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[CEDEC 2022]「戦場のフーガ」から学んだ,ワールドワイド・マルチプラットフォームでの発売における問題と課題への対応
本セッションでは,サイバーコネクトツーの取締役副社長 宮崎太一郎氏,制作推進課 品質保証室 尾崎友哉氏,広報課チーフ 入部春彦氏の3人が登壇し,初の自社パブリッシングタイトル「戦場のフーガ」をワールドワイド・マルチプラットフォームで発売した際に直面した,開発以外の問題と課題,そしてそこから学んだ教訓と知見を披露した。
今年で創業27年目を迎えたサイバーコネクトツーは,これまで25年にわたってゲームデベロッパを主な業務としてきたが,昨年発売した「戦場のフーガ」で初のパブリッシングに挑戦することとなった。宮崎氏は,自社企画・自社開発・自社販売といったチャレンジをする中で,さまざまなトラブルがあったと話し,本セッションではゲームを作った後,販売するまでに起こった失敗やミスなどを,開発後のQAチームでの出来事と発売する営業チームでの出来事というふたつのパートに分けて紹介した。
「戦場のフーガ」公式サイト
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難航した同社初のパブリッシャQA業務
セッションは「QAパート」からスタート。本パートは尾崎氏が担当し,QAについてのアレコレを話してくれた。同社初のパブリッシングタイトルということで,もちろん品質保証室(QA)にとっても初のパブリッシャQA業務となるのは必然だが,最初の事件はアルファ版完成が見えてきたころに発生したという。
この事件とは,QAで使用するテスト用の開発機がひとつもない問題だ。開発中のコンシューマタイトルは,市販されているゲーム機では動かせないため,専用機材の開発機が必要不可欠となる。
なぜ必要と分かっていた開発機がひとつもなかったか。その原因は,開発当初に必要なプログラマやアーティスト用の開発機を優先したためという。作業後半の出番となるデバッグ作業用は購入が一旦見送られ,QAが合流するまで失念していたそうだ。
「しょーもない話ですよ」と話す宮崎氏だが,開発途中では開発機の必要台数がよくわからなかったこともあり,後々に回してしまったのが失敗につながったようだ。しかも,デベロッパであればパブリッシャに手配を頼めばすぐに用意してもらえたとのことだが,自社がパブリッシャとなった今回は,手配してもすぐに届かない自体に直面したという。このときは,すぐに用意をしてくれるパブリッシャのありがたみを感じたという。
尾崎氏は,これに対する対策として,ゲームを作り始める段階で,発売までに必要な機材はしっかりヒアリングしておくことが大事であり,必要になった時点で再検討するのは非常に危険とし,開発機は到着までに時間を要することもあることを付け加えていた。
続いては,社内のQAだけでは十分なチェックができなかった項目についての問題を挙げた。
ひとつめはスペックテスト。コンシューマ機なら開発機で動けばスペックテストは完了するが,PCの場合は個人個人でスペックが変わるため,外部のデバッグ会社で多様に対応してもらえたことに対し,宮崎氏はあらためて感謝していた。
ふたつめはプラットフォームのガイドラインチェック。なんとプラットフォームの作成基準チェックを1回でパスできなかった場合,発売日に影響が出るとのことで,ここでも外部のデバッグ会社にはお世話になったそうだ。
「1回でパスできなかった場合,発売日に間に合わないって,大事なところから間違ってると思うんだよ」と宮崎氏は話す。機材の手配なども含めて遅れが生じたことが原因であることを反省しつつも,助けてくれた方々がたくさんいたことを理由に,1回でパスできたと話していた。
次の問題は,デベロッパ時に行っていなかった新たな作業の発覚だという。それが「レーティング」取得の問題だ。ゲームの発売にはレーティング取得が絶対条件だが,これまではパブリッシャにレーティングを取得してもらっていたため,初のパブリッシングとなる同社では,そもそもどのレーティングを取得すればいいのかわからない状態だったそうだ。
取得するレーティングを決める要素は,発売するプラットフォーム,発売する地域・国,販売形態という3つで,レーティング機関によって準備するものや対応するものが異なることも初めて知ったという。
「戦場のフーガ」は,子どもたちを砲弾に変えたり,同社の代表松山氏が突如ねじ込んだという秘密の花園(トイレ)イベントなど,少々ぶっ飛んだ内容も多く盛り込まれていたため,かなり高めのレーティングが予想されていたが,結果として各地域で以下画像のレーティングを取得した。
