プレイレポート
「Sea of Solitude: The Director's Cut」プレイレポート。孤独な自分と向き合ったとき,見えてくる風景とは
本作はJo-Mei Gamesが制作し,Electronic Artsが2019年にリリースしたアクションアドベンチャー「Sea of Solitude」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)に,さまざまな追加要素を加えたディレクターズカット版だ。
「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」「Detroit: Become Human」などで知られるQuantic Dreamとのコラボレーションにより,Switch版ではJo-Mei Gamesの描いたビジョンがよりよい形で実現されているという。本稿では,そのプレイレポートをお届けしよう。
ディレクターズカット版で追加された部分については後述するとして,まずは作品の冒頭の流れや雰囲気からお伝えしていこう。
本作の主人公・ケイは,燃えるように赤い目をしており,体中が真っ黒な羽毛で覆われた少女だ。物語は,そんな彼女が暗闇の海に浮かぶボートの中で目覚めるところから始まる。
ケイは波にゆられながら,あてもなくボートを進めていく。一体彼女はどれほどの長い間,波間をさまよっていたのだろうか。
そして,しばらくするとその視界にオレンジ色のレインコートを来た少女の姿が入ってくる。
「太陽が沈んでいる間,船は航海灯を点けないといけない決まりなのよ」
女の子はそう言って,ケイのボートの舳先に吊るされた航海灯に光をともしてくれた。その瞬間,ボートの周囲から闇が薄らいでいき,水面下から街が姿を現わした。
次に女の子は「照明弾」の撃ち方を教えてくれた。照明弾は目印となり,進むべき方向を指し示すという。
暗闇の海でひとり,さまよい続けていたケイ。だがレインコートの女の子のおかげで,自分の位置を知る「航海灯」と,道標となる「照明弾」の使い方がわかった。それならば,いつまでも闇の中でさまよい続けてはいられない──。
こうして,ケイの謎めいた旅が幕を開ける。
プレイヤーはケイを操作し,半ば水没した街や,廃墟のような建物,凍りついた原野などを探索しながら,物語性の強いゲーム体験をしていく。アドベンチャーといっても入り組んだ謎を解いたり,アイテムのある場所を考えて探したりするようなタイプではなく,ケイの立場で旅を続けていくようなプレイフィールだ。
ケイ,そしてプレイヤーを導いてくれるのは,前述の「照明弾」。暗闇の海を旅する者の道標として,これ以上にシンボリックなアイテムはないだろう。次に進むべき場所がわからなくなったときは,照明弾を撃つことで,進む方向をおおまかに知ることができる。
ただし,照明弾は進むべき方向を示してくれるが,たどる道筋は自分でよく観察し,見つけ出さなくてはならない。
また,ボートから離れて行動する機会も多く,足場から足場へとジャンプしたり,段差をよじ登ったり,水面を泳いで進んだりと,アクションゲームのような緊張感を味わえる場面もある。
そして,ケイの旅には恐ろしい「追っ手」が同行し続ける。それはケイと同じように,黒い羽毛に覆われた巨大な怪魚だ。いくら逃れようとしても,怪魚からは絶対に逃れることはできない……その理由は,物語が進むうちに徐々に察しがつくはずだ。
水面を泳いで渡るときは,この怪魚の動きをよく見て,注意深く,素早く泳ぐ必要がある。
また,ケイはさまざまな場所にわだかまる「腐敗」を消し去る力を持っている。消えた腐敗はケイの背中に背負ったリュックに吸い込まれていくため,正確には背負いこんでいるのかもしれないが。
腐敗の中から現れた光と「繋がり」,行く手を阻む存在に「フォーカス」を合わせることで,旅の物語は新たな展開を迎えていく。
水面下の怪魚以外にも,貝殻に閉じこもる女性,猿とカラスが混ざったような生き物,互いをなじりあうカメレオンとゴルゴンなど,本作にはさまざまな怪物が登場する。
彼らが何を象徴する存在なのかは作中で明示されるので,本稿ではあえて多くを説明しない。彼らとのやりとりはケイだけでなく,プレイヤー自身の心をも締め付け,深くえぐってくる。
そして物語のラストでは,ケイ自身が抱えるものに焦点(フォーカス)が当てられる……。
なお,各章のタイトルはBack To Black(1章)や,The Sound of Silence(3章),Hurt(6章)など,世界的なアーティストのアルバム名や曲名にちなんだものとなっている。その曲調や歌詞の意味がまさにその章の内容に関連しているので,各章をプレイし終えたあとに調べてみると,より深い感慨を味わえるかもしれない。
