インタビュー
[インタビュー]Miliは“新しいMili”であり続ける――「Limbus Company」などへ楽曲提供するMiliに,音楽の源流と今後の展望を聞いた
“ゲーム音楽で活躍するコンポーザ”は数あれど,その中でも極めて個性的な音楽性とスタンスを発揮しており,活動10周年(今年の8月で11周年)を迎えた今後もさらなる活躍が期待される彼らだが,その特異性はどこから来ているのか。
主題歌等を提供している「Limbus Company」(PC / iOS / Android)が2月27日にサービス開始されたタイミングで,その裏側を探るべく,MiliのCassie Wei氏とYamato Kasai氏へのインタビューを実施した。
難しくも楽しい,Project Moon作品の楽曲制作
4Gamer:
読者にはMiliに馴染みのない人もいるかと思いますので,簡単な自己紹介からお願いします。
Cassie Wei氏(以下,Cassie氏):
ボーカルのCassieです。私はカナダ人で,日本語・英語・中国語を話せて,Miliでは歌メロと歌詞も担当しています。
Yamato Kasai氏(以下,Kasai氏):
作曲を担当しているKasaiです。メロの大半はCassieに任せて,オケや編曲を担当しています。
4Gamer:
Project Moon作品への楽曲提供は前作にあたる「Library Of Ruina」に続いてですが,「Limbus Company」の「In Hell We Live, Lament」はMYTH & ROIDとコラボするなど,方向性は大きく異なっています。制作はどのように行われたのでしょうか。
「Limbus Company」に楽曲を提供するという話は,前作の発売前から持ちかけられていました。そこでProject Moonが「違う雰囲気の曲にしてほしいから,誰かとコラボしてみない?」と提案してきて,そのときに送ってもらったコラボ先を選ぶための参考曲に,MYTH & ROIDの曲が入っていたんです。
MYTH & ROIDのボーカル,KIHOWさんとはTwitterでつながりがあったので,そこで相談してみたんですよ。すごく喜んでもらえて,実現することになりました。
4Gamer:
Project Moonからゲームの資料提供などもあったかと思いますが,とくに重要視したポイントはどこでしょうか。
Cassie氏:
一番大事なのは「作品を通して何を伝えたいのか」ですね。Project Moonが描きたいメインテーマは何なのか,どういう価値観なのかを確認して,それに共感した部分を歌詞にしていったんです。逆に言えば,どのような曲調にするかにかかわらず,コアなメッセージ性がマッチすれば,歌詞を作れるんですよ。
Kasai氏:
ただ,具体的な要望はあまりなかったので,前回の印象を引っ張るのか,それとも全然違う路線で行くのか,序盤はけっこう悩みましたね。前作に提供した主題歌はジャズ調でしたが,今回はまったく違うアプローチをして,ジャンル的には「クラシカルベースのエレクトロニカ」という形にしました。
4Gamer:
Project Moonは作品ごとに楽曲のテイストを変えることを好む印象があります。第1作の「Lobotomy Corporation」ではEDM系の曲がメインでしたね。
Kasai氏:
Project Moonが僕らを知ったきっかけも,ファンがMiliのダンスミュージック系の音楽を使って「Lobotomy Corporation」のMVを作ってくれたことだったと思います。ただ,Miliにはいろんなスタイルの楽曲があるので,どのスタイルで対応していくかは難しいところです。
でも,基本的にシリアスな雰囲気という部分は最初に決まっていたかな。
Cassie氏:
3つの作品を作ってきた中で,Project Moonの人達やファンの皆さん,もちろん私達も,年齢が上がってきて相応の作風になった感じですね。
4Gamer:
Project Moonのゲームは設定やシナリオがいろんな意味で強烈ですが,提供された資料を見たときの印象などはいかがでしょうか。
Cassie氏:
強烈ですけど,基本的には「面白い」ですよね。発注された時点では脚本ができていない部分もあったので,方向性を分かりやすくまとめた設定資料を提供してもらったんですが,その時点で面白いんですよ。
4Gamer:
物語として起こされていなくても,エキサイティングな内容だったと。
Kasai氏:
