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[インタビュー]理不尽だらけの「ドルアーガの塔」の攻略とは,どんな世界だったのか?40年前の若者が“この世の真理”を追い求め,燃え尽きるまで
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印刷2024/07/20 10:00

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[インタビュー]理不尽だらけの「ドルアーガの塔」の攻略とは,どんな世界だったのか?40年前の若者が“この世の真理”を追い求め,燃え尽きるまで

 2024年7月,アーケード版「ドルアーガの塔」が,全国のゲームセンターで稼働を開始してから40周年を迎えた。ナムコ(当時)からリリースされたアクションRPGで,「ゼビウス」などで知られるゲームクリエイターの遠藤雅伸氏が企画・開発を手がけたタイトルだ。


 本作では,主人公の騎士ギルが,悪魔のドルアーガにさらわれた巫女のカイを救出すべく,幾多のモンスターが待ち受ける60階建ての塔を上っていく。ゲームの基本的な流れは,迷路になった各フロアに落ちている鍵を拾って扉にたどり着き,次のフロアに進むサイクルを繰り返していくというものだ。

 だが,それだけで終わるゲームではない。重要なのは,各フロアに隠された宝箱を出現させて,各種の宝物を獲得していくことだ。宝物にはさまざまな効果があり,ギルの力が上がったり,敵であるゴーストが見えるようになったりといった,モンスターとの戦いで有利に働くものや,より上層のフロアにあるの宝物を獲得するために必要なものなどがある。

 その一方で,ギルの体力を一定値まで減らしてしまう宝物や,特定の宝物を所持していないとマイナス効果が発動してしまうアイテムなどもあり,なかなか油断できない。

 本作は高難度のゲームとしても知られているが,それは宝箱を出現させる条件のヒントがゲーム中に一切示されず,かつその条件の多くに法則性のようなものがまったくない──言い換えれば理不尽な条件だったことが理由だ。

 たとえば7階では,1フロアにつき4〜5回壁を壊せる「シルバーマトック」を獲得できるが,その宝箱の出現条件は下位アイテムにあたる「カッパーマトック」(1フロアにつき2回壁を壊せる)を使い切ることである。

 しかし,このゲームで「マトックを使い切る」ということは,マトックがそこでなくなり,以降のフロアで使えないことを意味する。普通のプレイヤーであれば温存することを考え,意図的に使い切ろうとは思わないはずだ。「7階にシルバーマトックがある」ということが分かれば「もしかして……」と思い至るかもしれないが,その情報もゲーム内には存在しない。

 また22階の宝箱は,「右7回,左1回,右7回」の順にレバーを入れると出現する。こうした格闘ゲームのコマンド入力のような条件はほかのフロアにもあるのだが,それらには関連性も手がかりもなく,普通にプレイしていてはまず満たすことができない。運良く宝箱が出現しても,何が条件だったのかを推測することが難しい。

 その上を行く理不尽さなのが,宝箱が出現しないフロア(25階と55階)だ。この2つのフロアと,ラスボス戦の舞台である59階,エンディング的な60階を除くすべてのフロアに宝物があるため,「何が条件なのだろうか」と,存在しない宝箱探しに小遣いを注ぎ込み,必死に試行錯誤を繰り返したプレイヤーもいたのではないだろうか。
 そんなプレイヤーが,のちに「このフロアは宝箱なし」という情報を知ったとき,どんな思いを抱いたのか考えると,本当に気の毒になる。

一方で,最初から宝箱が出現しているフロアもあるが,その宝箱を真っ先に取ってしまうとクリアは不可能に。条件を満たして出した2つめの宝箱に続く形で取らなければならないのだが,その順番についてもゲーム内に説明やヒントはまったくない
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 「ドルアーガの塔」の稼働開始から半年ほど経った頃,全フロアの攻略情報が雑誌「マイコンBASICマガジン」に掲載され,その後に攻略本も出版されるなどして,すべての宝箱出現条件が明らかになった。近年リリースされている移植版の多くでは,ゲーム内で宝箱の出現条件を確認できるようになっている。

 それらの条件を今眺めた人達は,「こんなの分かるわけないだろ(笑)」と呆れるかもしれない。しかし40年前には,それを解明しようと連日ゲームセンターに足を運び,何時間もプレイしていたゲーマーが少なからず存在していた。

 その1人が,アーケードゲーム専門誌「ゲーメスト」(1999年に休刊)にて編集長を務め,現在はゲームライターとして活動している石井ぜんじ氏である。今回,石井氏に,40年前の様子を振り返ってもらった。

石井ぜんじ氏
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※記事中のスクリーンショットは「アーケードアーカイブス ドルアーガの塔」のものです


プレイ前から“不自然”なゲーム


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。さっそくですが,「ドルアーガの塔」の稼働が始まった1984年7月,石井さんはおいくつで,何をされていましたか。

