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[インタビュー]スウェーデン生まれのクトゥルーもの「Kutulu」はいかにして生まれたか。制作者・Mikael Bergström氏に聞く,北欧TRPG事情
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印刷2023/05/02 08:00

インタビュー

[インタビュー]スウェーデン生まれのクトゥルーもの「Kutulu」はいかにして生まれたか。制作者・Mikael Bergström氏に聞く,北欧TRPG事情

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 2023年3月4日,テーブルトークRPG「Kutulu」の公式ミニコンベンションが,東京・秋葉原のviviONの本社で開催された。

 「Kutulu」は,ミステリーものにフォーカスした取り回しの軽いルールが特徴の,スウェーデン発のテーブルトークRPGだ。「クトゥルフ神話TRPG」「暗黒神話TRPGトレイル・オブ・クトゥルー」などの先行製品と同じく,20世紀前半のアメリカ人怪奇小説家H・P・ラヴクラフトが創造した“クトゥルー神話”の世界観をベースにしている。
 2022年4月27日に日本語版ルールブックが発売されたのを皮切りに,公式サイトにてさまざまなシナリオが発表されているほか,「現代日本ソースブック」「Kutulu神話生物ガイド」などのサプリメントも順次発表されている。

 今回,4Gamerではこのコンベンションに合わせて来日した同作のゲームデザイナー・Mikael Bergström氏に話を聞く機会を得た。
 「Kutulu」についてのあれこれはもちろんのこと,2019年の映画「ミッドサマー」(製作はアメリカとスウェーデン)のヒットを受けて,日本国内でも関心が高まりつつある北欧のホラー作品事情,また「Tales From The Loop RPG」を鏑矢として,にわかに注目を集めている北欧のテーブルトークRPG事情にも切り込んでいるので,テーブルトークRPGファンはお見逃しなく。

※「Cthulhu」の日本語表記には諸説あるが,本稿では英語圏での一般的な発音に合わせ「クトゥルー」としている。

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「Kutulu」公式サイト

DLsite内「Kutulu」販売ページ



北欧におけるクトゥルー神話


4Gamer:
 日本へようこそ。お会いできて光栄です。今日は「Kutulu」はもちろんのこと,日本でも注目を集めている北欧産のテーブルトークRPGや,ホラー作品についてもお聞きしたいと思っています。正直なところ,日本人にとって北欧はそれほどなじみ深い国々ではないこともあって,いろいろと分からないことが多いんです。

Mikael Bergström氏
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Mikael氏:
 ありがとうございます。こちらこそ,よろしくお願いします。

4Gamer:
 まず,「Kutulu」のベースであるH・P・ラヴクラフトとクトゥルー神話についてですが,スウェーデンではどのように紹介され,どの程度認知された存在のでしょうか。ざっくりしたもので構いませんので,その紹介された経緯などを教えてください。

Mikael氏:
 私はこの分野の専門家ではありませんが,スウェーデンでラヴクラフトの物語が最初に翻訳されたのは,1950年代の前半だったようです。ホラー小説専門のラジオ番組が「アウトサイダー」「宇宙からの色」「地下納骨所にて」などの朗読を行ったとか。

4Gamer:
 1950年代ということは,日本で紹介されたのと同じくらいの時期ですね。

Mikael氏:
 そのラジオでの朗読は好評だったそうですが,ラヴクラフトへの幅広い関心を呼び起こすまでには至らなかったようです。その後,改めて大々的に紹介されたのは1970年代で,作家兼翻訳家のSam J. Lundwall(サム・J・ルンドヴァル)の編集・翻訳によるアンソロジーが出版されました。ルンドヴァルはファンタジーやホラー,SFなどの海外作品の翻訳・出版で名を馳せた人物で,スウェーデンの読者にアメリカやソ連の作家と物語を紹介したんです。

4Gamer:
 本格的な紹介が始まった時期も,日本と重なります。興味深いです。

Mikael氏:
 1980年代になると,多くのテーブルトークRPGプレイヤーがケイオシアムの「Call of Cthulhu(クトゥルフ神話TRPG)」で遊び始めました。このときスウェーデン語版はありませんでしたが,このゲームが彼の作品へのさらなる関心を呼び起こしたんです。自分の知る限り,ラヴクラフトはスウェーデンではメジャーな作家とは言えませんが,ファンタジーやSF,ホラーを好む読者の間で,彼の名前はよく知られています。

