プレイレポート
[プレイレポート]「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」は,物語にもゲームシステムにも“変化と成長”が感じられる,高い完成度の一作
4Gamerでは先日,序盤数時間のプレイを基にしたファーストインプレッションを掲載したが,本稿は30時間ほどプレイしたうえでまとめている。
2018年発売の前作「ゴッド・オブ・ウォー」は,美しいグラフィックスによる激しいアクションが,ロード画面なしの“ワンカット”で展開されるという,まさに“プレイできる映画”として高い評価を得た。その続編となる本作に期待しているプレイヤーは多いだろう。
本作では,クレイトスとその息子アトレウスの物語も新たな展開を迎える。本稿ではネタバレを最小限度に留めているが,それでも前作のラストや本作の展開について言及する必要があるため,その点を了承のうえ読み進めてほしい。
なお,記事中のスクリーンショットは,PlayStation 5版の「画質優先」モードでのプレイを撮影したものだ。
登場人物それぞれが過ちと向き合い,成長する物語
前述したように,本作では「ゴッド・オブ・ウォー」から続く物語が描かれる。前作のあらすじはタイトルから確認できるが,駆け足の感は否めないので,本作からプレイを始めるのであれば,公式サイトなどの情報で前作の概要やキャラクタープロフィールを確認しておくといいだろう。本稿でも,前作の物語について軽く紹介しておきたい。
主人公のクレイトスは,かつてギリシャの神々による計略で自分の妻子を殺すことになり,怒りのままに復讐を果たした“神殺しの男”であり,自身も神の血を引いている。
復讐を終えた彼は,北欧に流れ着いて妻のフェイと結ばれ,アトレウスという息子も生まれた。しかし新しい家族との安らぎも長くは続かず,フェイは「遺灰を九界一高い山からまいて欲しい」という遺言を残して死んでしまう。
クレイトスは,母の喪失に打ちひしがれるアトレウスとともに,その遺言を果たすための旅に出る。この旅路を描いたのが,前作「ゴッド・オブ・ウォー」だ。
自らの呪われた過去ゆえか,クレイトスは自身が神の血を引いていることを明かそうとしないなど,アトレウスと距離を置き,旅の途中で親子は何度も仲違いする。しかし,そうする中で2人に絆が生まれ,賢者ミーミルの助けもあり,最終目的地である九界一高い山(ヨトゥンへイム)にたどり着いた。
そこにあったのは,未来を予言する壁画だった。近い将来,世界を滅ぼす戦「ラグナロク」が起こる。そこでクレイトスは命を落とし,アトレウスはロキ(北欧神話で神々を滅ぼすため戦った神)になるという。フェイの遺言は,2人にこの壁画を見せるためにあったのだ。
そして「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」では,北欧の主神,オーディンの魔手が2人に迫る。オーディンは世界を支配する野望を持ち,魔力と武力,そして巧みな話術を持っている。オーディンはラグナロクで自分の死が予言されていることから,これを回避する手段を探しており,ロキ(アトレウス)にアプローチしてくるのだ。
また,クレイトスは先の旅路で行きがかり上,オーディンの息子であるバルドルを殺しており,その母にして前ヴァルキュリアの女王,フレイヤから命を狙われている。クレイトスは同じくオーディンの息子である雷神トールからも狙われているが,これも前作でトールの息子,マグニとモージを殺したためだ。
つまりクレイトスは,かつて自身が復讐に燃えた「子を殺された恨み」をぶつけられていることになる。
以上が「ゴッド・オブ・ウォー」のラスト及び「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」最序盤の状況だ。北欧神話の“原作”に書かれている神々(アース神族)と巨人(ヴァン神族)の確執に,前作でのクレイトス親子の行いが加わり,関係の糸はもつれにもつれている。
トールやフレイヤから命を狙われているうえに,ラグナロクの到来も近いという,絶体絶命のピンチから,クレイトス親子とミーミルはラグナロクと予言の成就を防ぐべく,再び旅に出る。
本作の物語で見逃せないテーマの1つが“変化と成長”だろう。クレイトス,アトレウス,ミーミルの3人が旅の中で自身の過去と向き合う中で,各々の人間性がより深彫りされていく。
