プレイレポート
そうだ,選挙しよう。Switch版「トロピコ 6」発売記念,山本一郎氏&ラノベ作家・鳥羽 徹氏と共に挑む,実録・トロピコ島大選挙
プレイヤーが国の指導者たる”プレジデンテ”となり,カリブ海に浮かぶ島国を舞台に国家運営を行う本作。PCとPS4,Xbox Oneでは2019年に発売済のタイトルではあるものの,Switch版の登場で,より手軽に遊べるようになったということで,今回は本作の魅力をお伝えするべく,プレイレポートをお届けしてみたい。
プレイレポートと言っても,これを一人でプレイするだけというのはなんとも寂しい。というわけで,2名のゲストを迎えることにした。4Gamerではおなじみの山本一郎氏と,ライトノベル作家の鳥羽 徹氏だ。とくに鳥羽氏は,国家運営をテーマにしたライトノベル「天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜」(SBクリエイティブ)を執筆中ということで,今回白羽の矢を立てた人物でもある。
テーマはズバリ,(不正)選挙。
勝てばプレジデンテ,負ければただの人。トロピコ島を揺るがす2年間の大選挙戦が,いま幕を開ける。
■登場人物紹介
プレジデンテ鳥羽
本体は作家の鳥羽 徹氏。小国の王子である主人公・ウェインが国家運営に奔走する国家運営ものライトノベル「天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜」はすでに9巻が出版されており,コミカライズも第3巻が発売されるなど絶好調。「天才王子の赤字国家再生術」の名前でテレビアニメ化も決定している。なおプレジデンテとしては初心者とのこと。
山本政治顧問
本体は言わずと知れた山本一郎氏。投資家・作家兼ゲーマー。とくに明らかにダメっぽいオンラインストラテジーゲーム(俗に言う「村ゲー」のバリエーション)をこよなく愛するという。「トロピコ6」のプレイ時間は80時間程度と,これまでのシリーズの中では短め。
徳岡報道官
本体は筆者。「トロピコ6」のプレイ時間は30時間ほど。過去作では「トロピコ3」が100時間超え。なお,山本氏も筆者も「トロピコ6」はPCでプレイしてきた。
「トロピコ 6」レビュー。内政,外交,交易,襲撃……カリブ海の美しい島々を舞台に,独裁者ならではの国家運営が楽しめる
スクウェア・エニックスから2019年9月27日に発売となる国家運営シミュレーション「トロピコ 6」のレビューをお届けする。独裁者の立場で箱庭作りを行う「トロピコ」シリーズの最新作では,カリブ海に浮かぶ複数の島々を舞台に国家運営していくことになる。
「トロピコ 6 Nintendo Switchエディション」公式サイト
「天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
そうだ,選挙しよう
さて,今回のプレイレポートにおけるレギュレーションはこうだ。
まず実際にコントローラを握ってプレイするのは鳥羽氏,ただお一人。筆者と山本氏は,政治顧問としてアドバイスに徹することにする。これはそもそもSwitch版がマルチプレイ対応でないこともあるが,そもそも1〜2時間のプレイでドラマチックな展開が発生するゲームでもないので,集まったメンバーの個性を活かすための工夫である。
そして鳥羽氏には,あらかじめ筆者が進行させたおいたプレイデータを“引き継いで”プレイしてもらうことにする。トロピコ島ではプレジデンテが突如失踪することなど日常茶飯事であり,いたって自然な話ではあろう。
では,このレギュレーションで「トロピコ6」らしさを味わうとしたら,どんなプレイデータを用意すべきだろうか。街づくり? 治安維持? 超大国との外交? 産業の育成と貿易? いや,違う。それらは確かにトロピコだが,トロピコでなくたってできる。「シムシティ」から始まったシティビルダーの長い長い歴史にあって,「トロピコ」シリーズだからできること。それこそが(不正)選挙だ。
政治をテーマとしたストラテジーならば選挙ができるゲームもあるが,シティビルダーで(不正)選挙が楽しめるゲームは,恐らくトロピコだけだろう。いや,ほかにもきっとあるんだろうなとは思うが,トロピコと(不正)選挙の蜜月は類作の追随を許さない。
かくして筆者は徹夜でセーブデータを作成することとなり,プレジデンテ鳥羽と山本政治顧問には己の(主にプレジデンテの)政治生命を賭けた選挙戦に挑んでもらうことになった。
泥沼の選挙戦,開始!
