インタビュー
[インタビュー]TVアニメ「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」ニディガコラボ記念。にゃるら氏に聞く,美少女ゲームはどこへ行くのか
16bitALは,みつみ美里氏・甘露樹氏(アクアプラス)と若木民喜氏(漫画家)によってコミックマーケット91にて頒布された同人誌「16bitセンセーション」(以下,16bit)を原作とするTVアニメだ。16bitは1990年代を舞台に,ひょんなことから成人向け美少女ゲームのイラストレーターとなった上原メイ子の物語を描く「実体験を元にしたフィクション」だが,16bitALは2023年のイラストレーター・秋里コノハが16bitの時代にタイムリープして歴史に干渉するというSF作品になっている。
一方のニディガは,1990年代の美少女ゲームへのリスペクトを多分に含んだ配信者育成ゲームだ。企画およびシナリオを担当したにゃるら氏は1994年生まれで,設定上1973年生まれのメイ子と2004年生まれのコノハに対し,(大まかに見て)中間的な世代である。
にゃるら氏は,16bitAL / 16bitや今昔の美少女ゲームをどのように見ているのか。今回のコラボにあたり,それらをうかがった。
※インタビュー実施は,16bitAL第11話「オリジナル・キュー」放送日。
■16bitセンセーション ANOTHER LAYER
TOKYO MX / とちぎテレビ / 群馬テレビ / BS11にて放送(終了)。放送後にdアニメストア(for Prime Video / ニコニコ支店を含む)にて最速配信を開始。ほか,各種動画配信サイトにて配信(日曜日更新)。
1〜3話および本PVを収録したBru-lay / DVDの第1巻も販売中。
12月30,31日に東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケット103では,アニプレックスブースにて宣伝動画企画「Road to 冬コミ」に関する特別展示や公認同人誌の配布などが行われる。みつみ美里氏のサークル・CUT A DASH!!(31日・東A 04a)では設定資料集ほかを頒布予定。
また,原作同人誌を一部改稿・再編した単行本「16bitセンセーション 私とみんなが作った美少女ゲーム」全2巻もKADOKAWAから刊行されている。
?‥∵‥?‥‥∵‥?#16bitセンセーション ANOTHER LAYER
— TVアニメ 16bitセンセーション ANOTHER LAYER 公式|?好評放送中?? (@16bit_anime) December 26, 2023
超てんちゃんからの応援ビジュアル
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コノハとインターネットエンジェル?との
コラボビジュアルが到着?
第13話はいよいよ12月27日(水)24時30分より放送?
ぜひ最後まで見届けてください?#アニメ16bitAL pic.twitter.com/twg1ycq935
少年を引き込んだ美少女ゲームと,その衰退
4Gamer:
以前のインタビュー(関連記事)で美少女ゲームとの出会いについては少しお聞きしましたが,そこで引き込まれたポイントみたいなものは何だったのでしょうか。
にゃるら氏:
ギャルゲーというものが“大人”なものに見えたんですよね。前にお話しした友達のお兄ちゃんが「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」(以下,YU-NO。関連記事)をプレイしていたんですけど,昔のゲームを極めているというのも,子供向けのゲームとは違うジャケットも,カッコよくて憧れたんです。
その人からセガサターンを譲ってもらい,当時は「EVE burst error」ですら中古で1000円で購入できたので,そのあたりから遊ぶようになりました。詳しく覚えていないんですが,その人はPlayStationかドリキャスで2人のヒロインがいるゲームをやっていたんですよ。片方が女子高生で,もう片方が忍者だったんですけど,未だに何というソフトだったのか分からないんですが,いつか出会いたいと思っています。
4Gamer:
セガサターン版のEVE burst errorは18推(※1)とは言え,コンシューマのギャルゲーとPCのエロゲは割と違う世界ですが,後者に手を付けた経緯はどのようなものだったのでしょうか。
※1 CEROレーティング制定以前,セガ・エンタープライゼス(当時)は独自のレーティングを採用し,セガサターンにおける18歳以上推奨や18歳以上対象としたゲームのリリースを許可していた。
にゃるら氏:
やっぱりエロには勝てないものですから,いろいろあって催眠系のゲームに辿り着いて,体験版をダウンロードしたんです。
4Gamer:
「体験版をダウンロードした」というのも,なかなか世代を感じますね。ブロードバンドが普及する以前は難しかったですから。
にゃるら氏:
そういう体験版や,セガサターンの旧作をプレイしているうちにPSPの時代が来たんですよ。PSPでは「Kanon」や「AIR」などがどんどん移植されていたので,そういった名作はだいたい触ったと思います。癖揃いのライター陣が集まった「セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜」などのPSPならではの作品も好きでしたね。
4Gamer:
そこからは新作を追うのと旧作を掘り下げるの,どちらに向かったのでしょう。
にゃるら氏:
旧作が多かったですね。2005年頃って,エロゲの全盛期から衰退に向かっていくような時期だったじゃないですか。エロゲが好きな人も,重厚なストーリーを重視したエロが不要なゲームや,ライトノベルに行ったりして,だんだんエロゲ自体の人気が縮小して。地上波放送のアニメになることが多かったりはしましたが,ひとつの“深夜アニメ”という域を出た作品は正直言って少なかったですし。
全盛期後にも「装甲悪鬼村正」や「素晴らしき日々 〜不連続存在〜」のような大作も出ましたが,中小規模の名作がどんどん出てくるような時期ではなかったので,時代を遡るほうが楽しかったんです。
4Gamer:
オタクとしてのメンター的な人はいたのでしょうか?
