プレイレポート
[プレイレポ]あなたは市長……ではなく社長。「A列車で行こう はじまる観光計画」で,“企業による都市開発”を楽しもう
本作は,観光事業による都市開発をメインに据えたA列車シリーズの新作「A列車で行こう はじまる観光計画」の拡張パックだ。プレイヤーは“鉄道会社の社長”となり,会社を運営しつつ鉄道事業などの交通インフラの整備を行い,都市のさらなる発展やさまざまな問題の解決を目指していくことになる。
今回は拡張パックのひろがる観光ラインと,そのベースとなるはじまる観光計画をプレイする機会を得られたので,あらめてその魅力を紹介したいと思う。A列車の新作が気になっていた……という社長経験者はもちろん,本作は未経験者でも今から始めるのにピッタリな内容になっているので,ぜひ参考にしてほしい。
企業経営者として“間接的に”都市開発に関わるA列車シリーズの魅力
A列車シリーズは,「シムシティ」や「シティーズ」と同じ都市開発シミュレーションに属する作品だ。ただし,プレイヤーは市長ではなく,あくまでもイチ企業の経営者であり,主軸となるのは「鉄道」の敷設や「駅」の建設となる。
つまり,水道や教育や医療といった基礎的なインフラの整備には関わらず,都市開発シムでありながら税金は納める側だ。当然,住宅や商業といった用途地域を設定したり,条例や法律の制定に関わったりすることもない。
一般的な都市開発シムに比べると関われる範囲こそ狭いが,その代わりに鉄道会社の経営者という立場を生かした一部の要素は,かなり深掘りされている。
例えば鉄道を敷くにしても,どのような駅舎を建て,どういった種類の車両を使い,どんな運行ダイヤで動かすかを予算内で決め,実際に走らせる必要がある。とくに運行ダイヤに関しては分刻みの指定が可能になっており,自作のダイヤを組めるのが面白いところ。
また,旅客だけでなく貨物輸送による物流業務や,駅前の商業施設の運営も主力の事業となっている。つまり,交通インフラや人流・物流をほぼ一手に握り,縁の下の力持ち的な立ち位置から街の発展に貢献していくわけだ。この“間接的な都市開発”こそが,「A列車で行こう」シリーズの魅力であり,ほかの都市開発シムとの大きな違いとなっている。
ライト層を意識した雰囲気を持ちつつも,中身は本格派な「はじまる観光計画」
そんなシリーズの最新作である「はじまる観光計画」では,初心者でも少しずつシステムやUIに慣れながらゲームを楽しめるよう,力の入ったチュートリアルが用意されている。
都市経営シムのチュートリアルといえば,そのときに必要な操作をポップアップで表示するだけという素っ気ない印象があるが,本作のチュートリアルはシナリオ形式になっており,秘書や部門別の責任者といったキャラクターが登場し,彼らと関わるイベントも多く存在する。
各キャラクターにはそれぞれ個性があり,やり取りもコメディータッチなものとなっているので,肩肘を張らずにゲーム内容を学べるのがうれしいポイントだ。
ゲームを進行していくうえで主軸となるのは,やはり鉄道路線の敷設だ。人口の多い場所に駅を作り,路線をつなげ,需要に見合いそうな車両を運行させていく。駅の利用者数はそのまま収益率に直結するし,さらに利用する人が増えば駅の周辺もどんどんと開発が進み,ビルや住宅が建ち,都市化していくわけだ。
とはいえ,人口というのはそう簡単に増えていくものではない。小さい町から小さい町に鉄道をつないでも大きな人流や需要は生まれないし,そう簡単に好循環が始まるわけでもない。そこの見通しが甘いまま資金をつぎ込んでしまうと,赤字まっしぐらなんてことにもなりかねない。
そこで重要な要素になってくるのが“観光事業”だ。本作のシナリオマップには,初期状態で「温泉」「史跡」「神社」などの観光スポットが用意されており,それらは一般的な施設に比べて非常に大きな集客効果を持っている。その近くに駅を建て,マップ外へ鉄道やバスといった路線を敷くことで「観光ルート」が完成し,多くの人をその地元に呼び寄せられるのだ。
この観光地の効果は本当に絶大で,数千人規模の街に数十万人の観光客が訪れることも決して珍しくない。前述のように,観光客の流入数はそれだけで都市の発展を促し,何より自社の鉄道やバスを使ってくれるので,運賃も莫大な利益として上がってくる。
基本的にシナリオでは,一定の観光客数を稼ぐこと自体が目的になっていることもあり,ノルマと実益の両方で観光を無視するという手はない。つまり本作では,作品タイトルどおりに“どう観光計画をはじめるか”がキモになると言えるだろう。
以上のように,これまでのA列車シリーズにはない「観光」という要素に軸足が置かれたゲームデザインになっている本作だが,もちろん鉄道ファンに向けたA列車らしい要素も健在だ。
例えば,運行ダイヤは分刻みで調節できるし,プラットフォームや切り替えを適切に配置して,より美しいダイヤを目指すことも可能だ。車両の編成も自由なので,価格や効率優先ではなく,あえて環境や雰囲気に合わせた車両をチョイスしてもいい。
金策についても運賃や子会社の売上げだけではなく,農作物や海産物といった資源の輸送と売買,株式の上場や売買,行政施策の利用,寄付による税金対策など,手段は多い。
これらの仕組みがわかってくると,まるで自分が一端の経営者のように思えてきたりもする。純粋にゲームとして楽しむのもいいが,ちょっとした会計の勉強にもなりそうだ。
また時代の概念もあり,シナリオ設定当時の時事ネタがポロッと飛び出してきたり,物価が変動していて別のシナリオの経験がそのまま通用しにくかったり,時間が現代に近づくと古い業態の会社が陳腐化して稼げなくなったりと,けっこう凝った演出になっているのも印象に残った。
一方,プレイしていて気になった点もいくつかある。今回のプレイしたのはPC版なのだが,UIがSwitch版からそのまま引き継がれているせいか,マウス操作でもボタン表記が残っており,混乱する場面があった。また,充実したチュートリアルのなかでも,なぜか運行ダイヤを適切に組む方法が説明されなかったり,長大な路線を引いていると中継ポイントが足りなくなったりと,かゆいところに手が届いていない印象を受けたことは付け加えておこう。
拡張パック「ひろがる観光ライン」は,鉄道ファンに嬉しいフォトモードを搭載。実在車両も多数追加
今回PC向けにもリリースされた拡張パックの「ひろがる観光ライン」を導入すると,多数の実在車両が追加される。各地のJRで使われていた車両はもちろん,あまり鉄道に詳しくない筆者でも見たことがある特徴的な私鉄や新幹線なども利用でき,シミュレーションゲームとしてのリアリティがグッと増している。
またフォトモードも追加されているので,エフェクトやフレームにこだわったスクリーンショットを撮影することも可能だ。予算や時間を一切気にせず自由に開発できるコンストラクションモードを併用すれば,より見栄えにこだわったシャッターチャンスも訪れるだろう。
ほかにも,観光系子会社が追加されたり,街のオブジェクトが増えたりと,都市開発における自由度の広がりも確認できた。車両を多数展示できる大規模な鉄道博物館を誘致できるなど面白い要素もあるが,ゲーム性そのものに大きな変化はないので,追加される車両に興味があるかどうかが,拡張パック導入の決め手になりそうな印象だ。
このように,ひろがる観光ラインに関しては鉄道ファン向けの印象が強いが,ベースのはじまる観光計画は開発系シム好きにオススメできる内容なので,興味があればぜひ遊んでみてほしい。
「A列車で行こう はじまる観光計画」公式サイト
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