レビュー
新ミドルハイGPUのRX 7900 XTやGeForce 4070 SUPERとの性能差は?
PowerColor Hellhound AMD Radeon RX 7900 GRE 16GB GDDR6
今回,TulがPowerColorブランドで展開するRX 7900 GRE搭載モデル「Hellhound AMD Radeon RX 7900 GRE 16GB GDDR6」(以下,PowerColor 7900 GRE OC)を試用する機会を得たので,その実力を確かめてみよう。
SPの総数は7900 XT比で約95%の5120基
Radeon RX 7900シリーズの下位モデルとなるRX 7900 GREは,GPUコアに「Navi 31 XL」というコアを採用したGPUだ。RX 7900 XTの「Navi 31 XT」と同様に,AMDは,Navi 31 XLをGPUダイ「Graphics Compute Die」(以下,GCD)と,それとは異なるプロセスで製造したキャッシュダイ「Memory Cache Die」(以下,MCD)を組み合わせた「チップレットアーキテクチャ」で採用しており,フル構成ではGCDを1基と6基のMCDになっている。
AMDは,Radeon RX 7900シリーズについて,必要に応じた数のMCDをGPUダイと組み合わせることで,製品バリエーションを増やしていくとしていた。実際,RX 7900 XTのNavi 31 XTコアでは,MCD 6基中,5基が動作していたが,このNavi 31 XLは,動作するMCDが4基に減っている。指針に沿ってGPUラインナップの拡充を図っているわけだ。
なお,GCDはTSMCの5nmプロセスで,MCDは同じTSMCの6nmプロセスでそれぞれ製造される点は,Navi 31 XTなどと変わらない。またMCDが減ったたため,Navi 31 XLのトランジスタ数は約539億個と,Navi 31 XTの約577億個と比べて約93%の規模となっている。
さて,RDAN 3アーキテクチャでは,AMDが「Stream Processor」(以下,SP)と呼ぶシェーダプロセッサ16基をひとまとめにした実行ユニットとして,その実行ユニット4基とレジスタファイル,スケジューラやテクスチャユニットをまとめて「Compute Unit」(以下,CU)を構成している。そのCUを2つまとめて「Dual Compute Unit」とするわけだが,Navi 31 XLでは,80基のCU(※Dual Compute Unitでは40基)を備えている。それゆえ,Navi 31 XLことRX 7900 GREにおけるSPの総数は,16×4×80で5120基になるわけだ。RX 7900 XTは,84基のCUでSP総数が5376基だったので,RX 7900 GREは95%ほどの回路規模と言っていい。
RX 7900 GREでも,第2世代のレイトレーシングユニットをCU 1基につき1基組み合わている。総数はCU数と同じ80基だ。また,AI処理向けアクセラレータの「AI Accelerator」は,CU 1基あたり2基を組み合わせているので,RX 7900 GREは160基有している。もちろん,AMDの「FidelityFX Super Resolution 3」(以下,FSR 3)をサポートし,「AMD Fluid Motion Frames」によるフレーム生成も利用可能だ。
MCDには,64bit幅のGDDR6メモリコントローラも組み込まれているので,RX 7900 XTのメモリインタフェースが320bitであったのに対して,MCDが減ったRX 7900 GREでは,m256bitとなっている。RX 7900 GREのメモリクロックは,18GHz相当であり,RX 7900 XTだけでなく,下位の「Radeon RX 7800 XT」(以下,RX 7800 XT)の19.5GHz相当よりも遅い。
それゆえ,RX 7900 GREのメモリバス帯域幅は,576GB/sとなり,これはRX 7900 XTの72%ほど,RX 7800 XTの92%程度の規模だ。
RX 7900 GREでも,大容量キャッシュメモリである第2世代「Infinity Cache」は当然健在だ。ひとつのMCDにつき,容量16MBが用意されているので,RX 7900 GREのInfinity Cacheは総容量64MBとなる。Infinity Cacheを加味したRX 7900 GREのメモリバス帯域幅は2256.6GB/sとなり,RX 7900 XTの2912GB/sに及ばないのは当然として,RX 7800 XTの2708.4GB/sにも約20%の差を付けられているなど,メモリ周りにはアンバランスさを感じてしまう。