にゃるら氏:
基本的には自分で開拓していましたが,師匠と呼べる人がいるとしたら,テキストサイトの人たちですね。例えば,ちゆ(12歳)さんとか,Black徒然草さん(じゃまおくん氏)とかを見て,そういう人たちが掘っている変なことを僕も追っていこうと思ったんです。
それに,テキストサイト時代のエロゲ批評の人ってメチャクチャ辛口で,今のSNS受けする感想とは真逆ですから,「こんな人が褒めているのだから相当面白いんだろう」みたいな,そういう意味では心の中で勝手に師匠だと思っています。直接的なつながりは一切無いですが。
4Gamer:
「げんしけん」みたいな環境も通っていない?
にゃるら氏:
げんしけんは僕が中学生の頃で,「こういうオタクの集まりがあるんだ」と思ったんですが,大学でオタクサークルに行くと「漫画やアニメがある程度好きな人の集まり」みたいな感じで,「ロボットアニメといったらエヴァとグレンラガンで,俺の彼女がヨーコのコスプレしてて〜」みたいな話をされて,とても「聖戦士ダンバイン」(以下,ダンバイン)とか昭和のアニメの話をする空気でなくて……かなりショックを受けて,それもあって大学に行かなくなりました。
4Gamer:
地方のオタクだとアニメの供給をレンタルビデオ店に頼っていたケースが多いと思いますが,いかがですか。
にゃるら氏:
VHSで「ギャラクシーエンジェル」の1期や,「メガゾーン23」みたいな昔のロボットアニメとかをよく観ていました。DVDもあったんですけど,それが1本300円くらいなのに対して,VHSは100円だったので。
沖縄という限定された土地だからこそ,一昔前のアニメやゲームをやるしかなかったわけですが,それらがたまたま噛み合って,オッサン受けが良くなったというのもありますね。上京してから,オッサンの編集者たちからちょっと可愛がられたりして(笑)。
4Gamer:
16bitALを実況しているようなオッサンたちって,懐かしさで盛り上がっているじゃないですか。リアルタイムじゃない世代としては,そういうオッサンたちをどんな目線で観ているんですか?
にゃるら氏:
単純にうれしいですね。「ゴジラ-1.0」に昔の軍艦が出てきて,ミリオタのオッサンや「艦隊これくしょん -艦これ-」(PC / Android)のオタクたちが喜んでいるのとか,そういったオタクが真っ当に喜んでいる様子は見ていてうれしくなります。
今のSNSって若い女の子たちに勢いがあって,ニディガも感想を投稿したり,グッズを買ったと言ってくれたりする人は女の子が多いんですよ。でも,実際の購買層における男女比は5:5くらいなんですよね。30歳を越えた男のオタクが,わざわざSNSで語ってくれるのって稀ですし,当人にとっても難しいことなんですよ。それを呼べている16bitALは,正しいことをしているというか,オタクたちの救いにもなっていると思います。
4Gamer:
見ていてうれしくなるものなんですか。
にゃるら氏:
僕にとって心の師匠である40代のオッサンたちが楽しんでいるのは良いことですから。例えばコミケでダンバインの資料集みたいな同人誌を頒布している人がいるとして,そのブースでオッサンたちがダンバイントークで盛り上がっているのを見ると,それが“正しい”ものに感じられるんですよ。
4Gamer:
客観的な安心感なんですね。ご自身で混ざりに行ってうれしいというものではなく。
にゃるら氏:
僕は結局のところ彼らから見れば新参かつ異端ですし,ニディガでは古き良き文化を現代にミックスした功罪がありますから,自分から混ざりに行くことは無いですね。こういったインタビューを受ける経緯もあり,若干にせよ関係者である以上は距離を置いたほうが良いとも思いますし。
何より,当時を知る若木さんたちが作っているので,僕から言うことはあまり無いかなと。あえて言うとしたら,16bitでは原作含めてあまり触れられていない,少ない色数でエロを描いたり,ゲーム性にこだわったりしていた陵辱系のタイトルの話をどこかで聞いてみたいくらいですかね。
4Gamer:
「夜勤病棟」や「臭作」あたりの頃ですね。
にゃるら氏:
「好き好き大好き!」もそうですけど,王道をやる必要の無いジャンルなのでダークなストーリーとかパロディとかがあって,今プレイしてもアーティスティックな意味で面白いと思います。
4Gamer:
今だとDLsiteの同人ゲームで,そういった要素を継承したものが販売されたりもしていますね。
にゃるら氏:
ある意味では,それらこそゲーム性によってヒロインとの関係を描いているわけですよ。16bitでも描かれていましたが,当時のテキストサイトを見ると「(選択肢だけで進行し,かつ“実用性”の薄い)KanonやToHeartはカスだ!」みたいなことが書かれていたりして,そういうのを見ると僕はうれしくなります(笑)。
4Gamer:
エロゲがどうあるべきかというのは,当時はけっこう議論になっていました。
にゃるら氏:
そういったことは後世に伝えるべきです。“使う”ためにエロがあって,エロのためにゲームシステムがあって,ゲームシステムがあるからこそ感情移入できるというのは。このインタビューを通して,誰かに伝わってほしいですね。
ニディガもそうですけど,ステータス管理系のゲームがすごく好きなんですよ。そういうシステムって,女の子と……と言うか,人間と向き合うことと同じだと思っているので。
陵辱系のゲームにしても,ヒロインと良い関係になって感動するようなエンディングが1つか2つくらいあるじゃないですか。「Teaching Feeling -傷肌少女との生活-」なんかは,もはやイチャイチャしているだけですし。そういう“救い”が用意されるのは,作り手としても「ここまで感情移入したら,純愛系になるしかないよね」というのが分かっているからじゃないでしょうか。それは自然発生的な美しさだと思っています。
4Gamer:
100万本を突破したときのインタビューでもうかがったような,「遠回りするからこそ味わえる面白さの本質」といったお話ですね。
にゃるら氏:
僕はゲーム版「serial experiments lain」(以下,lain。関連記事)の,断片的なファイルを集めてストーリーをプレイヤーが勝手に見出すというシステムが,すごく好きなんですよ。
