インタビュー
携帯型ゲームPCを手掛ける「AYANEO」は,なぜ矢継ぎ早に製品を開発できるのか? CEOにその秘密を聞く
TGS 2023に合わせて,AYANEOのCEOを務めるArthur Zhang氏が来日した。AYANEOは,2020年に創業した若いメーカーで,2021年に第1弾製品である「AYANEO」を発売して以降,さまざまな製品を世の中に送り出してきた。AYANEOはなぜ,短期間で多種多様な製品を展開できるのか,その秘密をArthur氏に聞いた。
4Gamer.net(以下,4Gamer):
まず,4Gamer.netでArthurさんにお話を聞くのは,初めてなのでAYANEOとArthurさんご自身のことについて伺わせてください。
Arthur Zhang氏(以下,Arthur氏):
私は熱狂的なゲームの愛好家でして,幼いころから任天堂といったメーカーのゲームをプレイしていました。AYANEO製品にもゲームボーイ」をイメージした「RETRO POWER」というカラーバリエーションを用意しています。
高校生のころから,ゲーム雑誌で記事を執筆するようになり,大学生になるとゲームのコミュニティやWebサイトの運営を始めました。その後,ECサイトや広告代理店などいくつかの企業を立ち上げ,ここ数年はAYANEOに加えて,2つのメディア企業を経営しています。
AYANEOでは,さまざななゲーマーのニーズに合わせて,Windows搭載のゲーマー向けPCや,Android搭載ゲーム機を開発しています。
AYANEOの経営に参画したのは「自分はゲームが好きだ」という原点に立ち返ったからです。PCの分野でもゲームができるほど高性能な小型製品へのニーズは高まっています。
TGS 2023には,多くのゲーマーがいらっしゃいましたが,みなさんからよいフィードバックを得られました。AYANEOが持つ「ゲーマー本位」というブランドイメージをお伝えできた思います。
4Gamer:
AYANEOは,世界市場に向けて製品を展開していますが,日本を含むそれぞれの国や地域で,携帯型ゲームPCに求める要素や,使われ方に違いはありますか。
Arthur氏:
たとえば,日本市場では軽量モデルの「AYANEO AIR」シリーズが人気です。日本のゲーマーは,既存の携帯型ゲーム機のような使い勝手や持ち運びやすさを重視していることが分かりました。
また,TGS 2023でも展示した「AYANEO SLIDE」も好評で,とくにスライド式ディスプレイと物理キーボードを評価していただいています。以前に弊社で分析したことがあるのですが,日本では,さまざまな機能を備えたUMPC(Ultra Mobile PC)のニーズが高いようです。
もう1つの観点として,日本国内で持ち運べるゲーム機というと,Nintendo Switch(以下,Switch)が主流ですが,AYANEOを発売してみると想定以上の売上でした。実際には既存製品だけでなく,AYANEOのような新しい製品を受け入れてくれる柔軟性もあると感じました。
4Gamer:
TGS 2023では,一般的な携帯型ゲームPCだけでなく,AYANEO SLIDEなど,バラエティに富んだ製品を展示していましたね。AYANEOは,たくさんの製品を展開していますが,なぜそんな早いサイクルで製品を出せるのかが不思議なのですが。
よく聞かれる質問です。おそらく,深圳市のスピード感というのも影響しているように思いますが,根本的には私のほとんどの時間を費やしてゲーマー向けPCを作っているからでしょう。先ほども申し上げた通り,私はAYANEOのほかに2つのメディア企業を持っています。ただ,今はそれらの経営はパートナーにまかせて,AYANEOの製品開発に注力しています。
私たちにとって,ニーズに合わせた製品開発は重要です。Switchを例に挙げると,標準的なSwitchの場合,手で持って使うにはちょっと重かったり,画面サイズに不満があったりするかもしれません。一方で,よりコンパクトなNintendo Switch Liteだと逆に小さいというケースもあります。
大きなメーカーですと,それぞれの細かなニーズに対する製品を生産することは難しいでしょう。ただ,製品自体の完成度が高く,十分なブランド力やコンテンツがあるので,ユーザーが着いてきてくれるでしょう。
弊社は,新しい会社でまだブランド力やコンテンツがない分,ハードウェア面で大手企業では実現できないような細かなニーズに対応したいと考えています。
あらゆるクライアントの要望を想定して,8.4インチや7インチ,5.5インチといったように画面サイズにバリエーションを増やすといったことから,物理キーボードを搭載する製品を開発する,消費電力が気になるという人向けに,Androidを搭載した製品もあります。
近いうちに,これまでのどのプロダクトラインにもない,新しい製品を発表する予定です。