ただ,興味深いのはRX 7900 GREのTotal Board Powerは260Wと,RX 7900 XTの315Wから55Wも減少している点だ。しかも,RX 7800 XTの263Wをも下回っており,消費電力あたり性能の向上が期待できる。なお,AMDによると,RX 7900 GREを動作させるためには,定格出力700W以上の電源ユニットの使用を推奨するそうだ。
RX 7900 GREの主な仕様を,RX 7900 XTとRX 7800 XT,それに競合製品となる「GeForce RTX 4070」(以下,RTX 4070)および「GeForce RTX 4070 SUPER」(以下,RTX 4070 SUPER)と合わせてまとめたものが表1となる。
サイズの異なる3基のファンを搭載し,2つのVBIOSを有したDual BIOS仕様
それでは,PowerColor 7900 GRE OCについて見ていこう。
このカードは,ゲームクロックが2013MHzで,ブースト最大クロックが2366MHzと,前者は133MHz,後者は121MHz,それぞれ引き上げられたクロックアップモデルだ。メモリクロックは18GHz相当で,リファレンスと変わらない。
ちなみに,今回試用した個体では,OCとSILENTで動作クロック設定そのものに違いはなかった。発売前のテスト用サンプルだからかもしれない。
カード長は,実測で約320mm(※突起部含まず)だが,基板自体は250mmほどしかなく,GPUクーラーがカード後方に約70mmはみ出た格好だ。
裏面にはバックプレートを取り付けてあり,基板がない部分は,表面から裏面へとエアーが抜ける構造だ。
また,マザーボードに装着した場合,垂直方向に25mmほどはみ出る。RX 7900 XTリファレンスカードは,長さが約278mmで,背もさほど高くないことに比べると,サイズは全体的にかなり大きめだ。
だが,実測重量は約1259gで,RX 7900 XTリファレンスカードが同1516gだったのに比べると,250gほど軽くなっている。
GPUクーラーは,2.5スロット占有タイプで,3基のファンを搭載する。先述したとおり,両端の2基が100mm径相当で,中央の1基が90mm径相当と,ファンの大きさは異なっているのが特徴だ。100mm径のファンは時計回りで,90mm径は半時計回りと,回転の向きも異なる。PowerColorによると,この機構によって吸気量と風圧を最大化して,高い冷却性能を維持しながら静音性の向上を実現しているという。
また,GPUコアの温度が50度を切ると,ファンの回転を停止する機能も用意されている。
GPUクーラーには,6mm径のヒートパイプを5本使用している。銅製のGPUベースは,GPUだけでなくメモリチップもカバーしており,ヒートパイプを通じて,熱伝導率を高めているそうだ。
電源部は,GPU用が9+2+1フェーズ,メモリが2+1フェーズ構成という豪華な作りで,DrMOSによって電流を監視することで,フェーズの負荷を制御して安定性や熱保護を向上させていると,PowerColorはアピールしている。
GPUクーラーのファンと背面には,LEDが組み込まれており,設定アプリケーション「Devilzone FAN RGBコントロールユーティリティ」(Version 1.3.2)から発光パターンを選択可能だ。また,PCI Express(以下,PCIe)補助電源コネクタのすぐ横に「LED Switch」があり,LEDが点灯しないようオフにできる。
カードの背にあるPCIe補助電源コネクタは,8ピンタイプが2基の構成だ。
映像出力インタフェースは,DisplayPort 2.1×3,HDMI 2.1a×1というよくある仕様である。ただし,PowerColorによると,DisplayPortは2.1接続の場合,同時に2ポートまでしか使用できないとのことだ。
競合製品と比較し立ち位置を確認。FSR 3.0+フレーム生成のテストも実施
それではテスト環境について説明していこう。
今回の比較対象には,まず,上位モデルのRX 7900 XTと,下位モデルのRX 7800 XTを用意。RX 7900 RGEが,どの程度の位置に収まるかを確認しようというわけだ。さらに,RTX 4070やRTX 4070 SUPERとの比較も行い,競合製品に対する立ち位置を明確にしたい。