ニディガでも踏襲して,それもあって100万本を突破したときに玲音からメッセージをもらったんですけど,スタッフさんがすごく喜んで送ってくれたんですよ。ノリノリで脚本を書いていただいて。
4Gamer:
関係者や若年層のファンが喜んでいた,良いコラボでしたね。
にゃるら氏:
ただ,lainを神格化している同世代の層からの反発は確実にあると思っていました。実際,僕と同世代の人から「玲音はこんなことやらない」や「超てんちゃんとコラボしやがって」みたいな声があって。そんな中で,一回り上の人たちからは「こういうカオスなコラボではっちゃけるのが,90年代深夜アニメって感じだよね」と理解してもらえたり,逆に下の人たちからは「こういうカルト的なアニメがあるんだ」と知るきっかけになってもらったりして,すごくうれしかったです。
4Gamer:
神格化ですか。当時を経験したオタクからすると,lainも「多様な深夜アニメのひとつ」という感覚で,もちろん極めて個性的な作品ですし好きでもあるんですが,アンタッチャブルなほど特別視するというのはよく分からないですね。
にゃるら氏:
「これを好きだと表明したら洒落て見える」っていうのは,サブカル人気では避けて通れない道ですからね。lainって,ゲーム版だと現代の感覚ではとてもプレイできないロード時間じゃないですか。だから,僕はせめてもの工夫でPS3を使って少しでもロード時間を早めたりしてクリアしたんです。しかもシナリオをすべて写経しながら。入手難度も含め,lainのクリアってかなり大変なんですよ。
それに,クリア後のセーブデータが「ときめき度」から「はるまげ度」に変化するのが衝撃だったんですけど,この仕様について気付いて言及している人は,ググっても僕を含めごく数人しかいませんでした。画像付きで触れているのは僕だけでしたね。
そういったこともあり,「lain好き」をアピールする人でも,どこまでファッションとニュアンスのみで話しているかが分かります。
にゃるら氏:
僕らの世代ってゼロ年代付近の作品を崇拝しすぎていて,触れて欲しくない気持ちがあるんですよね。その感覚は非常にわかります。「なんでお前が得意気に出てくるんだ」と思われても仕方がない。
今回の16bitと超てんちゃんのコラボでも,同じく僕と同年代の層はブチギレているでしょうね(笑)。カルチャーってそういうものですから。
ただ,誰かが触れない限り後の世代にも伝わらないから,つなげていくべきだと思っているんです。若者が知れば,流行がもう一周して面白いものが出てくる可能性もありますし。
めぐりめぐって二ディガが若い層にも刺さった以上は,橋渡し役の義務がある。だから僕が矢面に立って,どれだけ叩かれようが,「僕は本気で好きだから」と胸を張ってやっていこうと。
4Gamer:
lain以外だと,どんなタイトルが神格されてると思いますか。
にゃるら氏:
Key作品,とくにAIRは「鳥の詩」の効果やニコニコ動画での流行りもあって,思い出というよりも,ひとつの文化になっていると思います。“あの時代のもの”となったので,楽曲と思い出が先行して物語の構造を語られる機会も少ないですし。
ToHeartだって,若者は何となく知っていてもプレイはしていないと思うんですよ。カルト作品として真っ先に名が挙がるさよ教も,プレミア価格や鬱系というだけでなく,あのシステムやストーリーの何が刺激的であったかは語られていくべきでしょうね。
4Gamer:
上の世代からは,それらの作品が「神格化されている」こと自体がピンと来ないんですよね。そのように見えているのは,なぜなんでしょう。
にゃるら氏:
そういうのを「好きだ」と言うことが,パーソナリティとしてカッコいいからですよ。何を推すか,何を好きかっていうのは自分自身の反映ですから。だからサブカル的な精神性の自己表現として,今では過去の文化となった美少女ゲームが神格化され,他の人が触ると刺激されるわけです。一回り上の,単純に一作品として楽しんだ人たちからの評価とのズレはあると思います。失われた文化を敢えて追うことがアイデンティティになっているので。それはとても良いことだと感じますが,神格化が過ぎるとシステムへの理解とは遠ざかるかもしれません。
4Gamer:
コンテンツの崇拝と自己肯定が連結されていて,客観的に批評できないと。
にゃるら氏:
ニディガのファンも,ゲームをオールクリアしたうえで評価してくれている人は,2割か3割くらいだと思ってます。配信やSNSでしか知らない方も多いでしょう。でも,作品が独り歩きしていくのは仕方のないことでもありますからね。それはそれで良いんじゃないか,元よりごく一部にしか刺さらないと思って製作したゲームだし,と認識しています。原作が気になった何割かのオタクが引っかかってくれたら恩の字でしょう。
4Gamer:
そういった体験的なところを重要視されているのなら,「痕」や「ToHeart」以降に流行したような,重厚長大なストーリーを軸とするタイプはあまり馴染まなかった感じですか。1990年代にエロゲが広がっていったのは,ノベルゲームの流行によって情報量が増えつつ開発のハードルが下がったところもあると思いますが。
にゃるら氏:
もちろんプレイしていますが,2010年以降のエロゲがそこから抜け出せなかったのは,業界の責任……と言うと偉そうな言い方になってしまいますけど,それは実際あったと思います。だから新しいことをやらなくなったり,情熱が薄れてしまったりした。
そんな中でもニトロプラスさんとかは一歩先に行ったり,アクアプラスさんもゲーム性のあるほうに戻ったり(関連記事),生き残っている大手はやるべきことをやったわけですから。普通のアクションゲームだって進化していくように,美少女ゲームというものも進化しなければいけなかったんですよ。
ホロライブの湊あくあさんが「あくありうむ。」(PS4 / Nintendo Switch / PC)というゲームになっていますよね。僕はそれほど追っているわけではないのですが,VTuberが美少女ゲームになって,ファンが「推しているキャラクターを攻略できる」というのは,新しいムーブメントとして良いことだと思います。そのように新規開拓を模索していかねばならないのは、美少女ゲームに限ったことではありませんし。
16bitALの物語と現実的な課題
4Gamer:
16bitは原作からお好きなんですか?
