連載
レトロンバーガー Order 69:サムラーイ,ニンジャ,スモー的な “勘違いニッポン”だからこその魅力ってあるじゃん系「The First Samurai」編
海原は 鴎立ち立つ
うまし国ぞ 蜻蛉島 大和の国は
万葉集に収められている,舒明天皇が詠んだとされている歌(一部抜粋)で,ざっくり言えば「日本は良い国だな〜」という意味です。実際には「そう思ったよ〜」という話でなく,お祈りみたいなものらしいですが。
今日においても,日本は伝統的な文化と最新テクノロジーを両立させながら発展している,世界的に見ても極めてユニークでバラエティに富んだ,素晴らしい国ですね。まあ筆者は,正直な話,率直に言って日本の現状は憂うべき状況とは考えないけれども素晴らしいとは絶対思わねえな(宮本浩次)系の,くだらねえ世の中とかくだらねえ俺達とか言ってんのは縄文時代から変わんねえんだからよお前それ(ガストロンジャー)的な感じですが。アラお父さん今夜は機嫌が悪いわ(バケモノ青年)。
昨今,こと某世界的運動会が開催されたことで,改めて顕になった汚点あり,フォーカスされた美点もありで,日本という国家や国民のアイデンティティは何なのかといった話が取り沙汰されています。このタイミングで,日本人は一度“大和魂”と呼ばれるものを見直すべき。皆さんも少なからず,そのように思うところはあるでしょう。
というわけで,今回は6月にGOG.comで発売された「The First Samurai」および「The Second Samurai」でやっていきましょう。
サムラーイ! ブシドー! ハラキーリ!!
いや大和魂とか知らんし……。ビルの角あたりに日本人の情緒的なものを感じて嫌だったりするし……(未来の生命体)。
GOG.comの「The First Samurai + The Second Samurai Bundle」販売ページ
Suit go it death neil!(訳:イカスぜあんた!)
オリジナルの「The First Samurai」(Amiga / Atari ST)はImage Worksから1991年に,その続編である「The Second Samurai」(Amiga / Megadrive)はPsygnosisから1994年にリリースされました。開発はどちらもVivid Imageです。
「The First Samurai」はMS-DOS移植版がUbisoft,Super NES(海外版スーパーファミコン)移植版がケムコ(コトブキシステム)の海外法人からリリースされています。ケムコは日本向けにもスーパーファミコン版をリリースしていて,さらにゲーム内BGMをボーカルアレンジした主題歌CDも製作しています(CDの発売はビクター音楽産業・当時)。この主題歌を歌ったのが,1970年代を過ごした方々には「イルカにのった少年」でお馴染みの城みちるさん。城さんは20歳で芸能界から一旦引退し,復帰後も新譜リリースは行わなかったため,「ファーストサムライ」の主題歌CDが“8cm CDでリリースされた最初で最後の城みちるナンバー”となっています。プレス数は相当少なかったらしく,現代では超稀少盤となってしまっていますので,もし音源などがビクターエンタテインメントさんに残っていたら是非ともリバイバルしていただきたい1枚ですね。いわゆる“おバ歌謡”とか“アレコード”とかの類ではありますが,和楽器サウンドとエッジの立ったデジタル音源,城さんの安定感あるボーカルが奇妙にも高いレベルで融合していて,独特の魅力があるナンバーです。
GOG.comで販売されているのは,「The First Samurai」がSuper NES版,「The Second Samurai」がMegadrive(欧州向けメガドライブ)版をベースとしたもの。というわけで,実質的に「スーパーファミコン用ソフトとメガドライブ用ソフトがバンドルで販売されている」という,1990年代を知るゲーマーなら少し不思議な気持ちになる組み合わせですね。ちなみに「First Samurai」はSteamでも販売されていますが,「The Second Samurai」のSteam版は今のところ発売されていません。
これらのPC移植版を開発・発売したのは,Order 37の「美食戦隊薔薇野郎」などもリバイバルしているPiko Interactiveです。エミュレータは「美食戦隊薔薇野郎」と同じものを使っているらしく,これらにも3スロットのステートセーブが搭載されています。その他にも多少のカスタマイズが可能で,例えば背景のセガール顔をした主人公(若者という設定)とプレイ中にしょっちゅう目が合ってビミョーな気持ちになる場合は黒背景にできます。
舞台となっているのは大昔の日本。demon kingにsenseiを殺害されたfirst samuraiが,復讐のためsenseiのmagic swordとwizard mageに習った初歩的な魔法で武装し,未来へ逃げたdemon kingを追って旅立ちます。ちなみに日本語版では,demon kingは「悪霊」,senseiは「師匠」,wizard mageは「妖術使い」と訳されていました。
すでに「お腹いっぱい」感はありますが,主人公の旅路がまたすごい。1730年の合戦場で人食いトンボや火を吹くカッパ,巨大ガマを蹴散らし,時の列車で1999年の東京(デカいお城がいっぱい建ってる)へ飛び,さらにそこから時のエレベーターに乗って2245年の悪魔の城へと殴り込みます。ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)の「ピストル大名の冒険」と同じくらい日本情緒が全編にわたって溢れてます。
ゲーム自体は,ボス戦だけ難度が跳ね上がりすぎるきらいはありますが,おおよそ「普通に良くできている」アクションアドベンチャーといったところです。長めのデモシーンではボタン長押しで早送りできたり,チュートリアルが丁寧だったりと,ユーザフレンドリーな設計が随所に見られるのも好印象。Amiga版の発売当時も,おおよそ「新鮮さには欠けるがよくできている」といった,熱くもなく冷たくもなく適温っちゃ適温くらいの評価を受けていたとか。筆者の個人的なプレイフィールを述べるなら,「何つうか……サイドビューアクションで,探索要素つったら『悪魔城ドラキュラ』,和風つったら『ザ・スーパー忍』だけど,そういうのより『ハイパーイリア』とか『サイコドリーム』とか『魔獣王』とか,あ〜スーファミってこういうやつ〜の触感だな……」といったところです。ケムコが移植したためか,手触りが和ゲーっぽいこともあり。
Meet saw, show you?(訳:ワザが効いてるだろ?)
