バンダイナムコエンターテインメントは本日(2023年2月16日),
「テイルズ オブ シンフォニア Remastered」(
PS4 /
Nintendo Switch /
Xbox One)を発売した。
「テイルズ オブ シンフォニア」は,2003年にニンテンドーゲームキューブ用ソフトとして発売されたタイトルだ。そして,翌年の2004年にはPS2版,2013年には「シンフォニア」と続編の「テイルズ オブ シンフォニア -ラタトスクの騎士-」をセットにした「テイルズ オブ シンフォニア ユニゾナントパック」が発売されている。
「シンフォニア」は,テイルズ オブシリーズで初めてワールドワイドで発売されたタイトルで,シリーズの中でも非常に人気が高い。今回のリマスター版は3度目の移植となり,これは「テイルズ オブ ファンタジア」に次ぐ回数となっている。
本稿では,リマスター版発売を記念して,シンフォニアのシナリオや見どころについて紹介していきたい。なお,記事の性質上,多少ストーリーのネタバレを含んでいるので,その点はご了承を。
シルヴァラントとテセアラ,2つの世界を股にかけた世界再生の物語
本作の物語は,生命の源である「マナ」の枯渇により,食糧難や日照不足が起こっている衰退世界「シルヴァラント」から始まる。シルヴァラントでは,ディザイアンと呼ばれる邪悪な集団がマナを大量に消費し,世界を混乱に陥れていた。
この世界では,「再生の神子」と呼ばれる者が試練を乗り越えて天使になり,ディザイアンを封じて
「世界再生」を果たすという言い伝えが信じられていた。
本作のヒロインである
コレットの家系は,代々再生の神子としての役目を持っており,彼女も生まれながらにその運命を背負っていた。コレットは16歳の誕生日を迎えた日に天から神託が下ったことにより,ロイドとジーニアス,傭兵のクラトス,そして教師のリフィルと共に世界再生の旅に出る。
主人公の
ロイドは,そんなコレットと幼馴染の青年だ。彼はある出来事をきっかけに村を追放されることになり,親友のジーニアスと共に,コレットの旅へ同行することになる。
主人公のロイド。困った人を放っておけないまっすぐな心を持った熱血漢。赤ん坊のころに母と死別し,ドワーフのダイクに育てられた過去を持つ
|
ヒロインのコレット。普段はのんびりしているが,危険な旅の道中にも笑顔を絶やさないなど,心の強さはパーティ随一。神子として各地を巡りながらさまざまな試練に挑むことになる。すさまじいドジでよくずっこける
|
ロイドの親友ジーニアス。わずか12歳で魔法も学問もハイレベルにこなせる名前通りの天才(Genius)。人とエルフの間に生まれたハーフエルフであり,その生い立ちが原因で人々から迫害された過去を持つ
|
ロイドたちの先生リフィル。ジーニアスの姉であり,非常に博識。特に古代の歴史や遺物に造詣が深く,その知識を買われ,世界再生の旅に同行する。重度の遺跡マニアで遺跡を見ると性格が豹変する
|
傭兵クラトス。世界再生の旅には用心棒として同行し,年長者としてパーティを見守る。ディザイアンからも一目置かれていたり,旅の最中に度々ロイドのことを気にかけたりと謎が多い
|
テイルズ オブシリーズといえば,絡み合う複雑なシナリオが特徴だが,それはシンフォニアでも同様だ。序盤は世界再生の完遂を目的とした物語が展開されるが,天使の力を得る試練の過程で,コレットの身体には痛覚や味覚が失われるなどのさまざまな異変が生じる。
さらに,旅の途中で「テセアラ」というもう1つの世界の存在が明らかになったことで事態は変化。シルヴァラントとテセアラはお互いにマナを奪い合う関係にあり,シルヴァラントで世界再生を行うとテセアラのマナが枯渇することが判明する。
このような
「コレットやほかの世界を犠牲にしてでも,世界再生を成し遂げるべきか」という選択がシンフォニアの大きなポイントになっている。結果的にロイドたちはその答えにNOを出し,両方の世界を救うことを決意するのだが,その選択がどのような結果を生むのかという点が見どころの1つとなっている。
試練を乗り越えて天使の力を得ていくコレットだが,同時に人の感覚を失っていく。それを隠して気丈に振る舞う姿が切ない
|
|
個人的な見解だが,シナリオだけ見れば,シンフォニアはシリーズの中でもかなり“重い”展開が多くある方だと思っている。パーティの全員が何かしら不幸な境遇に置かれていたり,ディザイアンが,拉致した人間を実験の道具として使うといった,凄惨な描写が存在したりする。
人間を実験台にして悪行を働くディザイアン。人が化け物にされる光景はプレイヤーの心にトラウマを残した
|