ただ,先述したようにPowerColor 7900 GRE OCは,クロックアップモデルであるため,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.6.5)で,ブースト最大クロックをリファレンスにまで落としてテストを行っている。なお,リファレンス仕様に下げた状態でのテストをRX 7900 GRE,PowerColor 7900 GRE OC本来の仕様でのテストを「7900 GRE OC」と表記することをお断りしておく。
Radeon勢で使用したドライバソフトは,「23.40.19.01-240215a1-400391E-KB-AMD-Software-Adrenalin-Edition」で,これはAMDがRX 7900 GREのレビュー用として,レビュワーに配布したものだ。本稿執筆時点において,AMDが配布しているRadeon汎用ドライバは「AMD Software Adrenalin Edition 24.1.1」が最新で,レビュー用ドライバのバージョンは「23.40.02-240111a-399551C-AMD-Software-Adrenalin-Edition」なので,同じ世代ながらもマイナーアップデートが進んだものという理解でいいだろう。
なお,RTX 4070とRTX 4070 SUPERは,テスト時に最新バージョンとなる「GeForce 551.52 Driver」を用いている。そのほかのテスト環境は表2のとおり。
CPU | Core i9-14900K(P-core 定格クロック3.2GHz, |
---|---|
マザーボード | ASRock Z790 Steel Legend Wi-Fi |
メインメモリ | Corsair VENGEANCE RGB DDR5 |
グラフィックスカード | PowerColor Hellhound AMD (Radeon RX 7900 GRE, |
Radeon RX 7900 XTリファレンスカード (グラフィックスメモリ容量20GB) |
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Radeon RX 7800 XTリファレンスカード (グラフィックスメモリ容量16GB) |
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GeForce RTX 4070 SUPER Founders Edition (グラフィックスメモリ容量16GB) |
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GeForce RTX 4070 Founders Edition (グラフィックスメモリ容量12GB) |
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ストレージ | CFD CDDS-M2M1TEG1VNE (NVMe,1TB) |
電源ユニット | CoolerMaster V1200 Platinum(定格1200W) |
OS | Windows 11 Pro 23H2 |
チップセットドライバ | Intel チップセットINFユーティリティ |
グラフィックスドライバ | Radeon:23.40.19.01 |
GeForce:GeForce |
テスト内容は,4Gamerのベンチマークレギュレーション28に準拠したものだ。「3DMark」(Version 2.28.8217)では,レイトレーシング性能を見るため,「Port Royal」と「DirectX Raytracing feature test」のテストを追加している。また,FSR 3とフレーム生成の性能をチェックするため,「Call of Duty: Modern Warfare III」(以下,CoD:MW3)では,以下の設定で計測した。
RX 7900 GRE/XT,7800 XT
- 「アップスケーリング/シャープニング」を「AMD FSR 3.0」に
- 「AMD FSRプリセット」を「クオリティ」に
- 「AMDフレーム生成」を「オン」に
RTX 4070とRTX 4070 SUPER
- アップスケーリング/シャープニングを「NVIDIA DLSS」に
- 「NVIDIA DLSS」プリセットに「クオリティ」に