僕は逆に,資料をもらっても詳しい設定は読まないようにしています。あまり知り過ぎちゃうと先入観に囚われてしまうので,概要だけ読んで,世界観を考えているんです。その中でのストーリーはCassieに作ってもらっています。
音楽の土台を作るにあたって,僕がもっとも重要視しているのは背景などに使われるイラストです。あとはプロットの概要的なものをいただいて,その世界に合うようなオケを作り,そこにCassieが資料を読み込んで作った歌詞を落とし込むんです。
Cassie氏:
舞台で言えば,Kasaiは大道具でステージを作って,私はそこに出演する演者という感じですね。
4Gamer:
「In Hell We Live, Lament」の中では,いわゆる“Mili語”が使われていますよね,
Cassie氏:
架空言語ですね。主人公であるダンテはイタリアの人名が由来なので(※1),イタリア語っぽい架空言語を大量に仕込んでいます。
※1 叙事詩「神曲」で知られる,フィレンツェ出身のダンテ・アリギエーリ。
4Gamer:
イタリア語をもとにして,本作用に新しく考えたということですか。
Cassie氏:
そうです。単語ごとに変形させたりして。だから,イタリア語やラテン語に通じている人は,単語ごとの意味が分かるかもしれません。そういうところから意味を探っていく,ちょっとした謎解きの要素にもなっています。
4Gamer:
架空言語というと,ゲームではゼビ語(※2)やパンツァー語(※3)など,いろいろなスタイルのものがありますが,Cassieさんは既存の言語をもとに制作するタイプなんですね。
※2 バンダイナムコエンターテインメントの「ゼビウス」などに用いられる言語で,架空の単語と英語の文法がベースとなっているらしい。アルバム「XEVIOUS 30TH ANNIVERSARY TRIBUTE」に収録の「ADDOR GUILENESS」などは歌詞がゼビ語で書かれている。
※3 セガの「パンツァードラグーン」シリーズに用いられる言語(ファンによる俗称)で,ラテン語と古代ギリシア語がベースとなっているらしい。「パンツァードラグーンオルタ」のエンディング曲「Anu Orta Veniya」などは,歌詞がパンツァー語で書かれている。
Cassie氏:
その方がリアリティが出ますよね。実際の言語も,みんな別の言語から派生したものですから。
4Gamer:
今のところ実装されているのは「In Hell We Live, Lament」の他,「Between Two Worlds」およびアカペラ版などのバリエーションですが,他に実装予定の曲はありますか。
Cassie氏:
現状は今ある曲だけなんですよね。Project Moonは綿密なスケジュールを立てるよりも,ノリで作っていくようなところがあるので,曲が必要となったら連絡が来て,開発スケジュールに間に合うように頑張って作っていく……という感じです。
Kasai氏:
「Library of Ruina」のときも,ある程度の曲数は伝えられていたんですよ。ですが,実際の制作は順々に「そろそろ欲しいです」とか,数か月空いてから「次の曲をお願いします」とか,ゲームの制作が進行するに従って依頼が来て。「Limbus Company」はアプリゲームですから,より顕著な形で,“必要になったら”連絡が来るんだろうと思っています(笑)。
Cassie氏:
いちおう「これからもいくつかお願いしたいです」という話はあるんですが,具体的にどういうシーンで使われるのかは分からない(笑)。
Kasai氏:
そうそう。どのタイミングで実装されるのかも分からないんだよね。
Cassie氏:
なので,そこはプレイヤーの皆さんと同じように楽しみにしています。
4Gamer:
一般的なプロダクト然としたものではなく,まさにインディーズゲームらしいスタイルで開発されているんですね。
Kasai氏:
ただ,注文は難しいんですよ。僕はゲームのサントラやテレビの劇伴もやりつつ,アーティストの一面もあったりして幅広くやっていますけど,それでも「今までで一番難しい」と思うくらいの依頼が来るんです。
Cassie氏:
しかもジャンルが毎回違ったりして。
Kasai氏:
なので「こんなの対応できる人は限られるぞ!」と思いながら作ってます(笑)。
Cassie氏:
自信を持って言えるのは「Mili以外でこれをやれるところはそうそうない」ということです(笑)。
Kasai氏:
曲ごとに,そのジャンルが得意な作家さんへ頼んだり,もともとオールジャンルに対応できる作家さんに依頼したりすれば別だとは思うけど,普通のアーティストでは難しいですね。アーティストは自分の特色を武器にしていることが多いですが,僕らは「いろんな色がある」ことを武器にしているので,そこはうまく噛み合ったと思います。
Cassie氏:
でも,Project Moonも「Miliなら作れる」と思っているから,そういう依頼をしてくるんだよね。
Kasai氏:
僕らもそれに応えたいと思っています。ただ本当に大変ですよ。渡したけれどボツになったり,自分で納得できなくて渡す前にボツにしたりして,前作なんて何曲をボツにしたか分からないくらい(笑)。
Cassie氏:
でも,やったことのないジャンルも,意外とやれたりするんだよね。「Library of Ruina」のジャズなんかも,やってみたら「なんか行けた!」みたいな(笑)。
メジャーになれるとは考えていなかった。だからこその“Mili”
4Gamer:
続いてMili自体についてのお話を聞かせてください。まず,どのようにして結成されたのでしょうか。
Kasai氏:
結成当時のメンバーは僕とCassieの2人でした。僕の曲を歌ってネットで公開しているボーカリストがいて,そこでメロディーをアレンジしているのが面白くて一緒に何かやってみたいと思って声をかけたのが始まりだったんですよ。
顔すら合わせたことがないまま結成して,その後ファーストアルバムとして流通するものを作っても,会うどころか,電話で話すこともなかった。
Cassie氏:
私はKasaiの声すら知らない(笑)。
Kasai氏:
それでも意外と作品を作れちゃうし,世に出せるんですよね。「DEEMO」に楽曲を提供し始めた頃は,まだ会ったことが無かったですし。
そんな中で,イベンターさんから「東京でMiliのライブをやってみないか」と誘われて,それでCassieが初めて日本に来たときに初めて会ったんです。
Cassie氏:
駅で会ったんだよね。
Kasai氏:
その後,Cassieが日本に住んでみたいということになって,いろいろな人達の協力もあってそれが実現しました。
Cassie氏:
Miliとして3年くらい活動して,初めて日本に来たんですが,数か月後にはもう移住してきたんです。それまで,ずっとメールとかで連絡を取っていて,ファーストアルバムのデータなんて全部TwitterのDM経由でやり取りしていたり(笑)。
4Gamer:
“現代ならでは”な感じだったんですね。
Miliという名称は,どのようにして決められたのでしょうか。……と言いつつ,小道具を用意してきたのですが。
Kasai氏:
そう,これが名前の由来なんですよ。ユニットの名前を探しているときに,センダックのイラストがすごく綺麗で目に止まったんです。グリム童話ですが,すごくマイナーな作品なんですよね。
ファンタジー要素が僕らにマッチしたのもあるんですが,こんなに綺麗な本なのに知られていないというのが,当時の僕らや,僕個人がやっていたことに似ていると思ったんです。
たぶんクリエイターなら誰もが似たような悩みに突き当たったことがあると思いますが,どれだけクオリティの高いものを作っても,個性を求めても,知られないものは知られないんですよね。それに,メジャーなものを作っているつもりは無かったですし,作っていける自信も無くて。
Cassie氏:
私も,Miliは「趣味としてずっとやっていくんだろうな」と思っていたんですよ。大学も理系で,音楽と関係ないことをやってきましたし……でも,意外と売れたね(笑)。
最初はこんなに売れるとは思ってなかったよね。
Kasai氏:
そもそも「売れよう」と思って始めていないから,当時の僕らには全然想像もできなかった状態だよ。
この本は,僕も一冊大事に持っていますが,イラストの雰囲気が良いですよね。美しさ,綺麗さの中に,ちょっとした怖さや不気味さ,狂気があったりする。最初は,この雰囲気を音楽的に表現できないかと考えていました。それで,Miliの音楽はファンから“鬱くしい”って言われたりするようになったりもして。
こうやって改めて見ても,やっぱり僕らに合っているなと感じます。今はファンタジーの世界観じゃない曲も作っていますが,このイラストにハマる曲はいくつかあると思いますし。
まあストーリー的には変だし,縁起の良いものでもないんですよね。簡単に言えば「海外版の浦島太郎」なんですけど。
Cassie氏:
でも浦島太郎にはメインテーマというか,“教え”みたいなのがあるよね? でも,これには教えすら無い(笑)。
4Gamer:
いろいろな奇跡を描きつつ,現実的な視点では何の救いもない形で終わりますよね。
Kasai氏:
雰囲気のある感じで話が進んで,雰囲気のままで終わっちゃう(笑)。
Cassie氏:
最終的に誰も得しないし,悲劇という描き方でもないから,ただ「淡々と進んで終わり」みたいな感じがする。
Kasai氏:
「それこそが運命だ」ということではあるのかもしれない。もしかすると翻訳の都合で,英語だと少し違うのかもしれないけど。
Cassie氏:
英語も同じ(笑)。
4Gamer:
音楽面のルーツ的なところに関して教えてください。もともとKasaiさんはクラシックを学んでいて,音楽活動を始める中でボカロPとしての活動をされていたとか。なかなか奇抜な選択だと感じます。
Kasai氏:
ボカロPをやっていた理由はいろいろありますが,一番は「音楽を仕事にしていくためにやらなければいけないこと」を考えるためです。
先ほども言いましたが,本当にやりたい音楽は,他の人が簡単に受け入れてくれるような,分かりやすいものではないと思っていました。ただ,分かりやすい音楽が嫌いかと言えば,そうでもない。なので,自分の好きな音楽をやる名義とは別に,ポップミュージックを考えるための名義を作ったわけです。
4Gamer:
なるほど。実験的なものだったと。
Kasai氏:
でも,マニアックでアーティスティックな曲の名義と,ポップミュージックの名義での活動を続けている中で,「これを一緒にしたら面白いんじゃないか?」と思いついたんですよ。「やりたいことをやる」か「売れる」かの二者択一ではなく,両方とも混ぜちゃおうと。この結論に至ったのはボカロPとしての活動のおかげですね。
数字的なところでは,分かりやすいものを作っている方が良かったんです。でも僕はそれに納得していなかった。
ランキングは2位まで行って,殿堂入りもして。僕が苦手なジャンルでもそこまでやれたから,挑戦としては終了することにしました。ただ,そこで得たノウハウはMiliでも活きています。
Cassie氏:
私が好きなのはマニアックな方の曲なんですよね。若かったのもあって,中二病な感じで,歌詞も人が大量に死んだりする暗いものだったりして。最初にカバーした曲もそっちです(笑)。
Kasai氏:
猟奇的な曲が多かった(笑)。
Cassie氏:
私は高校生だったかな。すごく響いて,それでカバーをYouTubeに上げたんです。
4Gamer:
異なるテイストを混ぜ合わせるという部分では,外部からの取り込みにも意欲的な印象があります。他誌の記事で「AKIRA」や「攻殻機動隊」などに影響を受けていると拝見しましたが,それを踏まえて曲を聴くとシンセの入り方に川井憲次的なテイストが感じられたりもして。
Kasai氏:
劇伴だったりゲーム音楽だったり,ポピュラーなアーティストさんの楽曲も含め,ジャンルを問わず満遍なく聴いていて,インパクトがあったり,新しいアプローチをしていたりする作品から勉強するようにしています。
ただ,それを取り入れるかは自分の肌に合うか次第ですね。いろいろな人の良さを吸収して,自分の形にできるものは取り入れつつ,自分の形で表現していきたいと思っています。
4Gamer:
「新しいものを取り入れる」という点で言えば,TENORI-ON(※4)やOP-1(※5)などを使われているあたり,新奇性のあるガジェットもお好きなのでしょうか。
※4 ヤマハと,現在は絵本作家である岩井俊雄氏とのコラボレーションで開発され,2008年に発売された電子楽器。文化庁メディア芸術祭では「ゲーム機のようなインターフェース」と評されたが,実際のところプロトタイプ的なものはワンダースワン用ソフトとして開発された。
※5 2011年に,国内ではメディア・インテグレーションから発売されたシンセサイザー。開発のTeenage Engineeringは「Pocket Operator」でカプコンとコラボしたり,ゲーム機「Playdate」の開発に関わったりもしている。
Kasai氏:
ガジェットは大好きで,Miliとしての一曲目もTENORI-ONを使ったものでした。僕は“変わらない”というのが一番怖いんですよ。だから,表現でもテクノロジーでもガジェットでも,なるべく新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。
Cassie氏:
それに,“触る”ことが大事だよね。家には何台あるか分からないほどのアナログシンセがあるし(笑)。
4Gamer:
最近ハマっているガジェットなどはありますか?
