インタビュー
「FINAL FANTASY XVI」プロデューサー・吉田直樹氏にインタビュー。FFってスゲー! と思ってもらえる新作を目指す
今回4Gamerでは,FFXVIのプロデューサーを務める吉田直樹氏に,本作を手がけることになった経緯や開発の方針,そして気になるバトルなどについて語ってもらった。
多感な若い世代にも「FFってスゲー!」と思ってもらえるように
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,吉田さんは現在もFFXIVのプロデューサー兼ディレクターを務めていますよね。その吉田さんが,並行してFFXVIのプロデューサーを担当することになった経緯を教えてください。
もう記憶が曖昧になりつつありますが,2014年か2015年に,松田社長(スクウェア・エニックス 代表取締役社長 松田洋祐氏)から,第三開発事業本部で次のFFナンバリングを作れないかと打診されたのが最初です。当時の第一開発事業本部は「FINAL FANTASY VII REMAKE」を全力で開発中でもあり,並行してもう1本作るのは,いくらなんでも無理だろうと。
4Gamer:
FFVII REMAKEはリメイクとはいえ大規模なタイトルですから,並行してとなると難しいというのは分かります。しかし,第三開発事業本部のほうも,FFXIVを抱えているのでは……。
吉田氏:
はい。ただ,そのFFXIVの実績を踏まえて我々に任せたいという判断もあったと感じましたし,そのように評価してもらえること自体は光栄ですから,ひとまず「検討させてください」と。
しかし,当時はもうFFXIVの最初の拡張パッケージである「蒼天のイシュガルド」にかかりきりになっており,一旦考えるのを止め,2015年の6月,「蒼天のイシュガルド」をリリースした後ぐらいに,改めて「さて,どうしようか……」と考え始めました。FFXIVはこれからもスクウェア・エニックスの主軸として成長させていかなければならないですし,既にFFXIVでディレクターとプロデューサーを兼任している以上,僕自身がFFXVIのディレクターを務めるわけにはいきません。さすがに双方のお客様にも,開発チームにも失礼になります。
4Gamer:
とくにFFXIVプレイヤーからすれば「いや,FFXIVに注力してくれよ」という話になってしまいますよね。
吉田氏:
そうなると,第三開発事業本部の中で,ほかにディレクターに適任な人間を探さないといけないのですが……FFのナンバリングのディレクターにかかるプレッシャーって,半端じゃないんです(苦笑)。
4Gamer:
吉田さんがそうおっしゃるのは,説得力がありすぎます(笑)。
吉田氏:
ファンの皆さんからの期待はもちろんですが,開発チーム内部からの圧もすごいんです。自分がそうだ,と言いたいわけではないのですが,相当な胆力のある人物でないと,担当しきれません。
そうやって考えたときに,僕から指名できるのは,髙井(FFXVI ディレクター 髙井 浩氏)だけかなと。彼なら古くからFFを知り,作り,何よりも開発チームからの人望も厚い。それで髙井に,「ディレクターを引き受けてくれるなら,僕がプロデューサーとして,どういうFFにして,どう売っていくべきか,誰に届けるべきかを一緒に考える」という話をしたところ,「そこまで言ってくれるなら」と快諾してもらえたんです。
そこで初めて,第三開発事業本部でFFXVIの開発にチャレンジすることを会社に伝えました。一方で,FFXIVを軌道に乗せる必要もありましたから,当面,第三開発事業本部の総力はFFXIVに注ぐことになります。そのためFFXVIは,企画や試作がダメな場合に引き返せるようにする必要もあり,シナリオ先行で,少人数でしばらく進み,きちんと時間をかけて作っていくという話も会社にしました。そこで了承を得て,FFXVIの初期開発メンバーは,僕も含めて4人でスタートしています。
4Gamer:
初期開発メンバーの内訳は,どんな感じだったのでしょうか。
吉田氏:
僕がプロデューサーで,髙井がディレクター,前廣(前廣和豊氏)がシナリオを書きつつリードゲームデザインをやって,権代(権代光俊氏)が全体のシステムやバトルを見るという体制でした。僕以外の3人も1年くらいはFFXIVの兼任を続け,それから少しずつFFXIVの中で引継ぎを進め,2017年に「紅蓮のリベレーター」をリリースした頃には,完全に大規模なFFXIVと少人数のFFXVIチームが,それぞれ独立できるようになりました。