最後にディレクターズカット版で加わった内容を説明しておこう。まず登場人物たちのセリフは作家スティーブン・ベル氏の協力によってリライトされており,それに伴いフランス語・英語・スペイン語・日本語・ドイツ語の吹き替えが追加収録されている。オリジナルの「Sea of Solitude」をプレイしたことがある人も,よりナチュラルになったセリフ回しや,声の演技を楽しめるはずだ。
フォトモードで旅の思い出を写真にできるようになったのも嬉しいポイントだ。撮った写真を見て旅路を思い出せるだけでなく,SNSなどにアップし,ファン同士で作品について語り合うこともできるかもしれない。また細かい変更点だが,照明弾の方向の微調整をジャイロ操作で行えるようになった。
本作の世界は暗闇に包まれているが,ケイの心の拠り所とも言えるボートに乗っているときの世界は明るく,遠くまで見えている(こともある)。
さまざまな理由から人間は孤独になるものだし,人間はそのことをつねに恐れている。だが孤独がもたらすものは,本当に恐怖や絶望だけなのだろうか──。本作のゲーム体験は,プレイする者にそんなことを考えさせてくれるだろう。
開発スタジオJo-Mei Gamesのコーネリア・ゲッパート氏メールインタビュー
最後に本作の開発スタジオJo-Mei Gamesの最高経営責任者(CEO)兼クリエイティブディレクター コーネリア・ゲッパート氏へのメールインタビューをお届けしよう。本作の開発経緯やテーマ,ディレクターズカット版のポイントなどを聞いた。
4Gamer:
Jo-Mei Gamesについて聞かせてください。今までどのようなタイトルに関わってこられたのでしょうか。
コーネリア・ゲッパート氏(以下,ゲッパート氏):
私達は最初の数年間,ブラウザベースの無料ゲームを開発していました。「Koyotl」と「Brave Little Beasties」というJRPGのゲームです。ほかにもブラウザやモバイル向けの小さなゲームをいくつか開発していました。
2014年に開発を開始した「Sea of Solitude」は,家庭用ゲーム機とPCに向けた初めての,ストーリー主導型の大型タイトルとなりました。
4Gamer:
オリジナル版「Sea of Solitude」は2019年にEA ORIGINALSの第2弾タイトルとしてリリースされました。開発の経緯を教えてください。
ゲッパート氏:
「Sea of Solitude」を最初に発表したのは2015年のことで,わずか数枚のgifアニメだけだったのですが,インターネットでは非常にポジティブな反応がありました。このことが,最初のプロトタイプからゲームを開発することの後押しとなりました。
2016年には,いくつかのゲーム会社が「Sea of Solitude」を販売するために,私たちに手を差し伸べてくれました。2018年にロサンゼルスで開催されたE3で正式に発表したとき,コミュニティやメディアの反応は圧倒的でした。とても多くの人がストーリーに共感し,「Sea of Solitude」のアートスタイルに興味を持ってくれ,それらのメッセージを読むのは素晴らしい体験でした。
開発について――私は “ホットライド ”という言葉で表現したいと思いますが,12人の小さなチームだった私たちにとって,これほど野心的なゲームを開発したのは初めてでした。
ブラウザのフリープレイゲームから,深いストーリーを持つ本格的な3Dのコンソールゲームへの飛翔は,大変な作業でした。また,学校を卒業したばかりのような新入社員も多く,それも非常にチャレンジングなことでした。EAにとっては,逆にこのような “小さな規模”のゲームは初めてだったので,AAAのゲームを開発するという通常の方法ではうまくいきませんでした。
皆が正しい方法を模索しなければならず,そこにはたくさんの葛藤がありました。しかし,最終的に私たちJo-Meiは,意味のある物語を語り,幻想的で比喩的な世界を人々に探検して楽しんでもらうために,芸術的な意味での”居場所”を見つけられたのです。
4Gamer:
オリジナル版発売後の反響はいかがでしたか。
ゲッパート氏:
まさに圧倒的なものでした。何百人ものファンが「Sea of Solitude」がどれだけ深く心に響いたかを書いてくれました。多くの人から,この作品が「人生を変え,助けを求めたり自分の状況をより良い方向に変えたりする力を与えてくれた」と言われました。正直言って,それは私が期待していたよりもずっと良い反応でした。
