紹介記事
「魔界戦記ディスガイア7」は丁寧に作られた優等生。やり込みSRPGが気になるなら遊んでおくべき
バールの登場により,一通りのやり込みコンテンツは出揃ったと思うので,このタイミングで本作の総括をしてみたいと思う。というのも,シリーズファンならご存じのとおり,本作は発売されるまで期待半分,不安半分なところがあったタイトルだ。前作「魔界戦記ディスガイア6」(PS4/Switch)で大きく遊び方が変わったり,シリーズをずっと引っ張ってきた新川宗平氏が2022年8月に代表取締役社長を辞任したり(関連記事)と,「新作大丈夫なんだろうか」と思ってしまう要因が重なっていた。一方で,新ディレクターの美濃羽俊介氏の発言などから,「いや,イケてるのでは?」と期待していたシリーズファンは,筆者だけではないだろう。
そんなわけで,今回はいちシリーズファンとして,本作は実際のところどうだったかを素直に書こうと思い立ち,筆を執ることにした。
……まぁ,これは建前で,ぶっちゃけてしまうと「7良かったから,まだ遊んでないシリーズファンは早く遊んでおきなよ」と言いたいだけなのだが,お付き合いいただけると幸いだ。
筆者自身は,シリーズを最初から遊んでいるというか,正確にはその前身である「ラ・ピュセル 光の聖女伝説」から日本一ソフトウェアのSRPGを追いかけているクチなので,ファン歴は長い。ラ・ピュセルはラ・ピュセルで面白いゲームなので,遊んだことのないディスガイアファンは,移植版の「ラ・ピュセル†ラグナロック」(PC/Switch)をぜひ。「マール王国とディスガイアの間に展開された」という背景に納得できるタイトルであり,システム面はディスガイアの原型が感じられる作りながら,全体的によりファンタジックで優しいタッチになっている。
“普通”のSRPGとして進むメインストーリーと,クリア後のやり込みで2度おいしい
まずはディスガイアに触れたことがない人向けに,簡単にシリーズの紹介をしておこう。2003年にPlayStation 2で発売された「魔界戦記ディスガイア」から続くSRPGシリーズとなり,伝統として,舞台となるのはタイトル通りに魔界だ。悪いことをするほうがよいとされる,悪魔たちが住む場所であり,同時に割となんでもアリな雰囲気のカオスな世界観になっている。
ストーリーのテイストは作品によって多少異なるが,基本的にはギャグ要素強めで進む。ただ,笑いだけでなく,ちょっとうるっとくる話なんかも盛り込んであって,最終的になんだかんだイイ話に落ち着くことが多い。そのあたりもごった煮な感じだ。
そしてディスガイアと言えば,やり込み要素とそれを許容するインフレバランスが一番の特徴だ。最初は,装備を整えてレベルを上げ,少しずつステータスを上げて,移動力や射程を考えながら1体ずつユニットを動かしていくといった感じの,言ってみれば“普通”のSRPGだ。
しかし,やり込みを始めるタイミング,とくにエンディングを迎えた後あたりから,一気にインフレして数値がぶっ壊れ始める。レベルは9999まで上がり,それに合わせてステータスもすごいことになり,さらに武器自体も徹底的に強化が可能で,数百万,数千万,さらには億単位のダメージでワンパンするみたいなバランスになっていくのだ。
やり込みに堪えうる強力な敵はもちろん存在するが,メインの面白さはやはり,お気に入りのキャラクターを徹底的に育て上げることにある。敵の強さがどうこうというより,お気に入りのキャラクターがインフレ成長していく様子が気持ちいいから育てる。言ってみれば自己満足だが,それが楽しい。
ストーリーに登場するメインキャラクター達だけでなく,数多くの汎用キャラクター(クラス)も存在し,使用できる武器や技の種類もさまざま。「データはいっぱい用意したから,あとは好きに育ててね」といった感じの,やり込みに特化したゲームとなっている。
やり込まなくても,メインストーリー部分だけでSRPGとして十分にボリュームがあるので,エンディング後と合わせて2度おいしいのも,大きな魅力だろう。
前作で変わりすぎたディスガイア
以上を踏まえて,ディスガイア7において,いったい何が不安だったのかを説明しておきたい。基本的には,挑戦的ではあったが賛否両論あったディスガイア6の影響が大きい。前作が好きな人には大変申し訳ないのだが,シリーズファンとしてはディスガイア6の挑戦は,受け入れづらい部分があったのだ。主な要因は以下のとおりとなる。
- AIを設定しての自動戦闘システムが導入され,レベル上げが非常に簡単になった
- 数値が最初からインフレするようになった
- 汎用キャラクターの種類が大幅に減った
- 武器によって習得できる「武器技」が削除された