会社としてこのタイトルの名前が出てから数えると,期間はかなり長くなりますが,本当に少人数で少しずつ作ってきたというイメージですね。
4Gamer:
FFのナンバリング新作のメンバーが4人で始まるというのは,かなり衝撃的なのですが。
吉田氏:
少人数で始めるのは,僕がゲームを作るときのポリシーなんです。船頭多くして船山に登る,と言いますか,プロジェクトにアサインされると,アサインされた人はがんばってしまうんです。作るもののゴールや内容がすっかり固まっており,何を開発するのかが明確であれば,何の問題もありません。ですが,開発初期というのは,何もかも決まっておらず,曖昧な状態になります。そんな状態で人が増えると,悪いことではないのですが,とくに指示がなくとも,自分なりに何かを作り始めてしまう。上長も「とにかく人がいるから何かさせないと」と焦る。そして何か作ってしまうと,それに愛着が湧いて固執するようにもなる。そうなると切り捨てることができなくなり,全部を丸く収めようとして中途半端なものになっていきます。
さらには,それらをすべて作り上げようとして,人材が足りなくなる。それで人を増やすと,また同じことが繰り返されて,中途半端なものがどんどん大きくなっていくんです。
4Gamer:
それぞれのがんばりで,全体がブレてしまうわけですか。
吉田氏:
そうですね,決して悪意があってそうなるわけではないのですが,開発チームの真面目さが裏目に出てしまう。人も、努力も、お金も無駄になることが多いのです。僕はそれがすごく嫌いなので,最初にできるだけ少人数で何を作るかを決めてほしい,とお願いします。RPGであれば,コンセプトが決まり,基礎ゲームデザインの方向性が決まり,設定や世界観を詰め,シナリオが完成するまで大人数は要らないでしょう。バトルも,方向性が固まるまでは,テスト製作できる人数がいればよく,大人数にはならないと。
4Gamer:
では,作り方としては,最初にコアメンバーで決めるところをきっちり決めているということですよね。FFXVIにおいて「どういうFFで,誰をターゲットにするのか」といった部分は,どうやって決めていったのでしょうか。
吉田氏:
初期段階では,あまり役割にこだわらず,「どんなFFが良いかな」と、髙井と話し合うというところから出発しています。僕自身もFFシリーズのファンですし,これまでFFXIVの担当として世界中のファンやメディアの皆さんと直接ふれあって,FFシリーズに抱いているプラスの要素だけでなくマイナスの要素──「こういうところが足りない」「こういうところがダメ」といったことを屈託なく聞かせていただきました。
ただ,こうしてヒヤリングした内容には,どうしても僕の主観も入ってしまいます。そこで,改めてワールドワイドで「FFというフランチャイズは,今のゲーマーにどう思われているのか」という調査を,けっこうなコストをかけて実施したんです。それこそ,「FFを遊んだことがない」「FFをイメージでしか知らない」という人達の声まで吸い上げてもらいました。
4Gamer:
FFの新作で意見の吸い上げから入るというのは,ちょっと意外ですね。FFって,積極的にチャレンジするタイトルという印象があるんです。全力でやりたいことをやっている感というか。
吉田氏:
実際,僕がFFXIVを担当することになったとき,先輩である北瀬さん(北瀬佳範氏)に「FFは,そのときどきの担当者が最高だと思って作ったもの。おもねったり引き継いだりは誰もしてないから,そこは縛られないでほしい」と言ってもらったことがあります。
でも僕は,だからこそ人によって好きなFFのナンバリングが違うという事態にもなっていると思ったのです。決して悪いことではないのですが,30年以上も続いてきたからこそ,一旦しっかり現状認識をしておきたいと考えました。
4Gamer:
確かに,FFは「シリーズのここが好き」というより「このタイトルが好き」で語られるほうが多い気がしますね。
吉田氏:
その評価自体は,そのときどきのディレクターやスタッフが全力で尖ったものを作ってきた結果ですから,当然いい側面もあります。しかし同時に,ファンでいてくださる皆さんが,「FFに求めるもの」がバラバラになっているという側面もあるんです。だから「自由にやっていい」と言ってもらったにも関わらず,FFXIVのときは「これまで誰もやって来なかった,FFのテーマパークにする。全世代のFFファンが集まれる場所にする」をコンセプトに決めました。もちろん,FFXIVがMMORPGというジャンルのゲームだったから,というのも理由として大きいです。
吉田氏:
そしてFFXVIは,オンラインゲームではないスタンドアロンのFFとして作ることになったわけですが,「これは大変だな」と。人の意見を聞きまくって作ったゲームが,良いものになるとはまったく思いませんが,そうは言っても35年の歴史を持つシリーズですから,求められるもので可能な部分は,できればお応えしていきたい。
さらには,FFXVIの後にもシリーズは続いていきます。それらを踏まえて,今回は「すべてのリクエストを一本のゲームだけに集約することはできない」というところから考え始めました。僕はFFXVIではディレクターではないので,ディレクターとしての決断と苦労は髙井が背負うことになります。いろいろなもので悩むだろうから,僕の方で,「今回はやらなくて良いと思うもの」を最初に決めたわけです。
4Gamer:
「これがやりたい!」ではなく「やらない」から入ったとなると,FFの尖った全力感とは,逆のイメージですね。
吉田氏:
でも,「僕たちのやりたい」と,「期待されるもの」が,イコールである保証もないのです。期待されるものにも,極端に言えば,「FFはドットでいいんだよ!」と「最先端であってほしい!」は,同時に叶えるのが不可能です。作りたい,と思うものを作るためにも,シリーズものであり,たくさんの方に応援していただいているフランチャイズだからこそ,迷いは消す必要がある,と考えました。
4Gamer:
なるほど。
吉田氏:
ひょっとしたらネガティブに捉えられてしまうかもしれませんが,僕らが今持っている実力──テクノロジーの限界やスタッフの力量などを計算しないまま理想を追いかけると,開発に10年15年と長期間かかってしまいます。
しかし,シリーズが長期化して,ナンバリングが出るまでの間が5年空くのも普通になってしまった現在は,若い世代の多くの人達が,多感な10代前半から半ばくらいの間に,一度もFFに触れていないという事態に陥っているんです。
4Gamer:
確かに,中学生や高校生の頃に発売されたFFの新作がそもそもなかった,なんて状態の若い子もいそうです。
吉田氏:
そういう人達にも,「FFってスゲー!」と思ってもらえないと,この先FFシリーズに開発費をかけられなくなってしまいます。日本だけ見ても,若い世代にとってゲームと言ったら,FFより「モンスターハンター」のほうが刺さっているというのは,悔しいですが事実でもあると思うのです。思春期に発売されていないので,仕方が無いのですが……。
またFFXIVやFFXVが人々にもたらした印象も,拭い去ることのできない歴史として認識されています。例えばFFXIVは立て直しに成功したと言っても,オンラインゲーム史に残る大炎上をしました。また,僕自身は挑戦した良いゲームだと捉えていますし,FFXVが好きでいてくださっている方も大勢いて,ずっと応援を続けてくれていますが,その一方でFFXVはDLCのない本編だけの状態だと尻切れ感があるという指摘も多い。これも新作を担当するのなら,事実と受け止めるしかないのです。
4Gamer:
シリーズものとなると,どうしてもそうした悪いイメージはネット上に残り続けてしまいますね。
吉田氏:
FFXVIはシリーズの最新作です。ご指摘を受けた部分については,「それとは違うFFもある」ということをキチンと示す必要があります。シリーズを続ける,その開発を引き受ける,というのは,そういった部分も受け止めないとダメなんだろうな,とも思います。
余談ですが,先日のトレイラーを公開したとき,僕はSNSをずっとチェックしていたのですが,トレイラーを観ていない方が,「FFXVI発表されたの? どうせFFXVと同じ路線だろ。買わねーよ」と投稿されていたのを見ました。
4Gamer:
それはさすがに……。
吉田氏:
「せめて観てから判断してくれよ……」と僕も思いましたが,しかし,そう捉えられているという事実は否定できません。ですので,シンプルに「FFスゲー」と思ってもらえるものにしたいなと。尖っていても構わないので,「とにかくスゲーな、開発チームはバカだな(笑)」と。
FFXVIでは,「いろんな世代に手に取ってもらいたい」というキーワードを掲げています。ずっと応援してくださっているファンの皆さんにも,FFを遊んだことのない若い世代のゲーマーにも「とにかく凄そうだから,一度触ってみよう」と思ってもらえるよう,ゲームを尖らせるためにも,開発チームが迷ってしまいそうな部分は,無理しなくて良い,という判断をしたのです。
4Gamer:
具体的にどんな判断を下したのでしょうか。FFのナンバリングでジャンルがアクションRPGなのは初だと思いますが,そのあたりですか?