ジャーナリストのレビューは非常にまちまちで,あるメディアは大絶賛し,あるメディアには酷評されました。ただ私自身は,意見が大きく分かれていなければ,自分のアート作品を正しく評価することはできないのだ,と聞かされていました :)
4Gamer:
本作は“孤独”が物語のテーマとなっています。ここにスポットを当てた理由をお聞かせください。
ゲッパート氏:
「Sea of Solitude」のコンセプトを書き始めたころの私は,恋愛をしていたにも関わらず寂しさの中にいました。
2014年に私は元婚約者と出会い,とても愛し合っていました。将来の計画も立てていたのですが,数か月後,彼は頻繁に姿を消すようになったのです。最初は数時間だけでしたが,後にその期間は14日間におよぶこともありました。
彼が戻ってくるたびに私はいつも愛想よく振る舞い,変わらぬ愛を誓っていたのですが,本当に耐え難いものでした。私は非常に混乱していましたし,一人ぼっちで放置されていると感じていたのです。
その後,彼はうつ病を患っていて,人と話をしたくなくなったり,ベッドから起き上がれなくなったりすることが多いのだと打ち明けてくれました。私は彼をサポートしたいと思い,うつ病だけでなく,メンタルヘルス全般についての知識を身につけました。
友人や同僚など,ほかの人に自分の孤独や悩みを話すと,彼らも自分の悩みを打ち明けてくれました。孤独で苦しんでいる人がたくさんいることを知りました。これらすべての影響が,「Sea of Solitude」に繋がっていったのです。
4Gamer:
物語を描くうえで特に意識したポイントなどはありますか。
ゲッパート氏:
特に気をつけたのは,ゲームの中で語るすべての物語を,人々が共感できるような形にすることです。
発売前にゲームをテストしてみたところ,現実の生活を題材にしているにもかかわらず,一部の内容に少し過激すぎるものがあることがわかりました。そのため,バランスに気を付けながら,孤独のリアルな物語を伝えることに専念しました。
4Gamer:
ディレクターズカット版には,さまざまな要素が追加されています。特に脚本が新しく改稿されているのは驚きました。
ゲッパート氏:
それまでもフリープレイのゲームのために小さな物語を書いてはいましたが,プレイヤーを圧倒させないように軽快なものに留める必要がありました。そのため「Sea of Solitude」は,初めての本格的な作品にあたり,多くのことを学ばなければなりませんでした。
また,アートディレクターや,レベルデザインの大部分を担当すると同時に,開発中はゲームデザイナーとスタジオの責任者を務めていて,やらなければならないことがたくさんありました。
ただオリジナル版では,最高のライティングを引き出すことができなかったと感じていました。文章のあちこちに不器用なところがあって,もっと磨かないといけないと感じていたのです。そこで今回,私の友人の作家であるスティーブン・ベルに助けてもらい,物語を洗練してもらうことにしました。
私が最初に書いたものの意味やストーリーは変わっていません。共同創業者であるボリスと私もまた,スティーブンにそれを渡す前に再度目を通して,全体的な単語数を大幅に減らしました。2014年に「Sea of Solitude」を書き始めたとき,私はできるだけ単語数を少なくし,主にビジュアルを通してプレイヤーに語り掛けたいと考えていました。
Quantic Dreamは,私が最初のころに思い描いていた「Sea of Solitude」を作るチャンスを与えてくれました。彼らと一緒に仕事をすることでこの可能性を手に入れたことは,今でも私にとって夢のようなことで,本当に心から感謝しています。
4Gamer:
日本のプレイヤーにメッセージをお願いします。
ゲッパート氏:
私たちJo-Meiは日本が大好きです! 日本のアート,漫画,アニメ,映画などは,幼いころから私に大きな影響を与えてくれました。特に漫画「AKIRA」は,私自身がアーティストになりたいと思ったきっかけでした。日本は芸術と魂にあふれており,世界中の人々により良い作品作りを促すようなインスピレーションに満ちた素晴らしい国です。ここまで読んでくださりありがとうございました!
「Sea of Solitude: The Director's Cut」公式サイト
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Sea of Solitude: The Director's Cut
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