- 「NVIDIA DLSSフレーム生成」を「オン」に
なお,同様に「Starfield」でもFSR 3.0を使用してフレーム生成を有効にしようとしたが,なぜか3840×2160ドットだけ,異常に高いフレームレートを記録してしまった。ほかの解像度における結果と整合性が取れないため,今回はFSRを使わず,レギュレーションどおりの設定でテストを行っている。
それに加えて「Cities: Skyline 2」では,テスト中にゲームが強制終了して正常に行えなかったため,今回のテストでは割愛している。なお,ゲームが強制終了する事態は,ほかのタイトルでも発生している。そのたびにテストをし直して結果をまとめたわけだが,今回AMDから提供されたドライバソフトは,安定性にかなり問題があるように思う。
テスト解像度は,RX 7900 GREが,1440pから4Kにかけてのゲームプレイを想定しているため,2560×1440ドットと3840×2160ドット,それに1920×1080ドットを加えた3つを選択している。
RX 7900 XTと比べて8割強の性能。RTX 4070 SUPERといい勝負をする場面も
それでは,3DMarkから順にテスト結果を見ていこう。グラフ1は,Fire Strikeの総合スコアをまとめたものだ。
RX 7900 GREのスコアは,RX 7900 XTの82〜91%程度で,RX 7800 XT比では8〜11%程度高い位置に収まった。RTX 4070 SUPER比で見ると,Fire Strike“無印”こそ下回ったものの,それ以外では5〜11%程度の差を付けた点は優秀だ。RX 7900 GREのInfinity Cacheを含めたメモリバス帯域幅の広さが,高負荷環境で奏功したということだろう。
なお,PowerColor 7900 GRE OCは,RX 7900 GREから4〜6%程度と,スコアをしっかり伸ばしている点は好印象だ。
続いてグラフ2は,Fire Strikeから「Graphics score」を抜き出したものとなる。
CPU性能の影響がなくなるため,RX 7900 GREは,RX 7900 XTの81〜89%程度と,総合スコアよりも差が若干広がる傾向が出ている。また,RTX 4070 SUPERを2〜12%程度と安定して上回り,高負荷でその差を広げているのは,総合スコアと似た傾向だ。また,PowerColor 7900 GRE OCのRX 7900 GREからの伸びは約5%前後と,クロックアップ効果はハッキリと見て取れる。
GPUとCPU両方の性能が効いてくる「Combined test」の結果がグラフ3となる。
RX 7900 GREのスコアは,RX 7900 XTの84〜90%程度だが,Fire Strike Extremeでは,ほぼ肩を並べている。ただ,解像度が低くなるとRX 7900 XTが性能を出し切れていないようにも思え,このあたりはドライバソフトの不具合だろうか。
また,RX 7800 XTには9〜14%程度の差を付ける一方で,Fire Strike“無印”では,RTX 4070にさえも届いていない。しかしRX 7900 GREは,Fire Strike ExtremeではRTX 4070 SUPERに並び,Fire Strike Ultraになると,RTX 4070 SUPERを約9%ほど引き離している。ここでも,やはりRX 7900 GREの真価が発揮されるのは,高負荷状態と言えそうだ。
次に,DirectX 12世代のテストである「Time Spy」の結果を見ていこう。グラフ4は,Time Spyにおける総合スコアをまとめたものだ。
RX 7900 GREのスコアは,RX 7900 XTの82〜87%程度とFire Strikeより若干差が広がり,RX 7800 XTとの差は,約9%前後となっている。RTX 4070 SUPERには若干上回っているものの,ほぼ同レベルと言っていい。
なお,PowerColor 7900 GRE OCはRX 7900 GREから約2%前後スコアを伸ばし,RTX 4070 SUPERを2〜3%程度引き離している点は見どころと言えよう。
Time SpyにおけるGPUテスト結果が,グラフ5となる。
RX 7900 GREは,RX 7900 XTの80〜81%程度で,RX 7800 XTより約11%ほど高い位置に収まっている。RTX 4070 SUPERは,最大で約2%ほど引き離し,PowerColor 7900 GRE OCではその差を5%弱まで広げている点は好印象だ。