レーティング問題のまとめとしては,必要なレーティングを早めに洗い出しておき,申請から取得までの流れをスケジュールに落とし込んでおくことが重要だと話し,レーティングを下げようと考えるのであれば,あらかじめ表現に配慮しておくことも付け加えていた。
また,本作はいろいろな国や地域での発売を考えていたことで,多くの国に連絡をしていたが,一部の国や地域からはメールの返事がなかなか送られてこなかったという。
レーティングが取得できず,発売できない状況になる可能性もあるため,早めの申請は重要だという。これからグローバルでゲームの販売を考えているパブリッシャにとって,気をつけておきたいポイントになりそうだ。
そして,次なる問題は尾崎氏がもっとも苦労した問題だと話す,対応プラットフォーム多すぎる問題だ。宮崎氏は「ひとりでも多くのお客様に遊んでほしいから」と話してはいたが,対応プラットフォームが増えると多くの問題が生まれるようだ。
対応プラットフォームが増えると遊べるユーザーが増える一方で,ガイドラインやターミノロジー,ハード固有の仕様,スペックの違いにより増えるテスト項目を始め,各プラットフォーマーへのマスター提出やストア設定などのパブリッシング作業も増加するという。そして,準備が必要になるテスト機材の増加や,取得するレーティングが増加する可能性など,さまざまな問題が発生してくる。
その中でもとくに,プラットフォーマーへの各種申請やストア入力作業が大変だったことを振り返り,当時はそれを知らなかったため,その都度問題に直面したタイミングで,「やれそうな人がやる」という作戦とも言えない作戦で進めていくしかなかったと話す。宮崎氏は「本当にこれしかできなかった」と当時の状況を噛みしめるように話していた。
これらの問題を乗り越えた結果,その対策としてパブリッシング対応のみを行う専任者を立てて情報を集約し,スケジュールや提出物を可視化したそうだ。また,ひとりにすべてを任せるのではなく,開発チームでしっかり声をかけていくことが大事であるという点も補足し,ゲーム開発はチーム戦であるという点を強調していた。
そのほかにもパブリッシャならではの問題として,倫理問題が取り上げられた。これは身近な表現に潜む落とし穴と言われ,こうした配慮に対しても自分たちで行うのは初めてであり,そこでいろいろなことを知ったという。
これらの問題に気づけたのは,社内で体験会を複数回繰り返し,チームとは離れているユーザーにも触ってもらったおかげだという。開発チームだけでは気づかないことも多いため,チームから離れている人にプレイしてもらうことは大事な要素のひとつと話していた。
最後は,ゲーム本編のQAとは別にパブリッシングの専任者を立てること,専任者は早期に各プラットフォーマーのサイトで調査を開始することとまとめ,本パートを締めくくった。
価格設定などで問題が噴出した発売事件パート
続いては入部氏による,タイトルを見ただけでも不穏な印象を受けてしまう「発売事件パート」がスタート。
先のQAパートで起こった出来事を解決し,発売日を迎えられた「戦場のフーガ」だったが,その発売日に事件が起きてしまったという。なんと,一部プラットフォームで販売価格が違ったまま発売されてしまったというのだ。
宮崎氏はこのとき出張で会社にはいなかったが,これに気づいた松山氏がまずいと感じたのか,まず価格が違っていることと,すぐに対応することをSNSで発信。それを見たプラットフォーマーが宮崎氏に連絡し,規約違反であることを指摘したという流れになった。
松山氏はお客様が第一だと考えていたため,勝手に対応をしようとしてしまったのだが,これがNGだったのだ。ユーザーが購入するのはあくまでプラットフォームからになるため,そのプラットフォーマーと対応をしっかり協議した上で情報を発信するべきだったという。これには宮崎氏も完全に勇み足だったと反省を口にしていた。もちろん,その後しっかりと協議した形で対応できたことも付け加えており,これを教訓に勝手にSNSで発言しないようにと入部氏も話していた。
そもそもどうして間違った価格で発売されてしまったのか。その原因は,通常小売価格を入れるプラットフォームが多いのだが,なかには例外があり,当時は事前にそれに関わるドキュメントを読まずに進行した結果,そのミスに気づけなかったそうだ。
ドキュメントを読まずに進行し,ミスが起こるのは至極当然の結果だが,その原因は価格決定当時にまでさかのぼる。入部氏が同作の価格が社内で決定していないことを知ったのは7月7日,発売日は7月29日ということで,実質営業稼働日としては17日しかなくなっている状態だったのだ。
そして急きょ呼び出されて価格の決定を促されることになってしまった入部氏は,残り3日ほどで価格を決定しないと発売日に間に合わない状況であることを知るのだった。