にゃるら氏:
同人版から買っています。それに,若木(民喜)先生の漫画は「神のみぞ知るセカイ」から好きで,少年サンデーも買って第1話から見守っていたんですよ。美少女ゲームがテーマですし,最後の時間軸がどうこうというのは明らかにYU-NOのオマージュでしたからね。物語としても,最後に主人公が選ぶのがサブキャラクターというところもカッコ良かったです。
16bitALでも,若木先生の「仕掛けがあってこそ美少女ゲームだ」というスピリットを終盤の展開に感じています。コノハちゃんは時間や世界線の移動を「STEINS;GATE」(Xbox 360 / PC / iOS / PSP / PS3 / PS Vita / Android。以下,シュタゲ)に例えて説明していますけど,それよりも若木先生は本当にYU-NOが好きなんだなって感じますね(笑)。
4Gamer:
普通に,いちファンのオタク視点で追いかけているんですね。
にゃるら氏:
コノハちゃんは自分が変えてしまった歴史を直すために“売れるエロゲ”を作ることになりますが,どうやって作るのか,そこで描かれたものから現代のオタクたちが何を見出していくのか,最終回を楽しみにしています。
コノハちゃんは,現代の知識を持って過去に遡ったからこそ歴史を変えるようなゲームを作れたわけで。1話で言っていたような採算度外視のゲームは誰かがやるべきではありますが,しれっと何かを作ってしまうような,狂った情熱を持っている人でないとできないですから。
4Gamer:
何かしら一捻りしないと,今の国内ユーザーには刺さらないですよね。それこそ超てんちゃんくらいに。
にゃるら氏:
現実的に考えると,シンプルにテキストを送り続けるだけのビジュアルノベルゲームだと100万本は行かないと思うんですよ。「ドキドキ文芸部プラス!」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch / PS4 / Xbox One)は100万本を超えていますが(※2),テキストを送るだけのシステムへの挑戦と,美少女ゲームへの本質へ真に迫った構造があってこそですし。
もちろん「ドキドキ文芸部!」はたいへん素晴らしいゲームで,あの作品をプレイしたからこそ,日本人がギャルゲーに進化を求めなくてこれを作れなかったり,諦めてソシャゲに行ってしまったりしたことに怒りを覚えて,「美少女キャラクター」と向き合う構造を中心とした美少女ゲームを作ったところは少しありますので。
まあ,ニディガがいわゆる美少女ゲームなのかは見解が分かれるところでしょうが,僕の中ではセガサターンの美少女ゲームから派生したものだと思っています。
※2 「ドキドキ文芸部プラス!」は2月に100万本を突破した。なお,もとの「ドキドキ文芸部!」は1300万以上の累計ダウンロード数を記録しているとのこと。
4Gamer:
ただ,旧態的なソフトハウスという形が廃れてしまった現在だと,進化というのも難しい気がします。昔は冒険した個性的なタイトルが量産されていましたが,現代の中小企業やインディーズスタジオなどとは異なるバランスの組織だったからこそ発生した現象だったのではないかと。現実的に考えた場合,今やれることって何だと思いますか?