もうひとつのDirectX 12のテストとなる「Speed Way」の結果が,グラフ6だ。
ここでもRX 7900 GREは,RX 7900 XTの約80%ほどのスコアで,RX 7800 XTに約10%の差を付けている。ただ,RTX 4070 SUPERはおろか,RTX 4070にも約7%近く離されており,Time Spyより伸び悩んでいる印象だ。
グラフ7は,リアルタイムレイトレーシングの性能を計るPort Royalの結果だ。
RX 7900 GREは,RX 7900 XTの約85%ほどと,レイトレーシングユニット数の差以上の開きが見られる。このあたりは,RX 7900 GREの動作クロックが低いことが,足かせとなっているのではないだろうか。一方で,RTX 4070は上回っているものの,RTX 4070 SUPERには約10%ほど差を付けられている。
PowerColor 7900 GRE OCのスコアは,RX 7900 GREから約3%ほど伸びており,クロックアップでレイトレーシング性能も向上していることが分かる。
もうひとつのレイトレーシングテストであるDirectX Raytracing feature testの結果が,グラフ8だ。
Port Royalとは異なり,RX 7900 GREは,RX 7900 XTとの差を約90%ほどにまで詰め,RX 7800 XTとの差は約25%まで広げている。しかし,RX 4070には約18%も差を付けられ,レイトレーシング性能はあまり芳しくない。
PowerColor 7900 GRE OCもRX 7900 GREからフレームレートを伸ばしているが,約2%程度とPort Royalより低めだ。
それでは実際のゲームではどうなのか,CoD:MW3の結果(グラフ9〜11)を見てみよう。
先述したとおり,RadeonではFSR 3.0を,GeForceではDLSSをそれぞれ有効にして,フレーム生成ありでテストしている。その結果だが,RX 7900 GREの平均フレームレートは,RX 7900 XTの87〜88%程度で,RX 7800 XTには4〜11%程度の差を付けた。ただ,RTX 4070 SUPERにはどの解像度でも及ばず,RTX 4070にも2560×1440ドットで肩を並べられており,3840×2160ドットでようやく約8%上回るレベルだ。
なお,PowerColor 7900 GRE OCはRX 7900 GREから5〜7%程度伸び,3840×2160ドットでRTX 4070 SUPERに追いついている点は評価できよう。さらに,1パーセンタイルフレームレートを見ると,RX 7900 GREは,RTX 4070 SUPERに大差を付けており,FSR 3.0+フレーム生成がその威力を遺憾なく発揮していると言っていい。
続いて「バイオハザード RE:4」の結果が,グラフ12〜14となる。
RX 7900 GREの平均フレームレートは,RX 7900 XTの81〜83%程度で,RX 7800 XTには4〜10%程度の差を付けている。RTX 4070には安定して勝ち越しているものの,RTX 4070 SUPER比では3840×2160ドットで約5%ほど上回るのがやっとといったところ。
ただ,PowerColor 7900 GRE OCは,RX 7900 GREから3〜6%程度伸びている。1920×1080ドットでRTX 4070 SUPERに約6%まで差を詰め,2560×1440ドットでは逆転している。その傾向は,1パーセンタイルフレームレートでも同じで,RX 7900 GREがRTX 4070 SUPERを上回るのは3840×2160ドットのみで,PowerColor 7900 GRE OCでようやくRTX 4070 SUPERに対して有利に立ち回れる感じだ。
グラフ15〜17は,「Fortnite」の結果だ。
RX 7900 GREの平均フレームレートはRX 7900 XTの82〜85%程度といったところで,RX 7800 XTとの差は2〜6%程度と,下位モデルとの差が詰まりつつある。ただ,どの解像度でもRTX 4070 SUPERには届いておらず,RTX 4070とは勝ったり負けたりのいい勝負を演じている。最小フレームレートでもRX 7900 GREの結果は芳しくなく,RTX 4070と同レベルだ。
PowerColor 7900 GRE OCは,RX 7900 GREから3〜5%程度伸びているものの,それでもRTX 4070 SUPERには引き離されたままだ。
