スクウェア・エニックスは,2021年10月28日に
「Voice of Cards ドラゴンの島」 (
PS4 /
Switch ,
PC版 は10月29日)を発売する。
本作は,
ヨコオタロウ氏 がクリエイティブディレクターを務めることで注目を集めているが,ゲーム部分もカードとダイス,そして語りで世界を綴るという,アナログゲーム感のあるユニークな作りのタイトルだ。
『Voice of Cards ドラゴンの島』トレーラー
VIDEO
今回4Gamerでは,本作に携わった6名の開発スタッフにメールインタビューを行った。3つの共通質問と5つの個別質問で,“脳内再生RPG”を謳う本作は,どういった魅力を持つタイトルに仕上がっているのだろうか。
エグゼクティブ・プロデューサー:齊藤陽介氏
クリエイティブディレクター:ヨコオタロウ氏
ミュージックディレクター:岡部啓一氏
キャラクターデザイナー:藤坂公彦氏
シナリオライター:松尾勇気氏
ディレクター:三村麻亜沙氏
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2021/10/03 22:13
エグゼクティブ・プロデューサー:齊藤陽介氏
代表作:「NieR:Automata」「ドラゴンクエストX オンライン」「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」など
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
齊藤陽介氏(以下,齊藤氏):
藤坂さん(藤坂公彦氏。本作のキャラクターデザイナー)と直でお仕事できることが,一番の嬉しいポイントでしょうか。苦労したのはヨコオさん(ヨコオタロウ氏。クリエイティブディレクター)に内緒で,スマホゲームからコンシューマにシフトする根回しをすることだったかも。でも,それもそんなに大変ではなかったので,そういう意味では苦労は特にないですね。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
齊藤氏:
同年代から少し下の世代の皆さんには,全般的に「新しいけど懐かしい」と感じてもらえるかなと。若い人には「たまにはこれくらいのスピード感のゲームもいいんじゃない?」というところを感じてもらえたら嬉しいです。
4Gamer:
ご自身のテーブルトークRPG(以下,TRPG)の原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
齊藤氏:
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」「クトゥルフの呼び声」「ソードワールド」「ローズ・トゥ・ロード」「トラベラー」などなど,いろいろ遊び倒しましたが,やはり自身でその場その場の情景を創造できるのが楽しいですよね。あとは一緒に遊ぶ人,ゲームマスターの力量は大事かも。その点,本作の安元さんは,超おすすめのゲームマスターです(笑)。
●個別質問
4Gamer:
制作に至った経緯について,改めて教えてください。
齊藤氏:
藤坂さんが日本に帰ってくるので,「一緒に何かやりません?」というヨコオさんの一声で始まりました。まぁそう言われたら,やるしかないですよねぇ。
4Gamer:
TRPGを意識した企画が上がってきた時の感想をお聞かせください。
齊藤氏:
学生時代からの大好物なものなので,願ったり叶ったりでした。でも,地味な遊びなので売るのは大変そうだなぁと(笑)。
4Gamer:
もともとはスマートフォン用のソーシャルゲームを想定していたそうですが,コンシューマの買いきり型ゲームとした判断について教えてください。
齊藤氏:
ヨコオさんからは「ガチャゲーにしたい」という話がありましたが,そうすると次から次にネタを作り続けないといけなくなります。今のヨコオさんのタスク量だと,どこかで破綻するだろうなと思い,早い段階で切り替えようと考えていました。結果,よかったのかな? どうなんだろう。
4Gamer:
発表後の反響はいかがでしょうか?
齊藤氏:
嬉しいことに,体験版の評判はまずまずの様子なので,ぜひ製品版も遊んでいただければなと思っています。ちょっともっさりしているという声も聞こえてきますが,あえてそうしているところでもあるので,そこは少し残念です。何か考えます。
4Gamer:
尖った本作と同時期に,こちらも尖った「DUNGEON ENCOUNTERS」が発売されましたが,スクウェア・エニックスさん内で「尖ったゲームを出していこう」「ゲームの原点を問い直してみよう」という,社内的な盛り上がりがあるのでしょうか?