もちろん,ディスガイア6がこうした作りだったのには理由があるはずだ。AI戦闘の採用は,新しい遊び方を導入するためだろうし,数値のインフレは,新しく入ってきたプレイヤーが分かりやすくディスガイアらしさを感じられるように設定されたのだろう。
汎用キャラクターや武器技は,前作でグラフィックスを3D化した結果,初代から「魔界戦記ディスガイア5」(PS4/Switch)までに積み上げてきたようなデータ量を用意するのが厳しかったのだろうというのも,予想はできる。
とはいえ,それまでのディスガイアを楽しく遊んでいたファンからは,「さすがに変えすぎ」と厳しい声が上がることになった。実際,筆者も「この方向性で進まれると,ディスガイア応援できないなぁ」と思うぐらいには,前作の挑戦は受け入れにくかった。前作のファンには重ねて申し訳ないのだが,素直な気持ちだ。
加えて,新川氏の辞任である。新川氏は,初代ディスガイアから開発に携わり,代表取締役社長の立場でありつつも,シリーズのシナリオを自身で手がけてきた。要は,ディスガイアの独特の雰囲気を生み出して,それをずっと続けてきた人物だ。日本一ソフトウェアの顔として,配信などで見かけることも多かった。そんな氏が不在となると,そもそものディスガイアらしさみたいなものが覆りかねない。
最も,こうした不安をファンが持っているということは,新ディレクターの美濃羽氏も理解していた(そもそも,彼自身がシリーズファンから日本一ソフトウェアに入社した人物である)ようだ。自身が好きだったディスガイア5の路線に戻し,それを超えるゲームにしようという意気込みは,「こちら」のインタビューで語ってもらっている。
ちゃんと楽しいじゃん!
では,実際のところどうだったのか。率直にコメントすると「何も心配いらなかった! ちゃんと楽しいよディスガイア7!」である。
まず,最大の懸念点だったAIによる自動戦闘について。これの何が問題だったのかと言えば,AIを優秀に組めすぎて,手動でレベル上げをする必要がまったくなくなった結果,シリーズの醍醐味である自己満足感が低下したことだ。つまり,材料は良いのだが,調理法があっていなかった。
そこで本作では,AIの仕組みはそのまま導入しつつ,あくまでマルチプレイの対戦でのやり込み要素として位置付けた。対戦をしたくなければ触れなくていいので,育成の楽しさを阻害することはない。
また,自動戦闘でのレベル上げ自体も残ってはいるのだが,無制限に行えるのではなく,手動で攻略して「魔ソリン」と呼ばれるリソースを貯め,これを消費して行う形となった。これにより,前作で「手動での育成を不要にした要素」の印象が強かった自動戦闘が,「たまにお得に経験値が稼げる補助要素」になってくれて,単純な変更なのに気持ちよく使える。うまい落としどころを考えたものだ。
最初から数値がインフレするスタイルも元に戻り,自動戦闘の変更と合わさって,あくまでエンディングまでは“普通の”SRPGとして楽しめる形となった。数値がデカイほうが気持ちいいというのも理解はできるのだが,最初からインフレしていると,どのぐらいのダメージが出るのかなどが単純に分かりづらいし,小さな数値から始まるからこそインフレ後のめちゃくちゃ感が楽しい部分でもあるので,ここは歓迎したい。
汎用キャラクターの数や武器技といった,やり込みに関わるデータの物量に関しても,本作はかなりがんばっている。前作で激減した汎用キャラクターは,本作では45種類とシリーズ最大級まで増えた。さらに武器技も復活しただけでなく,武器の育成をさらにやり込める「アイテム転生」が追加され,これまでよりさらに強力な武器を作れるようになった。アイテム面のこだわりも強化されたわけだ。
データ量をここまで戻してもらえると,もちろん不満はないし,次回作以降で「さらに増えてくれるのでは?」という期待もできる。
シナリオについても,ディスガイアらしい雰囲気は健在だ。本作のシナリオを担当しているのは「魔界戦記ディスガイアRPG 〜最凶魔王決定戦!〜」(iOS/Android/PC)のシナリオ監修を,新川氏から引き継いだ人物だそうで,ちゃんとおバカなノリで話が進みつつも,最後は気持ちよくエンディングが迎えられるものとなっている。
本作の主人公は,金に汚い悪魔のフジ。日ノ本オタクなお人よしヒロインのピリリカとの出会いをきっかけに,シリーズ初の和風魔界である「日ノ本魔界群」を舞台に,腐敗した幕腐(ばくふ)を相手に大立ち回りを演じることになる。フジ自身は,悪魔らしい部分はありつつも好感の持てる人物だ。「魔界戦記ディスガイア2」のアデルほどストレートな熱血漢ではないが,シリーズ的には割と分かりやすいヒーロー側の性格だと思う。あまりぶっ飛んだ主人公ではないぶん,本作で初めてシリーズに触れた人でも感情移入しやすいのではないだろうか。
