テストレポート
Switch風小型ゲームPCの新星「AYA NEO」を試す。ゲームパッドの使い勝手は良好だが性能ではGPD WIN 3に及ばず
クラウドファンディングでは,日本円にして約2億6000万円の出資を集めるほどの成功を収めている。ストレージ容量1TBの上位モデルが6750香港ドル(約9万60000円),500GBの下位モデルが6120香港ドル(約8万7000円)となっているが,本稿執筆時点で,500GBモデルはすでに受付を終了しており,1TBモデル単体と,1TBモデルに専用ドッキングステーションやキャリングケースなどの周辺機器がセットになった「1TB−ULTIMATE PACKAGE」のみ出資可能だ。
そんなAYA NEOであるが,現時点では日本の技術基準適合証明を取得していないので,国内でのテストは行えない(※現在は国内で合法的にテストする特例制度があるものの,今回は間に合わなかった)。そこで今回は,評価機を入手したという香港在住のライターに依頼して,2021年初夏の国内発売を予定している「GPD WIN 3」との比較を含めて,その実力を検証することにした。キーボードすら排除してゲーム機風デザインにこだわった超小型PCの可能性を見てみたい。
IndigogoのAYA NEOキャンペーンページ
ゲーム用途に割り切った設計
まずはAYA NEOの外観からチェックしよう。
携帯ゲーム機型,PC業界の言葉で言うならスレート型の筐体を採用した超小型PCであるGPD WIN 3は,スライド式ディスプレイとタッチキーボードを搭載しており,まだPCらしさ要素があった。それに対してAYA NEOは,5点マルチタッチ対応のディスプレイと,左右のゲームパッド部分があるだけで,キーボードはない。キー入力はソフトウェアキーボードか,外付けのキーボードで行うしかないので,キーボードとマウスを前提としたPC的な操作はほぼ捨てているわけだ。かなりゲーム用途に割り切った設計と言えよう。
Dellが2020年1月に披露した小型ゲームPCのコンセプトモデル「Concept UFO」や,ONE-NETBOOK Technologyが先ごろ公開した「One xPlayer」もキーボードを搭載しないスレート型となっている。今後のゲーマー向け小型PCのデザインとして,スレート型が主流になるのかもしれない。
Indigogoのキャンペーンページでは,AYA NEOのカラーバリエーションとしてブラック,またはホワイトを選択できるのだが,評価機はなんとスケルトン仕様であった。これは「Founder Edition」として,2021年1月に中国で発売となった最初の量産品だという。
なお,Indigogoで出資可能なバージョンは,Founder Editionをもとに部材の見直しによる軽量化や,一部のゲームで生じていた表示の問題などに修正を加えたものになるそうだ。
見た目やサイズ感はほぼSwitch
ただし重量はちょっと重め
AYA NEOの本体サイズは,実測で約256(W)×106(D)×21(H)mmだった。Switchと比べると,厚みは別として,横幅と奥行きは少し大きい程度だ。実際に手にすると,思った以上にSwitchっぽさを感じる。
一方,重量は実測で645.5gと,携帯ゲーム機としてはかなり重い。寝転がった状態で使っていると,30〜40分もすれば支える手が疲れてくる。長時間遊ぶときには何かしらの工夫が必要だろう。
搭載するディスプレイパネルは,冒頭で触れたとおり7インチサイズで,解像度1280×800ドットのH-IPS液晶パネルである。GPD WIN 3の縦720ドットの解像度と比べると,わずかだが縦方向に広い。とはいえ,一般的なスマートフォンやタブレットから見れば,やはり狭い印象で,たとえば,動画やWebサイトを見ているともの足りなさを感じることもしばしばある。
液晶パネルの発色は自然だ。斜めから見ると少し色が変化するように感じられるものの,ほぼ真正面から使うマシンであることを考えれば,視認性も十分だろう。
インタフェース類は,ディスプレイの奥側にUSB 3.1 Gen 2 Type-Cポート×2と,4極3.5mmミニピンヘッドセット端子×1を,ディスプレイ手前側にUSB 3.1 Gen 2 Type-Cポート×1を備える。
ゲーマー向け周辺機器でも,USB Type-C接続に対応する製品が増えてきたとはいえ,まだまだUSB Type-A接続のものが多い。1基くらいUSB Type-Aポートがあると,手持ちのマウスやキーボードが利用しやすく,助かるのだが。
なお,左右の側面にインタフェースやSDカードスロットは見当たらなかった。
内蔵ゲームパッドをチェック
独自ボタンでキーボードの機能を補助
ディスプレイ左右の内蔵ゲームパッドは,写真を見てのとおり左奥に左アナログスティック,右手前に右アナログスティックを備えたXbox風レイアウトを採用する。
ディスプレイ左脇のパッド部分。奥にアナログスティックを,手前にD-Padを配置する |
右脇のパッド部分。奥側に[X/Y/A/B]ボタン,手前に右アナログスティックがある |
AYA NEOでユニークなのは,D-Padと右アナログスティックの下に4つずつ,独自ボタンを配置している点だ。ディスプレイ左側のボタンには,主にXbox純正ゲームパッドに搭載するボタンの機能を割り当てている。たとえば,[ビュー]ボタンや[メニュー]ボタンは,ボタンのマークからすぐに分かるだろう。[H]ボタンは,Xbox純正ゲームパッドでいうところのXboxボタンに相当し,押すとWindowsのXbox Game Barが起動する。その左側にあるライトのようなものが描かれたボタンは,背面に搭載するLEDイルミネーションをオン/オフするボタンだ。