かつて神々を殺し,フレイヤを助けるためとはいえ,その息子バルドルを殺したクレイトス。自分の身を守ろうとして,父とともにマグニとモージを殺したアトレウス。オーディンとドワーフの仲を取り持って共存共栄させるはずが,結果的にドワーフを隷属させることになってしまったミーミル。3人は自分の正義や良心に従った行いが他人を苦しめてしまい,その因果が自分に巡ってきていることを痛感する。
こうした出来事は現実でも珍しいことではなく,プレイヤーの人生経験が長いほど,思い当たるところが増えるはず。そういう意味で,大人の物語と言えるだろう。
前作と同様に,旅の中でキャラクターどうしが語り合ったり,内心を吐露するシーンがあるので,過去の過ちから学び,変化と成長を遂げる3人の姿を見ることで,思い入れが深まっていくはずだ。
そして,クレイトスとアトレウスの親子関係も変化と成長を見せる。互いを思う親子のすれ違いが,プレイヤーの感情移入を誘うのだ。
前作から年を経てアトレウスも成長し,自分の運命と世界のありようについてより深く考えるようになっている。その様は,子どもというよりは小さな大人。前作において自分が神の血を引いていることを知り,天狗になっていた頃が懐かしく感じられる。父に内緒で探索に出かけて戻ってきたところを見つかったり,家出のような行動を取ったりもする。一人の人間として自立しつつあるのだ。
偉大な親に認められるべく,空回りも多い。汚い言葉遣いや,軽挙妄動を咎められることもある。前作に引き続き,親子で意見が合わないことも多く,口を開くとケンカになる。しかし心の底には常に父への愛があるのだ。
クレイトスの側もそれは同じ。積極的な行動を主張するアトレウスに忍耐と自重を説くが,これも彼を案じてのこと。かつて距離を置いていたのも,戦士として育てなかったのも,自分と同じ怒りと殺戮の道を辿らせないようにするためだ。
しかしアトレウスは分かってくれない。「安全な場所でラグナロクに備えて訓練すべき」と説いても聞き入れない。何か希望のようなものを見つけると,すぐに飛びついて行動に移してしまう。
つまりクレイトスとアトレウスは互いに「お前のことを思っているのに,なぜ意見を聞き入れてくれないんだ」とすれ違っている状態。舞台は神話世界ながらも,扱われるのは普遍的なテーマであり,神話やファンタジーに特別な興味がなくとも物語に引き込まれることだろう。
特にクレイトスに関しては,悩める父という側面が強調されており,ミーミルと2人きりの時などは,前作では考えられなかったほど素直に内心を吐露することもある。新シリーズにおける父としてのクレイトスが,さらに好きになれることだろう。
そして,ストーリーテリングも実に巧みだ。物語の要所要所に「この先,どうなるんだろう?」と引き込むポイントが設けられており,ついついプレイが長引いてしまう。実写映画を思わせるフォトリアルなグラフィックスを用いた“ワンカット”で物語が展開するのも前作のまま(ただし,ゲームを中断してから再開する際にはロード画面が存在する)。演技の間がじっくり取られているのも映画的で,メッセージの早送り機能もない。
これらの要素によって,本作をプレイしていると海外ドラマシリーズを視聴しているような気分になる。メインストーリーはもちろんのこと,サブクエストでもキャラクターが深彫りされていくため,見逃すことができない。強大な敵に立ち向かうために集まっていく仲間たち,ファンタジー世界の驚異,成長していくアトレウスの姿,普段は寡黙だが戦いでは大暴れするクレイトスの活躍,迫る世界の終わりとそこに秘められた謎……と王道の楽しさがある。
敵対する北欧神話の神々が単に記号的な“敵役”に留まらない,人間臭い存在として描かれていることも,見逃せないポイントだ。
中でもオーディンは印象的で,本格的な登場は本作が初めてとは思えないほどにキャラクターが立っている。世界の支配を企み,ミーミルやフレイヤといった多くの者たちを傷つけてきたが,引き込まれるような魅力を持つ“人たらし”だ。危険な男であることは分かっているが,飾らぬ態度と有能な者を評価する度量を持つ大物としても描かれており,甘言にも騙されたくなってくる。