石井ぜんじ氏(以下,石井氏):
 ちょうど20歳くらいですね。僕は一浪して大学に入ったので,大学1年のとき。その後大学を中退して編集者になるんですが,まだかろうじて勉強していた頃でした。でも,ゲームは結構やってた気がします。

4Gamer:
 「ドルアーガの塔」を知ったのは,いつでしたか。ナムコからの発表があったんでしょうか。

石井氏:
 発表はなかったと思います。当時はアーケードゲームの事前情報が出ること自体がほとんどなかったですし。
 何がいつ出るか,基本的には分からない。のちに「マイコンBASICマガジン」などが事前情報を掲載するようになってから,多少情報が出回るようになったのかな。ともかく,実際にゲームセンターに行ってみないと,何がいつ出たのか分からない状況でした。

4Gamer:
 初めて見た「ドルアーガの塔」に,どんな印象を抱きましたか。

石井氏:
 普通に「ナムコの新作がついに出たか」と。ナムコの人気は「ギャラクシアン」「パックマン」「ラリーX」「ギャラガ」「ディグダグ」あたりですごく高まりましたし,「ゼビウス」が大ヒットして,雑誌などでも特集が組まれるようになって,ナムコファンやナムコ信者と呼ばれる人達がどんどん生まれました。それで「『ゼビウス』の続編は出ないのか」などと盛り上がっていたタイミングで出てきたのが,「ドルアーガの塔」だったんです。

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4Gamer:
 石井さんご自身もナムコファンでしたか。

石井氏:
 はい。ナムコ系列のゲームセンターに通っていて,高校3年から予備校時代に「ゼビウス」をやり込んだナムコファンでしたから,その嗜みとして「ナムコのゲームなら,とりあえず全部触る」と決めていたんです。
 なので,「ドルアーガの塔」もとりあえずプレイしました。でも「ドルアーガの塔」は,プレイする前の段階からかなり不自然なゲームなんですよね。

4Gamer:
 具体的には,どのあたりでしょうか。

石井氏:
 デモ画面がないんです。普通,アーケードゲームはデモ画面を流すことでどんなゲームかを伝えるので,それがないと遊びづらくなります。デモ画面は,一種のチュートリアルなんですよ。でも「ドルアーガの塔」にはそれがない。

4Gamer:
 デモ画面から得られるはずの情報すら与えられなかったと。

石井氏:
 そう。意図的に不親切をやっている印象を受けますよね。

4Gamer:
 最初のプレイがどんな感じだったか教えてもらえますか。

石井氏:
 あまり覚えてないのですが,宝箱の出し方を探して,宝物を手に入れて自分を有利にしていくゲームだということは,かなり早い段階から認識していたと記憶しています。
 「ドルアーガの塔」は基本的に何も教えてくれないんですよね。デモ画面がないのもそうだけれども,最初から教える気がない。普通,こんなゲームを作ろうとしたら絶対怒られますよ(笑)。

4Gamer:
 聞けば聞くほどプレイしづらそうですが,石井さんはどのようにして「ドルアーガの塔」にハマっていったのでしょうか。

石井氏:
 自分が「ドルアーガの塔」の何にまず惹かれたかと言うと,モンスターだったんですよね。得体の知れない存在がいて,殺伐とした雰囲気に満ちているという架空の世界観を持ったゲームが,ほかにあまりなかったんですよ。
 たとえばクオックスは巨大な炎を吐くし,ローバーは得体のしれないイソギンチャクみたいな謎の生物だし。クオックスをはじめとしたドラゴンが出てくるフロアの音楽もすごくおどろおどろしいんですよね。そういったイメージ自体が,黎明期のゲームとしてはかなり画期的だったと思います。

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4Gamer:
 ゲームのグラフィックスや音楽が,そういった雰囲気をある程度表現できるようになってきた時代だったわけですね。

石井氏:
 そうですね。それ以前の丸や三角,四角を組み合わせたキャラクターで表現するのは難しい世界です。その意味では,ホラー系ゲームは技術の進化に応じて怖さが増していくんですよね。
 「ドルアーガの塔」は,ファンタジーものとしても相当に早いんです。ゲームブックの「火吹山の魔法使い」やPCゲームの「Wizardry」が1980年代初頭に輸入されてきて,それを受けて国産のファンタジー系PCゲームが作られるようになり,そこそこ売れたタイトルが出てきたのが1984年頃ですから,それとほぼ同じ時期ですよね。


宝箱を見つけることは“この世の真理”を解き明かすこと


4Gamer:
 惹かれる要素があったとはいえ,宝箱を出す条件は理不尽で,そう簡単には見つけられませんよね。それでもプレイを止めようとは思いませんでしたか。

石井氏:
 アーケードゲームは,1プレイいくらで稼ぐモデルになっていることもあって,基本的に難しいんですよ。とくに当時のものは,「とにかく早く死ね」という設計になっていたので(笑),プレイヤーもそれに慣れているところがあったんです。
 「ドルアーガの塔」は不親切で,今なら「何じゃこりゃ」という感じですけれど,当時は「ゲームとは自分で道を切り開くものである」みたいな共通認識が何となくあったから,「こんなものかな」と思いながら遊んでいました。1面もクリアできないようなゲームではなかったですし。