4Gamer:
 なるほど。クトゥルー神話は,今なお多くの作家によって語り継がれていますし,スウェーデンにもオリジナルのクトゥルー神話作品を書いている作家がいると思うのですが,その中でも有名な作品というと,何があるでしょうか。

Mikael氏:
 最近の作品では,Anders Fager(アンデス・フォーゲル)「スウェーデンのカルト(原題:Svenska Kulter)」が一番人気でしょうか。聞いたところでは,普段ラヴクラフトの物語に興味のない多くの人に読まれているようです。
 この本は,現代を舞台とするラヴクラフト的な神話世界を描いた短編集なんですが,それぞれの物語は繰り返し登場するキャラクターによって接続されています。彼の創造したキャラクターは,スウェーデン固有の設定資料が数多く含まれている,現在のスウェーデン版「Call of Cthulhu」にも登場しています。

4Gamer:
 Mikaelさんご自身が,クトゥルー神話を知ったきっかけはなんだったのでしょう。

Mikael氏:
 幼い頃に,Grant Morrison(グラント・モリソン)のコミック「Zenith(ゼニス)」を読んだのが最初だったと思います。ヨグ=ソトースなどのラヴクラフトの神々への言及もある,スーパーヒーローコミックです。その後「Prisoner of Ice」のようなコンピューターゲームをプレイし,それからもクトゥルー神話から設定を借用したさまざまなコミックや小説を読んでいました。

4Gamer:
 では,原典であるラヴクラフト作品を読まれたのは,もっとずっと後だった?

「Tatters of the King(王の襤褸)」(リンクはAmazonアソシエイト)
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Mikael氏:
 そうなります。私は長いこと,この奇妙な神話と怪しげな神々,怪物に魅了されてきましたが,どういうわけかラヴクラフトの作品を読んだのは,それから何年も後のことでした。ようやく読んだのは,「Call of Cthulhu」のキャンペーン「Tatters of the King(王の襤褸)」を仲間内で何度も遊んだあとでしたし,「Kutulu」も書き上げた後だったんです。

4Gamer:
 ちなみにラヴクラフトの「祝祭」は読まれましたか? スウェーデンにおけるクリスマスの祝祭である“ユール”がテーマの作品です。スウェーデン人として,どのような感想を抱いたかを聞いてみたいですのですが。

Mikael氏:
 ああ……いや正直な話ところ,あれがユールがテーマの作品ということを今思い出したくらいです(笑)。そうですね……クリスマスやユールの祝祭の描写がスウェーデンの作法を思い出させるとは,ちょっと言えないかもしれません。でも,雰囲気のある,魅力的な物語だと思います。

4Gamer:
 なるほど,そうでしたか(笑)。

Mikael氏:
 ただ,あの作品に登場するクリーチャーに名前がついておらず,それ以上掘り下げられもしないところは自分の好みです。有翼のクリーチャーにまつわる,「およそ健全な目では全身を把握できない,さもなくば健全な脳が記憶にとどめることのできない」という描写は,「Kutulu」の“狂気”の仕組みとも実にうまくかみ合うと思います。

4Gamer:
 分かりました。ではラヴクラフト以外で,好きなクトゥルー神話作品というと,何になりますか。

Mikael氏:
 たくさんありすぎて,一つを選ぶのは難しいですが……Ruthanna Emrys(ルサンナ・エムリス)の小説「Winter Tide」(2017年)は,とても楽しかったですね。神話とそのクリーチャーの“異質さ”に新しい視点を与えてくれるので,非常に気に入っています。先程挙げたコミックの「ゼニス」は,今でも大好きな作品です。Mike Mignola(マイク・ミニョーラ)「ヘルボーイ」の,ラヴクラフト的な部分も面白いですね。
 それとKij Johnson(キジ・ジョンスン)「猫の街から世界を夢見る」は,幻夢境(ドリームランド)がらみの小説の中で一番好きかもしれません。ラヴクラフトのドリーム・サイクルはあまり好きではなかったですけど,ジョンソンはこの設定をうまく使いこなしています。世界は,私達が普通に見たり感じたりできるものよりも大きく,奇異にして危険なのだという考え方が気に入っています。これは,およそあらゆるものに恐怖を感じたのであろう,ラヴクラフトにとてもふさわしいと思えます。

4Gamer:
 では,クトゥルー神話作品以外ではいかがでしょう。映画「ミッドサマー」の成功で,北欧のホラーは日本でも知られるようになりました。ほかにお勧め作品はありますか?