ただ,そういった重い描写とは打って変わって,パーティのキャラクターたちは明るく前向きだ。特に仲間の中でも明るさの源になっているのが,主人公であるロイドの存在である。目の前で困っている人がいればどんなことがあっても助ける,間違っていると思うことはハッキリと言うなど,まさに熱血漢な正統派の主人公といった感じだ。
彼の印象的なエピソードとして挙げられるのが,港町パルマコスタでの一幕だろう。パルマコスタを訪れたロイドたち一行は,広場でディザイアンが市民を処刑しようとしている光景を目撃する。
すぐに助けたいロイドたちだったが,過去に人々を助けるためにディザイアンを攻撃した結果,報復として村全体を焼かれたことがあった。そのため,パーティ内でも「あの時と同じ轍を踏むのか」とためらう声も出ていたのだが,ロイドは「目の前の人間も救えなくて世界再生なんてやれるかよ」と啖呵を切り,迷うことなく助けに入るのだ。
印象的なイベントが多いシンフォニアの中でも強く印象に残る名シーン。ちなみに「目の前の人間も救えなくて世界再生なんてやれるかよ」というセリフは当時ゲームソフトのパッケージの裏にも書かれていた
|
シンフォニアには,このような理不尽な出来事や暗い展開が起きてもロイドが感情を露わにしてぶつかっていくシーンが多く存在するため,見ていて気持ちがいい。周囲の人間たちも彼の明るさに影響されてか,困難から逃げずに立ち向かうようになる。
彼の真っ直ぐな心は周りの人間を変えていく。パーティの中でも精神的な柱であり,ムードメーカー的な存在だ
|
先ほどシンフォニアはシリーズの中でも“重い展開”が多くある方だと述べたが,このようなロイドを始めとしたキャラクターの明るさによって,ゲーム全体に重苦しい雰囲気が漂うことがない。明るいサブイベントも多いため,プレイ後は爽やかな余韻が残るのが,シンフォニアの魅力なのではないかと思う。
グラフィックスがシリーズ初となるフル3Dに進化。キャラクター描写やバトルにも大きな変化が生まれる
テイルズ オブシリーズの1作品としてシンフォニアを語るうえで外せないのは,
グラフィックスの完全な3D化だろう。それまでのタイトルでも,一部ポリゴンを使った3D描写が取り入れられていたが,シンフォニアは背景やキャラクターなどがすべて3Dで描かれるようになった。これによって,キャラクターの見た目を変化させるコスチューム付きの称号が登場したり,登場人物の表情が描写されるようになったりと,キャラクターの魅力が一層引き立つ表現方法が採れるようになった。
コスチューム付き称号はバリエーション豊富。バトルやイベントシーンにも反映される
|
この3D化により,個人的に特に魅力が引き立っていたと感じるキャラクターが,リフィルとプレセアの2人だ。リフィルはロイドたちの学校の教師であり,持ち前の豊富な知識を生かして旅をサポートする人物で,冷静で丁寧な口調で喋る彼女には知的な印象を受ける。しかし,彼女にはアンティークや遺跡を見ると性格が変貌するという一面があり,スイッチが入ると遺跡への愛を一方的に喋りまくり,ロイドたちに対しても命令口調になる。
この“遺跡モード”のリフィルには,目がギラギラと輝いている専用のグラフィックスが用意されており,彼女の遺跡に対する狂気的な愛がうまく表現されている。普段とのギャップも相まってシンフォニアの中でも特に印象に残っているプレイヤーも多いのではないだろうか。
遺跡モードのリフィルは性格が豹変,目を輝かせて怪しい笑みを浮かべる。怖い
|
|
アスカードでのイベントでは遺跡モードの彼女が大暴れ。遺跡を傷つけようとする輩にはダイナミックな蹴りを容赦なくぶちかます
|
もう1人のプレセアは,テセアラにある村オゼットに住む木こりの少女だ。彼女はとある実験により人間性を失っていたが,ロイドたちの活躍で感情を取り戻し,行動を共にすることになる。
このプレセアの変化は,3Dになったことでより印象強く描写されている。出会った当初は,無表情で目にハイライトすら入っていない彼女が,旅を通して心を開いていく様子は必見だ。
感情の起伏があまりないプレセア。3Dグラフィックスにより表情の変化がしっかりわかるようになったからこそ,彼女の変化がより際立つ
|
リマスター版ではグラフィックスが美しくなり,イベントの描写もより鮮明になっている。オリジナル版では気づかなかった部分に気づけることもあり,受ける印象も不思議と違う
|
3D化はキャラクターの描写だけでなく,バトルにも大きな影響を与えている。バトルフィールドはこれまでの平面的なものではなく,奥行きのある立体的なものへと変化。敵の側面から攻撃を入れられるようになるなど,2Dのバトルにはなかった攻防が繰り広げられるようになった。