4Gamer:
 確かにオールクリアを目指さなければ,宝箱を探さず“普通のアクションゲーム”としてもプレイできるゲームかもしれませんが……慣れとは恐ろしいですね(笑)。
 では宝箱の条件はどうやって探していたんでしょうか。

石井氏:
 「ドルアーガの塔」をプレイする中で知り合った仲間と協力していました。
 いつも行っているゲームセンターに「ドルアーガの塔」で遊んでいるプレイヤーがいたんです。そいつは宝箱の出し方をよく分かっていないけれど,プレイがうまくて,画面が真っ暗になったり,鍵がどこにあるのか分からなくなったりする中,延々と続けているんです。

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 見るに見かねて,「この階で宝箱を出して取ると,暗くならないんですよ」と話しかけたのが,交流の始まりでした。そいつはドルアーガの塔を「真っ暗になったり,鍵が見えなくなったりするフロアを進んでいくゲーム」だと思っていたらしいんです。「変わった奴だな」と思いましたが,そこから仲よくなって,2人でチームを組んで宝箱を見つける作業に入っていきました。

4Gamer:
 それはかなりの凄腕というか,大物ですね(笑)。石井さんご自身は,真っ暗になったフロアを初めて見たとき,「これはどこかの階で宝を手に入れる必要があるんだな」とすぐに気付きましたか。

石井氏:
 あまり記憶にないんですが,「1フロアに1個宝箱があるから,それを探して見つけないといけない」という気持ちを,早い段階から持っていたように思います。とにかく宝箱を見つけようと。

4Gamer:
 そういう仕組みのゲームであると理解していたんですね。

石井氏:
 当時のアーケードゲームでは1コインクリアが1つのステータスになっていましたが,ドルアーガの塔に関しては,そういう事情もあって,1コインでクリアしようという発想は浮かばなかったですね。とにかく最後を見たい,そのためには宝箱を探さなくちゃならないと。
 もうメチャクチャのめり込みました。その間は大学にも行かずに,毎日朝から晩までゲームセンターに入り浸っていたんじゃないかな。

4Gamer:
 そこまでハマりましたか。

石井氏:
 これまで40年以上ゲームで遊んできた中で,「ドルアーガの塔」以上に衝撃を受けたゲームはないですからね。実際に遊んでいた期間は短いんですが,体験としての衝撃度でこれに勝るゲームはまだありません。

4Gamer:
 数多くのゲームを見てきた石井さんがそこまで断言するんですね。

石井氏:
 宝箱の条件を見つけたときの感情は,科学者が何かの法則,言い換えれば“この世の真理”を見つけたときのものに近いと思っているんです。
 宝箱があるはずなのに出し方が分からない。それを毎日,ああでもないこうでもないと何時間もかけていろいろ試す。そして初めて画面に宝箱が出現した時の衝撃は,言葉になりません。その後は何が正確な条件なのか,絞り込んでいく作業になります。

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4Gamer:
 なるほど,仮説を立てて検証し……といったところは科学に近いかもしれませんね。

石井氏:
 当時はインターネットなんてありませんし,まだ雑誌などにも情報がない中,知り合いとチームを組んでいろいろ考えるんですよ。所詮は画面とレバーとボタンしかないので,できることは限られますし,人間が思いつくことにも限界がありますから,ものすごく複雑な条件じゃないだろうと読んでいました。

4Gamer:
 時間制限もありますしね。

石井氏:
 それらを踏まえて,テキストで言えば20字くらいで表現できる条件を考えていきました。たとえば「カッパーマトックを全部使い切ると宝箱が出る」とかね。

4Gamer:
 そういった条件を思いついて,すぐ実行に移せるものですか? 重要なアイテムを使い切ることは,なかなか勇気がいることだと思うのですが。

石井氏:
 知り合いには,フロアの壁をすべてマトックで壊したり,フロアをしらみつぶしに動き回ったりして「出ないな」みたいなことをやる奴とか,1フロアの攻略に1万円をかける奴もいましたから。

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4Gamer:
 1プレイ50円としたら200プレイですか。だったら,マトックを使い切るぐらいのことは当たり前に試せますね。

石井氏:
 僕自身はどちらかと言うと総当たりのようなことはやらず,人間の思いつきそうなところから詰めていくタイプでしたね。

4Gamer:
 「ドルアーガの塔」はマップ全体が常に映っているわけではないので,宝箱が出現したタイミングが分からない場合もありますよね。それを見つけて「アレ,これどうやって出したんだろう」と思ったことはありましたか。