徳岡報道官:
プレジデンテ,最初に良いニュースと悪いニュースの両方をお伝えしなくてはなりません。
良いニュースからですが,トロピコシリーズをこよなく愛する山本政治顧問がプレジデンテの選挙戦を手伝ってくれます。
山本政治顧問:
よろしくお願いします。
徳岡報道官:
悪いニュースとしては,政治顧問はPC版の「トロピコ6」しかプレイしていません。
プレジデンテ鳥羽:
それが何か問題で?
徳岡報道官:
Switch版は完全日本語化されていますが,PC版は英語のみです。つまり政治顧問は“日本語が微妙に分からない外国人”的なポジションなのであります。
取材前日になって気づいたのだが,筆者も山本政治顧問も「トロピコ6」はPC版をプレイしていた。つまりゲーム用語は英語版のものしか知らないのだ。ゆえに,例えば「農園を作ったほうがいいですね」とアドバイスしたくても,「プランテーションを作ったほうがいいですね」としか言えない。まあ……なんとかなるだろう。ゲームだし。アイコンで識別できるはずだ(実際,そこまで問題にはならなかった。アイコンは偉大である)。
さて,まずは選挙戦スタート時の様子を見てみよう。
支持率10%。しかもいわゆるノンポリが多いのではなく,明確に「今のプレジデンテを支持しない」層が71%であり,このまま選挙をすれば必敗である。というか早めに辞任したほうが傷が浅いのではないか。このあたりをどうお考えですか,山本政治顧問。
山本政治顧問:
住人の幸福度が低い……ボロボロですね。
でも選挙に勝つというのが目標であれば,やりようはあります。
徳岡報道官:
西側諸国との関係性が100+と,資金援助を引き出し放題になってますから,カネの心配を一切せずに選挙戦ができるのが大きいですね。
「トロピコ6」では時代によって外交するべき相手が変わってくるが,今回のセッティングは「冷戦期間」を選んでおり,外交相手は西側&東側になる。双方に媚びを売るのが基本だが,今回は西側との関係がとくに良好だ。臨時の資金援助要請ができるだけでなく,定期的に政府宛の財政援助が届くという大盤振る舞いである。
プレジデンテ鳥羽:
カネの心配がないのは素晴らしいですね。
ここから支持率を上げるにあたって,どんな手があります?
徳岡報道官:
まっとうな路線としては,言葉は悪いですが「クエストを解決することで支持率を上げる」ことが可能です。
「トロピコ6」において,島の住人は6つの派閥のいずれかに属している。派閥ごとに定期的に要求が出てくるので,この要求を満たしてやれば支持率が上がるという仕掛けだ。ただ普通であれば,2年間で支持率を大幅に回復させるだけの要求はまず出てこない。だがそこはそれ,対策はある。
徳岡報道官:
市民からの要求を聞きたいときは,「布告:意見聴取」を実行すれば,支持率が“低い”派閥3つから要求が出るようになっています。この要求を3つとも叶えれば,支持率は一定レベルで回復することでしょう。
プレジデンテ鳥羽:
なるほど,そしてその要求はカネがあれば実現しやすい,と。
山本政治顧問:
まあ……そうなんですがね。カネだけで解決できる要求ではないことも多いので,そこは要注意かなと。
プレジデンテ鳥羽:
カネで解決できる問題があるなら,カネで解決しましょう! 政権を支持していない派閥から要求を聞きます!
