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印刷2024/03/07 17:34

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AIを組み合わせたARは人々の生活に何をもたらすのか。Nianticが開催したプレス向けセッションレポート

 Nianticは2024年3月6日,プレス向けセッション「ARとAIがもたらす私たちの未来」を東京都内で開催した。同社CEOのジョン・ハンケ氏,同社VPの川島優志氏,ライゾマティクス 代表/アブストラクト 取締役の真鍋大度氏が,「AIを組み合わせたARは現在,どのような位置にいて,これからの人々の生活に何をもたらすか」をテーマに座談会形式意見を交わした。

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「Niantic」公式サイト


 最初のテーマは「今後,生成AIを含むAIと人間はどうなっていくのか」
 ハンケ氏は「人間のクリエイティブな活動のためのツールとして,AIが使われていくことを願う」と述べ,「AIはは最も強力なクリエイティブツールであり,それを最もクリエイティブな人間が使いこなすのであれば,とてもエキサイティングな世界になる」と語った。

ジョン・ハンケ氏
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 真鍋氏は映像や画像,音楽をコツコツ作ってきた経験から,AIがもたらすスピード感に慣れないところもあるという。「テキストを入れたら,すぐに使える画像が出てくる。便利だし,それを活用してコンテンツを作ることもあるが,今のクリエイティブ業界に大きなショックを与えている」と述べた。

真鍋大度氏
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 また,とくにエコシステムやライセンスの部分に課題があることを示したうえで,「こういう問題が起きるから止めておこうとなってしまうと,テクノロジーはいつまで経っても進化しない」と続けた。たとえば自動車が事故を起こすからといって,開発・生産を止めていたら今の自動車はないと指摘し,「本質的には人間のために作られているので,安全に使えば便利で,良いものであることは間違いない。1つ1つ課題を解決して,前に進んでいくほかない」と見解を示した。

 川島氏は小学3年生の頃からコンピュータに触っており,当時はテキストベースでプログラムを打ち込んでいた。のちにMacと出会い,ディスプレイの画面の中でフォントのサイズが変わったり,画面のものをそのままプリントアウトしたりできることに,「コンピュータのほうが人間に歩み寄ってくれている」と感じたという。

川島優志氏
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 そして今,AIの台頭によりブレイクスルーが発生して,もっとコンピュータが人間に寄り添っていると感じるとのこと。「今までは,どちらかと言うと人間がコンピュータに合わせて,プログラミングをしたり,彼らの言葉を話そうとしたりしていた。AIによってずいぶん関係性が変わり,今後も人間のほうに寄り添ってくれるのではないか」と語った。

 その一方,川島氏はクリエイティブの面でAIにはナラティブに欠けていると指摘する。「たとえば将棋でAIが人間に勝ったとしても,人間同士の勝負を見たくなる。その理由は,人間が物語性を感じるから」と見解を語った。

 2つめのテーマは「ARスマートグラスやビデオシースルーのヘッドマウントディスプレイは,今後どのように進化していくか」
 ハンケ氏は「Ray-Ban Metaスマートグラス」をすでに愛用しており,Nianticではそれらのデバイスを使って,人間が自分の目を通してものを見たり,触って感じたりすることなどをサポートしたいと語る。
 またAppleの空間コンピュータ「Vision Pro」について,「興味深いが,私達が目指す未来に向かう道の中では少し遠回り」「私達が実際に目指した未来を示してほしい」と評した。

Apple Vision Pro
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 川島氏は,Ray-Ban Metaスマートグラスにできることは,2023年にリリースされた「Google Glass」でも可能だったことを指摘する。それから10年以上経ち,Ray-Ban Metaスマートグラスはすごく自然な外観となったわけだが,川島氏は「僕達のような新しいものが出ると飛びつくような人だけではなく,もっと多くの人が価値に気付いて『ちょっと欲しいな』と思うようなところに,ようやく一歩踏み出した。世界が追いついてきたことへのシンボリックなデバイスになってくれるのではないか」と展望を語った。

Ray-Ban Metaスマートグラス
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 また,AR/MRコンテンツの制作に取り組んでいる真鍋氏は「今後,さらにチャレンジしたい表現」として,「今のAR/MRは画面越しに見ることが必須だが,究極的には肉眼で立体的な演出を見られることが理想。二次元を三次元的に見せたり,解像度やテクスチャの効率を下げたりと,いろいろな手法を駆使しているが,大きな目標としては課題を解決し,裸眼で見られる三次元の映像表現を実現したい」と明かした。