石井氏:
 あったかもしれない。でも1回宝箱を出せば,だいたい条件を突き詰められる。宝箱が出ないまま,五里霧中でさまよっているときよりはよほど簡単です。

4Gamer:
 そういうものなんですね。石井さん自身は,最終的にどのくらい条件を自力で見つけたのでしょうか。

石井氏:
 たぶん,7割くらいじゃないですかね。その7割というのは,チームで見つけたものを「自力」とするならば,という話です。
 ただ,その中にも情報として流れてきたものがあるから,実際のところは分かりません。情報を集めるのも攻略の一部だったんです。
 「ドルアーガの塔」をやり始めてから,地元だけでなくいろんなゲームセンターに行って,新しい情報がないか確認していました。知り合いが見つけた情報もいっぱいあって,そのあたりがごちゃ混ぜになっているんですよ。

4Gamer:
 見つけた条件の中で,強く印象に残っているものはありますか。

石井氏:
 実はあまりないんですよね。逆に,特定できなかったもののほうがよく覚えています。以前SNSでも話題にしたんですけれど,31階の宝箱が出るときと出ないときがあって,条件がまったく分からなかった。
 結局,普通ならゲームスタート時にしか使わない「1Pボタンを押す」というのが正解で,宝箱を出せたのは,知らないうちに膝が1Pボタンを押していたからだったんです。宝箱が出ているのに条件を詰め切れなかったので,すごく印象に残っています。

4Gamer:
 31階の理不尽さを語る人は多いですよね。
 個人的に「ドルアーガの塔」はファミコン版を最初にプレイしたんですが,31階の条件は「セレクトボタンを押す」になっていて,「必死に探していたらとりあえず押してみるかもしれないな」という印象があったんです。アーケードゲームの1Pボタンというのは,それとはちょっと違うんですか。

石井氏:
 あれは“ルール違反”ですよ。レバーとボタンだけで操作するのがアーケードゲームで,プレイ中に1Pボタンを操作させるゲームはそれまでにもなかったと思います。だから当時は,あれが一番酷いと言われていた。みんな「こんなの分かるわけないだろ」って文句を言ってました。

4Gamer:
 酷いと言えば,「宝箱なし」というフロアも相当酷いと思うのですが,そこは石井さんとしてはそれほど気にならなかったのでしょうか。

石井氏:
 そこを酷いと思った記憶はないですね。あくまで目標は「最後を見る」でしたから,ある程度探して見つからなければ,そのままにしていました。
 そもそも,宝物の中にはマイナスの効果を発動するものもあるから,宝箱が出たからいいってわけでもないですし。
 薬は正確な効果がわからなくて「赤い薬はあからさまにヤバい色だから,取ったらダメだろう」くらいで何となくプレイしていました。実際にとって効果を確かめてみることもあったような気がしますが。

4Gamer:
 あぁ,条件はもちろんですが,取った宝の効果が説明されないのもかなり理不尽ですよね。

石井氏:
 たとえば「青い薬は体力が回復する」「バイブルはフロアに明かりを灯す」みたいに,プラスの効果があるものはすぐ分かるんですよ。でもゲームを進めていくと,取ったのに効果が分からない宝物がいくつも出てくる。
 そのうち,「このゲームでは,宝物すべてがいいものではないんだな」と薄々分かってきて,「もしかしたら何の意味もない宝物もあるかもしれない」くらいの予測はしていました。

4Gamer:
 意味がないアイテムや,空の宝箱が出るフロアがありましたから,その予測は当たっていたわけですね。


段ボールで画面を隠すプレイヤーは本当にいた


4Gamer:
 当時の「ドルアーガの塔」攻略に関しては,都市伝説めいたエピソードもありますよね。よく聞くのは「段ボールで画面を隠しながらプレイする人」の話です。

石井氏:
 「面白おかしく言ってるだけ。そんな奴いないよ」といった声も聞きますけど,僕は目の前で見ましたからね。
 攻略を進めているときに,「『ゲームブティック 高田馬場店』では,もうクリアしたプレイヤーがいる」みたいな情報が入ってきたんですよ。それで遠征したら,段ボールで画面を隠して「ドルアーガの塔」を遊んでいる人がいたんです。
 ただ,それは照明の反射を避ける意味合いもあったと思います。当時のテーブル筐体は,画面が真上を向いているので,天井の照明で画面がよく見えなくなる。それを防ぐために,段ボールを切り取ったものを被せると,周囲からは画面がほぼ見えなくなります。

4Gamer:
 その光景を目の当たりにして,どう思いましたか。

石井氏:
 よく聞かれるんですけれど,何とも思わなかったというか,隠すのも当然でしょうと。頑張って自分で見つけたんだから,ほかの人に教えたくないのは分かるし,むしろそれが自然じゃないですか。
 僕自身は,周囲の目がある中で宝箱を出して「こいつ,スゲェ」と言われたいタイプでしたが,見せない人がいても「セコいな」とは思わなかったです。むしろ,「隠してくれてありがとう」と感謝していたくらい。