かくしてプレジデンテ鳥羽のアンチと化した3つの派閥から要求が出されたのだが……
山本政治顧問:
これはマズイですね。どの要求も「我々の要求に従って憲法を改正せよ」です。
派閥からの要望は「一定期間内に特定の建物を建てろ」「貿易ルートを開け」といった,カネ(およびそれなりの時間)があれば達成できる要望もある一方で,憲法の改正をしろというタイプの要望もある。「支持率のために憲法を改正する」というのもどうかと思うが,憲法とプレジデンテのクビを秤にかけたらクビのほうが重いと(トロピコ島では)決まっているのだ。
プレジデンテ鳥羽:
憲法を改正するのにカネは必要ないんでしょ? だったら改正しますよ。それで支持が取れるなら。
山本政治顧問:
いや,問題が2つあります。1つめは,共産主義者からの改憲要求が,とても受け入れがたい内容だということです。彼らはトロピコ島から自由に外国へと移住できるようにしろ,と訴えてるんですよ。
プレジデンテ鳥羽:
それってそんなにマズイですか?
山本政治顧問:
マズイです。この方向で改憲すると,トロピコ島の税金で社会福祉を受け,高校に行き,大学を卒業した,優秀な地元の人材から率先して島の外へと移住していくことになります。
確かになんだかすごくマズイ話ではあるのだが,冷静に考えるとこの島の現行憲法は「市民が自由に外国に出て行くことを許さない」ことになっており,どっちのほうがよりマズイのかは火を見るより明らかである。
……のだが,そんなもん市民にとっての話だ。トロピコ島における政治とは,すなわちプレジデンテの生き様であって,市民のことを考える必要はない。だってプレイヤーたるプレジデンテは独裁者なのだから。
プレジデンテ鳥羽:
……そのリアリティって必要なんですか?
山本政治顧問:
日本でもまさに地方都市で発生している問題ですね……改憲してしまえば,地元には微妙な人材しか残らず,高度な教育を受けた人材が必要になる産業が頭打ちを起こします。医療も厳しいことになりますね。
プレジデンテ鳥羽:
そのリアリティって本当に必要なんですか?
まあ,でも改憲しますよ。それって未来の問題でしょ? 未来の問題は未来のプレジデンテが解決してくれます。今は目の前の選挙に勝つ。それが目標なんだから,躊躇する必要はないですよ。
この「未来の問題は未来のプレジデンテが解決する」という姿勢は,トロピコをプレイするにあたっては欠かせない姿勢だ。長期的展望を語るのも大事だが,目の前の選挙に勝てぬ政治家に長期的展望を語る資格はない。
山本政治顧問:
ご決断,ごもっともかと。そこで2番目の問題です。
改憲って,選挙が終わった直後にしかできないんですよ。
プレジデンテ鳥羽:
それって詰んでません?
山本政治顧問:
なので改憲要求は見なかったことにして,ありあまる財政支援を利用し選挙戦に勝つ方向で考えましょう。西側諸国との関係は極めて良好ですしね。まだまだ詰みには遠いですよ。
プレジデンテ鳥羽:
それなんですが……なんかさっきから我が国の財政は頻繁に赤字になってません?
財政援助って,そんな小銭なんです?
徳岡報道官:
いやいや。西側諸国は大変気前が良いですし,実際問題としてこの国の国家経済はアメリカの財布と一体化していると言っても過言ではないです。
山本政治顧問:
つまり国家単体としては破綻していると。
徳岡報道官:
いやいや,ちゃんと国家の意思はプレジデンテが決定してるじゃないですか。民族自決ですよ。でもおかしいですね,こんなに収支が悪化するはずがないんですが……ええい,緊急で財政支援を要求しましょう。
「トロピコ6」では世界のスーパーパワーに対してさまざまな要求を自発的に行うこともできる。なかでも最も直接的なのがこの「カネをよこせ」であり,関係性の悪化と引き換えに結構な金額の支援を受けることができる。
ちなみにもらった支援の幾ばくかをお返しする(お金をかけてスーパーパワーを称賛する)ことで,関係性を幾ばくか回復させることもできる。思うにこれ,アメリカなりソ連なりの国庫から出たお金を,当該国家の「ご担当者様」の懐に一部戻しているのではないだろうか。トロピコ島に限った話ではないような気がするが。
貰ったお金の一部を「称賛」でお返しすることで関係を改善できる
プレジデンテ鳥羽:
(外交タブを開いて)……あれ? 西側諸国との関係性が50ちょっとなんですが? さっきは100以上とかいう表示でしたよね?
