インタビュー
日本一ソフトウェアの「ヒロインを過酷な目に合わせる人」こと古谷優幸氏にインタビュー。可愛さと狂気が同居する作風へのこだわりとは
ボイド・テラリウムと言えば,か弱い女の子のトリコがさまざまなエグい病気にかかってしまい,それをなんとか助けるべくダンジョン探索に赴くというRPGだ。そのエグさがタイトル発表時から注目されていたが,日本一ソフトウェアは,こうした「ヒロインが過酷な目に合う」タイトルをいくつか出している。2014年の「htoL#NiQ -ホタルノニッキ-」と2016年の「ロゼと黄昏の古城」がそうだ。
この3作品,作風を見れば分かるとおり,同じディレクターが手掛けたものだ。前々から「一体どんな人が作っているのか」と気になっていたのだが,今回4Gamerでは,岐阜の日本一ソフトウェアにおもむき,実際にお会いしてみた。ディレクター・古谷優幸氏へのインタビューをお届けしよう。
「ホタルノニッキ」を,別の企画者から受け継ぐ形でディレクターに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは古谷さんの経歴からお聞かせいただけますか。
僕は新卒で日本一ソフトウェアに入ってそろそろ12年が経つのですが,元々はデザイナー志望でした。「ディスガイア」シリーズの原田さん(原田たけひと氏)に憧れて,キャラクターデザイナーを目指していたんです。
ですから,日本一に採用されたのはすごく嬉しかったんですよね。
4Gamer:
新卒からずっと同じところで仕事を続けているんですね。
古谷氏:
はい。ただ,新卒で入っていきなりキャラクターデザインの仕事が回ってくるわけではないですし,絵も突出してうまいわけではなかったので,しばらくは会社の先輩方からいただく仕事をこなしていました。
4Gamer:
どのあたりの作品に携わったんですか?
古谷氏:
「ディスガイア」シリーズの仕事が多かったです。入社直後は「ディスガイア3」のDLCや海外版を作っていた時期で,そのための仕事がたくさんある状況でした。ドット絵を打ったり,UIをローカライズしたり,デバッグしたり。
4年ぐらいはデザイナーの仕事をして,「ディスガイア インフィニット」ではグラフィックスを1人で任せてもらって嬉しかった覚えがあります。その後「絶対ヒーロー改造計画」や「ディスガイア4」,「神様と運命革命のパラドクス」などに関わりました。
一方で,「絵を描く機会があったら,僕にもキャラデザをやらせてくだい」とアピールしていたのですが,なかなか実現しませんでした。その機会が巡ってきたのが「日本一企画祭」です。
4Gamer:
聞いたことがあります。日本一さん名物の,社員による企画コンペですよね。毎年,全社員を対象に誰でも企画書を出せて,コンペに通ったら製品化に向けて動く,といった形の。
古谷氏:
そうです。そこで出てきたのが「htoL#NiQ -ホタルノニッキ-」になります。
4Gamer:
古谷さんらしさを感じられるタイトル群の,一作目ですね。
古谷氏:
実はあれの企画者は僕ではなく,別の者なんです。
4Gamer:
え,そうなんですか?
古谷氏:
もともと,企画祭に提出前の段階で企画者の方が僕に声をかけてきて,「古谷さんにデザインを統括して絵を描いてほしい」という話だったんです。そして企画が見事に通り,コアメンバーの1人として一緒にがんばろうと思っていたところで,企画した者が会社を辞めてしまって……。
4Gamer:
ええ……。
古谷氏:
それで「代わりにディレクターをやらないか?」と言われて承諾し,これ以降ディレクター業務がメインになったというわけです。
4Gamer:
日本一さんでは,企画祭をきっかけにディレクターになるということは結構あることなんですか?
古谷氏:
多いですね。これは個人的な見解なんですが,弊社では少数のチームで制作することが多いので,特定のスキルに特化したスペシャリストよりも,1人で何役かこなせる人の方が重宝されるイメージがあります。クリエイターだけでなく,事務職の人も経理や総務などを行き来していますし。そういった幅の広さは弊社の強みだと思います。
4Gamer:
「ホタルノニッキ」の企画は前任者が考えたものということなら,古谷さんがいきなり女の子がヒドイことになるゲームを企画したわけではないんですね(笑)。
古谷氏:
そうなんですよ,口火を切ったのは僕じゃないんです。でも,作ってみたいと思ったゲームのひとつではあったんです。
当時は「LIMBO」や「Braid」のような,“独特の雰囲気があって,ミスをするとキャラクターが残酷に死ぬ”というインディーズゲームが盛り上がっていて,登場人物を日本人が好きそうなキャラクターに置き換えると面白そうだなと思っていたんです。
だからデザイン依頼にも乗りましたし,ディレクターを引き継ぐことにもしました。今もこういう方向性のゲームが好きで作っています。
4Gamer:
とりあえず,このインタビューの趣旨が変わらなくてホっとしています。
ところで,企画段階から,女の子が残酷に死ぬという部分は決まっていたんですか?