吉田氏:
はい,今回はコマンドバトルとターンベースのバトルシステムを採用せず,完全なアクションRPGにしました。また,僕の中でFFと言えば,「奥の深いストーリー」だという思いが強くあります。初代FFを遊んだときに,「まるで映画のようなゲームだ!」と感動したのです。だからFFXVIは,「映画を自分の手で操作しているかのような,最高の興奮と物語をゲームとして届ける」がコンセプトになっています。そのため,開発チームが悩んでしまいそうなオープンワールドについても,「迷うくらいならしなくてよい」と決めました。
4Gamer:
それを最初に決めるのもけっこうな英断ですよね。FFXVで自由に旅をしたファンからすれば,次回作はもっとすごいのではと期待するじゃないですか。
吉田氏:
ディレクターの髙井も,開発チームも,僕自身もですが,「FFはスケールが大きくあってほしい,世界そのものの危機に立ち向かう物語であってほしい」と思っていて……。でもそれを,オープンワールドで作るのは物量的にもゲームデザイン的にも不可能だと考えました。時間があれば,とは思うのですが,さすがに開発に10年や15年かけるのは無いだろうと。
4Gamer:
オープンワールドは,いくら広大なフィールドと言っても,世界規模で自由に動けるわけではないですからね。いち地域ぐらいに限定されがちですし。
吉田氏:
もし「15年かけていい」と言われたら,オープンワールドに挑戦するかもしれませんが,それはそれで開発中に感性が古くなってしまいます。時代と合わなくなる,という可能性もあります。
ですから,第三開発事業本部の戦力とファンの皆さんの期待,FFに触れたことのない人への訴求を踏まえて,きちんとやることを明確にし,その代わりにやらないことも明確にして,開発を進めてきたのがFFXVIと言えるかもしれません。
多くの世代に刺さる,リアリティを追求したダークファンタジー
4Gamer:
トレイラーからは,これまでよりもダークな雰囲気を感じられますが,本作ではどういったストーリーが展開されるのでしょうか。
FFXVIでは,主人公・クライヴの生涯を少年期,青年期,壮年期という3つの時代に分けて追いかけていきます。どんな生い立ちで,どんな境遇に置かれていたかが描かれる少年期,何やかんやあって,なぜこうなったという青年期,すべてを背負って進んでいく壮年期という感じです。
4Gamer:
FFXVでも,歳を取ったノクトが出てきたのには驚きましたけど,より大きな変化になりそうですね。なぜそうした構造の物語にしたのでしょう?
吉田氏:
僕自身,49歳になるまでに現実のツラさを知って,「世の中は夢物語ばかりじゃない」というのが当たり前になりましたが,実は若い世代ほど早い段階で同じ状況に晒されています。僕が小学生だった頃は,学校から帰ってきたら野球やサッカーをしたり,公園で遊んだりで,塾に行ってる友達なんてほとんどいませんでした。そこにスケジュールなんて概念はまったくなかったんです。でも今は皆,常にいろんなものに追われていますから,すごく早く現実を知ってしまう機会が訪れます。
4Gamer:
今の若い世代は忙しそうですよね。
吉田氏:
彼らに向けたものを考えると,ここで分かれ道があると思っています。「そんな状況だからこそ求められる,突き抜けた爽快なファンタジー物語」と,「現実を踏まえ,それを乗り越えていく王道のファンタジー物語」です。
僕たち第三開発事業本部は,どうしてもこう,泥臭いスタッフが多く……後者の方が得意な感じがしており,これはもう自分たちの特性として後者を取りました。FFXVIはファンタジーの世界で冒険すると言っても,あまりにリアルから乖離していると,夢物語になり過ぎるんじゃないかと。この辺り,FFならではの「好きなように作る」が出ているかもしれません(苦笑)。
4Gamer:
あまりに自分の感覚から離れていると,感情移入ができないというのは分かります。
吉田氏:
それは映画や小説,アニメなども同じで,例えば「鬼滅の刃」ほどの速度感や,徹底的に鬼である敵を哀れんだりする作品は,そう多くありませんでした。感情移入のさせ方が,素晴らしいと感じましたし,僕もかなり泣かされました。こういった素晴らしいエンタメが多数ある中での開発になるため,今回の物語はじっくり腰を据え,クライヴの生涯を追うことで,できるだけ丁寧に人や価値観,それぞれの持つ正義というテーマを描く,というスタイルになりました。
4Gamer:
ファンタジー世界のリアリティを考えるとなると,設定からきっちり練っていく必要があると思いますが,どんな世界なんですか?