しかし,まったく準備をしていなかったわけではなく,当時日本円で税抜き3800円ほどの設定を考えており,米ドルとユーロで同価値にして決定したつもりでいたと宮崎氏は話した。続けて宮崎氏は自分の怠慢だったことを認めたうえで,その3種の金額が決まっていれば世界で売れると考えていたことを明かした。
そして発売間近になった時点で,本当にこの価格でいいのか? と社内で疑問の声があがったため,慌てて10タイトルほどの価格を調査し,「戦場のフーガ」の基本価格を決定した。
だが,ここからまた大きなミスを犯していくことになる。日本,アメリカ,ヨーロッパの指標となる価格は決まったが,この調査で3日間ほど使ってしまっていたことで,発売までの残り時間もないといった状況のなか,そのほかの国については価格がいまだ決まっていなかった。そこで同社は,自動計算を使用して,基本ドルから価格を算出したのだ。
自動計算のメリットはスピードだが,デメリットとして各プラットフォームでばらつきが出てしまうといったことがあった。このようにバタバタした状況が続いてしまったため,各国や地域に合わせた価格設定が吟味できず,先の通り価格が違うという事件へと発展したわけだ。この出来事で,事前の調査は必須だということを学び,間違えたプラットフォームの価格を修正して10日後に発売した。こうして全プラットフォームで無事に発売できた……と思いきや,発売から2か月後に再び事件が起こった。
それが500円事件と呼ばれるもので,同社の海外スタッフからの指摘を受けて確認すると,「戦場のフーガ」がアルゼンチンとトルコで500円程度で売られていたことが判明。さらに,ほかの国でも想定より安い価格で販売されているところが見られたというのだ。
この原因は先の自動計算によるもので,自動計算は為替の差まで把握できないため,金額に大きなばらつきが生じてしまったという。また,その影響で一部の国や地域では売上本数が上がっており,正しい売上分析ができない状況に陥ってしまった。
対応策としては,価格を見直すため全プラットフォームでとくに価格が安くなっている27か国を並べて修正方針を作成したという。その修正方針は,価格レートと為替レートから算出した独自計算の価格と一部プラットフォーマーの価格を比較し,もっとも高いものを価格決定とするというものだった。
修正が必要だった時期は2021年10月だったが,12月に修正方針が決定。すぐに修正しようとしたところ,そのタイミングで価格修正をすると,大型のセールに参加できなくなるという制約があったそうで,修正を先送りして2022年2月に実施したという。
ちなみに大型セールに参加できなくなるというのは,定価などの価格を変更してしまうと,ある一定期間セールや価格変更ができないというプラットフォーム側の規約によるものだ。宮崎氏は,これも注意しておくべき点として挙げていた。
価格が修正された後に,さらなる事件が起こる。それは,ロシア,ブラジルといった国々から「戦場のフーガ」の価格が上がっていることに対するクレームだった。
同社としてもある程度は想定していたようだが,その想定を越えた数だったという。その原因が,価格修正の際の修正方針として行った,“一部の値段の高いプラットフォームに合わせたこと”だった。その結果,ロシアにいたっては平均月給の1/3ほどという高額な価格になってしまっていた。
そして,再び価格修正を実施することになり,新たな修正方針を作成したという。その内容は,国内外の大手パブリッシャタイトルをできるだけ多く調べ,調べたタイトルの金額を日本円に換算し,他企業のレートを算出。そして多数の企業のレート差から平均値を求め,その差を「戦場のフーガ」の価格に適応するというものだった。
その結果,ロシアは48%も高くなっていたということで,2回目の価格修正を実行していったという。こうして価格修正作業を繰り返し,現在最大91の国や地域で販売を実現したそうだ。
本パートでは最後に,自動計算はデメリットも大きいこと。価格は発売前に吟味し,慎重に決定すること。販売地域と商品数,プラットフォームの数に比例して作業も増えること,この3つの教訓をまとめた。3回目にしてたどり着いた同社独自の金額設定方法も,大きな収穫だと言えそうだ。
宮崎氏は,とにかく作ることばかり考えていて,売ることや売るために必要なことが疎かになっていたことが問題であり,そういった点を軽く考えていた自分の責任でもあると反省の弁を口にしていた。
そして,最後にはいつもお世話になっているパブリッシャに向け,「本当にありがとうございます」と感謝を伝えるとともに,迷惑を掛けてしまったプラットフォーマーに対して謝罪と感謝を伝え,セッションを締めくくった。
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