山本政治顧問&徳岡報道官:
えぇ……? 関係が悪化するイベントはなかったですが……なんでこんなことに!?
プレジデンテ鳥羽:
我が国の経済は,我が国単体では破綻してるんですよね? で,カネがないと,できることもない。そして外交が悪化してる。これって詰んでません?
山本政治顧問&徳岡報道官:
だいたい……詰んでますね……?
トロピコ6において,カネがないのはクビがないのと同じである。西側諸国との関係性を向上させようにも,カネがないので関係性向上イベントが発生するのを待つしかない。そして2年という期間(この段階で残り1年弱)では,そんなイベントが起きても条件を満たすのはほぼ不可能だ。
プレジデンテ鳥羽の命運は欧米の天地に生じた複雑怪奇なる新情勢(なぜ急に西側との関係が悪化したのか,本稿執筆時にいろいろと分析したが,未だに解明できていない)に飲み込まれた……かのように見えた。だが!
山本政治顧問:
まだ負けたわけじゃありません。こちらには「親切な支持者」がいます。1人で2票入れてくれたり,1票を2票として数えてくれたりするタイプの人々が。
プレジデンテ鳥羽:
それって不正選挙……
山本政治顧問:
プレジデンテ,ご決断を。
プレジデンテ鳥羽:
親切な支持者に,それとなく「お願い」をしましょう。これで勝利は確実……なんですよね?
山本政治顧問:
だといいんですが……
プレジデンテ鳥羽:
いや,不正選挙までやって負けることある!? それってつまり,対立候補にも「親切な支持者」がいるってこと?
山本政治顧問:
どうなんですかねえ? 不正選挙を仕掛けたのに勝てなかったなんてことは史実でも起こってることですからね。ま,投票箱を管理してるのはこっちなので,基本的にこちらが有利です。あとは運を天に任せるしかないですなあ。カネもないし。
トロピコシリーズ定番の不正選挙だが,トロピコ6の高難度モードでは不正を仕掛けてなお選挙に負けることも珍しくない。こんなところで現実の厳しさを感じさせられなくてもと思わなくもないが,これがトロピコシリーズの味と言えば味でもある。
かくして「公正な選挙」が行われた結果,勝利したのは……
徳岡報道官:
次期プレジデンテに選ばれたのは……現職のプレジデンテ鳥羽です!
全員:
(拍手)
プレジデンテ鳥羽:
ありがとうございます……?
実弾飛び交うラウンド2,開幕
さて,一戦終わったもののまだ時間に余裕があるということで,プレジデンテ鳥羽には再度この泥沼の選挙戦に挑んで頂くことにした。どんな問題が起り得るかも分かったので,今度のプレジデンテはもっとうまくやってくれるに違いない。
プレジデンテ鳥羽:
とりあえず初手で西側諸国から財政援助を引き出します。引っ張れる限り,急いで引っ張り出さなくては。
それから,派閥の要求を聞き出すのは止めます。また憲法改正しろとか言われても困る。で,短期間で支持率を上げるにはほかにどんな方法が?
山本政治顧問:
幸福度を上げる,というのは確実に効きます。
徳岡報道官:
このリプレイで初めてまっとうな解答が出た気がしますね。
山本政治顧問:
現状では住人が幸せを感じられる仕事が少なすぎるんですね。なので給料が良くて,やりがいのある職場を作っていけば,住人の幸福度は上がり,ひいてはプレジデンテの支持率も上昇します。あと住宅環境の整備も効果的ですね。
トロピコ6では(というか世の中の常識として),市民達はより給料が良く,働きがいがあって,過酷すぎない仕事に就くことを望む。この傾向は市民の教育レベルが上がるにつれて明確化していく。
また住居も重要なファクターで,家賃が安いだけの長屋住まいを,高収入の市民達は幸福な生活だと判断しない。このため中間層〜富裕層には相応の立派な戸建てを用意してやったほうが良いだろう。
幸福度は「低いところを高くする」のが基本だが,これだけまんべんなく低いと,どこから上げるべきか悩ましい
プレジデンテ鳥羽:
なるほど,では仕事に対する幸福度が最も低いので,働き方改革から着手したいと思います。職場を増やすとしたら,何がお勧めですか?