古谷氏:
決まっていました。「儚い」とか「過酷」という言葉は,最初に見せてもらった企画書のときからあったことを覚えています。
「ボイド・テラリウム」はマイルドにしたつもり
4Gamer:
「ホタルノニッキ」の後も,古谷さんは「ロゼと黄昏の古城」「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」のディレクターをされています。タイトルごとに過酷さの度合いが増しているように感じられるのですが,これらはどういった企画として進められていったのでしょう。
古谷氏:
企画を立てるとき,どのように女の子をひどい目に遭わせるかは,ゲームシステムや仕様を考える初期段階で決めています。例えば,「ホタルノニッキ」のときに,「死亡のバリエーションがあっさりしている」というユーザーさんの声があったので,「ロゼと黄昏の古城」では,死に様を具体的に描き,種類もたくさん作ることにしました。
4Gamer:
要望だったんですか!? つまり「もっとひどい目に遭ってほしい」と。
古谷氏:
個人制作ゲームなどには,死亡シーンにかなりこだわったタイトルも実際にありますし,そういったゲームではミスが確定してから死亡するまでの演出が作り込まれていることが多いんです。そういうノリを求められているのなら,コンシューマでできる範囲でしっかりやってみようかなという気持ちでした。
ただ,「ロゼ」はやりすぎだったかもしれません。
4Gamer:
ひどい目に遭わせすぎた……?
古谷氏:
「面白いけど,表現がきつくてほかの人に勧めにくい」という声が多くなってしまいましたね。そうした評価を見るたびに,ゲームとして楽しんでもらえても口コミが止まってしまう感覚があり,悔しい気持ちでした。
そこで「ボイド・テラリウム」では,“シチュエーションはエグくするけど,明確に殺しきらない”ことにしました。
4Gamer:
むしろ,よりキツいほうに振りきっているのでは……?
古谷氏:
やはりそうなんでしょうか……。僕としては,「ロゼ」よりも表現はマイルドにしつつ,バリエーションを増やすことを目標にしていたんです。しかし発売後には「キツい」という声が多く,「そうなのか……」と。
4Gamer:
マ,マイルドとは。
古谷氏:
「ロゼ」では首が落ちたり,苦しんで死んでしまったりするシーンを具体的に見せていますよね。「ボイド・テラリウム」は見た目はエグいですが,治る病気なので大丈夫だと思ったんです。
4Gamer:
エグい病気だからこそ「女の子を守ってあげないと」という気持ちが強くなり,プレイのモチベーションにつながる仕組みにはなっていましたね。
古谷氏:
実際,「ボイド・テラリウム」は「ホタル」や「ロゼ」より広いユーザーさんに買っていただけましたから,結果的に間違っていなかったと思います。
4Gamer:
あのエグい病気のパターンは,開発陣の皆さんで考えたりしたんですか? その会議の場を想像すると,なかなか恐ろしいなと。
古谷氏:
いくつかスタッフにアイデアを提案してもらったものもありますが,僕が主体でこのラインナップにしようと決定しました。
4Gamer:
絵ももちろん古谷さんですよね。
古谷氏:
はい。作るときは「この病気になると,ユーザーさんはきっと喜んでくれるだろう」と考えてがんばっています。
4Gamer:
なるほど,私の中で古谷さんの狂気度が上がりました(笑)。
「ボイド・テラリウム」は,DLCとPS5版の「void tRrLM(); ++ver; //ボイド・テラリウム・プラス」が発表されましたが,こちらはどんな内容になるのでしょう。
古谷氏:
DLCについては,ユーザーさんが欲しかったものを追加し,評判がよかったものも強化しています。ありそうでなかったトリコの着せ替えができるようになったり,病気が増えたり。PS5版の「プラス」は,本編とDLCをまとめたもので,1本買うと全部遊べるものになります。
ディレクターは弊社の山下が担当して,僕は衣装デザインや,追加される病気の種類の提案や監修をさせていただきました。
求めてくれる限りフルスイング
古谷さんとしては,今後も同様の方向性のゲームデザインを続けていきたいとお考えですか?