4Gamer:
 ネタバレを回避してくれたわけですからね。

石井氏:
 もし隠してくれなかったら,情報があっと言う間に広まって,僕達が宝箱を探すための熱意もなくなっていたでしょうね。その後実際にそうなるわけですが,その時点では隠してくれてよかったと思っていました。その人は僕達が条件を知らない宝箱も出していたんです。

4Gamer:
 画面が見えなくても宝箱を出したことが分かるんですか。宝箱が出たときの効果音はありませんよね。

石井氏:
 フロアに入ってから出るまでの時間と,手元の動きから推測するんです。「このフロアで,こういう手の動きで,この時間でクリアした」というところから,条件を割り出した宝箱もあります。「右何回,左何回……」みたいな条件のものですね。

4Gamer:
 格闘ゲームのコマンド入力のような条件ですね。「この手元の動きは,『ドルアーガの塔』の操作としておかしい」と感じたと。

石井氏:
 と言うよりも,まずクリアまでが早ければ,すなわち宝箱を出すのが早いということになりますよね。条件が分かっているから,それだけやってすぐフロアを出ているということです。
 さらに「フロアのA地点とB地点を通って……」といった条件だと,それなりに時間がかかるはずなので,そうではないと分かります。あっと言う間に宝箱を出して,フロアを出て行って,しかも手元がこの程度しか動いていない……となると,「これはコマンド入力のような条件なのだろう」と。

4Gamer:
 そこまで観察しているとは……。

石井氏:
 高田馬場への遠征のときにゲームサークル・ACUのメンバーと出会って,「ドルアーガの塔」について話しました。攻略の進み具合は同じくらいで,その人も僕達と同じく自分で全部調べてようとしているのが伝わってきたんです。
 それでお互いに持っている情報を交換して,手持ちの情報がかなり増えました。そういうことがあるから,さっき言ったように自力でどこまで調べたか分からなくなるんですよ。

4Gamer:
 自分でプレイして見つけた情報と,ゲームセンターで出会った人と交換した情報の価値は等しい,情報をもらうことはチートではないというイメージでしょうか。

石井氏:
 そうですね。雑誌などで広く公開された情報はまた別ですが,プレイヤー間の情報収集も攻略のうちでした。
 「ドルアーガの塔」あたりから,ゲームの攻略には情報収集力も不可欠になっていったと思います。自分でゲームをプレイするのはもちろんですが,人のプレイを見たり,うまい人と交流したりして情報を集めることも必要になったんです。
 僕自身も,もともとはいわゆるコミュ障で,そのへんにある店でも買い物ができないくらいでしたが,ゲームにのめり込むと情報収集のために東京中のいろんなところに行って,いろんな人達と交流を図るようになりました。

4Gamer:
 ゲームブティック 高田馬場店は,「ドルアーガの塔」における,今で言う聖地みたいな存在だったのでしょうか。

石井氏:
 いや,誰もが認めるゲーマーの聖地と言うよりは,奇才が集まる場所みたいな……ゲームセンターとしてはかなり異質だったと思います。マニアックなゲーマーの中でも,さらに濃い人達が集まっていて,いわゆる聖地とは方向性が違いました。

4Gamer:
 石井さんのように,「ドルアーガの塔」の情報を求めて来ていた人はほかにもいましたか。

石井氏:
 多かったかどうかは分かりませんが,少なくとも僕が出会ったACUのメンバーはその1人です。
 すごいのは,そういう人達って全部口コミで情報を得ているんですよ。ある宝箱の条件が判明すると,雑誌などに掲載される前に,口コミだけであっと言う間に全国に広がる。
 店舗によってはそれらの情報を貼り出したりもするし,それを見た人が地方の知り合いと電話で話してるとき,その情報を伝えたりもする。おそらくそうやって全国に広まっていったと思うんですけれども,とにかく口コミの伝わり方はすごかったです。

4Gamer:
 感覚的には,どのくらいの速度で拡散していったのでしょうか。

石井氏:
 ある宝箱の条件が判明したら,1週間くらいで全国に広まっていたような印象があります。ゲームセンターの店舗から店舗へ情報が伝わっていく感覚があって,それは当時「ドルアーガの塔」をプレイしていた人でないと,なかなか分からないでしょうね。

4Gamer:
 仮に石井さんが当時誰とも情報を共有できなかったとして,1人でもプレイし続けましたか。

石井氏:
 むしろ情報が入ってこないほうが,長く続けていたと思いますよ。新作が出てきても,「ドルアーガの塔」の攻略が終わっていなければ,そのまま続けていたかもしれない。

