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[GDC 2023]「MARVEL SNAP」のゲームデザインはピザ作り。クリエイターのベン・ブロード氏が語るゲームデザイン
ブロード氏は,2003年にBlizzard Entertainmentに入社後,2008年から「Warcraftシリーズを土台にしたデジタルカードゲーム」の開発デザインチームに編入され,2014年にローンチされた「ハースストーン」の開発と運営に大きな貢献をした,カリスマ性の高い人物だ。
2015年からはリードデザイナーとしてチームを率い,2017年の拡張パック「大魔境ウンゴロ」がリリースされた際には,テーマソングが用意されていなかったことに不平を漏らしたファンたちに対し,自らがラップ調のテーマソングを歌いあげてしまうことで乗り切るなど,そのコミカルでエネルギッシュな言動とパーソナリティで多くのゲーマーに愛されている。
2018年には,同僚のハミルトン・チュウ(Hamilton Chu)氏と共に古巣を離れ,Second Dinnerを設立。以降,4年をかけて開発してきたのが「MARVEL SNAP」だ。2022年10月に行った独占インタビュー(関連記事)でも,ブロード氏らしいデザイン哲学についてしっかりと語られている。
そんなブロード氏はセッションにて,「ピザの評価はシェフのアイデアと具材選びにある」と,ゲーム制作をピザ作りに例えて語る。「ピザを作るのに,わざわざ新しい小麦の品種改良を自分で行う人なんていないよね」と,多くの先人が培ってきた材料で美味しいピザを作ることを基本とし,その上で,新しいアイデアが少し見え隠れするくらいにすることが大切とのこと。
実際,「ハースストーン」の企画が始まった当時,ブロード氏に与えられたタスクは,すでに何本もリリースされていたデジタルカードゲームをすべて遊び込むことだったという。そこで,ブロード氏らが吟味したのは「Magic the Gathering Online」や「Legends of Norrath」などの作品だったが,最終的に「ハースストーン」の“レシピ”として残ったのは,2008年にバンダイからリリースされていた「バトルスピリッツ」のマナシステムだったという。
バトルスピリッツのデザインチームには,マジック・ザ・ギャザリングのデザイナーとして著名なマイク・エリオット(Mike Elliott)氏が参加している。ある時ブロード氏がエリオット氏に「いつもどうやって素晴らしいゲームを作っているんですか」と聞いたところ,「僕の場合は,カードゲームのコンベンションに行きますね。歩きながらキョロキョロしているだけで,何十個ものアイデアが舞い込んでくる」と言われたという。
つまり,エリオット氏も何もない状態からアイデア生み出しているのではなく,「さまざまなゲームからインスパイアを得ている」というのだ。ブロード氏は,こうしたゲームイベントを「スーパーマーケット」に例え,「マーケットで自分好みの具材を選ぶのは当然のことでしょう」と話していた。
もっとも,「ハースストーン」はヒーローのパワーやウェポンの劣化を始め,かなり斬新なアイデアが盛り込まれていたが,これについてブロード氏は「少し盛り込み過ぎた」と感じていたようだ。
2016年には,巨大化し始めていたモバイルゲーム市場でSupercellの「Clash Royale」がヒットしており,「嫉妬さえ覚えた」と語っていた。少ない手持ちカードや,1ゲームが数分で終わるゲームプレイなど,「MARVEL SNAP」につながるデジタルカードゲームの単純明快なアイデアは,この頃から醸成され始めていたようだ。
さらに「ハミルトンと私が熱中していたプロトタイプ」として紹介されたのが「ハースストーン」だった(つまり,辞めてからも古巣のゲームばかり遊んでいた)ことに会場は大ウケしていたが,そうやって遊んでいる際に,チュウ氏が「ダブル(バックギャモンで使われる点数を2倍にする提案)させてくれ」と事あるごとにブロード氏を挑発していたのが,“スナップ”のゲームメカニックにつながっていったそうだ。
また「ハースストーン」では,前任のリード・ゲームデザイナーであったエリック・ドッズ(Eric Dodds)氏に大きな影響を受けていたとのことで,その1つが「ゲーマーには小さな勝利を体験してもらう」というデザイン哲学だ。ドッズ氏は当時,「シングルプレイヤーキャンペーンは,自分のスキルの上昇やカッコ良いアイテムの獲得など,ゲーム中に小さな成功体験をもたらしている」と語ったそうだ。
ブロード氏は,これについて「勝った時の高揚が30ポイントで,負けた時のストレスも30ポイントであれば,その感情的変化は“プラマイゼロ”に過ぎない。負けた時のストレスを軽減することで,勝利したときの喜びがさらに高くなる」と話していた。こうした敗者へのストレスの抑制については,ゲームプレイを3分に抑えることで,精神的ダメージに対する時間投資を最小限にしたり,負けた際の「You Lost!」(お前の負けだ!)というメッセージを「Escaped!」(脱出!)に変更したりと,細かい部分で配慮しているという。これにより,負けた側も「キューブを取られないよう守ったぞ」という潜在意識が働くというわけだ。
さらに,「一斉にカードを開く」という「MARVEL SNAP」のアイデアは,「Lord of the Rings: The Confrontation」や「A Game of Thrones: The Board Game」など,ファンタジー世界の大規模戦争を描いたFantasy Fight Games社製のボードゲームを参考にしたという。また,異なる属性を与える「ロケーション」というコンセプトも,AEGの「Paul Peterson: SmashUp」というボードゲームからアイデアを得たとブロード氏は話す。
まとめると,3分という短いプレイ時間は「Clash Royale」から,“スナップ”のコンセプトはバックギャモンから,カードを一斉に開く心理戦は大戦争系ボードゲーム,そしてロケーションのアイデアは「Paul Peterson: SmashUp」からとなる。そこに,ブロード氏のアイデアとなる6ターン制と12枚デッキ,そしてカードパリエーションにタイプが存在しないといった“隠し味”が組み合わされて,「MARVEL SNAP」という美味しいピザが出来上がったことになる。
ブロード氏は最後に,哲学者パスカルが言ったとされる「短い手紙を書く時間がなかったので,代わりに長い手紙を書きました」という名言を引用し「複雑になりがちなゲームデザインは,最初からシンプルで明快にしておくことが大事だ」と説く。実際“ゲームの深み”と“複雑さ”を混同してしまうことが,開発者にもゲーマーにもありがちだ。これには「MARVEL SNAP」の開発に4年もかけてしまったことに対する自らの反省も込めていたようだった。
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