にゃるら氏:
現代だとイラストレーターの価値が上がっていることもあって,新人を発掘するとか,必要な枚数を減らすとか,そういう工夫から始める必要があるでしょうね。
SNSの発展によって,イラストが高く評価されるようになったので,コノハちゃんみたいな「ものすごくやる気があるけど,なぜか安月給で働いてくれるイラストレーター」という現実にはあり得ない存在でもいない限り,昔みたいに「一人の絵師に何十枚も描いてもらう」ということはできないはずです。ニディガも,お久しぶり先生にキャラクターデザインとキービジュアルをお願いして,あとはドット絵で間をもたせるという考えから,ああいった形になりました。
4Gamer:
根底的な体制やゲームデザインから整えなければならないと。
にゃるら氏:
もしかしたら,コノハちゃんと守くんが作るゲームみたいにAIが作画を担うかもしれませんが,さっきも話したように「今のオタクが10分以上のストーリーを読むように鍛えられているか」という問題もあります。二ディガの場合はできる限りテキストは短く,ポエムっぽいような2,3行のテキストを繰り返すようにしていたので,そういった針の穴を通すようなことができたら売れると思うんですよ。
にゃるら氏:
例えば最近も「Milk inside a bag of milk inside a bag of milk」(PC / Nintendo Switch)が,割りと流行したじゃないですか。「ドキドキ文芸部!」もそうですが,日本人の失った情熱が海外に残っていて,ちゃんとヒットするものはヒットしているわけです。プレイ時間や絵師の問題はあるものの,何かひとつのアイデアがあれば,まだ勝てる時代だと思っています。
なので逆に,セガサターンやPC-98の旧作みたいな,ゲーム性があるからこそヒロインとの交流が描かれて感情移入していったり,操作性とストーリーが融合していくようなものから考え直すべきなんだと思います。「紙芝居からの脱却」は大きな課題でしょうか。
4Gamer:
ご自身としても,そういったゲーム性のあるタイトルに強く惹かれていたわけですよね。
にゃるら氏:
そうですね。それにセガサターン版のYU-NOやEVE burst errorでは,ストーリーを進めるためにディスクを入れ替える必要があったじゃないですか。それって無駄なんですけど,その無駄な時間の分だけヒロインと過ごした時間も長くなるので,感情移入の度合いが全然違ってくるんですよね。
ニディガも,自分で操作して超てんちゃんとの日々を過ごすからこそ,感情移入の度合いが変わっていくわけで。ヒロインを真に見つめる場合は,そういったゲーム性が必要になると思っています。
ただ「ヒロインかストーリーか」の問題はあって,ストーリーだけに集中させるなら操作やゲーム性は要らないわけです。でも一時期「美少女キャラクターと交流する」というストーリーが氾濫しすぎた結果,現在では枯渇しているので,そういったやり方からは卒業しないといけないんじゃないでしょうか。
4Gamer:
コラボビジュアルは,そんなEVE burst errorのオマージュとなっていますね。セレクトの理由としては,オッサン世代が喜んでいるのがうれしいことと,若い世代に知ってほしいということ,ウェイト的にはどちらのほうが強いのでしょうか。
にゃるら氏:
そういった理由よりも単純に,あのCGが綺麗だからです。ディスプレイの光がボワっと2人を照らしていて,押井 守監督の映画みたいですし。それに16bitALで触れられていないタイトルをフィーチャーしたかったので,そういった理由の最大公約数的にあれをセレクトしました。
にゃるら氏:
あのCG自体,同じデータベースをハッキングをしていた主人公たちが初めて協力するという,めちゃくちゃ印象に残る有名なシーンですからね。主人公が変わるたびにディスクを入れ替えなきゃならないゲームで,今ではあり得ない面倒臭さですけど,それがあったからこそ“主人公が変わる”ということを体感として味わえました。そういう驚きを想起してもらえたら嬉しいですよね。あと単純に,2人が描かれた構図なので,コノハちゃんと超てんちゃんに置き換えたらウケるだろうなと(笑)。
過去作をオマージュした作風の16bitALですから,ここしかない!って。
4Gamer:
個人的に,16bitという「オタク向けアダルトコンテンツの歴史」を下敷きにした作品がアニメ化されて地上波で放送されているというのは,“面白い”という意味で奇妙に感じています。このようにエロゲが一般向けに拡散していったのに対し,それ以前からあった日活ロマンポルノや東映Vエロチカなどの系譜が衰退してニッチやアングラに向かっていったのは,どのような違いがあったと思いますか。
にゃるら氏:
当時のエロゲが流行した理由として,ひとつは文学性があったからだと思うんですよね。例えば「乙女の本棚」(立東舎の特設ページ)っていう,夢野久作とかの日本文学に現代的なイラストレーターの絵をあてた本があるんですけど,同じように文学と美少女の融合した奇跡的な瞬間がエロゲのブームだったと思うんですよ。
あと16bitALでも描かれていますが,美少女というもの自体に勢いがあって,既存カルチャーのカウンターとして機能していたことが大流行につながったんだと思います。
4Gamer:
確かに,文学的要素は映像作品だと演出しづらいところです。
にゃるら氏:
そういう意味では,アングラやサブカルは成り立ちが全然違うと思います。吸収されていった方向も,どちらかと言うとV系やバンギャの文化じゃないかと。オタクよりも,もう少し現実をちゃんと生きている人のものですから。
それに対して,当時のオタクには「モテない俺たちがモテないなりにネットで活躍するぜ!」っていうのが流行していましたし,ネットが普及し始めていた追い風もあったので,エロゲが優勢になっていったんじゃないでしょうか。それにアングラなものって,ネットを介して拡散されちゃうと力が弱くなっちゃいますから。