4Gamer:
 それでも実際は,情報を探しに行ったわけですよね。知らないほうが楽しめると分かっているのに,どうしても知りたくなるという心境が興味深いのですが。

石井氏:
 うーん,自力で解きたかったけど,さきほども話したように,情報収集も攻略のうちでしたからね。情報交換したら自力じゃないだろうと言われたらそうなんですけど。
 「これが正解ですよ」と全部見せられたら嫌なんだけど,自分と同じように攻略して,同じくらい進んでいる知り合いとの情報交換ならOKだった。

4Gamer:
 それは,当事者同士の信頼関係の有無のようなものですか。

石井氏:
 そうですね。お互い一生懸命やって来た同士だからという思いがありました。もしも相手が全部知っているのであれば,「ここだけ教えてください」となっていたんじゃないかな。

4Gamer:
 「ドルアーガの塔」については,情報を隠していたプレイヤーがいた一方で,そういった共有の話もあって,興味深いです。
 「ゲームセンターに置いてあったノートで情報を共有していた」という話も聞きますが,石井さんとしては,自分と同じように頑張っている人とは情報を交換するけれども,不特定多数に向けて,たとえばゲームセンターのノートに情報を書くというスタンスではなかったということですか。

石井氏:
 僕らは「ドルアーガの塔 攻略法」という小冊子を作って,そこで宝箱の出し方そのものではなく,ヒントを示していました。それは,僕らの考えるこのゲームの面白さを,「自力で宝箱を見つけること」だと捉えていたからです。
 普通にやったらあまりにも酷いゲームなので,投げ出してしまう人も出てきてしまいます。僕らが面白いと感じているところを少しでも分かってもらえるよう,計算して情報を出していたんですよ。
 そこには「ゲームをどうやって楽しむか,どうやったら楽しんでもらえるか」という思いがあり,それこそがゲームの攻略法だと考えています。それは,ゲーメストの方針につながっているんです。

石井氏が制作した「ドルアーガの塔 攻略法」。“ルール違反”の31階は「発想の転換が必要です。(足でボタンを押すなど……)」というヒント
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目の前の1コインクリアで燃え尽きた熱意


4Gamer:
 最終的に,石井さんがすべての宝箱の出現条件を知ったのはいつだったのでしょうか。

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石井氏:
 正直に言って憶えていないんですが,稼働からだいたい2か月くらいだったのかな。プレイシティキャロット巣鴨店,通称巣鴨キャロットでのことです。そこはゲーマーの聖地みたいになっていたんですが,ちょうど僕が行ったとき,「ドルアーガの塔」を1コインクリアした人がいたんです。
 それが,のちに僕をゲーメストに誘ってくれて,今も交流のある有田君だったんですけれど,彼の1コインクリアを見て僕は「ドルアーガの塔」のプレイを止めました。「これは終わった」と思って。

4Gamer:
 それは雑誌に全フロアの攻略情報が出る前の話ですよね。1度プレイを見ただけでは,正確な条件までは分からないと思うのですが,それでも「終わった」と。

石井氏:
 そうです。雑誌に全宝箱の情報が掲載されたときも,何とも思わなかった。それくらい興味を失っていたんです。
 だって,こっちはまだ出しかたが分からない宝箱があるのに,1コインでクリアですからね。「ドルアーガの塔」はそこまで簡単なゲームじゃないのに。

4Gamer:
 自分では夢にも思っていなかったことを,目の前で達成されてしまったと。

石井氏:
 そのとき20人くらいが有田君を取り囲んでいて,もう画面は見えないくらいでした。

4Gamer:
 盛り上がっていましたか。

石井氏:
 盛り上がると言うよりも,「スゲェな……」という感じで見守っていたと思います。

4Gamer:
 石井さんがまだ見ていないフロアとか宝が,目の前に次々と出てくるわけですよね。ボスであるドルアーガを見るのもその時が初めてだったと思うのですが,どんな感情を抱いていたのでしょうか。

石井氏:
 ただただ衝撃で「スゲェな」,そして「これで終わり」だけでしたね。それ以外は,あまり覚えてないです。「これ以上,オレがやることないよね」ってだけです。
 おそらく有田君は,ほかのゲームセンターで人目を避けながら練習していたんでしょう。そんな有田君が,巣鴨キャロットという聖地の晴れ舞台で,見事に1コインクリアを達成した。それを,おそらく都内や近隣都市の有名ゲーマー20人が見届けたわけですから,僕の「ドルアーガの塔」はそこで終了したんですよ。

4Gamer:
 有田さんを知ったのは,そのときが初めてだったのでしょうか。

石井氏:
 名前は知っていました。ハイスコアのランキングに,有田とかALIとか入っていたから。でもそのときは,まだ話をしたことはなかったんじゃないかな。

4Gamer:
 1コインクリアと,宝箱を全部出したこと,石井さんにとってはどちらが衝撃だったのでしょうか。

石井氏:
 両方ですね。その時点では,宝箱の条件を全部分かっている人がいるだろうとは薄々気付いていた……いや,100%確信していたんです。ただ,それを目の前で見せられて,しかも1コインクリアというのが衝撃だった。

