に「凄くよく分かる!」となったもの
本作に登場するゲームや本,DVD/BDパッケージなどのアイテムは,現実にあるタイトルを想起させるものがたくさんある。筆者が最初にそれに気づいたのが2004年に登場する「ドニー・ダーコ」と「ゴースト・ワールド」らしきDVDだった。ずいぶん渋いところをついてくるな……と思ったのだが,その後も「アバター」「ブロークバック・マウンテン」「シン・ゴジラ」,ヒッチコック作品やスウェーデン版「ドラゴン・タトゥーの女」っぽいパッケージなど,登場人物の嗜好を想像する楽しいヒントになった。
自分の常識が他人の常識とは限らない
今回の記事を書くにあたり,担当編集者と何度か「あれ,何に使うか分かりました?」「あれは●●では?」といったやり取りを行った。そのやり取りの中で「推測が難しい」と感じたアイテムにはやはり違いが出て,「自分が知っているものを他人も知っているとは限らないし,その逆もしかり」ということをあらためて感じた。
本作は1人で黙々と遊ぶスタイルのゲームだが,同じアイテムを他人がどう捉えたかを話したり,お互いに推測し合う過程も面白かった。片付けが終わった部屋は人によって違いが出るはずだし,それを見せ合ったりするのもかなり楽しそうだ。
登場人物の人柄や主人公を取り巻く物語を想像することに「Unpacking」の楽しさがあるのは間違いないが,プレイヤーの個性が見えてくるのも非常に興味深いと思う。制作者は本作の3つの柱として,「観想(Contemplation)」,「発見(Discover)」,「表現(Expression)」を挙げている 。何層もの楽しみ方ができる「Unpacking」のプレイは,シンプルに見えてかなり奥深い体験だった。
「Unpacking アンパッキング」公式サイト
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