企画記事
「Terra Nil」で,地球の環境問題について考える。再生可能エネルギーだけで,荒廃した世界に緑あふれる大自然を取り戻す“環境復元”シム
ゲーマーの中でも,任天堂のSwitch用ソフト「あつまれ どうぶつの森」で行われたゲーム内イベントや,Microsoftの再生材を使用したコントローラなどの取り組みで名前を知っている人も少なくないだろう(関連記事1 / 2)。
そんな,地球の自然を考える日に紹介したいゲームがある。その名は「Terra Nil」。土壌や水が汚染され荒れ果てた星を舞台に,“再生可能エネルギーのみ”で美しく生命力にあふれる自然の復活を目指していく,南アフリカのデベロッパFree Livesが手がける環境復元シミュレーションゲームだ。
そのゲーム性が地球の環境問題を考えるものとなり,さらに“ゲームを遊ぶことがプレイヤー自身の自然保護活動”となる本作を紹介したい。
「Terra Nil」公式サイト
眼下に広がる荒れ果てた世界に自然を取り戻せるのは,プレイヤーだけだ
ゲームを開始すると,プレイヤーは草木一本ない世界に投げ出される。復興対象の土地はかなりの濃度で汚染されており,生き物も植物もまったく生きられない場所になっているようだ。
この荒れ果てた地にて,持ちうる手を尽くすだけ尽くし,多様性に富んだ自然を復活させていくのが本作の目的だ。マップは海辺や火山帯,廃墟が残る浸水エリアなどそれぞれ特色があり,フィールドの環境に合わせた生態系,つまりバイオームを作り出すことが,目的の達成につながっていく。
復興の第一歩となるのは動力の確保と汚染の除去だ。動力の確保とはつまり電力を発生させるということだが,その方法は風力,地熱,潮力といった再生可能エネルギーのみ。プレイするマップによって何が使えるかは決まっており,例えば,風力発電所は岩場の上といったように,基本的に建設可能な場所も限られている。
電力を供給できるのは発電所の周囲のみ。供給範囲が被らないよう気を遣いつつ,なるべくマップの隅々までエネルギーが届くようなところを選定し,発電所を建築しよう。
草木や美しい水を取り戻し,生き物が暮らせる土地にしたくても,汚染されきった土壌や海をなんとかしないことには話が進まない。動力の目処がたったら,まずは汚染の除去を進めよう。
最初は「発電所の範囲に毒素除去装置を設置して周囲の汚染を浄化」「さらに灌水機を設置して水を撒く」という,緑の大地を復活させるための基本的な作業となる2つに取り掛かることになる。
毒素除去装置と灌水機は効果範囲がかなり異なるので,これも効果範囲がうまく“重なる”ように設置するのが,スムーズに進めるコツだ。
注意してほしいのが,モノレールの整備などで一部移動が可能になる施設はあるものの,基本的に復興が一定段階まで進まないと施設の撤去はできないところ。
施設は基本的に(設置時に)その役割を終えると不要となるが,一部はあとで高度な施設への置き換えが必要になるし,何より一定の距離を置かないと同じものが配置できないタイプもある。つまり,考えなしに設置を進めると,のちの復興作業の妨げになることがあるのだ。もちろん,施設の設置には相応の資源を消費するのも忘れてはいけない。
設置のキャンセルはできるが,それも直近の一手のみ。気づいたときには必要な施設が置けなくなっていたり,資源が足りなくなって“詰んでいる”こともあるので,施設の整備は慎重に進めよう。
発電所の設置が可能な場所が限定される以上,どうしても動力を確保できずに復興が進まないエリアもある。掘削機などで地形そのものを変化させることで対応できるが,コストの消費が激しく,なによりそれが新たな環境破壊を引き起こすこともあるので,それだけは避けたいところ。
自然を取り戻すための行動で,環境破壊を発生させては本末転倒だ。状況的に避けられない場面はあるが,土地開発を進めるときは周囲への影響をしっかり考えてから決断をしよう。