Mikael氏:
 「ミッドサマー」は,個人的にも縁を感じる作品です。私はあの作品の舞台であるヘルシングランド地方で生まれたんですよ。撮影はスウェーデン国内ではなく,ブダペストだったそうですが(笑)。
 スウェーデンの映画は,歴史的にスリラー,ドラマ,コメディに重点を置いてきた印象があります。ホラーやSF,ファンタジーの作品は,あまり作られていないようなんです。スウェーデン語が,そうしたジャンルに適さないと考える人も多いみたいですね。結果として,スウェーデンで製作されるホラーはコメディや大げさなスプラッターホラーになることが多くて,私はあまり魅力を感じていませんでした。
 ですが,デンマークのホラー・ドラマ「キングダム」は,間違いなくお勧めできます。とても不気味で,不条理な作品です。ちなみに,このドラマに出演しているスウェーデン人俳優・Ernst-Hugo Järegård(エルンスト=ユーゴ・イェレゴード)は,ラヴクラフトの短編集のオーディオブックで,朗読を務めていたりするんですよ。

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「Kutulu」の誕生と,スウェーデンのTRPG事情


4Gamer:
 ここからは「Kutulu」について聞いていきたいのですが,そもそもスウェーデンでは,テーブルトークRPGはどの程度人気のあるホビーなのでしょうか。

Mikael氏:
 スウェーデンにおけるテーブルトークRPGは,ここ数年で盛り返してはきましたが,全体から見るとまだまだ小さなジャンルだと思います。
 人気があったのは1980年代から90年代初頭にかけてで,当時はスウェーデン産のタイトルである「Drakar och Demoner」「Mutant」などがよく遊ばれていました。Mayfair Gamesの「Chill」や,West End Gamesの「Star Wars: The Roleplaying Game」の翻訳版もありましたね。もちろん「ダンジョンズ&ドラゴンズ」も一般的でしたし,「Call of Cthulhu」もありました。

4Gamer:
 なるほど,それも日本の状況と似ていますね。

Mikael氏:
 ですが日本ほど,「Call of Cthulhu」が人気があったわけではないと思います。当時のスウェーデンのテーブルトークRPGコンベンションで,「Call of Cthulhu」が遊ばれていたとは聞いていますが,私の理解では彼らはほとんどルールを用いず,大多数がシナリオもないような自由な遊び方だったようです。

4Gamer:
 1980〜90年代は日本でも同じだったように思いますが……ともあれ,今は確かに「Call of Cthulhu」が圧倒的な人気を誇っていますね。

Mikael氏:
 私の知る限りですが,スウェーデンで今テーブルトークRPGを始める人は,その多くが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」を入口にしていると思います。恐らくは,ドラマの「ストレンジャー・シングス」やYouTube番組の「Critical Role」に触発されて始めるんじゃないかと。
 「Call of Cthulhu」がスウェーデンのテーブルトークRPG文化の一部であることは間違いありませんけどね。最近,スウェーデン語版も発売されましたし。

4Gamer:
 近年,日本でもスウェーデン産のテーブルトークRPGが注目を集めていますが,これについてはいかがですか。

Mikael氏:
 テーブルトークRPGを扱うスウェーデン出版社,とくにFree Leagueは,スウェーデン国内でも海外でも大きな成功を収めています。彼らはスウェーデンの古いブランドである「Mutant」や「Drakar och Demoner」の現代版,それから「ブレードランナー」「エイリアン」といったIPを扱った製品をいくつかリリースしています。

4Gamer:
 なるほど。では,クトゥルー神話ものとして「Call of Cthulhu」がすでにあり,多くの人に遊ばれている中で,オリジナルのシステムである「Kutulu」を制作したのは,どうしてなのでしょうか。

3月4日に実施された公式ミニコンベンションの様子
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画像集 No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]スウェーデン生まれのクトゥルーもの「Kutulu」はいかにして生まれたか。制作者・Mikael Bergström氏に聞く,北欧TRPG事情

Mikael氏:
 私は数学が苦手でして(笑)。ロールプレイするときは,フィクションの中で起きている出来事に集中したかったんです。ゲーム中にダイスを振ったり,計算したり,ポイントを消費したりといったことが頻繁にあると,物語の世界から引き戻されるような気がするんです。
 それに私の情熱は謎解きにあって,戦闘や戦術にはあまり興味がないんです。だからスキルチェックが多く,正気度に対するアプローチが機械的な「Call of Cthulhu」は,自分には合わないと感じました。