齊藤氏:
偶然です(笑)。本当は,宣伝を一緒にできたらいいなと思っていたんですが,結局お互いに地味すぎて,何にもないままに売り出しちゃいました(笑)。「地味げー」みたいなカテゴリーを作ってもらって,何かやりましょうか。今からじゃ遅いか。
クリエイティブディレクター:ヨコオタロウ氏
代表作:「ドラッグオンドラグーン」「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」「NieR:Automata」など
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
ヨコオタロウ氏(以下,ヨコオ氏):
嬉しかったことは,正直,バトルパートが面白くなるか不安でしたが,開発してくださるエイリムさんががんばってくださって,良いゲームになったことです。苦労したことは,ボンヤリ寝ていただけなので,ありません。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
ヨコオ氏:
リリースできたこと,それ自体を見ていただきたいです。
4Gamer:
ご自身のTRPGの原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
ヨコオ氏:
TRPGは高校生の時に多少遊んだきりですが,その自由度の高さと,自分のコミュニケーション能力の低さに驚きました。TRPGは人類にはまだ難しすぎる気がします。
●個別質問
4Gamer:
TRPGを強く意識したシステムにした理由を教えてください。
ヨコオ氏:
割と初期の段階から,アナログゲームの「自由度」と「対人性」は持てないことが分かっていたので,TRPG風の味付けをしつつ,シナリオの本質はゲームブックにすることを決めていました。宣伝担当さんが,販売時のキーワードにTRPGを使った時に「ゲームブックなんだけどな。でも,素直にそれを言うと売れなさそうだな」と思ったことは秘密です。
4Gamer:
企画段階ではスマートフォン用のソーシャルゲームを想定していたそうですが,現行版と違っている部分について教えてください。特にゲームマスターのナレーションは,ソーシャルゲームとして企画していた時点から存在していたのでしょうか。スマートフォンのソーシャルゲームは電車の中など,音をあまり出せない状態でプレイされることが多いと思いますが。
ヨコオ氏:
ゲームマスターのナレーションは,ソーシャルゲーム版の時には想定していませんでした。コンシューマ化した際のバリューアップとして入れています。結果的には,「声優さんの部屋に二人っきりで閉じ込められて二人で延々とRPGをする」という,不思議な感じのゲームに仕上がったと思います。
4Gamer:
開発メンバーに向けて,どういったコンセプトを伝えていたのでしょうか。
ヨコオ氏:
「全部カードで描く」というコンセプトを伝えていました。最初は理解してもらえなかったのですが,何度か繰り返して念押ししていたら,開発チームが諦めてくれました。
4Gamer:
GM役を安元さんに決定した決め手はどういったものでしょうか?
ヨコオ氏:
安元さんにお願いしたのは,聞いていて疲れない声である必要があったためです。それでいて,役者でもない一般人のGMは演技などできないので,極力「演技」をしないようにお願いしました。
4Gamer:
本作の見どころ,どういった人にプレイしてほしいかを教えてください。
ヨコオ氏:
もちろん大勢の方に遊んでいただくに越したことはないのですが,このゲームは,なんというか,完成しただけで満足感がありました。「カードだけでRPGを作る」という,謎の挑戦をぜひ楽しんでいただければと思います。
ミュージックディレクター:岡部啓一氏
代表作:「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」「NieR:Automata」「太鼓の達人」シリーズなど
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
岡部啓一氏(以下,岡部氏):
気心の知れた面子で制作できて楽しかったです。今まで自分が制作で携わってこなかったタイプのゲームなので,最終的なイメージを掴むのに苦労しました。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
岡部氏:
今回は私自身も作曲していますが,ミュージックディレクターとしての仕事が多かったです。作曲メンバーとしては「NieR Re[in]carnation」にも参加している瀬尾祥太郎と,ヨコオさんのプロジェクトでは初めての参加となるOliver Goodの三人になります。それぞれの作品のカラーが相まっていいバランスになっていると思うので,そのあたりも楽しんでもらえると嬉しいです。
4Gamer:
ご自身のTRPGの原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
岡部氏:
私自身はTRPGに触れてこなかったので,いろんな面で挑戦が多かったです。
●個別質問
4Gamer:
本作の音楽におけるテーマを教えてください。
岡部氏:
アイリッシュテイストをベースにしつつ,僕たちのテイストをブレンドして制作しています。カードゲームのアナログっぽい雰囲気を音楽でも表現出来るように,オーガニックっぽいサウンドと穏やかなテンポ感を意識しました。
4Gamer:
ヨコオさんとのやり取りの中で,印象に残っているエピソードはありますか?
岡部氏:
いつもと変わらずな感じでしたが,音楽制作が始まった頃に「ニーア」シリーズの海外コンサートがあったので,滞在先のホテルでヨコオさんと打ち合わせしたのが印象に残っています。
4Gamer:
今回のお仕事では,ヨコオさんより五月雨式にオーダーがあったそうですが,通常の方法と比べてやりやすいのでしょうか,それとも逆なのでしょうか?