4Gamer:
明るいところに出すと陳腐になりますよね。だから「電車男」みたいな流れでネットがパブリックになるに従って,ネットに載せられないものは淘汰され,本当にアングラなものはもっと深くに潜っていった。
にゃるら氏:
小学生の頃からテキストサイトを漁っていたんですが,鬼畜系のサブカルを引きずって書いていたような人は,2000年代半ばあたりからやりにくくなっていた印象です。エロゲにも「さよならを教えて 〜comment te dire adieu〜」(以下,さよ教)や「沙耶の唄」みたいな鬱系・グロ系もありましたけど,まだネットで広まれる程度のアングラさだったり,女性にもウケるような耽美的なエログロだったりしたわけで。
4Gamer:
そうですね。モンド映画みたいなエログロとは,接する部分があっても主軸とする部分が違う感じで。
にゃるら氏:
僕も「危ない1号」とか「世紀末倶楽部」とかのサブカル本を持っているんですが,そういう方向性は1990年代でギリギリだったでしょうね。ネットで広まったら警察に捕まるかもしれませんから,作っていた人も自然と離れていったり,本当に病んで消えていったりしてしまって。
そんなアングラに文学性を見出した人が,美少女と融合させてエロゲを作っていったんだと思っています。
4Gamer:
ただ,拡散・普及の副作用として,そういった意味での文学性は薄れてエンタメになっているじゃないですか。そのあたりにはどのように見ていますか。
にゃるら氏:
既存の文学をモチーフにしていることが多かったので,単に弾が尽きたんだと思います。まだライトノベルも深夜アニメによる火が点いていない時代(※3)に「文学をやりたいけど,小説とまではいかないし」という人たちがやっていたわけですが,ある程度のパターンを擦り尽くしたうえ,美少女コンテンツが氾濫した以上,美少女で文学をやっても新鮮味のない時代が来たんです。
※3 もちろんライトノベル自体やアニメ化されて人気を得た作品は以前から存在していたが,2000年代中盤は需要の拡大によって,メディアファクトリー(現KADOKAWA)の「MF文庫J」が原作付きでない独自作品の展開を開始,ソフトバンク・パブリッシング(現SBクリエイティブ)が「GA文庫」を創刊,小学館が「ガガガ文庫」を創刊するなど,過渡期と言える状態にあった。
にゃるら氏:
それに,スマホの登場で物語への没頭性がかなり減りました。やっぱり,大きな画面でクリックしていくからこそ物語に入っていけるものですから。小さいPSPにしてもボタン操作の手応えはありましたけど,スマホのタッチ操作となると,ちょうど良いのは10分くらいで読めるソシャゲのシナリオくらいしか無いと思います。時代の流れ的に当然のことだとは思いますが,あまり重いストーリーは描けないですよね。
4Gamer:
そういった時代の中,にゃるらさんの世代から見た16bitの世界はどのように映っているのでしょうか。
にゃるら氏:
“歴史の教科書”的な意味で,すごく面白いと思っています。ユーザー視点からエロゲの歴史を書いた本とかもあるんですけど,16bitは作っていた側の話なので,また視点が違いますし。
あと,今では失われた秋葉原の萌え分化を描いていることも重要だと思うんですよね。でじこビル(※4)が象徴的なものとして出てきたりして。
※4 1999〜2003年にゲーマーズ本店がテナントとして入っていた(現在はe☆イヤホン秋葉原店 本館)新東ビル。屋上の看板にデ・ジ・キャラット(でじこ)のイラストが掲出されていたことから「でじこビル」の愛称で呼ばれた。なお,同様の愛称で呼ばれていた(2003〜2015年)宝田無線ビルとは別。
4Gamer:
16bitで描かれている秋葉原って,ご自身では見ていない世界ですよね。
にゃるら氏:
僕は18歳のときに上京して,そのとき見た景色は“シュタゲの背景”でした。16bitより少し後の電気街ですね。
4Gamer:
原風景としてはシュタゲなんですね。
にゃるら氏:
僕の世代で,大きなギャルゲーのブームをリアルタイムで体験できたのもシュタゲくらいですから。ヒロインへの思い入れが深まるくらいに難度もそこそこ高かったので,ひとつの灯火としてすごく良かったです。
4Gamer:
その頃って,タイムマシンが突き刺さったほうのラジオ会館はまだありましたか?
にゃるら氏:
いえ。それが取り壊されて,今の建物を作っている最中でした。
それでもマジコン屋の「マジカル上海」みたいなアングラなお店はギリギリ残っていて,秋葉原の闇市みたいな側面は見ることができました。僕はそれがけっこう好きだったんですが,そういった怪しいお店は今はもう無いですよね。別の意味で怪しいお店は増えたかもしれませんが。
4Gamer:
コピーソフトを売っている外国人もいなくなりましたね。
にゃるら氏:
そういうのが無くなると寂しいような気も,まあ当然だろうという気もします。
すごく印象に残っているのが,客引きにつかまってしまい,全然行きたくなかったけど3000円を払って耳かき屋さんに入ったんですよ。そしたら,お姉さんに「ぶっちゃけ秋葉原より中野の方がすごいよ」って言われて。それで中野ブロードウェイへ行くようになって,僕の求めていたオタクは中野にあったと気付いたんです。それで,今は中野に住んでいます。
4Gamer:
中野は懐古趣味みたいなところが多いですが,秋葉原はデジタル機器とかゲームとかが最新のものが中心で,そういう傾向の違いがありますよね。
にゃるら氏:
その最先端も,もはや情報はネットで拾えるし,グッズも通販で買える今,「秋葉原がオタクの何を担うのか」というのは難しい話だと思います。今のところは,過去のオタク街であることを引きずっていたり,コンカフェがあったりしますけど,ここからどのように新しくなっていけるのだろうかと。なっていかないかもしれないですし。