古谷氏:
そうですね,同じ方向で作り続けると飽きちゃうので……タブーに触れるようなテーマ性で,ユーザーのみなさんが潜在的に求めているというものがあればそれを扱ってみたいです。
4Gamer:
また尖った方向性を……(笑)。
これまでのタイトルで,レーティングでトラブルになったことはないのでしょうか。
古谷氏:
ないです。むしろ,レーティングはタイトルごとに下がってきています。「ホタル」がCERO:Dで「ロゼ」がC,「ボイド・テラリウム」はBですから。全体的な印象よりも,特定の表現がどこか1か所にでも登場すれば対応した判定になるみたいですね。「ホタル」は死体の欠損描写がD判定の根拠でした。
4Gamer:
社内的に「表現を抑えろ」みたいな話は出てこないんですか?
古谷氏:
言われたことないですね……。社長なんかはいつも「フルスイングで行け,ユーザーが見たいのはそれだ」って,むしろ背中押しまくっています。
社長以外に見せても誰も怒ったことはないし,眉をひそめられたこともありません。だから安心して作っています。これは僕のわがままで作っているゲームじゃなくて,ユーザーや会社から求められて作っているゲームだ……って。ユーザーや会社が求めてくれている限りは,僕もフルスイングし続けるつもりです。
4Gamer:
古谷さんが一からタイトルを企画するとき,どのような作り方をされているのでしょう。絵からとか,世界観からとか,シナリオからとか,作り方はいろいろあると思うんですが。
古谷氏:
それらを行き来しながら同時進行的に作っています。こういったゲームで重要だと思っているのは,「ゲーム性と体験が一致したシナジー」です。世界観を作りながらゲームシステムを考えて,そのゲームシステムならこういう演出ができるから,シナリオにフィードバックできるかな,みたいな感じで行ったり来たりしながら作ることが多いですね。
「ボイド・テラリウム」なら,「少女をお世話する」というのがスタート地点でしたが,だったらゲームパートは資源を集める要素があるちいいなとか,テラリウムでのお世話とリソースの管理の相性が良さそうだからゲームジャンルはローグライクRPGにして,ローグライクを採用するなら世界設定を無限に増殖するキノコと建造物で覆われたことにすれば,ランダムダンジョン部分の説明もできるな,みたいな感じで。設定とゲームシステムとストーリーを並行して組み立てていきます。
4Gamer:
システムありきなんですね。古谷さんのタイトルは,ビジュアルや雰囲気に惹かれることが多いので,世界観などから入っているのかと思っていました。
古谷氏:
僕が好きなゲームは,シナリオの語りとゲームシステムがいい感じに融合しているものが多いので,そういうゲームに感銘を受けています。
とはいえ,僕自身の本質はサラリーマンだと思っています。ユーザーさんや会社が「これよかったからまた作ってくれ」と言ってくれれば,それを楽しんで作ってしまうタイプでしょうね。
4Gamer:
いやあ,これまでのお話から,サラリーマンの気質で古谷さんのタイトルが生まれたイメージはあまり湧いてこないです(笑)。
古谷氏:
そうかもしれませんが,弊社の小田(小田沙耶佳氏)が企画した「嘘つき姫と盲目王子」のようなハートフルな作品でもシナリオやゲームデザインを担当しています。仕事に合わせて残酷さにブレーキをかけることはできるんです(笑)。
もちろん,残酷な方向性にもまだまだ伸びしろがあると思っているので,機会が与えられたらもっとユーザーに喜んでもらえるものを作りたいと思っています。
4Gamer:
そのあたりは,古谷さんのどういった新作が見たいか,日本一さんに声を届ければいいわけですね。
古谷氏:
ぜひそうしてください。
僕には1つ目標があって,こんなニッチなゲームばかり作っていますが,国内で10万本以上売りたいんですよね……。会社的に見てもタイトル単体で国内10万本を超えるものは少ないので,10万本は結構なヒットということになります。いつもそこを狙って話題性のあるテーマにはしているんですが……力及ばず未だに達成できていません。
4Gamer:
古谷さんのセンスと狂気がさらに磨かれた次回作に期待しています。ありがとうございました。
「void tRrLM(); ++ver; //ボイド・テラリウム・プラス」公式サイト
- 関連タイトル:
void tRrLM(); ++ver; //ボイド・テラリウム・プラス
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void tRrLM(); //ボイド・テラリウム
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