岡部氏:
今までのヨコオさんのプロジェクトでも,五月雨のパターンもあったので特に戸惑うことはなかったです。ただ,個人的には最初からすべての曲のオーダーがあった方が,全体のバランスを考えながら個々の曲を作れるのでありがたいです。
4Gamer:
今回は「ケルト風」の曲を目指されたそうですが,具体的に何をどうすると「ケルト風」になるものなのでしょうか?
岡部氏:
ドリアンやミクソリディアン・スケール(どちらも音の並び。教会旋法とも呼ばれ,聖歌の旋律に使われていた)を使ったり,アイリッシュな楽器を使う事でそういうテイストは出せるのですが,そこに縛られ過ぎると「っぽい何か」になってしまうので,そこを意識しつつ,あくまでも自分たちの感覚を大切に作っています。
4Gamer:
本作はTRPG風のゲームシステムとなっていますが,音楽作りの上でゲームシステムが影響を与えたような部分はあるのでしょうか?
岡部氏:
ヨコオさんからも言われていたのですが,「ニーア」シリーズ等と比べて穏やかなゲームシステムなので,聞き疲れしたり飽きたりしてしまわないように,主張しすぎない楽曲作りを意識しました。
キャラクターデザイナー:藤坂公彦氏
代表作:「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズ,「幕末Rock」,「テラバトル」シリーズなど
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
藤坂公彦氏(以下,藤坂氏):
据え置きゲームとして新規タイトルを製作できたのはとても嬉しかったです。コンセプトとしてゲーム全体をアナログっぽく見せたいのに,デジタルカードゲーム感がなかなか消せなくて,そこは苦労しました。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
藤坂氏:
カードの箔が良い感じに処理でき,おかげでかなりカードの実在感を出せたかなと思っています。
4Gamer:
ご自身のTRPGの原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
藤坂氏:
TRPGではないのかもしれませんが,小学生の時に趣味でゲームブックをいくつも作っていました。作るのが楽しくて,実際ほとんど遊んでいなかった気もします。そして他人に遊んでもらう事もありませんでしたが。
実際にゲームマスターの方に進行してもらって,ワイワイとお話しながら遊ぶ感じが,TRPGのとても特別感があるポイントだと感じます。あの不確定な感じをデジタル上に再現したゲームを作れたら面白いのになと思います。
●個別質問
4Gamer:
アートにおける全体的な雰囲気について,ヨコオさんからどのようなオファーがあったのか教えてください。
藤坂氏:
アート的には「ゲーム全体が現実のテーブル上で遊んでいるような雰囲気」になるようオファーされました。結構大変でした。エイリムさんも困ったことでしょう。
4Gamer:
今回のキャラクターデザインにおいて,最も難航したキャラクターは誰でしょうか?
藤坂氏:
クロエ(旅の仲間の1人。ドラゴンを恨む,黒づくめの魔女)かな? クロエのラフをヨコオさんがとても気に入ってくれたのですが,清書してみたら自分の中ではラフの良さが消えてしまっていて,ラフの魅力を残そうと何度も描き直しました。まあ,絵描きあるあるですけどね。
4Gamer:
東京ゲームショウ2021の放送では,本作のキャラクターデザインは「町にいる一般的な人々から始めた」と語られていました。一般的な人々と主人公クラスのキャラクターを描くとき,それぞれの苦労と楽しさについて教えてください。
藤坂氏:
主役級のキャラクターは割と万人向けを望まれることが多いので,そうすると平均的な良さを探す必要があり,ある意味制約も多くなりがちです。その中で自分なりのチャレンジを仕込んで,それが決定稿になった時は達成感があります。
NPCに関しては,皆あまり思い入れがないのかリテイクがほとんどないので,普段描けないようなキャラクターを自由に描けて純粋にとても楽しいです。あまりキャラ立ちさせても良くない場合も多々あるので,その塩梅は難しいところではあります。
4Gamer:
TRPG的なシステムを持ち,キャラクターがカードとして表される本作ですが,こうした要素がキャラクターデザインに影響を及ぼした部分はあるのでしょうか?