 ただし,それはかなり未来の話であり,当面は何かしらのデバイスやテクノロジーが必要であると真鍋氏は語る。その1つがVision Proであり,「今までのデバイスがコンセプトモデルだとすると,初めて普段使いできるようなデバイスが出てきた」と見解を示し,「UIや操作がすごく簡単になったり,Macユーザーにとって信頼性が高かったりといった部分が普段使いするようになった要因。数年後,もっと小型化していろいろな人が使うようになると,本当の3D表現ではないけれども,かなり多くの人がそれに近い体験ができる。我々は,そういった時代が来ることを念頭に置いて,準備運動として今の仕事をやっていく」と説明を加えた。

真鍋氏は故・坂本龍一さんの姿を2020年にキャプチャし,データ化している。今後,AIの進化により二次元の映像データを三次元の映像データに変換する技術と,それらのデータを鑑賞する体験が高品質になっていくことを見越して,一刻も早くデータを取っておかなければならないと日々考えているとのこと
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 「新しい技術とデバイスを使って,どのような体験を提供していきたいか」を問われると,川島氏は「将来的には,ARで目の前のオブジェクトをシースルーで見つつ,ビジュアルがオーバーレイされるような時代が来ると思うが,まずはMRでどのような体験ができるかを模索している」と回答。たとえば「Peridot」iOS / Android)はARファーストで開発したプロジェクトだったが,スマートフォンでARを味わうにはまだ足りない部分があった。MRを使うことにより,アニメ「電脳コイル」に登場した「デンスケ」のようなバーチャルペットができないかとチャレンジしている最中だという。

「Peridot」
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 「Nianticが提供しているプラットフォームは位置情報ゲーム以外にも使えるが,どんな使い方をしたいか。またどんな使い方をしてもらいたいか」という質問には,ハンケ氏が回答。「私達にとって最も関心があるのは,私達の社会に最大の影響を与えること」と述べ,その具体例として「位置情報ゲームの機能を活用し,ユーザーが見つけた街の素晴らしいオブジェクトをスキャンしてもらい,3Dデータを使ってこれまでにない世界中のマップを作りたい」と展望を語った。

 また,そうしてデータを蓄積していくことにより,真鍋氏のようなクリエイターがそれらを活用して素晴らしいコンテンツを作ってくれるのではないかと語り,「その意味でもプラットフォームを多くの人に使ってもらえる形にしていきたい」と意欲を見せた。

 さらに,川島氏は位置情報ゲームで集めたデータだけでなく,リアルに存在するさまざまなオブジェクトの三次元データを記録するVPS(Visual Positioning System)も,真鍋氏が作るコンテンツに活用できると補足する。ハンケ氏もスマートグラスとVPSを使って,たとえばAIに自分の現在地付近にある飲食店の場所を教えてもらうようなことが可能になると話していた。

Nianticとライゾマティクスは長年にわたり,一緒にコンテンツを作っている。両社には歩いたり,ダンスをしたり,視覚や嗅覚に訴えかける刺激があったりと,身体を意識して世界とインタラクションするという部分が共通しているのではないかと,川島氏は指摘する
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 最後のテーマは「今回のセッションで取り上げた内容が,今後の人間の生活や社会のどのようなインパクトを与えるのか。また与えていきたいか」
 真鍋氏は「Ingress」iOS / Android)をプレイしたときに,自宅周辺の知らなかったものを発見し,世界の見方が大きく変わったことを振り返り,「脳の中の意識が変わるだけで,こんなに世界が変わって見えるんだと,すごく感激したしショックも受けた。人間が脳で考えていることや,外の世界はすごく複雑だが,人間自身が持っているエネルギーやアクチュエーター,センサーはすごく貧弱。脳の中をどれだけ豊かにするかが大切」であると語った。

 また「脳の中を豊かにするためには,いい情報もたくさん得なければならない」「いろいろなところに足を運んだり,旅行したりするのはすごく大変な半面,人生を豊かにするもの。それをさらに拡張できるのがテクノロジーで,旅行先の情報をさらに拡張することもできるだろうし,観光地も限られている中,新しいルートを自動生成してくれるような機能がいろいろ出てくるだろう」と予想を示している。

 川島氏は「ワクワク感しかない」と期待を抱く。「今やスマートグラスを着けていても違和感がないし,これから数年でもっと多くの人がウェアラブルデバイスを装着するようになる。そうなると,クリエイターが作ったコンテンツへのアクセスがどんどん広がって,世界の見え方がまったく変わる時代が訪れる。人生観も教育的な価値も変わるような体験が,至るところで表れ,真鍋さんのようなクリエイターの力が輝く時代になる」との見解を示した。

 そして,ハンケ氏は「重要なことは,将来的にAIや機械がもっと多くの仕事をするようになること」と述べ,「私達は技術を正確に使って,人間の生活や社会のよりよい体験を提供することに集中している」とまとめていた。

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