4Gamer:
 その1コインクリアを見て,石井さんは夢中になっていた「ドルアーガの塔」をスッパリ止めてしまったんですか。

石井氏:
 燃え尽きましたね。僕の知り合いには「ゲームはやり込んでナンボ」みたいな人が多いから,「何で『ドルアーガの塔』の1コインクリアを達成しなかったんだ」ってよく言われましたけど,仕方ないでしょう,燃え尽きたんだから(笑)。
 このゲームはいいゲームだと分かっているし,宝箱の条件が分かっていても面白いものは面白いということもすごく分かるんです。でも僕は,宝箱を出す条件を見つけたときの衝撃を感じたくてやってたんだから,もうそれができないと分かったら燃え尽きますよね。

4Gamer:
 約2か月という時間については,思っていたよりも早かったですか。

石井氏:
 稼働開始直後からゲームセンターに入り浸って,二人三脚でひたすら毎日宝箱を探して,おそらく僕らは神奈川トップだったと思います。それでも7割くらいまでしか行ってないんだから,わずか2か月という時間に,プレイヤーの力だけでクリアするのは無理じゃないかと思うんですよね。

4Gamer:
 もしかしたら,開発に近いところから何らかの情報提供があったかもしれない,ということでしょうか。

石井氏:
 実際,そういった噂を聞くことはあるんです。情報はプレイを通してだったり,ゲームセンターの張り紙だったりと,形を変える中でロンダリングされていきますから,真偽の程は分かりませんが。
 僕ら以上にのめり込んでやっていた人がいて,「お前らのやり込みが甘かった」と言われたら「すみません」ですが,僕らはそのくらい力を入れてやっていました。

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簡単に情報を共有できないからこそ面白かった


4Gamer:
 石井さんの「ドルアーガの塔」最終的なプレイ回数は,どのくらいだったのでしょうか。

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石井氏:
 そういうの覚えてないんですよね……だって考えると怖いじゃないですか(笑)。家庭用ゲームみたいな買い切りとか,月額いくらで払って遊ぶのとは違って,アーケードゲームにいくら使ったかなんて恐ろしくて考えられないですよ。
 違うゲームの話になりますが,僕はセガの「ボーダーブレイク」を稼働開始から終了まで約10年遊びました。1日3000円使ったとして,全部でいくらになるかなんて計算したくもない。

4Gamer:
 その気持ちは分かります(笑)。

石井氏:
 ただ「ドルアーガの塔」に関しては,当時大学生でお金がなかったので,そこまで回数をこなしていたわけではないんです。
 その代わり,ゲームから離れているとき……トイレに行っているときも風呂に入っているときも,何なら寝ているときも,ずっとゲームのことを考えていました。これは「ドルアーガの塔」に限らず,すべてのゲームを攻略するうえでそうだったんですけど,人にはオススメしません(笑)。

4Gamer:
 完全に生活の中心がゲームですね。そこまでできる人はなかなかいないでしょう。

石井氏:
 うん,キツい。でも「ドルアーガの塔」の中に,まだ見ぬ宝箱が眠っているから,ゲームセンターに行かないといけない。
 何度も繰り返しますけど,今まで見たことのない宝箱が画面の中に出たときの衝撃。仮説を立てて,そのとおりにやってみたときに宝箱が出たときの衝撃は,ほかでは味わえないんです。そして,これからも味わうことができない。

4Gamer:
 こういう時代になっては無理ですよね。

石井氏:
 インターネットを介して,ものすごいスピードで情報が拡散されますからね。今だったら,すべての攻略情報が出回るまでに半月,ひょっとしたら1週間もたないんじゃないかな。
 「ドルアーガの塔」は,簡単に情報を持ち寄れないところも面白かったんですよね。インターネットでは,は本当に何でもあっと言う間に解き明かされてしまうから。

4Gamer:
 「ドルアーガの塔」がここまで語り継がれる存在になったのも,あの時代だったからこそなんですね。

石井氏:
 そうですね。インターネットの存在以外の点でもそう思います。当時,ナムコのゲームが注目されていて,ナムコのゲームが好きなゲーマーが全国にいて,彼らが中核となって「ドルアーガの塔」を攻略していく一連の流れが起きた。そうやって衝撃を受けた人がいるから,今なお1コインクリアをひたすらやり続けるコミュニティみたいなものが続いていると思うんです。

画像集 No.010のサムネイル画像 / [インタビュー]理不尽だらけの「ドルアーガの塔」の攻略とは,どんな世界だったのか?40年前の若者が“この世の真理”を追い求め,燃え尽きるまで