Kasai氏:
1つというのは難しいですし,今はカメラに興味があったりするんですが……やっぱりシンセ全般ですね。分からない人からしたら同じに見えるようなものでも,細かいところが違っていて面白いんですよ。
音を作っていて「これだ!」と理想にハマった瞬間がすごく気持ち良くて。いい音ができると,いいフレーズが生まれることにもつながります。
4Gamer:
フレーズに合う音を探すのでなく,音からフレーズを作るタイプなんですね。
Kasai氏:
僕の場合,とくに音の印象ですね。良い音には,それが活きるフレーズを付けてあげたくなるんですよ。そういう音をひたすら探るのが楽しいんですよね……たぶん,傍から観たら超地味な作業なんですけど(笑)。
Cassie氏:
一番好きな機材って何かな。例えば,火事になって1台しか持ち出せないとしたら,何を選ぶ?
Kasai氏:
難しいけど……Prophet-5(※6)かな。ビンテージってのもあるけど,アナログシンセはエミュレートしても再現しきれないからね。
※6 Sequential Circuitsが1978年に発売したポリフォニックシンセサイザー。当時としては極めて高性能(かつ高価格)で,シンセ界のトップランナー的な存在だった。イエロー・マジック・オーケストラやTM NETWORKが使っていたことでも有名。
4Gamer:
Minimoog(※7)は回路を構成しているパーツの精度が高くなかったからこそ厚みのある特有の音が出たとか,そういう話は聞きますね。
※7 Moog Musicが1971年に発売したモノフォニックシンセサイザー。Emerson, Lake & PalmerやKraftwerkなどでの使用が有名。2012年にはDoodleで簡易的に再現されたりもした。
Kasai氏:
そうなんですよ。僕はとくに電源が原因じゃないかと思っていて。当時の機材って効率に無駄があるから電源がデカいんです。後年に出たリイシュー版はサイズが小さくなっていますが,ワット数や電力消費も変わってしまって,それで同じ音が出るわけがない。
消費された電気のぶんだけ,第六感か何かで音の厚みを感じるんじゃないでしょうか。今だと「環境に悪い!」と言われるかもしれませんが(笑)。
機材倉庫最高です… pic.twitter.com/dTd5gntDDg
— Yamato Kasai (@HAMOloid) April 9, 2023
4Gamer:
Cassieさんの音楽的なルーツは,どのようなところにあるのでしょうか。
Cassie氏:
私は幼稚園から小学校低学年の頃までバイオリンやピアノを親にやらされていましたが,好きになれなかったのでやめて,そこから音楽は一切やっていませんでした。
聴くのは好きなんですけど,音楽以上にやりたいことがいっぱいあって,中学生の頃は絵を描いたり,高校生の頃はプログラミングをしたりしていました。どちらかと言えば理系のほうが肌に合っていたので,大学も工学部を選んで。
でも“歌ってみた”は中学生の頃からやっていたんです。友達の曲でミックスを手伝ったりもしていて。そこから趣味として始めたMiliが思った以上に成功したので,音楽での自己表現をやっていこうと思ったんです。
だから,明確な音楽のルーツって無いんですよね。楽譜も読めないですし,コードもよく分からない。最近はけっこう巧くなってきましたが,最初は完全に勘でやっていました。
4Gamer:
それですと,人種や土地柄などからもあまり影響を受けていない感じでしょうか? 「日本在住の中国系カナダ人」という立ち位置が,表現性にもつながってるのかなと思っていたのですが。
Cassie氏:
いえ,それは結構あると思います。
子供の頃からいろんなところに住んでいたんですよ。生まれは中国の北京で,そこからお母さんの地元である内モンゴルに行って,カナダに数年間住んで,また中国に行って,次はアメリカに住んで,カナダに戻るという……親がいろんなところで働いていたので,転々として。そして21歳か22歳のとき日本に来て,大人になってからほとんどの時間は日本で過ごしていますが,例えば子供の頃に中国で当たり前だと思っていたことが西洋文化ではそうじゃなかったり,違うところがいろいろあるんですよね。
でも,そのどれも好きなんです。世の中“何でもあり”だと思っていて,だからいろいろ試してみたくなるんです。
4Gamer:
特定の基盤というより,いろいろな視点で捉えること自体がベースとなっている感じですね。
Kasai氏:
やっぱり「楽しみたい」という動機は大きいですよね。音楽的には僕自身が書けるかどうかというのが大きいんですけど,気持ちとしてはいろんなことに挑戦して,いろんなジャンルの曲を作っていきたいんですよ。なかなか聴いたことがないような組み合わせを試すときは楽しいですし。