山本政治顧問:
お勧めは特殊部隊とかですね。特殊部隊は高度な教育を受けた人材の受け皿になりますし,「何か」が起こったときにも有益です。
プレジデンテ鳥羽:
なるほど。じゃあ,このストーンヘンジの隣に特殊部隊の養成所を建てましょう。ところでなんで我が国にはストーンヘンジがあるんですかね?
徳岡報道官:
どこぞから海賊が盗んできたそうです。
トロピコ6では私掠船の経営もできる。これは非常に重要で,私掠船に命じて各種施設の設計図を盗ませたり,資金や資源を略奪させたりできる。また「漂流している人々を救助する」(どう考えても客船を襲っているようにしか思えないが,そこはそれ)こともでき,これによってトロピコ島の市民を短期間で増加させられる。
こういった海賊行為のなかでも最もアレなのが,「世界遺産の略奪」である。このトロピコ島にあるストーンヘンジも,どう考えても近隣の国が観光資源として作ったテーマパークから盗んできたとしか思えないが,あるものは仕方ない。
近隣諸国からかっぱらってきたストーンヘンジ。ドルイドたちの抵抗が激しかったらしい。本当かよ
プレジデンテ鳥羽:
もう一つ聞き忘れてましたが,なんで我が国にはこんなにゴルフ場が多いんですか? ストーンヘンジの近所に3コースくらいありますけど。
徳岡報道官:
前任者が,娯楽に飢えた裕福な市民達の要求に従った結果です。カリブ海に浮かぶ地上の楽園。ストーンヘンジが遠くに見える丘の上でゴルフ。最高の贅沢だと思いませんか?
一般的に言えば,市民のための娯楽施設の筆頭に上がるのは酒場である。が,このときは極めて初期に「ゴルフ場がほしい」という要望が連発されたため,酒場よりもゴルフ場のほうが多い国家が誕生した。ちゃんと市民の要望に従ってはいるのである。
プレジデンテ鳥羽:
我が国がなぜ財政破綻しているのか理解しました。ほかに火急の対策としては,何が?
徳岡報道官:
まずは「実弾(柔らかいほう)」ですかね。俗に言う賄賂です。
プレジデンテ鳥羽:
え,贈賄も可能なんですか?
徳岡報道官:
こちらの「データ」タブから,派閥を確認してみてください。それぞれの派閥のリーダーを選択すると,「贈り物をする」的な選択肢が出てきます。
ゲーム中のテキストにも書かれているが,なにも「こちらはプレジデンテからの贈り物です」と直接手渡しされるわけではない。だが黒塗りのアタッシュケースに詰まった大量の現金を見て,そこに入っている「お手紙」を読めば,市民はこれが何かを察するというものだ。このあたりはトロピコ島も実に奥ゆかしい。
プレジデンテ鳥羽:
1回3000ドル!? たっか! あ,でもなんか「殺害する」っていう選択肢もあるんですが,これは……?