ディスプレイ右側の[WIN]ボタンと[ESC]ボタンには,その名のとおり,[Windows]キーと[Esc]キーが割り当てられている。[TM]ボタンと[KB]ボタンは,一見しただけではどんな機能が割り当てられているのか判断しにくい。それぞれのボタンを押すとどうなるのか試してみところ,[TM]ボタンを押すとWindowsのタスクマネージャーが,[KB]を押すとWindowsのスクリーンキーボードが起動した。AYA NEOは,物理的なキーボードを省略しているため,これらのボタンにキーやキーボードショートカットを割り当てて,補助的に活用するというわけだ。とくに[ESC]ボタンは利用頻度が高く,かなり重宝する。
ただし,[KB]ボタンは,押してからソフトウェアキーボードが画面に表示されるまで,タイムラグが生じることがある。筆者が体験した中では,最長で3〜4秒ほどかかったケースもあり,とっさのときに使いにくい。パスワードなどの文字を入力するだけなのであれば,Windowsのタスクバーにソフトウェアキーボードを呼び出すボタンがあるので,それを押したほうが早い。
ディスプレイの奥側には,[L1/R1]のショルダーボタンと[L2/R2]のトリガーボタン,[電源]ボタンと[音量調節]ボタンが並ぶ。トリガーボタンは,比較的遊びが少ないタイプで,浅めの入力でも反応する。
ボタンは全体的にしっかりとしたクリック感のあるものだ。ただ,筐体にプラスチックを採用している影響か,押し込むとちょっとフニャッとした感触が気になる。反発力も少し弱めで,ボタンを連打するときは,意識的に指を離すようにしたほうが認識されやすかった。一方で,GPD WIN 3と比べて,筐体のスペースに余裕があるため,ボタンが少し大きめで押しやすい点には好感を持った。
なお,Indiegogoのキャンペーンページによると,AYA NEOは6軸の加速度センサーを搭載して,ジャイロ操作に対応するとのことだ。実際にAYA NEOを傾けると,スマートフォンやタブレットのように画面が回転するので,加速度センサーを搭載しているのは間違いない。しかし,Steamの「コントローラ設定」では,Xbox純正ゲームパッドとして認識されているので,ジャイロの設定項目がない。いまのところ,どんなゲームでジャイロ操作が利用できるのか分からなかった。
6コア6スレッドのZen 2世代CPUに6CU構成のVega世代GPUを搭載
冒頭で触れたように,AYA NEOの特徴として,APUにRyzen 5 4500Uを採用したことが挙げられる。Ryzen 5 4500Uは,2020年1月にAMDが発表した6コア6スレッド対応APUだ。CPUコアは,「Zen 2」マイクロアーキテクチャを採用しており,最大4GHzで駆動する。統合型グラフィックス機能(以下,iGPU)は,Vega世代の「Radeon Graphics」で,Compute Unit(CU)は6CU構成だ。
GPD WIN 3が採用するノートPC向け第11世代Coreプロセッサと比べると,Ryzen 5 4500Uは1世代前のプロセッサとなる。性能面でどのくらいの差があるのか,後ほどベンチマークテストで確認したい。
メインメモリは容量16GBのLPDDR4-4266を採用する。ストレージ容量は,前述したように500GBと1TBの2種類だ。今後,一般発売となった場合でも,同じラインナップになるとは限らないが,ゲームの大容量化が進む昨今においては,ストレージに余裕をもたせたほうが何かと有利だろう。また,無線LAN機能はWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応で,Bluetooth 5.0をサポートする。
表に,AYA NEOとGPD WIN 3のスペックをまとめた。
AYA NEO | GPD WIN 3 | |
---|---|---|
CPU | Ryzen 5 4500U(6C6T,定格2.3GHz,最大4GHz,共有L3キャッシュ容量8MB) | Core i7-1165G7(4C8T,定格2.8GHz,最大4.7GHz,共有L3キャッシュ容量12MB) または Core i5-1135G7(4C8T,定格2.4GHz,最大4.2GHz,共有L3キャッシュ容量8MB) |
メインメモリ | LPDDR4x 4266MHz 16GB | |
GPU | AMD Radeon Graphics | Iris Xe Graphics |
ストレージ | SSD 容量500GB(PCIe接続)×1, または容量1TB(PCIe接続)×1 |
SSD 容量1TB(PCIe接続)×1 |
ディスプレイ | 7インチ液晶, |
5インチ液晶, |
無線LAN | Wi-Fi 6 | |
有線LAN | 非搭載 | |
Bluetooth | 5.0 | |
公称本体サイズ | 255(W)×106(D)×20(H)mm | 198(W)×92(D)×27(H)mm |
公称本体重量 | 約650g | 約560g |
OS | 64bit版Windows 10 Home | |
価格 | 5422香港ドル(7万7119円)から | 6583香港ドル(9万3681円)から |