中野も,まだ5,6年前くらいまでは違法なものを売っている怪しいお店がブロードウェイにあったんですが,それも無くなりましたし。無くなったからこそ言えますけど,放送禁止になった特撮の映像を集めたDVDなんかを売っている人がいて,「こいつこそ中野だな」と思ったりしていました。
4Gamer:
そういう時代の変遷を考えると,秋葉原のコンカフェが無くなったら,それはそれで後に郷愁を覚えるんだろうかと思ったりもします。
にゃるら氏:
誰でも可愛く自撮りしてSNSに投稿できる時代なので,「若さで稼ごう」という風潮が生まれるのは当然の帰結ですから,コンカフェやガールズバーの文化はしばらく根付くと思いますけど,先のことは分からないですからね。このまま進化しなければ美少女ゲームも廃れていくでしょうから,秋葉原自体も文化的には衰退していくと思います。
そうなると女性向けのコンテンツが強くなってくるので,池袋が“オタクの街”として台頭してくるでしょう。上海もそうだったんですけど,あそこは「あんさんぶるスターズ」のグッズを取り扱っているお店が人気になって,女性のオタクが集まるようになったことで全体がオタク向けに発展したビルがあったりするんです。
4Gamer:
近年の新大久保が「K-POPの街」として発展したような感じですね。
にゃるら氏:
古き良きリアルでの交流文化があると,そうなるんですよ。池袋ではコスプレのお祭りがあったり,ガシャポンの景品をその場で交換している人たちがいたりしますから,いずれオタク文化の中心が移り変わると思います。
4Gamer:
秋葉原がオタク文化の中心でなくなっても,個人的には千石電商や秋月電子などがある限りは聖地なんですけどね。
にゃるら氏:
1月に「ニディガ展2」をアキバCOギャラリーでやるんですが,派手なものにしたくて電飾を探したらいろいろ見つかって,そういう意味では「やっぱりこの街はすごいな」と思いました。でも,それも土地を持っているおじいちゃんが半ば趣味でやっていたりするので,そういう人たちが去ったりしたら,本当の秋葉原の意義も消えちゃう気もします。
4Gamer:
先日も“ネジの西川”(西川電子部品)が廃業して千石電商が販売を引き継ぐという話があったばかりです。
にゃるら氏:
そういうラジオ的な秋葉原の良さすら無くなってしまったとき,秋葉原がどうしていくのかは難しい問題だと思います。
4Gamer:
ネタ的な話ですが,もし16bitALのようにタイムリープできるとしたら,行きたい時代や,やってみたいことなどはありますか。
にゃるら氏:
1990年代前半に行って,エルフとアリスソフトのユーザー対立を体感したり,当時のオタクたちがどのように喜んでたのかを見たりしたいですね。YU-NOや「鬼畜王ランス」という,それらの頂点的な作品がほぼ同時に出てきたことは,どれだけ興奮するものだったのか感じてみたいんです。
当時の雑誌なんて,表紙に両社の名前が並べて書いてあるくらいですよ。その時代が本当に羨ましいし,さらにToHeartが出てくるという流れを体験したら,一生忘れられないだろうと思います。他にも「同級生2」や「きゃんきゃんバニープルミエール2」といった,「地獄SEEK」みたいなゲームが好きな人には軟派に見えていたんじゃないかと思う作品も出てきたりして。
秋葉原駅で皆がマルチを踏んだり踏めなかったりしている様子とか,実際に見てみたかったですね。当時は5歳で,全然知らなかったですから。
今の美少女ゲーム市場でやるべきことは?
4Gamer:
同級生2は軟派というか王道という感じでしたね。ToHeartは最初,困惑しましたけど。
にゃるら氏:
「雫」や「痕」の次だから,さらにヤバいことが起こるんじゃないかと思っていたら,普通に可愛い恋愛ものだったわけですからね。
4Gamer:
それもあるし,あの世界観でロボットがいて,魔法使いがいて……っていう,そんな世界観が許されるんだっていうことが不思議だったんですよ。本来ならメイドロボで1つの話になるわけで。
にゃるら氏:
たぶん冬目 景さんの短編にインスパイアされているんでしょうけど,なぜかメイドロボがいて,図書室に充電スペースがあって,さらにミニゲームもあったりして,「夢にあふれた学生生活で楽しませてやる!」っていう姿勢がうれしいですよね。後世にすごい影響を与えたゲームだと思います。
4Gamer:
“学園もの”にそういったキャパシティを見出したのは偉大でした。ただ,今となっては「そこで何をやるか」も大概に擦り尽くされているわけで。
にゃるら氏:
「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」(iOS / Android。以下,ブルアカ)でもプレイヤーは生徒でなく“先生”ですし,新しいジュブナイルを描くのは難しいんじゃないかと思います。でも,美少女ゲームからは話が逸れますけど「ゆめにっき」系のツクールゲームは今でも人気がありますから,ジャンルに対しての一定の受容は変わらずあると思います。それを好きな人が生じた以上は,時代の流れとかも関係なく。
4Gamer:
そういった現在において,美少女ゲームがやれることは何だと思いますか。
にゃるら氏:
美少女というか,人間と向き合って関係を深めていくという喜びというのを,もう一度ユーザーに体験してもらうというのは,どこかで必要だと思っています。古き良きものとしての泣きゲーは残るべきですが,クリックしただけで女の子と付き合えちゃうようなゲームから脱却するための試行錯誤はしなければならないですし,海外の開発者によってSteam上で起こっている動きでもあるので。それをちゃんとやっていけば,自ずと何かの答は見えてくるんじゃないでしょうか。
今,一番元気のある美少女ゲーム文化の上にあるものってブルアカだと思いますが,それを作っている人たちも,いつかは当然“ブルアカの次”を作らなきゃいけなくなるし,そのためにブルアカを進化させなければならない。彼らが美少女ゲームの新しい形を見つけるかもしれないですね。