吉田氏:
皆さんのイメージにある中世ヨーロッパの動乱期に,魔法の源となるエーテルを発する「マザークリスタル」,言い換えると油田のようなものがあり,現代の核兵器に相当するような軍事力として「召喚獣」がいたらどうなるかということを,ベースにした物語になっています。
だからこそ,画作りも嘘がつけないことが多く,開発チームが苦労しているのを見て,もう,実写で作ったほうが早いんじゃないかと何度も思ったくらいです……。
4Gamer:
グラフィックスの品質が上がるにつれて,「もう実写でいいじゃん」なんて冗談はよくありますが,作り手も実際に思うものなんですか。
吉田氏:
例えばリアルでは,人がソファーに座れば,体重でクッションの座面が沈み込みますよね。それを,1回しか使わないカットシーンのために,わざわざ物理計算が働く精度で作るのか,と思ってしまうんです。でも今の世代のグラフィックスでは,クッションの座面が沈まないソファーなんて,不自然すぎて人間の目が許してくれないのです。クッションだけでなく,キャラクターの衣服の接触面の表現も,もはや物理計算だけではどうにもならないものもあり……。
4Gamer:
ああー……本当に細かいですけど,そうした部分の積み重ねがないと,安っぽいカットシーンになってしまうんでしょうね。
吉田氏:
ほかにも,当時のイギリスで交わされていた挨拶を研究したりとか。実は握手という挨拶は,ここ200年くらいでできた文化だと知りました。それまでは,お互いの肘をつかみ合っていたんです。そうした「きちんと表現しないとおかしくなるよね」といったレベルまで掘り下げて,作り込んでいます。
4Gamer:
それは知りませんでした。現在の握手は,さまざまな作品で普通に描かれている気がしますね。
吉田氏:
ゲーマーはゲームをプレイしたいのであって,映画が見たいわけじゃないから,そんなところどうでもいい! というお声も聞こえてきそうなのですが,ストーリーを描くカットシーンは,どうやっても必要になるので,逃れられないのです。かといって,カット割りだけで延々逃げるわけにも行かず……。
若い世代の人も衝撃を受け,社会の酸いも甘いも経験してきた大人達もワクワクできて,「現実は確かにつらい側面もあるけど,オレもクライヴみたいに頑張ってみるか」と思ってもらえるようにしたい。そのために必要なリアリティを入れていった結果,画作りやテーマ,言葉遣いが重くなっていきました。やはり,自分たちの好みの傾向はこちらだな,と。これが,本作がダークファンタジーっぽい雰囲気を持っている理由です。
コマンドバトルを採用しないからこそ,可能になった新しいプレイ体験
4Gamer:
それでは,バトルについても教えてください。
吉田氏:
今回のFFXVIのバトルには,複数のスケールが存在しています。2ndトレイラーにはクライヴのアクションシーンがそれなりに出ていますが,まず1つは彼自身が手に入れた召喚獣の力をリアルタイムに切り替えて,いわゆる中ボスくらいまでのスケールのエネミーと戦う,クライヴ等身大のバトルです。
吉田氏:
その上のスケールが,超巨大召喚獣vs.クライヴというバトルになります。スケール差のあるバトルですが,リアルタイムにこだわってバトルを構築していますので,どのようなバトルが繰り広げられるのか,楽しみにお待ちください。
そしてさらに,その上のスケールとして描かれるのが,召喚獣同士のバトルです。これら3つのスケールのバトルに,イベントや演出,プレイアブルを加え,PS5の性能を生かし,ローディング無しでシームレスにつながっていくゲーム体験。それがFFXVIの一番のウリになります。今回切り取った映像の中の召喚獣の姿は,カットシーン中のものもありますが,プリレンダリングのシーンはほぼなく,リアルタイムに描画しています。トレイラー後半にある召喚獣同士の激突は,大部分がプレイアブルのバトルになっています。
4Gamer:
え,あれはカットシーンとかではないんですか?