4Gamer:
 よく分かるお話です。「トレイル・オブ・クトゥルー」も合いませんでしたか。

Mikael氏:
 「トレイル・オブ・クトゥルー」は,私の希望にかなり近いものでした。ダイスを振って手がかりを見つけるのではなく,手がかりがどのように組み合わせるかにフォーカスされていて,とてもいいシステムだと感じています。とはいえ,ポイント消費の仕組みがあまり好きではなくて……私にはまだ,形式的で機械的過ぎると思えたんですね。

4Gamer:
 より謎解きにフォーカスしたシステムが欲しかった,と。

Mikael氏:
 はい。私はそれ以前にもゲームをデザインしたことがあったので,そのうちの一つのルールを使い,「王の襤褸」のような物語──つまり謎と調査に焦点を当てたシナリオやキャンペーンを実行できるよう,「Kutulu」をデザインしました。

4Gamer:
 なるほど,謎と調査ですか。そういえば,「Kutulu」には,参考文献としてアガサ・クリスティの諸作品が挙げられていましたね。

Mikael氏:
 クリスティの作品は,そのほとんどが実によくできていると思います。ミス・マープルが登場する作品はとくにです。彼女は「Kutulu」のキャラクターとして最適だと思いますよ! ポワロもそうですが,彼女ほどではありません(笑)。

4Gamer:
 日本版の「Kutulu」はいかがでしょうか。実際手に取ってみて。

Mikael氏:
 とてもいいと思います! 新しいイラストは楽しいし,レイアウトやデザインもとてもよくできています。日本の書籍に込められたクリエイティビティと愛情には,とても感銘を受けました。

4Gamer:
 日本のファンからの反応はいかがでしょうか。

「北方の国家懸案 消えた兵士たち」
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Mikael氏:
 日本の皆さんの反応は,スウェーデンのプレイヤーと比べても顕著で,「Kutulu」シナリオをデザインする立場としてやりがいを感じるほどです。最初に発表したシナリオ「De Försvunna Soldaterna(北方の国家懸案 消えた兵士たち)」の日本語版は,とても評判が良かったですね。「Mardrömmar från Amerika(アメリカからの悪夢)」という作品集のシナリオも,多くの方に気に入っていただけたようでした。

4Gamer:
 今回が初来日とのことですが,日本にはどんな印象をお持ちですか。

Mikael氏:
 渡航前は,スウェーデンよりも伝統的で,それでいて現代的な面も持っている国という印象でした。「マクロス」「エヴァンゲリオン」「AKIRA」「攻殻機動隊」といった作品のファンですし,最近でも「Ghostwire: Tokyo」PC / PS5 / Xbox Series X|S)というゲームをプレイしたので,そうした作品を通じて,日本の文化について少しは理解しているつもりだったんです。ああ,もちろんそれらが必ずしも日本のリアルな姿を描いているわけではないことは,分かったうえでですよ。

4Gamer:
 実際に日本に来てみて,いかがでしょうか。

Mikael氏:
 私の印象は,ほぼ正しかったと思います。伝統と現代が混在した東京の街を見るのはとても楽しかった。もちろん,東京や日本の完全なイメージを得るには短すぎる時間ではありますが,今のところとてもポジティブに感じています。
 実のところ,私はかなり神経質なので,慣れない環境は気持ちが落ち込みがちなんです。だから渡航前は少し不安もあったんですが,多くの知人が日本は良い場所で,きっと歓迎してくれると言ってくれました。そして実際,そのとおりでした。いつの日か,必ず再訪したいと思っています。

4Gamer:
 いい旅になったようで,嬉しいかぎりです。最後に,「Kutulu」の今後について,差し支えない範囲で教えていただけますか。

Mikael氏:
 現在はシナリオをデザインするためのガイダンスを執筆中でして,これは主に私が好きな――つまり「王の襤褸」のような――長編ミステリーシナリオに焦点をあてた内容になる予定です。日本のプレイヤーは短いシナリオを好むと聞いていますが,それでもこのガイドが役に立つことを願っています。
 それと,最後までプレイできる形に仕上げたい,2種類のシナリオのアイデアがあります。一つは,寝たきりの女性が,肺に塩水を溜めたまま謎の死を遂げるというもの。もう一つは,大英博物館から盗まれた,アフリカの呪い仮面にまつわるシナリオです。