AYA NEOの性能をチェック
Zen 2世代Ryzenの性能はTiger Lakeに及ばない
ここからはAYA NEOの性能をベンチマークテストで確かめてみた。今回は,直接の競合とも言えるGPD WIN 3(Core i5-1135G7搭載モデル)のテスト結果と比べた。ノートPC向けCPUの性能は,CPU単体の性能に加えて,筐体の熱設計が大きく影響するため,別々の筐体を採用する製品を比べても厳密な比較にはならないが,似たコンセプトのゲームPCとして,どちらが高い性能を持つのかは気になるところだ。なお,GPD WIN 3のスコアは,2021年3月掲載のレビュー記事における検証結果の「Nominal」を流用している。
まずは,グラフィックスベンチマークの定番である「3DMark」から,DirectX 11テスト「Fire Strike」と,統合GPU向けのDirectX 12テスト「Night Raid」,Vulkanベースのクロスプラットフォームテスト「Wild Life」の3種類を実施した。
グラフ1は,総合スコアの結果をまとめたものだ。総じて,AYA NEOのスコアは,GPD WIN 3を下回っており,Fire Strikeで約7割,Night Raidで約8割,Wild Lifeで約6割となっている。
次は,「CINEBENCH R23」でCPU性能をチェックした。マルチスレッドでの性能を検証する「CPU」テストと,シングルスレッドの性能を見る「CPU(Single Core)」テストの結果をまとめたのがグラフ2だ。マルチスレッド性能は,CPUコア数の多いAYA NEOがGPD WIN 3を上回っているが,一方でシングルスレッド性能は逆の結果となっている。
続いては,「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」(以下,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチ)の結果を見ていこう。テストは,グラフィック設定プリセットで「最高品質」および「標準品質(ノートPC)」を選択した上で,フルスクリーンモードで実行している。結果をまとめたのがグラフ3だ。
AYA NEOは,「標準品質(ノートPC)」で,スクウェア・エニックスが「非常に快適」の基準とする「7000」をなんとか上回った。しかし,4Gamerベンチマークレギュレーションで快適に遊べる基準とした「9000」には届いておらず,なによりGPD WIN 3に大きく差をつけられている。実際にゲームをプレイしてみると,AYA NEOは大規模なF.A.T.E.(突発イベント)では,ときおりコマ落ちが発生することがあった。
テスト結果をまとめると,AYA NEOの性能はGPD WIN 3の6〜7割くらいと言えそうだ。ただ,実際にゲームを遊ぶと違った側面が見えてきた。それはゲームがそもそも遊べるかどうかだ。
GPD WIN 3のレビューでは,画面表示がおかしかったり,プレイ中にゲームが落ちたりといったタイトルがあったという。たとえば,PC版「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」は,画面表示が崩れて文字がほとんど見えなかったり,「Bloodstained: Ritual of the Night」は,冒頭のチュートリアル部分でアプリケーションが落ちたりしたと聞いている。Intel CPUのGPUドライバソフトウェアには,ゲームにおける問題が多いものだが,最新世代でもまだ品質面で十分ではないと思われる。それに対してAYA NEOでは,それらのタイトルも問題なくプレイできた。おそらくRadeonのほうがドライバの最適化が進んでいるということだろう。
また,ディスプレイサイズと画面解像度もゲームを遊ぶうえで重要だ。多少なりとも広い画面でゲームをしたいという場合や,縦方向の解像度が必要な場合はAYA NEOに軍配が上がる。
1〜2年後には状況が変わっているかもしれないが,現時点では,プロセッサの性能で選ぶならGPD WIN 3,対応ゲームタイトル数やディスプレイで選ぶとAYA NEOということになりそうだ。
ゲーマー向け小型PCに新たな選択肢。国内販売に期待したい
AYA NEOは,これまでのゲーマー向け小型PCと比べて,よりゲーム用途に特化した製品だ。ゲーム以外で適する用途といえば,Webサイトの閲覧くらいだろうか。PCというよりもスマートフォンやタブレットに近い存在と言えよう。
ベンチマークテストで検証したように,単純な性能では競合製品に遅れを取っているのだが,ドライバソフトの完成度などを含めると,AYA NEOにアドバンテージがある場面も出てくる。実際によほど負荷が高いゲームや,高フレームレートが求められるFPSなどの対戦ゲームでなければ,AYA NEOで問題なくプレイできるだろう。
ゲーマー向け小型PCにおける新たな選択肢であるAYA NEOだが,惜しむらくはいまのところ,日本で合法的に利用できない。国内でも「OneGx1 Pro」やGPD WIN 3といった製品が相次いで登場しており,盛り上がりを見せている。ハードルは高そうだが,AYA NEOの国内投入に期待したいところだ。
AYA NEOの製品情報ページ
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