徳岡報道官:
そっちは「実弾の固いほう」です。1発150ドルとお得ですが,最後の手段と考えたほうが無難かなと。
プレジデンテ鳥羽:
命が安い……そういえば特殊部隊の隊員も海外から傭兵を雇った場合,1人300ドルくらいでしたね。
山本政治顧問:
そこらのちょっとガタイが良い兄ちゃんが,元特殊部隊隊員を勝手に名乗って乗り込んできた感が強いですね。
一度でも「肩書き」を得たら,その人間は「元ナントカ」という肩書きを半永久的に利用できる。そしてこの「肩書き」は,増殖させることだってできる。例えば今回トロピコ島に雇われた「元特殊部隊隊員」も,2人目以降は「最初に雇った兄ちゃんが,その腕前を保証する友人」である可能性は否定できない。
いやあ,身体検査って重要ですね。
徳岡報道官:
冷戦期の失敗国家でも実際に起こってたことらしいですから,仕方ないですね。
ともあれ3000ドルの効果は,高いなりに期待できます。プレジデンテ鳥羽を支持している派閥のリーダーに配っても意味がないので,反体制派のリーダーどもに餅でも配りましょう。
山本政治顧問:
このリーダー,マジで鼻持ちならないヤツですね。これはいっそ……。
プレジデンテ鳥羽:
いやいや,まずは3000ドルで。
山本政治顧問:
このリーダー,ガチで鼻持ちならないヤツですね。これはいっそ……。
プレジデンテ鳥羽:
いやいやいや,まずは3000ドルで。
山本政治顧問:
このリーダー,本気で鼻持ちならないヤツですね。これはいっそ……。
プレジデンテ鳥羽:
いやいやいやいや,まずは3000ドルで。
反体制派のリーダー達のプロフィールを見ると,軽くドン引きできる人々が並びがちなのが実にトロピコである。なお体制派のリーダーも似たり寄ったりだし,そもそもプレジデンテとその一党をしてこんなだから,あとは推して知るべしだ。健全な民主主義は一夜にしてならず,である。
ともあれ国庫から盛大にばら撒いた成果は,すぐに支持率に出た。8%にまで低下していた支持率は15%前後にまで回復し,なにより反体制派が激減したのである。
なお賄賂が渡ると大統領支持派に鞍替えするのではなく,「とりあえず中立の態度を示す」あたり,この市民あっての,この選挙である。「あなたを支持します」ではなく「中立です」と表明したほうがもっと多くの賄賂が入ってくる可能性があるというのは,子供だって分かる理屈だ。
山本政治顧問:
これは「選挙戦,始まったな」という手応えがありますね。対立候補の支持率が急激に下落しましたし,このままこちらの支持率を上げていく,ないし少なくとも下げないようにしていけば,相手が勝手に自滅することもあり得ます。
徳岡報道官:
いやー,支持率が1%単位で上下するの,無駄に盛り上がりますね。
実際,このときは会議室に集まったプレイヤー全員がみな,支持率競争の表示に一喜一憂していた。選挙の魔力である。
プレジデンテ鳥羽:
でもまだ対立候補のほうがやや優勢か……もう一手,何か良い手はありますか?
山本政治顧問:
初歩的なものですが,広告は有効ですね。新聞,ラジオ,テレビでプレジデンテ鳥羽を賞賛するニュースを流しまくる。これで民意はこちらのものです。お勧めは新聞ですかね。テレビは子供と老人に強い影響を及ぼしますが,子供には投票権がないですからね。
「メディア」が生活の一部に組み込まれていくなかで,新聞・ラジオ・テレビといったマスメディアを利用したプロパガンダは,政治と切っても切り離せぬ存在となった。トロピコ島においてもその影響は大きいが,一方でメディアの常として,適切な舵取りをしないことには政権にとって予想できない方向に世論が盛り上がっていくという可能性もある。つくづく,メディアは水物である。
実際トロピコ6では「新聞社にどんな報道をさせるか」まで設定できてしまうがゆえに,バタフライ・エフェクト的に予想外の展開を見せることがあり得る。市民一人一人が個別にデータを持ち,収入や生活環境などのすべてがゲーム内の都市とリンクしているトロピコならではの展開と言えよう。
プレジデンテ鳥羽:
ふむ。もっとこう,間違いのないというか,原始的な……これぞ「広告」というヤツがいいですね。
山本政治顧問:
でしたら看板か像はいかがでしょう。プレジデンテを賞賛する派手な看板だとか,金色に輝く鳥羽先生像とかは,プレジデンテがいかに偉大な人物であるかを直感的に「分からせ」ることができます。
プレジデンテ鳥羽:
それだ! それが望んでいた理想の広告!
じゃあ街道に沿って看板を立てます。
山本政治顧問:
産業道路沿いや娯楽施設の近所といった,人通りの多いところに設置すると効果的ですね。看板は運送業者にとくに刺さりますので。
プレジデンテ鳥羽:
なるほど。ではゴルフ場の行き帰りに必ず通る道路と,ラム酒だの武器だのを輸出するために使う港への道路のあたりに,集中的に看板を。……おお,すごい! 効果絶大じゃないですか!