「Starfield」の結果(グラフ18〜20)を見てみよう。
RX 7900 GREの平均フレームレートは,RX 7900 XTの82〜83%程度だが,RX 7800 XTには16〜57%程度もの差を付けている点は興味深い。メモリ周りのスペックは,RX 7800 XTのほうがRX 7900 GREを上回っていることを考えると,それ以外の何かが要因となってRX 7800 XTの落ち込みが大きいように思われる。このあたりは,ゲーム自体が原因か,ドライバソフトが原因なのかはちょっと判断がつかない。
また,RX 7900 GREは,RTX 4070を安定して超える性能を発揮しているが,RTX 4070 SUPERには3840×2160ドットでその差を約1%にまで詰めるのがやっと。ただ,PowerColor 7900 GRE OCになると,RTX 4070 SUPERとは同レベルになっており,クロックアップ版ならいい勝負を演じられるということなのだろう。
グラフ21は,「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(以下,FFXIV暁月のフィナーレ ベンチ)の総合スコアをまとめたものだ。
このベンチマークは,GeForceシリーズの最適化が進んでおり,Radeonシリーズは苦しい戦いを強いられているが,それはRX 7900 GREも同じ。RX 7900 GREはRTX 4070 SUPERに離されている。とくに3840×2160ドットを見ると,RTX 4070 SUPERは,スクウェア・エニックスが指標で最高評価とするスコア1万5000を上回っているのに,RX 7900 GREは届いていない点は,大きなビハインドだ。
また,PowerColor 7900 GRE OCは,RX 7900 GREからスコアが1%も上昇しておらず,クロックアップの効果は見て取れない。
そんなFFXIV暁月のフィナーレ ベンチにおける平均フレームレートと最小フレームレートをまとめたものが,グラフ22〜24だ。
平均フレームレートは総合スコアを踏襲する一方で,最小フレームレートはCPU性能の影響が大きく,あまり大きな差異は見られない。しかし,その中でも,RX 7900 GREは3840×2160ドットで60fpsを超えている点は評価できよう。
ゲームテストの最後となる「F1 23」の結果が,グラフ25〜27となる。
RX 7900 GREの平均フレームレートは,RX 7900 XTの86〜87%程度で,RX 7800 XTに8〜15%程度の差を付けた。ただ,RTX 4070は11〜14%程度引き離すものの,RTX 4070 SUPERにはどの解像度でも届いていない。
PowerColor 7900 GRE OCは,1920×1080ドットでRTX 4070 SUPERを上回り,それ以外の解像度でもその差を2〜7%程度まで詰めている。最小フレームレートは,RX 7900 GREにとって3840×2160ドットはさすがに荷が重いようだが,2560×1440ドットで70fpsを超えている点は評価できる。
実際の消費電力でもRX 7800 XT以下だが,RTX 4070 SUPERには及ばない
さて,RX 7900 GREのTotal Board Powerは,RX 7800 XTを若干下回っていると述べたが,はたして実際の消費電力はどの程度なのだろうか。そこで,NVIDIAが開発した消費電力計測ツール「PCAT」(Power Capture Analysis Tool)を用いて,グラフィックスカード自体の消費電力を計測してみたい。今回は3DMarkのTime Spyにおいて,消費電力が高くなる傾向が出たGraphics test 2実行中の結果を示している。
その計測結果がグラフ28だ。
この結果を見ると,RX 7900 XTの消費電力が一際高く,PowerColor 7900 GRE OC,RX 7900 GREという順だ。ただ,競合製品のRTX 4070 SUPERやRTX 4070のほうが,RX 7900 GREより低く,それほどRX 7900 GREの消費電力あたり性能が優れているようには見えない。
グラフ28から,最大値と中央値を求めたものがグラフ29となる。