以上のように,本作は不安だった点はきっちり解消しつつ,ベースの部分はシリーズを踏襲している。エンディングが終わったら一気に敵が強くなる「後日談」が始まり,その後の本当のやり込み要素である「修羅」(敵がわけ分からんぐらい強くなる)ももちろん完備。“最凶”のやり込みと自己満足の世界がプレイヤーを待ち受ける。
7は誰でも遊びやすい優等生
まとめると,本作はシリーズファンにも,ディスガイアが初めてという人にもオススメできる優等生だ。ディスガイアらしいし,遊びやすいし,何より減点したい部分がほとんどない。「ここがめちゃくちゃいい!」と加点したいというよりは,欠点が少ない。シリーズファンに求められているディスガイアを,丁寧に作ったのだなという印象だ。魔界病院でアイテムが手に入るガチャの仕組み(ガ邪ポン)など,便利すぎるかな思う部分もあるが,そうした細かなところが気になるぐらいで,「稼ぎ方の効率化を進めて,ひたすらキャラ育成をするのは楽しい」ということを思い出させてくれた。
シリーズ経験者で遊んでいない人はもったいないし,これから「ディスガイアをどれか遊んでみようと思うんだけど」と言われたら,とりあえず本作を挙げると思う。そのぐらい手触りがいい。
最も,「じゃあシリーズ最高傑作が本作なのか」と聞かれたら,そこは別の話なのだが。やっぱり初代が好きという人は多いだろうし,個人的にはシナリオやキャラが好みで,汎用キャラクターに勝手な関係性を設定できるフレーバー要素も好きだったので「魔界戦記ディスガイア4」が最高,と答えてしまう。
ただ,そのあたりはあくまで味付けの好みの問題で,ゲームとしての完成度で言えば,やはり本作はよくできている。本稿の最初に述べた「7良かったから,まだ遊んでないシリーズファンは早く遊んでおきなよ」は本気で思っているので,離れていた人はぜひ遊んで応援してあげてほしい。それがより良い「魔界戦記ディスガイア8」(なのかどうかは知らないけど)につながってくれると,長年魔界でやり込み続けてきた身としては,一番嬉しい展開だ。
後日談:好き勝手言わせて
というわけで,記事のエンディング(?)を迎えたので,ここからは後日談だ。いちシリーズファンとして,本作で「こうだと嬉しかったな」ととくに思っている部分を,3つだけ挙げさせてほしい。上でまとめた通り,本作はとにかく欠点の少ないディスガイアであり,不満というよりは個人的な要望だ。完全に筆者の好みなので,「俺はそうは思わないけど?」という点はあると思うが,こういうプレイヤーもいるんだということで。
・「始祖の七振り」付け替えさせてよ
本作の物語では,「始祖の七振り」と呼ばれる伝説の神器を集め,その神器達に選ばれていくメインキャラクター達の活躍が描かれる。そのため,メインキャラクターは神器の力を解放して「神討モード」となることで,強力な特殊能力と技を解放できる……のだが,汎用キャラクターを育てるのが好きな筆者としては,この始祖の七振りがメインキャラクターに紐づいて固定なのが,本作で一番声を上げたい部分だ。シナリオ的に,固定になってしまうのは理解できる。でもエンディング後なら好きにできてもいいじゃん!
ディスガイア5もそうなのだが,筆者はメインキャラクターをあまり性能的に優遇してほしくない派である。正確には優遇されていてもよいのだが,それ,汎用にもくれ。最強の汎用キャラクターを育てさせてくれ。
・やっぱり「キャラ界」は欲しい
これまでのシリーズには,1人のキャラクターを徹底的に育てられるコンテンツとして「キャラ界」というものがあった。本作ではこれとアイテム転生のどちらを入れるか悩んだ結果,「アイテムならほかのキャラクターも使える」ということで,アイテム転生を選択したというのが,インタビューで美濃羽氏から語られている。
分かる。開発期間も決まっているだろうし,プレイヤーが使いやすいほうを選んでくれたのは分かるよ。でも,やっぱり「このお気に入りのキャラをひたすら贔屓して育てたい」みたいなこだわりのために,キャラ界も欲しかった。完全にワガママだが,どっちも欲しい。
・汎用キャラがいっぱい増えてくれたので,ボイス周りも……
本作の汎用キャラクターは,シリーズ最大級の45種類。この数にはとても満足しているのだが,転生を繰り返しているとボイスをもっと選びたい気持ちが湧いてくる。各汎用キャラクターごとに3種類のパターンは用意されているが,「このキャラ,見た目はこっちだけど,ボイスは転生前のほうがいいな」みたいなことが起こるのだ。気に入ったボイスパターンを,転生して違う汎用キャラクターに変えた後でも維持できるとか,そういう仕組みがあると嬉しい。
というか,汎用キャラクター派としては,キャラメイク周りの仕組みはいくらでも拡充してほしいので,次回作に期待したい。
「魔界戦記ディスガイア7」公式サイト
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