藤坂氏:
とにかくキャラクターが動かないし喋らないので,カードとしてのキャラクターの間が持つように気をつけてはいました。これはこれでなかなか面倒な部分もあり,ハイエンドマシンで3Dモデルのアクションゲームが作りたくなりました。
4Gamer:
お気に入りのキャラクターを教えてください。
藤坂氏:
ケダマ?(真っ白な毛に覆われた,毛玉のような魔物)
シナリオライター:松尾勇気氏
代表作:「NieR Re[in]carnation」など
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
松尾勇気氏(以下,松尾氏):
シナリオの締め切りを僕が死ぬほどぶっち切っていたので,どうにか完成にこぎつけられて,嬉しいというかホッとしています。しかしエイリム様には多大なるご迷惑をおかけしたことを,この場をお借りして謝罪いたします。あ,締め切りの延ばし方はヨコオさんから教わったんですよ。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
松尾氏:
珍妙なキャラクター達の愉快な冒険譚を楽しんでいただけると嬉しいです!
4Gamer:
ご自身のTRPGの原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
松尾氏:
TRPGは僕が高校生だったころに流行っていたのですが,当時はもうビデオゲームに夢中だったので,友人が遊んでいるのを横で眺めていた程度でしたね。時を経て,ヨコオさんやシナリオチームとTRPGを遊んだときは,みんな好き勝手なことばかり言うので,「このメンバー相手のゲームマスターはやりたくないな」と思いました。
●個別質問
4Gamer:
本作がTRPG的なシステムであると知った際の感想を教えてください。
松尾氏:
TRPGそのものを模倣することよりも,TRPGやゲームブック,ボードゲームなど,アナログゲームの持つエッセンスをどうやってデジタルに落とし込んでいくかに頭を悩ませていたかもしれません。
4Gamer:
通常のゲームシナリオと言葉遣いを変えたりするような指示はありましたか?
松尾氏:
ヨコオさんからは「キャラのセリフは,ステレオタイプな言葉遣いにしない」など,いくつか大まかな方針の指示はかありました。たとえば老人系のキャラがいたとして,イメージの伝わりやすさを優先すると「何々なのじゃ」みたいな口調になることが多いのですが,極力そういった記号的役割をセリフには持たせないようにしています。本作はゲームマスターひとりしかしゃべらないので,「ゲームマスターがキャラごとに口調を演技しすぎると,逆に不自然になってしまう」という理由からです。
4Gamer:
東京ゲームショウ2021の放送では「カードに文章を収める際に文字のレイアウト面まで気を使った」と語られていました。通常のシナリオと今回のシナリオで,どちらが書きやすいのでしょうか。カードに文章を収めることと,ウインドウに文章を収めることに違いはあるのでしょうか。
松尾氏:
本作で主に使われているテキストカードは,1行あたり12文字までしか入りません。そのうえで,文字組みの見た目を美しく保つため,追い込み(句読点など“行の頭にきてはいけない文字”が頭にきそうになった場合に,文字を詰めること),追い出し(“「や(など,行の最後にきてはいけない文字”が最後にきそうになった場合,文字の間を広げることで次の行に移動させること),ぶら下げ(行の末尾の句読点が次の行に行きそうになった場合,前の行の最後に配置すること)といった,禁則処理が掛からないようにテキストを書く,というルールを設けています。これがまた,慣れないととても書きづらいのです。
油断するとすぐに文字組みがガタガタになるので,それをチクチクと修正し続ける毎日でした。自分で決めておきながら「なんでこんな面倒なルールにしたんだろう」と後悔しましたが,おかげで文字組みは美しくなったかと思います。
4Gamer:
お気に入りのキャラクターは誰でしょう?
松尾氏:
もちろん全キャラクター好きなのですが,しいていえば「栄養士ゴルドー」(栄養剤を作り続ける,筋骨隆々の男性)でしょうか。まだキャラクターの設定が何も決まっていない時期に,藤坂さんが先にアートを描いてくれたのですが,見た瞬間「このキャラは絶対にシナリオに登場させねば!」と思いました。あと個人的には,藤坂さんの描くお爺ちゃん系のキャラクター全般が好きです。
4Gamer:
東京ゲームショウ2021の放送では「いわゆる“ヨコオ作品”的な要素があるかどうか」についてちょっと濁されていましたが,実際はどうなのでしょう?