トールも同様だ。クレイトスと互角の力を持っており,戦いを求めるバトルマニアだが,激しさだけでなく,クレイトスたちに殺された息子のマグニやモージについて「彼らの外道ぶりは分かっているが,父としては愛していた」と語るウェットな側面も持っており,その哀愁が感情移入を呼ぶ。
このように,北欧の神々も重厚なドラマを持っており,彼らがどのような運命を辿るかも気になってしまう。また,北欧神話好きの人なら,“原作”に登場する神々や魔獣,アイテムに土地がどのように翻案されているかも見逃せないはず。プレイする前にある程度北欧神話のことを調べるのもいいだろう。
バトルのキーワードは“バリエーション”
リブート前から激しいアクションがウリとなっている「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズだけに,本作のバトルもやりがいがある。プレイヤーが操作するクレイトスと,AI制御のアトレウスが協力しての戦いが基本となっており,多数の敵を相手にしての戦いを楽しめるのだ。
アトレウスが単独行動する際は彼を直接操作し,弓矢の射撃,ルーン召喚,動物への変身などで戦う。矢を敵に撃ち込むと炸裂したり,敵が持つ能力を封じたりといった特殊な効果を発揮するので,要所で使っていきたい。
弓矢というと遠距離攻撃オンリーのイメージがあるが,アトレウスは打撃でも戦える。弓を掴んで殴りつける通常攻撃はスタン値がそこそこあり,コンビネーションの攻撃回数も多いため,敵のただ中に突っ込んでの大暴れも可能。クレイトスと比べて,射撃の割合が少し高いキャラクターという印象だ。
ルーン召喚は,クレイトスの「ルーンアタック」に相当する,クールダウン式の特殊攻撃だ。魔法の動物を呼び出す技で,大鹿に乗って体当たりしたり,ハヤブサの群れに敵を襲わせたりできる。輝く動物の姿が美しく,本作のビジュアル的な面白さが表現された技ともいえるだろう。
また,アトレウスもクレイトスと同様に,敵を攻撃したりアイテムを拾うことで「レイジ(怒り)」ゲージを溜めた後,[L3]+[R3]で「スパルタン・レイジ」を発動し,一時的にパワーアップできる。素手で格闘攻撃を繰り出す父に対し,アトレウスは“ロキ”らしく変身能力を発動し,狼になって敵に食いつく恐ろしい攻撃を繰り出せるのだ。
もちろん,スタンさせた相手の近くで[R3]を押せば,クレイトス同様に掴み攻撃が発動。敵の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばすなど,父譲りの激しいフィニッシュを決める。成長の過程で父に反抗しているアトレウスだが,やはりクレイトスの子。鹿も満足に狩れなかった頃を知っている前作のプレイヤーからすると,感慨深い。
さまざまなキャラクターたちとともに戦えるのも,本作におけるバトルの特徴だ。これまでショップで装備品を鍛えてくれたブロックとシンドリの兄弟や,前作をプレイしていたならかなり驚くキャラクターが戦闘に参加することがある。
彼らは爆弾を放る,弓を射る,魔法の動物を召喚する,粉塵が広がる「ルーンの石」を投げるといった個性的な攻撃方法を持っており,大技の指示を出すこともできるので,バトルがよりバラエティ豊かなものになっている。誰が仲間になるのか,ゲームを進めるのがより楽しみになってくるのだ。
クレイトスも前作からパワーアップを遂げている。旧シリーズのメイン武器であり,前作では忌まわしい過去の象徴として封印していた炎の双剣「ブレイズ・オブ・カオス」と,妻の形見ともいえる氷の大斧「リヴァイアサン」,リヴァイアサンを投擲した後の「素手」による攻撃を駆使して戦う。
スキルツリーも一新されており,リヴァイアサンで凍らせた後にブレイズ・オブ・カオスで燃やす,あるいはその逆で威力が上がるようなスキルも存在し,これらの使い方が重要になっている。
クレイトスのスキルは,一定回数使うと「修練完了」となり,「ルーン」をはめ込んでのカスタマイズが可能となる。ルーンには攻撃力アップや,スキル使用中ののけぞり耐性上昇など,複数タイプが存在し,いつでも付け替えられる。クレイトスをより自分好みにできるので,スキルを使うモチベーションになるだろう。
もちろん敵をスタンさせての過激なフィニッシュは今回も使用可能で,首を飛ばす,胴を真っ二つにする,口を引き裂く……といった具合。アトレウスに忍耐と自重を説くクレイトスだが,内なる炎がまだまだ燃え盛っていることが伝わってくる。