RX 7900 GREの中央値は246.6Wで,これはRX 7900 XTから60W以上も低い。しかも,わずかだがRX 7800 XTを下回っており,スペックどおりの結果が表れていると言っていい。しかし,RTX 4070 SUPERの中央値は224.9Wで,RX 7900 GREよりもさらに20W以上低く,消費電力あたり性能ではRTX 4070 SUPERに軍配が上がる。
なお,PowerColor 7900 GRE OCの中央値は280.8Wと,RX 7900 GREから30W以上増加しており,クロックアップの代償は看過できないレベルだ。
念のため,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の最大消費電力も計測してみた。
ここでのテストにあたっては,Windowsの電源プランを「バランス」に設定。さらに,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時,OSの起動後30分放置した時点をアイドル時としている。
その結果がグラフ30だ。
各ゲーム実行時におけるRX 7900 GREの消費電力は446〜589Wで,RX 7900 XTから64〜182W低く,RX 7800 XTと比べても最も差が大きいCoD:MW3で44Wも低い。このテストでは,ピーク値を結果として採用するため,どうしても差が開く傾向が出てしまうのだが,それでもRX 7900 GREはRX 7800 XTよりも消費電力は低いと言っていい。また,同じ理由から,このテストではRX 7900 GREとRTX 4070 SUPERは勝ったり負けたりのいい勝負となっている。グラフィックスカードの消費電力の結果ほど,RTX 4070 SUPERより消費電力が大きい感じはしない。
ただ,PowerColor 7900 GRE OCはRX 7900 GREから20〜101W増加しており,やはりクロックアップの代償は大きい。
GPUの温度もチェックしておきたい。温度を約24℃に保った室内で,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,基本的にGPU-Zから温度を取得することにした。
その結果がグラフ31だ。
GPUごとに温度センサーの位置は異なり,また,温度の制御法もGPUクーラーも異なるため,横並びの評価に意味はない。それを踏まえたうえでスコアを見ていくと,RX 7900 GREは高負荷時でも60度台前半とかなり低めだ。消費電力がそれほど高くないことに加えて,GPUクーラーが十分な冷却性能を備えていると言っていい。PowerColor 7900 GRE OCでも温度が低めなのは,注目すべきポイントだろう。
なお,最後に筆者の主観であることを断りつつ,PowerColor 7900 GRE OCの動作音について触れると,かなり静かな印象を受けた。このクラスの製品としては静音性は申し分なく,少なくともRX 7800 XTリファレンスカードより静かと感じた。PCケースに入れてしまえば,まったく気にならないレベルだ。
価格はRX 7800 XTより50ドル高い549ドル
RTX 4070 SUPERに対して価格的優位に立てるかが鍵
ただ,RX 7800 XTより低い消費電力は評価できるものの,RTX 4070 SUPERには差を付けられており,消費電力に関しては苦しい立場になっている。
RX 7900 GREの米国におけるメーカー想定売価は549ドル(約8万2700円前後)とのこと。これはRX 7800 XTから50ドル高いだけで,700ドル以上だったRX 7900 XTに比べれば破格と言っていい。RTX 4070 SUPERも599ドルなので,それから50ドル低い価格設定はかなり魅力的だ。
問題は日本市場に入ってくると値段が上がってしまう点だが,RTX 4070 SUPERの税込実勢価格は9万8000円〜12万5000円で販売されているので,それを下回ることができれば,存在意義が大きくなることは間違いない。
日本市場の価格次第ではあるのだが,ミドルハイ市場向けグラフィックスカード市場において,RTX 4070 SUPERやRTX 4070以外の選択肢が増えることは,素直に喜んでいいのではないだろうか。
PowerColorのグラフィックスカード製品情報ページ
AMDのRadeon RX製品情報ページ
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Radeon RX 7000
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