4Gamer:
 おお,盛りだくさんですね。

Mikael氏:
 もう一つありました! スウェーデン最大のコンベンション「Gothcon」に昨年参加したとき,「Kutulu」のセッションにプレイヤーとして参加したんですが,このときのシナリオが「ムーミン」にインスパイアされたとても楽しいシナリオだったんです。このシナリオも,いつか製品化したいと思って,その作者と話し合っているところです(笑)。

4Gamer:
 期待しています(笑)。本日はありがとうございました。

画像集 No.005のサムネイル画像 / [インタビュー]スウェーデン生まれのクトゥルーもの「Kutulu」はいかにして生まれたか。制作者・Mikael Bergström氏に聞く,北欧TRPG事情

※日本におけるクトゥルー神話……日本でラヴクラフト作品が紹介されたのは,雑誌「真珠」1947年11月・12月合併号に「ランドルフ・カーターの供述」の翻案「墓場」が掲載されたのが初。ただし,翻案ものの常で元作品とその作者は伏せられていた。正式な翻訳は,雑誌「文藝」1955年7月号掲載の「壁の中の鼠群」となる。

※Sam J. Lundwall(サム・J・ルンドヴァル)……1941年生まれのスウェーデン人作家,翻訳者,編集者。雑誌や国営ラジオ放送局などで働いたのち,1969年にSF史の解説書「サイエンス・フィクション:はじまりから今日まで」を発表したのをきっかけに,SF書籍の編集者・翻訳者として仕事をするようになった。彼が編纂したアンソロジー「デン・ファンタスティスカ・ロマーネン」第2集(1973年1月刊行)はゴシック・ロマンスがテーマで,ラヴクラフトの「壁の中の鼠」が掲載されている。

※Anders Fager(アンデス・フォーゲル)……1964年生まれの怪奇作家,ゲームデザイナー。1982年にスウェーデンで最初に発売されたテーブルトークRPG「Drakar och Demoner(ドラゴンとデーモン)」のデモンストレーションを国内各地で行い,以後は販売元の ÄventyrsspelでテーブルトークRPGやボードゲームのデザインに携わった。2009年に「スウェーデンのカルト」で作家デビューし,主にクトゥルー神話を題材としたモダン・ホラー作品を発表し続けている。

※「Zenith」 ……スコットランド出身のコミックス・ライターであるグラント・モリソン(日本ではバットマンもので知られる)が,アーティストのスティーヴ・ヨーウェルと組んで英国のコミック誌〈2000 AD〉#535(1987年)で発表したスーパーヒーロー作品。ヨグ=ソトースや“多角度のもの(メニー・アングルド・ワン)”などのラヴクラフト的な邪神が登場し,後者はDCコミックス社のコミック作品で言及されることもある。

※「Prisoner of Ice」……フランスのインフォグラムが1995年に発売したPC向けAVG。前作「Shadow of the Comet」に続き,ケイオシアムから許諾を得て制作された「クトゥルフ神話TRPG」の公式ライセンスゲームであった。日本では「プリズナー・オブ・アイス〜邪神降臨〜」の名前でエクシング・エンタテイメントからPS/SS版が,「プリズナー オブ アイス」の名前で東芝EMIからWindows3.1版が,それぞれ1997年に発売されている。

※「Tatters of the King(王の襤褸)」 ……2006年にケイオシアムから発売された「クトゥルフ神話TRPG」のキャンペーンシナリオ。ハスターや「黄衣の王」,カルコサといったR・W・チェンバーズ由来のマテリアルにまつわるシナリオで,探索者はセヴァン・ヴァレー(ラムジー・キャンベル作品に基づく)やイタリア,ヒマラヤ山脈,そしてレン高原など世界各地で怪事件に遭遇することになる。

※Ruthanna Emrys(ルサンナ・エムリス)……アメリカのSF・ファンタジー作家。ヴィクター・ラヴァルの「ブラック・トムのバラード」同様,現代の価値観に照らしてラヴクラフトの作品世界を語り直す“インスマス・レガシー”シリーズで人気を博し,現在までに「大地の連祷」(2014年),「ウィンター・タイド」(2017年),「ディープ・ルーツ」(2018年)の3作品が刊行されている。

※「ムーミン」……作者であるトーベ・ヤンソンの出身国はフィンランドだが,スウェーデン系フィンランド人の父とスウェーデン人の母の間に生まれ,自身も生涯にわたりスウェーデン語を母語として暮らしていた。むろん,「ムーミン」もスウェーデン語で書かれている。


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