徳岡報道官:
市民の娯楽がほぼゴルフだけですからね。投票権を持つ裕福な市民が,プレジデンテの偉大さを表現する看板を目にすることになります。先代のゴルフ至上主義が謎の効果を発揮しましたね。
一方で,ゴルフをプレイできない貧困層の主な娯楽はストーンヘンジ観光で,ストーンヘンジはゴルフコースの奥にありますから,貧困層に対するアピールもバッチリです。
山本政治顧問:
最悪な国だな。
徳岡報道官:
現職が選挙に勝とうとして,国庫を使って自分の宣伝をするっていうのも,マジで最悪ですよね。
繰り返しになるが,トロピコ島が際だって酷いのではない。この時期の世界全体がだいたいどこも酷いのであって,トロピコ島だけをあげつらって最悪というのはアンフェアである。まあ,トロピコ島が最悪のワンオブゼムであることに疑いはないが。
プレジデンテ鳥羽:
支持率はこちらのほうが上回りましたよ! でもノンポリ層の拡大がすごいですね。これいわゆる「無党派層が投票日直前に雪崩を打つ」展開とか起きたりします?
山本政治顧問:
今の傾向で言えば,無党派層もわりと均等に両候補を支持して,現職勝利で終わるというパターンかなと思います。投票数を細工する必要もなさそうですね。
とはいえ何が起こるか分からないのが選挙ではあります。
プレジデンテ鳥羽:
うーむ。でも残り日数も僅かだし,賄賂攻勢もやれるだけやったし……
徳岡報道官:
あとは「最後の手段」ですね。「データ」から,対立候補を直接確認することができます。試しに見てみてください。
先ほども言及したが,トロピコシリーズにおいては市民一人一人に詳細なデータが設定されている。家族構成も定義されているが,家族のメンバーもすべてゲーム内に存在する「いち市民」である。
プレジデンテ鳥羽:
本当に一人一人にデータがあるんですね。対立候補は……この人か。うわ……
山本政治顧問&徳岡報道官:
あっ。
山本政治顧問:
これはアカンやつです。
プレジデンテ鳥羽:
すごい……こう……露骨な? いやでも,本当にただのロシアからの移民だったり……?
山本政治顧問:
判断はプレジデンテにお任せしますが,西側諸国の犬である我が国の大統領選挙において,対立候補がロシア系移民で,裕福度が貧困ってのは,さすがにこう,状況証拠が揃いすぎてませんかね。誰が彼の選挙費用を出してるのかって話ですよ。
徳岡報道官:
冷戦華やかりし時代にここまで露骨なアレも珍しいかもですね。いやもちろん,彼は1914〜15年頃の生まれですから,ロシア革命後に親と一緒に故国を離れて世界中を転々とし,最後はトロピコ島に腰を落ち着けるも,やることなすことうまく行かず,でも同業者からの人望は厚いナイスガイって可能性はあります。妻とは死別ないし離婚,お子さんが2人かあ。
このようにトロピコシリーズでは,各市民の詳細なデータを見ることができる。だがそれはあくまで,独裁国家の住民台帳に載っている「データ」に過ぎない。彼らが実際に何を考え,どんな人生を送ってきて,いまどんな人生を歩んでいるのかは,このデータからだけでは読み取れない。
プレジデンテ鳥羽:
そのリアリティ要ります? でもこれは悩む……悩むな……。もしここで彼に「不慮の事故」が起こったら,選挙はどうなるんです?