「The First Samurai」のクレイジーぶりは衝撃的でしたが,「The Second Samurai」では病状が深刻化。全体的には三部構成となっていて,第一部では原始時代を舞台に原始人やメガネウラと戦ったり,恐竜に乗って駆け抜けたり。第二部では近未来を舞台にT-800のエンドスケルトンみたいなロボットやフェイスハガーみたいな怪生物と戦ったり,ジェットパックを背負って空を飛んでビームを撃ったり。第三部では昔の日本を舞台に巨大な相撲取りや忍者と戦ったり,ラスボスが赤鬼だったり。メルダック(現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)の「暴れん坊天狗」と同じくらい日本情緒が全編にわたって溢れてます。
ゲームは探索要素が弱められて,アクション重視のスタイルに。これもまた好評を得たそうですが,その後Vivid ImageはUbisoftの下請けとして「Street Racer」や「S.C.A.R.S.」を開発するようになり,「〜Samurai」シリーズは2作で打ち止めとなりました。
その後,Vivid Image創設者のMevlüt Dinç氏はイギリスでのキャリアに限界を感じて,2000年代初頭に母国・トルコへと去りました(そしてトルコにおけるゲーム産業の第一人者となったとか)。それでも同氏は2016年にPixel Age Studiosというスタジオを改めてイギリスで立ち上げ,「The First Samurai」の新たな続編である「Super Samurai」を発表しましたが,残念ながらKickstarterキャンペーンで十分な出資を集められず頓挫しています。
そんなこんなで長年活用されていなかった「〜Samurai」シリーズの権利ですが,アメリカのPiko Interactiveが獲得して,今回のリリースに至ったみたいですね。つまり「The First Samurai」は,トルコ人がイギリスで作った侍ゲームの日本企業による移植版がアメリカで復活したってことです。うーん,グローバル。
Show he they, neil angry!(訳:サービスしといたぜ!)
近年は「Ghost of Tsushima」(PS5 / PS4)のように,日本文化への理解が深い海外製ゲームも珍しくなくなってきました。映画も「アベンジャーズ/エンドゲーム」や「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」などは,過去の「ウルヴァリン:SAMURAI」や「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の時代を知っていると,“日本”の解像度が上がっていると感じられます。
Netflixでは「アウトサイダー」「アースクエイクバード」「エクストレモ」「ケイト」など“日本”をフィーチャーした映画が複数配信されていますし,音楽面ではCity PopやVaporwaveの隆盛から,竹内まりやさんや今井優子さんなどの昭和歌謡が世界的にフィーチャーされています。ファッションでは南アフリカ出身のHip-Hopユニット・DIE ANTWOORDがカタカナを取り入れたアパレルを展開したり,一昔前ですがイギリスの「superdry 極度乾燥」ブランドが世界的にヒットしたりもしましたね。アジアでも,中国・広東省の広州市や仏山市に日本の景観を再現した施設がオープンしたりもしています。近年,“日本”の新たな魅力が世界中で再発見されていると言えるでしょう。
ただ,その一方で「正しく描く」ばかりが優れた表現というわけではありません(明らかな間違いはアレですが)。ゲームだと「NiPPON MARATHON」(関連記事)は非常に面白いですし,映画だと「ジョン・ウィック」シリーズに出て来る相撲アサシンや板前アサシンは魅力的です。国産コンテンツでも「戦国BASARA」や「ニンジャバットマン」などのように,ハチャメチャに“誇張”されたカルチャーは楽しいものです。
とは言え,最近だと“誇張”も難しいですけどね。例えば「シャン・チー/テン・リングスの伝説」で,シャーリン役のメンガー・チャンさんが監督に直談判してシャーリンの髪を黒くさせた(当初は赤メッシュ入り)ことって,もちろんアクティブな意志自体は素晴らしいのですが,“アジア人のステレオタイプを避けたら黒髪”という話だけを見れば本末転倒に思えますし,そもそも例のTeen Vogueの記事も「ランナウェイズ」のニコ・ミノルや「スーサイド・スクワッド」のカタナを度外視していますし。て言うか悪癖的なステレオタイプと,“らしさ”の誇張と,「ツンデレキャラは金髪ツインテ」的テンプレにどうやって線引きするの?という疑問もありますし。それに「キルラキル」の纏 流子や「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」の美竹 蘭や「セガ ハード・ガールズ」のマスターシステムみたいなキャラクターデザインはどういう位置付けになるんだろう……みたいな。難しいね!
まあ,宮本浩次さんは「でたらめでも何でもいいんだ」って言っていましたので(ガストロンジャー),筆者としてはハチャメチャ誇張ニッポンが今後も世界中で作られることに期待したいところです。ある人にとって「何もない田舎だ」と思う光景が,別の人には「自然豊かな素晴らしい土地だ」と思えたりするように,立ち位置によって見える光景って変わりますから,ハチャメチャだからこそ表現できる“日本”もあります。そう,「ストリートファイター ザ・ムービー」のキャプテン・サワダとか,「Command & Conquer Red Alert 3: Uprising」のユリコ・オメガとかサイコーじゃないですか!
世の中には「他人の解釈が自分のイメージしているものと違う」というだけで怒り出す人もいますが,可能な限り自分の道を歩んでいくべく反抗を続けてみようじゃないか(ガストロンジャー)。
- 関連タイトル:
The First Samurai
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