[GDC 2025]アナログとデジタルが融合したストップモーション風ADVはどう生まれたのか。「Harold Halibut」ポストモーテムをレポート
本作は,ドイツのインディースタジオ・Slow Bros.によって2011年に構想され,13年の開発期間を経て完成した。実際に制作した模型を3Dスキャンすることで生まれた独特のビジュアルや,精巧に作り込まれたインタラクションで,リリース当初からこれまで高い評価を受けている。
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アメリカ・サンフランシスコで開催されているGDC 2025では,そんな本作のポストモーテム(事後検証)「Independent Games Summit: Creating a Handcrafted Game: 'Harold Halibut' Postmortem」が行われた。現地ではアセット制作と開発パイプライン,長期開発に至った理由など,スタジオが歩んできた試行錯誤の道のりが語られていった。
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「Harold Halibut」の開発は,登壇者の1人で,当時映画学校を卒業したばかりの共同創設者・ディレクターのOnat Hekimoglu氏が,友人のFabian氏とDaniel氏とともにポイント&クリックアドベンチャーを作ろうと決意したことから始まった。
しかし,3人とも絵や3Dモデリングのスキルがなかったため,本作では“実際に模型を作ってストップモーションアニメのように制作”する方法を選択する。そこに,もう1人の登壇者であるアートの専門家,Ole Tillmann氏が声をかけられ,氏が描いた主人公ハロルドの初期デザインが,アート面の方向性を決める一手となった。
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当時の彼らは資金もなく,最初のセットやキャラクターモデルはキッチンで制作されたが,2013年にはドイツ政府のゲーム開発助成金を獲得し,フルタイムで開発できる環境が整った。
だが,そこからも順調とはいかない。キャラクターが背景の一部としてなじまなかったり,アニメーションの自由度が限られたりするなど,ストップモーションでのゲーム開発には多くの制約が横たわった。
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そこでチームはフォトグラメトリー(Photogrammetry)を導入した。彼らは模型を手作りし,カメラで何百枚もの写真を撮影したのち,フォトグラメトリーソフトで3Dモデル化。それをクリーンアップし,ゲーム内に適用させる方法で,手作りの質感を維持したビジュアルを実現する。
これに関しては,ケルン大学の友人たちが開発したマテリアルスキャナーによる,リアルな壁や床のテクスチャ再現も貢献したという。
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さらにチームは,シネマティックなアニメーションを実現するため,「The Last of Us」や「God of War」のような高度なモーションキャプチャ技術を採用することを目指した。といっても,大手スタジオのような専用スタジオや高価な機材はない。
例えば参考にした「The Last of Us」の場合は。
・30人以上のアニメーター
・現場に常時10~15人の撮影クルー
・モーションキャプチャに必要な何十台もの高価なカメラ
といった大規模な環境が整っていた。
これに対し,Slow Bros.は。
・1~3人のアニメーター
・2人の撮影クルー
・監督のOnat Hekimoglu氏がすべてのキャラクターを演じる
・モーションキャプチャスーツは安価なもの
・複数のキャラクターが出る場面は,三脚をほかのキャラクターの代役にして個別に撮影
・事前に録音した音声に合わせてアニメーションを制作
と低予算で最小限の編成だった。それでも試行錯誤を重ねて,ハイクオリティな表現を生み出していくことを目指した。
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予算面では相当な紆余曲折があったという。2016年に初のトレイラーを公開したときは大きな反響を得たが,そのときは開発資金がほぼ底をついていた。そこで目標15万ユーロでKickstarterキャンペーンを実施するものの,資金は集まらず失敗。しかしこのキャンペーンをきっかけに,10社以上のパブリッシャが興味を示すという結果を生んだ。
2018年にはパブリッシング契約を結び,資金調達が実現したかと思いきや,突然の契約解消に陥る。COVID-19の影響も重なり,開発資金は再び尽きて制作は一時停止となった。
2021年には復活を目指して,新たなトレイラーを公開した。これがまた大きな反響を呼び,ゲームイベントへの選出や,SIEやMicrosoftとのパートナーシップ成立といった成果を生んだ。
それによってSlow Bros.は完全な資金調達に成功し,2024年に自社パブリッシングでリリースできることになった。
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これまでのゲーム開発の歩みを振り返り,登壇者の2人は「なぜ完成に13年もかかったのか?」について触れた。
本作は,手作りの作業に伴う開発の長期化といった事例に思われるかもしれないが,それだけではない。初めてのゲーム開発でトラブルが予測困難だったことや,想定よりも規模の大きなゲームになったこと。そして資金不足で開発が何度も中断したこともまた大きな理由だった。
この経験を積んだ現在のチームで同規模のゲームを,それも適切な資金で作るとしたら,今は「5年ほどで完成できる」と考えているという。
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初のゲーム開発で苦労はありながらも,フォトグラメトリーによる手作り感の再現や,低予算モーションキャプチャの工夫といった独自のやり方でゲームを作り上げ,そして高評価を得た。
慣習にとらわれず,自分たちならではの方法を確立すること。それが,特別な作品を生み出す鍵となる。伝統的な開発手法にこだわるのではなく,「自分たちに最適なワークフロー」を模索し続けたからこそ,彼らの独自のゲームが完成し,高く評価されたのだろう。
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(C)Slow Bros. UG (haftungsbeschränkt), 2023-2024
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