4Gamer:
それは1月に行った戦略方針説明会(関連記事)で登場したラインナップ外の製品ですか。
Arthur氏:
ええ,それとは別のまったく新しい製品で,携帯型ゲームPCの範囲を超えた,もっと幅広いゲームに対応できるものです。最初に日本で情報を公開したいと思っていますが,そのときには実際の製品をお見せしたいですね。
製品開発の早さに話を戻すと,弊社の企業努力もあります。弊社には80人ほどの従業員がおりますが,一般的な中国企業と比べて,それぞれが2〜3倍働いています。
4Gamer:
製品開発についてもう少し詳しく伺わせてください。会場でも展示していた「AYANEO KUN」は,タッチパッドをはじめとして,これまでのAYANEO製品にはない機能を搭載しています。こうした新要素を盛り込むのは大変だと思うのですが,どのくらい前から構想があったのでしょうか。
私は製品を企画する立場ですが,自分がゲーマーとして必要だと思っていた機能を実現したり,ニーズを調査して求められている機能を搭載したりとさまざまです。具体的な製品の構想から実際に実現するまでに1年以上の期間がかかっていることは,間違いありませんが,ずっと前から漠然としたアイデアとして温めていたケースもあります。
AYANEO KUNの機能は,もともと「AYANEO NEXT II」で実現したかったものです。2022年から準備を進めてきましたが,実現の可能性を考えて,まずは単体GPUを搭載しないAYANEO KUNを2023年に,そしてAYANEO NEXT IIは2024年に持ち越すことにしました。
とはいえ,AYANEO KUNも既存製品と比べて,かなり高性能かつ高機能です。たとえば,AYANEO KUNは,CPUのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を最大54Wに設定することで,既存製品よりも性能を引き上げられるので,(単体GPUを搭載しなくても)ゲーマーの満足が得られるだろうと考えています。一般的なノートPCでは,TDPが15Wの製品が多いことを踏まえると,AYANEO KUNの性能がどれほど高いか分かっていただけるでしょう。
ディスプレイのタッチパネルの性能も,現在市場にあるどの製品と比べても高いのでは自信を持っています。タッチパネルの質を落としたり,他社製品を買い付けたりといった方法もありますが,それではユーザーをニーズを満たせない可能性があります。ですからタッチパネルに関しては,かなり長い時間をかけて自分たちで開発を進めました。
また,AYANEO KUNには,左右にタッチパッドも備えています。左側がスクロール操作,右側にマウスポインターの操作を割り当てており,振動機能によって,リアルに操作している感覚を体感できます。設計時にタッチパッドを4つの区域に分けていて,たとえば,マウスポインターの操作では,右タッチパッドの左側と右側にマウスの左クリックと右クリックに割り当てています。左側のタッチパッドには矢印キーを割り当てているので,キーボードで移動するゲームもプレイできるでしょう。こうした機能の割り当ては,設定用ソフトウェアの「AYA SPACE」から設定可能です。
AYANEO KUNに搭載する機能の一部を紹介しましたが,高品質なタッチパッドを備えた製品を作りたいというアイデアがあり,実際の機能などを模索していったという流れです。
4Gamer:
Arthurさんが熱心なゲーマーとして製品開発に携わっているのがよく伝わってきます。最後に,これからの携帯型ゲームPCにおいて,Arthurさんがゲーマーとして必要だという要素はなんでしょうか。
ゲームをプレイする方法に合わせて,さまざまなフォームファクタがあるはずで,携帯型ゲームPCはそのスタイルの1つにすぎません。これまでは,どちらかというと携帯性を重視したものを開発してきましたが,AYANEO KUNのように少し重いけど画面がキレイで,家のソファーで使うような「半ポータブル型」の製品も開発しました。
AYANEOのラインナップでは,最初の製品で携帯型ゲームPCとしての型を作って,ユーザーのニーズを満たす。続いて,AYANEO AIRで軽さを,AYANEO KUNで大画面を求める声に応えられたと思います。
次の課題は,各プラットフォームでのゲーム体験を,ゲーマー自身が繋げられるようなものにしたいということです。方法としてはクラウドなど,アカウント情報を連携して,AYANEO製品がハブとなり,エコシステムの中で独自のサービスなどを提供するといったことも考えています。
リンクスインターナショナルのAYANEO KUN製品情報ページ
リンクスインターナショナルのAYANEO AIR 1S製品情報ページ
AYANEO日本語公式Webサイト
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