吉田氏:
今回は召喚獣をプレイヤー自身に操作してもらう,というつもりで開発しており,中にはイベントバトル形式のものもありますが,とにかく最大級に派手なボスバトルになっています。また,召喚獣同士のバトルは,毎回違うゲームデザインとなっていて,例えば,この召喚獣とこの召喚獣は3Dシューティング,この召喚獣とこの召喚獣はプロレス,この召喚獣とこの召喚獣はエリア全体と戦うようなバトル……といったように,大部分のボスバトルが専用に作られています。
4Gamer:
相当派手なボス戦になりそうですね。
トレイラーの映像では,格闘ゲームのようなUIが印象的だったのですが。
吉田氏:
召喚獣同士のバトルがシンプルに見えるように要素を削っていったら,格闘ゲームみたいになった(笑),というのもありますが,まだ召喚獣操作用のUIはネタバレのために非表示になっているものもあるためです。
ネタバレになってしまうのでお話できないことも多いんですが,今回はスケールの違うバトルがハイスピードでつながっていくと覚えておいていただければと思います。
4Gamer:
システムの使い回しがないとなると,召喚獣同士のバトルは敵味方の組み合わせが固定になるのでしょうか。
吉田氏:
そうです。ストーリー上,組み合わせは決まっていて,そこに驚きや興奮が集約されていくように作っているつもりです。展開が読めるような,読めないような……という中で,ストーリーとバトルがものすごい勢いで進んでいくので,止め時が見つかりにくいかもしれません。なお,バトル中でもフルボイスのカットシーン中でも,ポーズはいつでも自由に効くようになっています。
また,あらためてコマンドバトルについてもお話しさせてください。僕もコマンドバトルのFFで育ってきたので,往年のファンが「コマンドのないFFなんて,FFじゃない」とおっしゃりたくなる気持ちは痛いほど分かります。繰り返しにはなるのですが,FFシリーズを次の世代の開発者に引き継いでいくためにも,「こういうFFもアリだよね」という,アクションに突き抜けた作品も,作っておく必要があると思うのです。
4Gamer:
今では,RPGもアクションバトルがあって当たり前になっていますからね。
吉田氏:
今回はアクションバトルにしたからこそ,驚くほどのテンポやスピードで襲いかかってくるゲーム体験や,その興奮を実現するために開発チームが努力を続けています。これは,コマンドバトルでは味わえない部分だと思いますし,その分だけ振り切ったゲーム体験にしているので,ぜひそちらに期待していただけるとありがたいです。
このゲーム体験は,やはりオープンワールドでも実現するのが難しく,マップも含めてボスバトルですから,ワンオフの超巨大召喚獣バトルをシームレスな空間の中で作るのは無理があります。オープンワールドではないからこそ実現できるすごさや,バカさ加減みたいなところにも注目していただけると嬉しいです。
4Gamer:
バカさ加減って(笑)。
僕は,「バカなんじゃないの,この開発チーム」と思わず口に出てしまうのがFFかな,と……。願わくば,多くの世代のゲーマーにそう感じていただだけるよう,引き続き頑張ります。
4Gamer:
今回バトルディレクターとして,新たに元カプコンの鈴木良太さんが加わりましたよね。鈴木さんが,FFXVIのバトルに与えた影響も大きいのでしょうか。
吉田氏:
とてつもなく大きいです。FFXVIのバトルディレクターという看板を背負うにふさわしい存在だと思っています。
スクウェア・エニックスはずっとRPGを作り続けて来たので,多くの皆さんは「どちらかというとアクションは苦手」というイメージを抱いていらっしゃると思います。アクションが好評な「NieR: Automata」も,開発を手掛けているのはプラチナゲームズさんですし。
4Gamer:
そうですね。やはりRPGのイメージが強いです。
吉田氏:
その一方で,今の世界ゲーム市場の主戦場はアクションです。第三開発事業本部では,人材を育成するにしても採用するにしても,今後を考えてアクションを柱にするというのが,大きな課題となっていました。
そういった折に鈴木から「興味がある」と連絡をもらいまして,即座に大阪まで会いに行きました。チームに合流してくれた鈴木は,その当時の開発状況を全部見て,FFXVIのアクションを一気にまとめてくれたんです。必要なものとそうでないものを的確に取捨選択してくれて,獅子奮迅の働きを今も続けてくれています。
4Gamer:
触ってみるのが楽しみですね。ストーリーはクライヴの生涯が軸になるようですが,バトルでパーティの概念はあるんですか?