森林,湿地帯,サンゴ礁……美しい環境を取り戻すため,気候の変化を利用しよう
ここまでの作業で緑が戻ってきたが,まだまだ復興への第一歩といったところ。多様性に富んだ環境にはほど遠い。
本作の復興はマップごとに3つのフェーズに分かれており,一定の条件,例えばフィールドの大部分から汚染を取り除き,草木を茂らせることによって次の段階に移行し,新たな施設が使えるようになる。フェーズごとに目的は大きく異なるので,段階ごとに頭を切り換えていこう。
動力の確保と汚染の除去に続いて取り掛かるのが,2つ目のフェーズとなるバイオーム形成だ。低地の水場には湿地帯やマングローブ林,海辺には砂浜やサンゴ礁,平地や高地には樹木が生い茂る熱帯雨林や森林地帯と,そのエリアに適したバイオームを整え,個性豊かな自然の形を取り戻していく。
手順は基本的に緑地と同じで,湿地や砂浜といった自然環境を作り上げる装置を設置していくことで環境が変化する。各施設は基本的に既存の施設を置き換えるか,特定の場所に設置するかになるので,緑地ほど自由に広げられるわけではない。
バイオームの上書きは瞬時かつ,条件を満たせば大規模に広がるので,その変わり様は一見の価値がある。
単なる草原だった場所が,あっという間に湿地や砂浜に変わるのは非常にダイナミックで,心地よさもある。最初は動植物の気配すら皆無な汚染地域であったことを思うと,その変化に驚くとともに,達成感や喜びが味わえるところが本作らしい感覚だろう。
マップによって作成できるバイオームは決まっており,条件どおりにバランス良く広げていくのがこのフェーズの目標だ。生成したバイオームは一部を除き上書きできないので注意しよう。
またこの段階になると,気候がバイオームと植物に大きな影響を与えるようになってくる。マップごとに気温,湿度,汚染度などの数値が決まっており,初期値は湿度や気温が低すぎたり,汚染が大きすぎたりとさまざまな問題を抱えている。復興と同時並行する形で,気候の調整にも取り組まなくてはならない。
主な手段となるのは,温暖化や寒冷化を進める施設の設置だが,これらはコストも高く設置可能な場所も限られる。場合によっては溶岩地帯を広めて温度を上げたり,水辺を増やして湿度を上昇させるなど,開発して地形を変えるといった手段を採る必要性も出てくるだろう。
温度を上昇させると,海岸にヤシが茂り,渡り鳥が戻ってくる。湿度を上げるとシダが生長して,水辺に花が咲く。温度を下げるとコケが生え始め,さらに寒さが厳しくなると氷山が形成される……といったように,気候の変化はマップ全体に影響を与える。
この中でもとくに効果が著しいのが,降雨や降雪だ。湿度の設定などの条件は厳しいが,フィールド全体に大規模な水分をもたらし,手付かずだった土地の汚染を除去した上に植物の一層の生長をもたらすなど,一気に環境が改善していく。さらに資源もたくさん手に入ることで,文字通りの天の恵みであり,大自然の力強さを感じられる演出になっていると言えるだろう。
それぞれのバイオームには最適な気候があり,それを整えると生育が一層進んでボーナスも得られるが,一方でその環境に合わないバイオームの生育が進まないこともある。この辺りが悩まされるところであり,自然を取り戻すということの困難さを感じられる部分だ。
そして何より,自然の恵みが直接的にプレイヤーのリソース増加に関わっている点が,実に自然環境の復興をテーマにした作品らしく,プレイを少し進めてその仕組みに気がついたときには深く感心していた。
立つ鳥跡を濁さず。木々が生い茂る場所で,数多くの動物の営みを取り戻し,そっと旅立とう
自然を取り戻したあとは,最後の“後始末”が始まる。
ラストとなる3番目のフェーズは後片付け。自然は本来,人の力を借りずに維持できる力を持っており,復興に利用した施設などは邪魔になるだけ。今まで建設した人工物をリサイクルして回収し,この地を去るのである。これで名実ともに,自然の楽園が取り戻されるというわけだ。