マップ上での戦いはランダムエンカウントからシンボルエンカウントに変化した
|
フィールドが3Dになったため,四方から敵に囲まれて攻撃を受けることも。高難度の戦闘ランクになるとこの状態は致命的で,序盤の敵にすらあっという間にやられてしまう
|
ただ,後発の「ジ アビス」や「ヴェスペリア」などと違い,「フリーラン」は導入されていないため,バトルフィールドを自由には動き回れなかった。ターゲットした敵と味方の間を結んだ見えない直線の上を移動して戦っていくため,バトルシステムの名称も「ML-LMBS(マルチラインリニアモーションバトルシステム)」と名づけられており,完全な3Dバトルというよりは,“奥行きのある2Dバトル”と言った方が近いだろう。
ちなみにシンフォニアで,なぜフリーランが導入されなかったのかという点については,公式YouTubeチャンネルに掲載されている動画「レジェンドトーク」にて,当時のディレクターを務めた樋口義人氏が語っている(
動画リンク)。樋口氏によると,シンフォニアの開発でもフリーランのシステム自体は出来上がっていたが,敵のAIがフリーランに対応できるように作られていなかったため,実装が見送られたという。バトルに関しては過去にまとめ記事を掲載しているので,そちらも参考にしてほしい。
関連記事
バトルシステムとして味方全員による複合攻撃「ユニゾン・アタック」が登場。特定の組み合わせで技を繰り出すと合体攻撃ができるなど,派手な演出も
|
PS3版同様リマスター版では,秘奥義時のカットインがアニメ調のものになっている
|
敵を倒した数が多ければ多いほど与えるダメージが増加していく武器「魔装具」もシンフォニアが初。以後のタイトルでも度々登場する定番装備となった
|
好感度システムは“選ぶこと”の難しさをプレイヤーに体験させる
シンフォニアは「テイルズ オブ ファンタジア」と世界設定を共有していることが明言されている。人間,エルフ,ハーフエルフを巡る差別の問題や登場する精霊の種類など酷似している点も多く,これらの共通点を見つけていきながら,2つのタイトルがどうつながっていくのかを見ていくのも楽しみの1つだ。
精霊とのバトルの際に流れるBGM「Fighting of the spirit」は,ファンタジアで使用された同名曲のアレンジとなっている。ちなみに通常戦闘曲の「Full Force」は,ファンタジアの通常戦闘曲「TAKE UP THE CROSS」とイントロのフレーズが一緒だったりする
|
また,シンフォニアは3Dテイルズ オブの原点と呼べる存在だけに,多くの仕様が後のシリーズタイトルへ引き継がれているのだが,本作にしか搭載されていないシステムも印象的だ。
それが仲間の
「好感度」システム。これは会話時にプレイヤーが選ぶロイドの言葉によって,パーティメンバーの好感度が上下するものだ。これによって物語の結末が大きく変わるわけではなく,一部のイベント内容に影響する程度だが,好感度が高いキャラクターと海水浴をしたり,二人っきりで雪景色を見たりとちょっとした恋愛シミュレーションゲームのようなイベントも楽しめた。
海水浴のイベントでは,プレイヤーが選んだキャラ1人と好感度の高いキャラ2人のコスチュームつき称号がもらえる
|
しかし,この好感度システムには1つだけ例外がある。それが2人の仲間のうち,どちらが離脱するか決まるという大きなルート分岐に関わる選択で,抜けた仲間は以後パーティに加えることができない。
キャラクターが途中離脱したり,選んだルートによって仲間の加入時期が変わったりといったことは,ほかのタイトルでもあったが,この“二者択一”はシンフォニアならではだ。
冒頭でも述べた通り,シンフォニアでは,「(コレットやテセアラの)犠牲」か「世界再生」かの選択を迫られたロイドたちが,全員幸せになる道を模索しながら旅をする姿が描かれる。当然ロイドたちが選んだ道の結果,救われる者もそうでない者も出てきて,プレイヤーはそれをゲーム画面越しに見ることなる。ただ,この「仲間の離脱に影響する選択」だけは,プレイヤーの行動が直接的にその後の展開を変えてしまうので,「プレイヤーにも選択の結果に責任が伴う」ということを身をもって体験させられたような気がする。
シンフォニアは初のフル3Dタイトルということで,最新のシリーズに比べるとシステム面についてはやはり古さを感じる面も確かに存在する。しかし,完成度の高いシナリオや印象深いイベントの数々により,今でも楽しくプレイできるタイトルであるのは間違いない。すでにプレイ済みという人もそうでない人も,リマスター版発売を機に改めて過去の名作であるシンフォニアに目を向けて見てはいかがだろうか。