逆に,ずっと同じような曲ばかり作ってると,すごく苦しくなってくるんです。
4Gamer:
そのお話からつなげるのも何ですが,ゲームのサウンドトラックを作るときはどうなのでしょうか。つまり「Ender Lilies」に関してですが,一貫したテーマのもとで複数の楽曲を作らなければならないわけですよね。
Kasai氏:
あれは僕の肌に合っていたので楽しかったです。例えばアニメでも,元気な曲から悲しい曲まで用意する必要がありますが,それらは全部“作品のために作る”という目的があるから良いんですよ。
苦しいのは,例えば「ゴブリンスレイヤー」とは全然違うコンテンツを作ろうとしているところから「『ゴブリンスレイヤー』の主題歌みたいな曲を書いてほしい」と,しかも複数の企業から同じようなことを言われるような場合です。
異なるコンテンツに似たような曲を量産することは,僕にとってもコンテンツにとっても不健康ですから。そのコンテンツに合わせたカラーや表現を用いるのが本当はベストなんです。
Cassie氏:
そういう場合って,クライアントさんが「本当はどういう曲にしたらいいのか分からない」ということが多いんですよね。分からないけど,成功させたいから「成功したコンテンツみたいな曲を作ってください」と発注してくる。
Kasai氏:
分からない場合は,そこを考えるのも僕らの仕事ですね。
Cassie氏:
そういう風に任せてもらえると,オリジナリティのある曲が作れて良い結果になるよね。これは断言できる。多くの人が関わっていると難しいのかもしれないけど,“投げる”って大事なんですよ。
4Gamer:
ゲームに関してのお話をうかがわせてください。例えばKasaiさんですと,ソロ活動時にゲーム音楽をコンセプトにしたオリジナルアルバムを作られていたとか。
Kasai氏:
そもそも僕が音楽に興味を持ち始めたのがゲーム音楽だったんですよ。小学生のとき「クロノ・トリガー」の「風の憧憬」(※8)を聴いて,「ゲーム音楽ってこんなに綺麗なんだ……」と心を打たれたんです。「ドラゴンクエスト」のフィルなどを聴いたりもしていましたが,一番はそれでした。
※8 中世(600A.D.)のフィールド曲で,作曲は光田康典氏。以下のSpotify音源はニンテンドーDS版のもの。
Kasai氏:
今はもう鉄板中の鉄板というか,皆が知っているような曲ですが,当時はかなりの衝撃を受けたんです。何か楽器をやってみようと思い始めたのも,そこからですね。
ただ,芸術だろうがエンタメだろうが,関心のあるものは手を出していきたいとも思っていて,ゲーム音楽への憧れはずっとありつつ,アーティストやバンドという方向性で活動を広げていきました。それが今ではゲームにも主題歌や楽曲を提供できるようになって,僕がやりたいことを全部やらせてもらっています(笑)。
4Gamer:
「クロノ・トリガー」以外では,どのようなゲーム音楽やコンポーザから影響を受けているのでしょう。
Kasai氏:
小学生の頃に憧れたのは,やっぱり植松伸夫さんですね。それと伊藤賢治さん。あと浜渦正志さんや古代祐三さん,菊田裕樹さんも大好きで聴き漁っています。こういった方々は大きなルーツのひとつです。そういったゲーム音楽や,学んできたクラシカル,ロックをやってきた経験などを全部混ぜ合わせたことで,今のMiliが出来上がったと思っています。意識してそうしたわけではないんですが,「Miliの歌はゲームのBGMっぽい雰囲気がどことなくするんだけど,何でだろう?」と言っているファンもいたりするんですよ。
Cassie氏:
私も子供の頃からゲームが好きなんですがジャンルは全然違くて,“ザ・オタク!”向けのコンテンツが大好きなんですよ。腐女子ですし。
最初に日本語を覚えようとしたのは,ビジュアルノベルが翻訳されていなかったからでした。それに,ゲームだと台詞が文字と声で表示されるから,勉強に良いんです(笑)。
ゲーム音楽も好きですけど,どちらかというと日本のゲームはストーリーの幅広さがすごいと思いますね。男性向けの作品も女性向けの作品もプレイしているんですが,どれも面白くて。そういうゲームから歌詞に影響を受けたりもしているんですが,ノベルゲームは意外と知っている人が少ないので,ちょっともったいないですね。
これからのMiliが目指すものは
4Gamer:
Miliの今後に関するビジョンなどについてお聞かせください。
Kasai氏:
より幅広く,かつ深くやっていきたいですね。いろんなジャンルにアプローチできて,ありがたいことに全然違う曲でも好評を得られている。これを,よりしっかりしたものにして,もっと広い層に知ってもらいたいと考えています。
ちょっと変な言い方にはなりますが,“今のまま”でありつつ,ライトユーザーにもしっかりアプローチしていければと。例えば,今を「ファンが1000人いる」状況だとしたら,一気に拡大するのではなく「次は2000人を目指そう」くらいに,ゆっくりとステップアップしていければと思っているんです。
4Gamer:
Miliらしい試行錯誤は重ねつつ,その延長線上で今までMiliを知らなかった人にも音楽を届けていこうという形ですね。
Cassie氏:
私の個人的な目標としては,Miliの曲を原作とした“音楽発のオリジナルゲーム”を作りたいですね。歌詞を書くとき物語性を重視していて,実は細かいストーリーがあるので,それをゲームにしたいんですよ。Miliも売れてきたし,私は実現可能だと思っています。
4Gamer:
ゲーム業界で関わってみたいメーカーや,コラボしてみたいコンポーザさんなどはありますか。
Kasai氏:
全部のゲーム会社さんとやりたい……というのも欲張りすぎですね(笑)。
子供の頃からの想いで言えば,スクウェア・エニックスさんの据置機向けのゲームに関わってみたいです。
4Gamer:
スクウェア・エニックスとの関係で言えば,今のところはCassieさんが「NieR: Automata」のアレンジアルバムで歌われていたくらいで,直接的なものは無いんですよね。
Kasai氏:
あと僕は「ダークソウル」が大好きで,シリーズも全部プレイしているんですよ。ただ,フロム・ソフトウェアさんと今の僕らが本当に噛み合うかという部分では,まだその域に達していないんじゃないかと躊躇する部分もあるんですよね。やっぱり,コンテンツにバッチリとハマったアーティストが起用されるのが幸せですから。
4Gamer:
確かにソウル系のタイトルはコンセプトが尖っている分だけ,無理に合わせると個性が衝突してしまうのかなという気はします。「
Cassieさんはいかがでしょうか。
Cassie氏:
強いて挙げるなら「アトリエ」シリーズですね。
ただ,私は「ファイアーエムブレム」とか「逆転裁判」とかが大好きなんですけど,自分の好きなゲームとMiliの音楽があまり合わないんですよ。(笑)。
“ゲームは何かを食べながらやるもの”だと思っているくらいだから,とくにアクションゲームはすごく苦手で。実況プレイ動画を見たりするのは好きなんですが(笑)。
4Gamer:
好きなゲームと音楽の相性という部分ですと,中国で事前登録を実施中の「Welcome to Dreamland」への楽曲提供は,どういう感じなんでしょう。バリバリの乙女ゲーという雰囲気ですが。
Cassie氏:
ファンタジーというテーマが共通していたので,うまくいったのかもしれないですね。乙女ゲーとはちょっと違うんですけど,colyさんの「魔法使いの約束」(iOS / Android)というゲームとの相性も良いんです。
それに乙女ゲーへの提供は,ファンの男女比率を5:5くらいにしたくて頑張っている部分もあります。「Ender Lilies」とか「Limbus Company」とか,やっぱり難しいゲームは男性プレイヤーが多くなりがちなんですよね。それが悪いというわけではないですけど,多くの人に曲を届けるという意味では,そこを5:5にしていきたいんです。
4Gamer:
最後に,読者へのメッセージをお願いします。
Cassie氏:
ぜひ「Limbus Company」をやってください!
Kasai氏:
新曲があるか,いつどこで使われるか,皆さんと同じように楽しみにしています。
4Gamer:
「Limbus Company」が盛り上がるほどMiliによる新曲の可能性が高まるというのは,ある意味「ファンと一緒に作っていく」スタイルで,ファン冥利に尽きるところかと思います。本日はありがとうございました。
■読者プレゼントのお知らせ
絵本「Dear Mili」にCassie氏&Kasai氏のサインを入れて,日本語版/英語版を各1名にプレゼントします。募集は5月8日に掲載予定の「Weekly 4Gamer」2023年5月1日〜5月7日回で行います。応募に関する詳細や個人情報保護方針などは,「Weekly 4Gamer」の記事上でご確認ください。
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- 編集部:早苗月 ハンバーグ食べ男
- カメラマン:永山 亘
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