4Gamer:
次世代が生まれるのは日本ではないかもしれないと。
にゃるら氏:
海の向こうの人たちって,日本の文化が少し遅れて入ってくるじゃないですか。ということは,今は彼らに全盛期が来ていて,王道をやれる情熱があるわけですよ。その熱気は.上海に行って強く感じました。
でも,日本は捻ったパターンもほとんど出尽くして,良くも悪くも美少女という概念に飽きているんじゃないかと。逆に言えば,萌え文化という部分は海外の人たちが引き継いでくれるので,日本人が戦うなら美少女文化の先を示せばいいのだと思います。
ニディガも美少女とインターネット文化との合体っていうところが,たぶん「日本人がまた新しいものを作ったぞ」と中国や韓国で流行したのでしょうから,向こうとしても日本人がもう一歩先へ行くことに期待しているはずなんですよ。
4Gamer:
直球勝負が好まれる中国と変化球が好まれる韓国に対し,ニディガは両方ともカバーできる要素があったとも思うんですよね。そういう国ごとの差で言うと,16bitALの「時代を背景にして美少女を描く」というのは,なかなか日本らしい味のある,うまいやり方だと感じました。
にゃるら氏:
そういう意味でも,美少女文化を語るというのは誰かがちゃんとやるべきだと思います。ただ,これが今の若者たちにどれだけ重要性を感じてもらえるかというのは,正直なところ難しいですけど。16bitというより,美少女ゲーム文化自体の課題でしょう。
4Gamer:
16bitALの終盤で描かれているメーカーが海外に行っちゃった世界って,あれはあれで割と面白いんじゃないかと思うんですよ。人間がCI(サイバネティックス・インテリジェンス)の部品にされたり,ディストピアみたいになっている側面もありますけど,あのアメリカ版「Fate/Grand Order」(iOS / Android)はちょっとやってみたいですし。
にゃるら氏:
コノハちゃんはビックリしちゃいましたけど,面白いかもしれないですよね。守くんやモブの人たちも「良いことだ」と言っていますし。ただ,現実でも秋葉原は海外製ゲームの看板だらけで,近いことは起こっているわけですよ。10年前のオタクにとっては,現代はほぼ異世界だと思います。
4Gamer:
ただ,北米などはストレートなポルノとしてのニーズが強いようなので,Nutakuなどから文学的な要素を背負ったコンテンツが生じる気はあまりしないですね。逆に言えば,日本にとっても開拓の余地が海外にあるんじゃないかと。
にゃるら氏:
そうですね。国によっては富裕層でなければオタクになれないこともありますし,そういう土地だと消費者のブームはあっても,生み出す側が出てくるのは遅くなるかもしれません。
中国では人口増加や社会的な締め付けから「三体」が生まれたり,韓国から日本では作りにくいタイプのパニック系映画が出てきたり,そういう流れは美少女ゲームでも来ているので,それを僕らは受け止めて世界にお返ししていくべきでしょう。
お返しできなかったら,その間に向こうばかりがどんどん発展していって,ほかの国も市場がさらに強くなっていくかもしれない。まあ,僕は楽しければどの国のコンテンツでも良いんですけど(笑)。
4Gamer:
最後に,16bitALで美少女ゲームに興味を持った人へのメッセージをお願いします。
にゃるら氏:
僕が遊ぶようになった頃,すでにセガサターンや美少女ゲームは古いものでしたが,古いから面白くないわけではないし,そこから学べるものは無限にあるので,16bitALを観てピンと来たものがあれば,実際に遊んでみてほしいですね。古いゲームでもWindows 10向けの移植があったりしますから,どんどん掘って体験して感動するのが,オタクの本懐として楽しいですから。
僕自身,雫と大槻ケンヂさんの「新興宗教オモイデ教」の関連性を知って盛り上がったりして,そういう体験があったからこそニディガにいろんなオマージュを盛り込みました。気になったゲームがあったら買って遊べば,ただそれだけで良いと思います。
4Gamer:
逆に,後の世代が大人になったときニディガをプレイしてほしいと思いますか?
にゃるら氏:
いえ,僕は「ニディガのブームなんて早く過ぎ去って,新しい何かに超てんちゃんを倒してほしい」と思っています。50年後になったら,完全に忘れられてほしいくらいです。ごく一部の偏屈者だけが好むような「分かる人だけが分かる」ものになればと思って作りましたから。
今はブームの真っ最中で,表面上で好かれたり嫌われたりしていると思うので,しばらくして落ち着いた頃に,時代性や構造から見た“正しい評価”をされるだろうと思っています。今でもSteamのレビュー欄はそのように機能していると思いますね。プレイした人間の正当な評価が集まる,オタク濃度の高いコミュニティですから。
それに,ブームが落ち着いてくれないと仕事が多すぎて眠れないので,僕としては早くそうなってほしいです(笑)。
こうして偉そうに語っている様子にブチギレて,僕みたいなカスをさっさと打ちのめして欲しいし,そうして文化が回って新しい作品ができあがるなら大歓迎です。なので,僕が現代の美少女ゲームの停滞に怒ったように,次は僕みたいな調子に乗った新参が売れてしまったことに激怒し,分析し,ゲームとは何かを考えて,手を動かしてもらえたらと願っています。
なお,DLsiteで「菅野ひろゆき メモリアルパック」が93%オフの500円(税込)となっているなど,年末年始は美少女ゲームの大規模セールが各種ダウンロードストアで実施されている。16bitALに登場したタイトルに興味を持った18歳以上の人は,調べてみると新しい出会いが見つかるかもしれない。
「16bitセンセーション ANOTHER LAYER」公式サイト
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