ベストではないが,唯一無二のゲーム


4Gamer:
 石井さんは,「ドルアーガの塔」のゲーム自体の出来をどのように評価していますか。

石井氏:
 不親切ではあるけれども,ゲームとして見たらよくできていますよね。ナムコのゲームだから触ってみる,という人が多かったから,ナムコ直営のゲームセンターでは結構インカムがよかっただろうなと。逆に言うと,「ドルアーガの塔」は,普通のゲームセンターではそれほど人気がなかったんじゃないかな。デモ画面はないし,パッと見てどんなゲームなのかもよく分からないし。

4Gamer:
 仮に同じタイミングで,ほかのメーカーがリリースしていたら結果は違ったと。

石井氏:
 まったく無名のメーカーから出ていたら,何の話題にもならず終わった可能性はあるでしょうね。
 ただ,サウンドやグラフィックスなどのインパクトで,「すごく変わったゲームだな」と思わせるところもありました。サウンドやグラフィックスも含めて,「ドルアーガの塔」だったと思います。

4Gamer:
 そこに,宝箱が出たときの衝撃が加わって,当時の石井さん達を夢中にさせたわけですね。

石井氏:
 でも,それは本当にゲームとしての面白さなのかという疑問はあります。普通のゲームなら,やり込んで戦略性や知識,反射神経などを積み上げていくことで長い時間遊べるのに,「ドルアーガの塔」は宝箱の出現条件に統一性がなく,理不尽と言えるものになっているので,積み上げることができないんです。
 言わば,正統派の正反対のところにあるゲーム。このゲームで僕が受けた衝撃は,ほかのゲームには絶対ないとは思っていますが,「これが一番いいゲームか」と聞かれると,それは少し違うかもとなる。

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4Gamer:
 安易に表現できるものではないと。

石井氏:
 宝箱を自力で見つけたときのあの衝撃は,おそらく開発者も予想していなかっただろうし,特殊すぎて狙って作れるものでもないですから。

4Gamer:
 確かに,もともと正解を知っている開発者は,その衝撃を味わえないですよね。

石井氏:
 やっぱり特殊なものに分類されるんじゃないですか。小説で言えば,「ドグラ・マグラ」とかに近いんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。名前は結構広く知られていて,名作とする人もいるけれど,万人が楽しめるかと言うとそうではない,といった類のものであると。

石井氏:
 やっかいなことに,すべての宝箱の条件を知ったうえでプレイしても,それはそれでよくできたゲームなんですよね。これがまた面倒くさい(笑)。

4Gamer:
 今となっては,石井さんのように攻略情報を知らないまま「ドルアーガの塔」をプレイした人は少数派ですからね。

石井氏:
 「ドルアーガの塔」が評価されるのは,すごくいいことだと思います。でも僕らからすると,そういう次元の話じゃない。宝箱を自力で見つけることの面白さは僕にとって最大の魅力だったけど,それはゲームの出来のよさとは全然違うところにあるのかもしれない。そういった面白さはほかのゲームではあまり見ないし,だからと言って「ドルアーガの塔」みたいなゲームを作ってほしいとも言いたくない。

4Gamer:
 その歯がゆさというのは,石井さんたちでないと理解できないのかもしれません。

石井氏:
 インターネットが普及したことで,当時僕と同じように宝箱を自力で見つけようとした人が結構いたことも分かるようになりました。そういう人達が,あの衝撃を忘れられず語り継ぐことで「ドルアーガの塔」は残っていくんだなと。逆に言うと,バランスよくできていて,みんなが何となく楽しんだ優等生のゲームは,意外と記憶に残らないのかなって。
 やはり強烈な何かを与えてくれたゲームは,プレイした人の心に残るんだと思います。宝箱を自力で見つける面白さを当時リアルタイムで体験できた人はそんなにはいないはずですけど,それでもネットで検索すればそういう人が「ドルアーガの塔」の体験を綴っている。書かずにはいられないんでしょうね。

4Gamer:
 最後に1つ,「ドルアーガの塔」の生みの親である遠藤さんが,のちにこのゲームに対して「何の手がかりもない無茶苦茶な謎を用意して,『お前らこれを解け!』という作り方をしています。ああいう不親切な作り方は駄目だと思いますね」と話しているのですが(関連記事),石井さんはどう受け止めますか。

石井氏:
 宝箱の条件が分からない形で出したことについては,普通の感覚だったらあり得ないことだと思います。でも宝箱の条件を,みんなが知っているものとして考えたら,繰り返しですがよくできているゲームかなと。

4Gamer:
 ノーヒントでリリースしたのは英断だったということでしょうか。

石井氏:
 いや,不親切なのは当時でもダメですよ(笑)。今振り返ると,すごく癖の強い開発者が若気の至りで出したように思います。でも,そのおかげで何十年も忘れられない体験ができたわけで,それは開発者の意図したものではなかったでしょうが,僕としてはありがたかった。おかげで僕にとって,ほかでは体験のできない唯一無二のゲームになりました。

4Gamer:
 貴重なお話を聞けて楽しかったです。ありがとうございました。

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  • 関連タイトル:

    アーケードアーカイブス ドルアーガの塔

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