吉田氏:
あります。今回のトレイラーでは,情報量が多くなりすぎないようにしたため,クライヴが1人で戦い続けるイメージを受けたかもしれませんが,仲間たちも存在してクライヴと行動を共にします。ストーリーの進行に応じて,仲間は入れ替わります。ほとんどのバトルやシーンに,AIで動く仲間がおり,皆一緒に戦ってくれます。仲間をAIにしたのは,アクションが苦手な方でも,クライヴの操作に集中できるように,というところからです。仲間との会話もかなりのボリュームがあり,その内容は非常に重要です。
そのほかにバディと呼ばれる存在が1体同行し,多くのバトルで一緒に戦ってくれます。
4Gamer:
そうなると,1人で戦うことはほとんどないのでしょうか。
吉田氏:
そうですね,大型のボスバトル以外は,クライヴ1人になるということはほとんどないと思います。今後の情報公開では,世界観やストーリーについてきちんとお話ししたうえで,パーティや同行者について紹介したいと思います。
4Gamer:
そのほか,バトルについて現時点で現時点でお話しできることはありますか?
吉田氏:
バトルシステムを大きくアクションに寄せたことで,「アクションは苦手」「コマンドがないと遊べない」という方が少なからず出てくるであろうことは,重々承知しています。そのうえで,多くの方にプレイしていただくために,大きく「ストーリーフォーカス」と「アクションフォーカス」という2つのゲームモードをご用意しています。
4Gamer:
難度設定のようなものですか?
吉田氏:
イージー/ノーマル/ハードといった選択ではなく,「とにかくストーリーに集中したい!」という方のための「ストーリーフォーカス」と,「FFのアクションをしっかり楽しみたい!」という方のための「アクションフォーカス」,というモード分けです。いずれのモードでも,ストーリーの内容には一切変化などはありません。
このモード選択によって,主人公であるクライヴの装備セットアップが変更され,それぞれの目的に即したバトルのサポートシステムが機能します。
4Gamer:
モードによって装備のセットアップが変わるというのは珍しいですね。
吉田氏:
クライヴのアクションは,装備品であるアクセサリーの使い分けによって,どこまでオートにするかをプレイヤーが任意に設定できるようになっています。「直前被弾スロー」と開発が呼んでいるアクセサリーは,攻撃がヒットする数フレーム前から時間の流れがスローになるので,そこで回避ボタンを押すとクライヴが超スタイリッシュに回避してくれます。しかも連続で使えるので,回避ボタンを押すだけで楽しめるくらいに仕上がっています。
また,クライヴはリアルタイムで召喚獣アビリティやアクションの切り替えが可能です。ガルーダで敵を打ち上げてからタイタンに切り替えて打ち下ろしたり,シヴァの能力で氷漬けにしてからフェニックスに切り替えて突進したりといったこともできます。それらを自在に使いこなそうとすれば,操作難度はそれなりに高いですが,こういった攻撃をある程度自動的に行ってくれるアクセサリーなどを,プレイスタイルに合わせて選択可能です。モードの選択は,この初期セットアップに影響があるので,どういった感覚でFFXVIをプレイしたいかに合わせて選んでいただけます。
4Gamer:
アクセサリーでそこまで変わるんですか。オートにしたい部分が選べるとなると,かなり便利そうです。
吉田氏:
アクションは苦手という人でも,「FFXVI,楽勝だったわ,楽しかった!」と言っていただけるように,コマンドではなくしたからこそ,いろいろな遊び方をご用意しています。
逆に,「動画配信で魅せプレイするぜ!」という人は,ぜひアクセサリーを全部外して,アクションフォーカスでプレイしてみてください。本作は,動画の配信者がどのモードでプレイしているか,どんなアクセサリーを使っているか,視聴者がすぐに分かるようなUIになっているので,チャレンジしがいがあると思います。クリア後の高難度モードやスコアアタック,特定の召喚獣アビリティのみで攻略するコンテンツなどもありますので,アクションやり込み勢の方は,ぜひそちらにも挑戦してみてください。
開発はエンディングに進める段階まで完了
4Gamer:
FFXVIでは,ストーリー上もバトル上も召喚獣が重要な存在となるようですが,これまでにないくらいたくさんの召喚獣が出てくるのでしょうか。それとも特定の召喚獣に注力した見せ方になるのでしょうか。
吉田氏:
今回は,クラシックなFFから登場しているようなファンの皆さんがよく知っている召喚獣を,現在のテクノロジーを駆使してリアルスケールで作ったらどうなるかという挑戦でもあったので,召喚獣の数自体はある程度絞っています。
そもそもFFXVIの世界では,1体1体の召喚獣が現代でいう核兵器並みの扱いとなっていて,数は多くありません。その存在が抑止力となっていたため,国同士が直接ぶつかることはまずなかったのですが,魔法の源であるエーテルを生み出してきたマザークリスタルが枯渇し始めたことにより均衡が崩れ,ついに一線を越えた召喚獣同士の戦いが始まった……という展開になっています。
4Gamer:
1国につき,1体の召喚獣が守護神のような存在になっているイメージでしょうか。
吉田氏:
はい,そのイメージです。ただ召喚獣の扱いは,国ごとの宗教観などによって異なります。例えば主人公・クライヴの出身であるロザリア公国では,代々大公家の嫡子がフェニックスのドミナント(召喚獣を宿す存在)として生まれてきます。なぜそのようなルールになっているかについては,お話できないのですが,ロザリアにとって召喚獣フェニックスは,まさに国の守護神です。
一方,鉄王国では,召喚獣は生体兵器として扱われます。ドミナントは人質を取られ,すべての自由を奪われ,望む,望まないに関わらず戦争の道具として酷使されます。またダルメキア共和国では,タイタンのドミナントが評議会顧問となります。そういったドミナント達の宿命から生まれるドラマを描いていきますので,ドミナントという存在にもぜひ注目していただきたいです。
4Gamer:
ゲームの進行としては,FFXVのような自由な探索というよりは,FFXIIIのようなリニアな展開になるという認識でいいですか?
吉田氏:
はい。その分超高速ジェットコースターというイメージです。ただし,全部のフィールドが狭いかというとそんなことはなく,4フィールドくらいは結構な広さがあります。その中には,世界観をより詳しく知る手助けとなるサブクエストや,依頼を受けて隠しボス的な手応えのあるモンスターを討伐しにいく「モブハント」,モンスターから素材を調達して行う武器防具のクラフトなどを散りばめています。
ただ,とにかくストーリーの引っ張りが強いので,プレイ中,あまり脇に行くようなテンションではないと感じるかもしれません。お話としては超まっすぐですが,その代わり弩級のスピードと興奮で進んでいくという尖ったゲーム体験になっています。ディレクターの髙井を筆頭に,開発チームが最後の押し込みと仕上げに奮闘してくれています。
4Gamer:
今回,ようやくFFXVIの概要が見えてきて,注目度も大きく上がったかと思いますので,最後に期待している皆さんにメッセージをお願いします。
吉田氏:
発売時期を公開しましたので,そこに向けてチーム一丸となって開発を進めていきます。ゲームとしてはエンディングまで通しプレイができる状態となっていますが、これからさらにチューニングをしつつ,大規模デバッグを行い,しっかり仕上げていくつもりです。早く出せ,のお声もあるとは思いますが,今少しお時間をください。
,
4Gamer:
はい,早く遊びたいです(笑)。
吉田氏:
本作はほぼフルボイスで,先行していた英語はかなり仕上がりましたが,ようやくメインストーリー部分の日本語収録の終わりが見えてきたところです。これからサイドクエストや仲間との会話収録,他言語の収録が始まります。それと並行して最終デバッグや,メモリの最終押し込みと最適化,グラフィックスの底上げをひたすら続けていきます。
アクションゲームでもあるので,手触りやボスバトルのバランスは,時間のある限り繰り返し調整したいです。
シナリオに関しては,ひたすら収録を残すのみとなり,テキストはサイドクエストの一部以外,ほぼ完パケ状態ですので,こちらも濃いストーリー体験をしっかりお届けしていきたいと思います。
4Gamer:
次の情報公開はいつごろになりますか?
吉田氏:
秋くらいを想定しています。次に公開予定のトレイラーでは,いよいよストーリーや世界観について,もう少し踏み込んでお伝えしたいと思っています。次回の情報公開までは,2ndトレイラーやこのインタビューをじっくり検証して,「なるほど,そういうことか!」と想像してお待ちいただけると嬉しいです!
4Gamer:
ありがとうございました。
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