徳岡報道官:
今はもう投票直前ですので,投票は通常どおり行われます。ただ,対立候補が不利になるのは間違いないですね。死んでますから。
山本政治顧問:
もし我が国に「ちゃんとした」警察があり,「ちゃんとした」収容所があれば,ちゃんと彼を逮捕するという手もあったんですが。
プレジデンテ鳥羽:
「ちゃんとした」の定義! ううむ,150ドル……150ドルか……分かりました,事故を起こしましょう。
徳岡報道官:
ちなみに「事故」との仰せですが,そういう手の込んだことができる人材が育ってないので,我が国の軍隊の制服を着た兵士が,めっちゃ露骨に鉛玉を叩き込むことになります。
山本政治顧問が指摘した「政治犯の逮捕」もそうだが,「事故」や「逮捕・勾留」といった,比較的文明的な手法を実現するには,それ相応のインフラと,それ相応の教育を受けた人材が欠かせない。さもなくば,原始的な暴力に頼るしかない。
ちなみにトロピコ6では最低限の軍隊組織を維持しておかないと,近隣諸国から定期的にやってくる私掠船の略奪に対して無防備になる。このため警察や消防より先に軍を組織しておきたいというのも,わりと本音としてあったりする。なんのかんので,原始的な暴力が重要な時代なのだ。
海賊対策としても軍は重要
プレジデンテ鳥羽:
是非もなし! えいや!
山本政治顧問:
極貧のロシア移民,投票日前夜に死す! いやー,ドラマチックだ……。
徳岡報道官:
さて,衝撃のニュースが飛び込んだ翌日ですが,いよいよ投票です。今回は「親切な支持者」による票の操作もなく,正々堂々の一騎打ちとなります。
プレジデンテ鳥羽:
「正々堂々」の定義!
徳岡報道官:
この島ではこれが正々堂々です! 結果は……170票対101票で,現職の勝利です!
全員:
(拍手)
プレジデンテ鳥羽:
……ありがとうございます?
なお選挙戦後,「トロピコ」シリーズのプレイ歴の長い山本政治顧問に「6」の印象を聞いてみた。
山本政治顧問曰く,本作では国家経営が軌道に乗ってくると,必ずなんらかの「このままではうまく行かない」状況が発生するという。それはそれでシティビルダーとして必要な要素なので,プレイヤー側としては「そういうもの」と割り切って対応するしかない。
ただ高難度でプレイすると,「うまく行かない」状況と,「その状況への対処策」が固定されがちになるのは残念とのこと。具体的に言えば,高難度ではほぼ必ず島はミサイル基地にならざるを得ない。なので,「6」ではあえて低難度で,政策や都市の多様性を楽しんだほうが良いかもしれない,とのことだった。
またそうしたことを踏まえたうえで,本作は抽象的なシティビルダーとしてプレイするよりも,プレジデンテというロールプレイをしていくほうが絶対に面白い。このプレジデンテはどんな思想を持っていて,彼の理想とする国家はどのようなものなのかを想像しながらプレイするのがオススメとのことだ。これから本作に挑もうという人は参考にしてほしい。
戦い終わって
かくして戦いはプレジデンテ鳥羽の勝利に終わった。収録時はギャラリーも含めて謎の盛り上がりもあって,「選挙」というコンテンツの強さを改めて思い知らされた思いだ。収録後,鳥羽氏に感想を伺ってみたところ,想像以上にいろいろなことができるゲームということが分かって興味深かったと話していた。
その点はご本人も強く意識しているようで,「最初は普通の戦記ものとして書き始めたが,読者からの反響を見て,徐々に政治や外交に比重を置くようになった」と語っていた。
また,「戦場を舞台に面白くしようとすると,史実を踏襲するか,あるいは『銀河英雄伝説』のような先行作の模倣になりがちで,差別化が難しい」「ラノベは“キャラがしゃべってなんぼ”なので,会話を主体に組み立てられる外交は,戦いの場にもってこい」とのことだった。
なお小説は現在GA文庫から第9巻まで発売されており,最新10巻が2021年8月発売予定とのとこ。さらに,えむだ氏によるにコミカライズ版も,ガンガンコミックスUP!から3巻まで既刊となっている。……「トロピコ6」で体験できる政治や外交は,えげつなすぎて参考にするのは難しいとのことだったが,この記事で興味を持った人は,ぜひ手に取ってみてほしい。
GA文庫「天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜」公式サイト
「天才王子の赤字国家再生術〜そうだ、売国しよう〜」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
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トロピコ 6 Nintendo Switchエディション
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