松尾氏:
ヨコオさんですよ? あのヨコオさんですよ? しかしヨコオさんは天邪鬼なので,逆に「らしくない」ことをあえてやる可能性もなくはない,と言えましょう……。
ディレクター:三村麻亜沙氏
代表作:「Voice of Cards ドラゴンの島」(初ディレクション作品)
●共通質問
4Gamer:
制作にあたり,もっとも嬉しかったことと苦労されたことを教えてください。
三村麻亜沙氏(以下,三村氏):
自分の性癖を開花させたと言っても過言ではない(笑)「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズや,ファンとして追いかけていた「ニーア」シリーズの軸となる方々と一緒にお仕事をできたことが,一番嬉しかったことです。当時の私に言ってもきっと信じないと思います。
その分プレッシャーも大きく,初めてのこと尽くしの中,特に多数の人間をまとめあげるのはこんなに大変なのかと苦労しました。ただ,前述したように,この企画に携わるというだけで気合の入るものでしたので,気持ちの面で支えられて乗り越えられました。
4Gamer:
今回のご自身のお仕事で「ここを見てほしい」部分を教えてください。
三村氏:
すべてが比喩なく血と汗と涙の結晶なので,ゲームを遊んで楽しんでいただけたら嬉しいです。
4Gamer:
ご自身のTRPGの原体験と,TRPGの魅力について教えてください。
三村氏:
本格的にTRPGに触れたのは,この企画のお話が出てからになります。元々周囲で嗜んでいる人は居たので気になっていたのですが,もっと早くに体験しておけば良かった! となりました。ある程度の結末は決まっているものの,ゲームマスターのさじ加減でその場限りの体験,物語が楽しめる興奮は独特のものだと思います。ちなみに初めて作ったキャラクターは,触れてはいけない世界に触れてしまい,今も迷い込んだまま彷徨っています。その後を妄想して慰めています……。
●個別質問
4Gamer:
初ディレクションのお仕事を終えられて,今の感想を聞かせてください。
三村氏:
世に送り出すことができて本当に良かった……と,ホッとしています。ディレクターやプロデューサーなど,まとめあげる方がいかに苦労しているか身を持って体感したので,世界中のコンテンツ制作に携わる方々に尊敬の念を抱くばかりです。ついてきてくれた開発メンバーにも感謝しています。
4Gamer:
当初はソーシャルゲームとして企画されていた本作ですが,ソーシャルゲームと買い切りゲームにおける作り方の違い,それぞれの魅力と作る上での大変さについて聞かせてください。
三村氏:
根本の面白さは変わらないものの,ソーシャルゲームの場合はプレイヤー同士の繋がりや遊びも重要ですので,遊び方は多少違っていたと思います。
開発目線で言うと,買い切りの方が明確な作り終わりのゴールがあるので,心身的な安心感はあるかもしれませんね。最近はパッチ更新や追加コンテンツもできるようになってしまったので,発売後も気は休まりにくくはなっていますが(今作に関しては発売後の追加コンテンツはありません)。先を見据えた開発はどちらも難しいので,ああすれば,こうすればよかった,となるのは変わらないです。
4Gamer:
ディレクターが考える,本作の魅力と面白さについてアピールをお願いします。
三村氏:
まず見た目のインパクトは大きいのではないかと思います。ありそうでなかったアナログゲーム的な表現は制約もありますが,だからこそ想像の入る余地が生まれ,言葉が紡がれる楽しさや,手触りをじっくり味わえるものになりました。心地良いボイスと胸躍る音楽に包まれながら楽しんでいただければ幸いです。
4Gamer:
ヨコオさんとのやり取りで印象に残っているエピソードがあれば教えてください
三村氏:
終盤の頃に,「ふと定期的にやりたくなるゲーム」と言っていただけたのはとても嬉しかったです。ヨコオさんや藤坂さんの指針が揺るがずハッキリとしていたからこそ,開発も試行錯誤はしましたが,進むべき方向に迷わず向けたので,非常に勉強になりました。
4Gamer:
ヨコオさんのファンとして,ヨコオ作品の魅力を語ってください。
三村氏:
どうしても毒を期待しがちになりますが(笑)そこではなく,語られすぎない言葉や表現の妙が魅力だと思っています。
特に今作はキャラクターが人の形になって動くわけでもなく,表情が細かく見られるわけでもありません。セリフに至ってはゲームマスターのボイスであることを意識して,わざと平坦な,感情を抑えた喋り方を徹底しています。どうしても文字で詳細な説明をしがちになってしまうのですが,そこを抜き差しする指示が入るんですね。当初は傍からテキストだけで見ていて,「プレイヤーは感情移入できるだろうか」と内心不安になったりもしていました。ですが,カードでの表現や音,ボイスが合わさることで魅力が何倍も膨れ上がって,その尺度に「すごい!」と感動しました。表現する媒体によってアプローチ方法をいろいろと考えていらっしゃると思うのですが,その手腕を間近で見ることができて非常に嬉しかったです。