多数の敵に囲まれた状態で,八面六臂の立ち回りを求められるシビアさも健在だ。側面や後方から狙われているときは,仲間が声で警告してくれるので,それに反応して回避やガード,パリィを決められれば,まるで映画のワンシーンのようだ。
本作では盾にも複数の種類が存在していて,防御力の高いものやパリィに適したものなど,自分の好みや状況に合ったものを選んで使えるのが面白い。敵はガード不能やガードブレイクなど,さまざまな攻撃を繰り出してきて,それぞれに最良の対応は異なる。攻撃の予兆である光のリングの色を判断し,通常攻撃は防ぎ,ガード不能攻撃は回避し,ガードブレイクは発動前に盾のスキルで妨害するといった瞬時の対応をしなければならない。
敵のコンビネーションには,通常攻撃の後にガード不能攻撃を出してくるといったものもあり,パターンの学習と反射神経の両方を求められるシビアさがたまらない。
フィールドは高低差があるうえに,凶器にできるオブジェクトも存在するので,高所から飛び降りつつ一撃を加え,すぐさま近くにある岩を敵にぶつけるといった,バリエーション豊かな戦い方が可能だ。
「スパルタン・レイジ」にも,鉄拳制裁するお馴染みの「逆鱗」に加えて,レイジを消費して体力回復する「武勇」などのバリエーションが登場。
ボスや中ボスも種類が増えており,戦いにアクセントを加えてくれているのも面白いところ。本作のバトルにおけるキーワードは“バリエーション”であると感じられる。バトル面においても,前作を引き継ぎつつ,“変化と成長”が加えられているわけだ。
物語とバトル以外の要素にも触れておこう。
本作では探索要素もよりボリュームアップしており,広大な九界のあちこちにサブクエストやパズルが存在している。
パズルは前作の方向性を踏襲しており,じっくりと周囲を観察して仕掛けを動かすことにより,新たなルートが開いたり,報酬が手に入ったりする。リヴァイアサンで凍らせる,ブレイズ・オブ・カオスで燃やすという基本パターンに加え,アトレウスの新たな力「刻印の矢」が登場。地形に打ち込むと出現する魔法陣が炎や氷のパワーを強めるというもので,ブレイズ・オブ・カオスが届かない離れた場所へ,複数の魔法陣を導火線のようにつないで着火させるといったことができる。やれることが増えた分だけ,パズルを解いた時の爽快感も上がった印象だ。
ゲームシステム以外の部分で触れておきたいのが,アクセシビリティの充実だ。難度設定や色覚異常へのサポート,アイテム自動取得はもちろんのこと,「[R3]を押し込むと,カメラが自動的に進むべき方向へ向く」「パズルや崖など,アクセスできるものに近づくと音で知らせてくれる」「QTEでスティックを動かす場合,英語ボイスでその方向を教えてくれる」といった,細かいオプションが用意されている。これらはデフォルト設定だとOFFだが,いつでも切り替えが可能だ。
映画的なグラフィックスと重厚なドラマ,そしてスリリングなバトル,幅広い層のプレイヤーが楽しめるようにするアクセシビリティのオプション。あらゆる面に力が入っており,完成度の高い作品になっている。
2018年のリブートから4年経っての続編だが,本作をプレイすれば時間がかかったのも納得できるはずだ。単にアートスタイルがフォトリアルなだけでなく「映画のようなゲームを作る」という方向性がブレていない感があり,そうした意味では超大作にして突き抜けたゲームだともいえる。重厚な物語と手応えのあるアクションを両立させた本作は,ゲーマーだけでなく,動画配信サービスで世界中の傑作ドラマを楽しむような人にもオススメだろう。
「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」公式サイト
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(C)2022 Sony Interactive Entertainment LLC. God of War is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.
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