その前にやっておくことがある。取り戻した環境に,きちんと動物たちが“帰ってきた自然”で暮らしていることを確認しなければならない。目標となっている固有の動物たちは,生存できる環境をしっかりと整えておかないとその姿を拝むことはできない。動物たちの暮らしぶりは,目標はどの程度達成されたかのバロメーターとなるのだ。
方法は簡単で,観測所を設置してマップの任意の場所を音波でサーチするだけ。その土地がターゲットの動物の生存に適している場合,その動物を“見つける”ことができる。
広い草原に鹿が暮らし,蜂の巣がある森をヒグマが歩くといったように,条件を果たしたことで目標の動物たちの姿が確認できる。クリアのためにすべてを見つける必要はないが,より完璧を目指すなら,バイオームなどを調節して最後の環境整備を進めてもいい。
動物たちの暮らしぶりを確認したら,速やかに撤収作業に入ろう。移動用のエアシップ,あるいはロケットを打ち出すためのサイロを作成し,製作用の材料の回収を進める。前述のとおり,材料となるのは人工物。今まで建築した各種施設だ。
ドローンや移動用のモノレールなどを駆使し,各地に置かれた設備をリサイクルしていく。ドローンは便利だが,経路を設定する必要があり,ここで少々手こずることも。とはいえ仕事の完了まであと一歩なので,諦めずに進めていこう。すべてを回収し,人類(プレイヤー)の痕跡がなくなったらそのマップはクリアだ。
一つの地域をクリアするとまた別の地域に移動し,新たな土地の自然環境の復興を目指すことになる。寒冷地や熱帯などそれぞれ特色があり,さらに一部の地域では高濃度の放射能汚染帯が広がっているなど,なかなか一筋縄ではいかないマップも少なくない。現実にある問題に向き合うことになるので,ゲームの世界であってもそれらはシリアスに伝わってくる。
本作をプレイしていてとくに感じたのは,見た目からはあまり感じられないパズル要素の強さだ。
設置する施設や,それを建てる順番次第で復興の進み具合にかなりの影響が出て,場合によっては施設の効果がほとんど発揮できなかったり,資源が底を付き手詰まりになる。そんな“積む”要素が多分に含まれており,純粋な開発シムと思ってプレイを進めると少々,面を食らう。
終始一貫して人間がまったく登場しないのも特別な感覚がある。普段,文明や都市を発展させ,“人口を増やすこと”を目標とした都市開発シムをプレイしている人には,ぜひこの感覚を体験してほしい。
環境を復活させて終わりではなく,“ほぼすべての痕跡を消してそっと立ち去る”という辺りも,ある種の美学のようなものが感じられて面白い。自然が主役だけあって,復活したときのビジュアルの美しさもなかなかのものだ。
ステージ数が少なく,また自動生成マップではあるものの基本やることは変わらないため,同じマップをあらためてプレイした時の新鮮さはあまりない。一部文字化けがあるなどローカライズに難ありな部分も気になるが,ゲーム全体としての完成度は高く,繰り返し遊びたくなるシンプルなルールによる取っつきやすさが,それらをカバーしてくれるだろう。
一度失った自然を取り戻すことがいかに困難でどれほどの時間がかかるか,それを体験できることも大きい。収益の一部がアフリカで活動する自然保護団体に寄付されるため,ゲームを遊ぶことがプレイヤー自身の自然保護活動につながることも,本作を遊ぶ大きな意義にもなるだろう。
純粋に“パズル感覚のある環境構築シム”としても楽しく,ゲームを進めるごとにさまざまな自然環境や動物の生態などを知り,地球の環境問題について考える機会にもなるゲームなので,興味が湧いたらぜひプレイしてほしい。
「Terra Nil」公式サイト
- 関連タイトル:
Terra Nil
- この記事のURL:
Copyright 2021 Free Lives. All Rights Reserved.