インタビュー
「サクラ革命」脚本・松崎史也氏らにインタビュー。乙女たちが精一杯生きること,それが“サクラ”の核
2020年9月2日に発表された本作は,タイトルからも察せられるとおり,セガの人気作「サクラ」シリーズの最新作にあたる。
物語の舞台は“太正100年の帝都・東京”。かつてのシリーズ作品とは地続きの時系列ではなく,もうひとつの可能性の未来として描かれるという。詳細も徐々に見えてきており,新たな「帝国華撃団」,そして「大帝國華撃団B.L.A.C.K.」の存在など,気になるポイントが山盛りだ。
今回4Gamerでは「サクラ革命」のミニ番組「青ヶ島司令部通信」の収録現場にて,本作の脚本(メインシナリオ)を担当する松崎史也氏と,開発ディレクターの池 大輔氏(ディライトワークス)にインタビューを実施した。新たな「サクラ」の世界を,新たなスタッフが手がける。その重みも含めて,両名の新作にかける想いを聞いていこう。
「サクラ革命 〜華咲く乙女たち〜」公式サイト
脚本・松崎氏は舞台畑からの抜擢
“舞台の熱”を吹き込む,新たな挑戦とは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはおふたりの「サクラ革命」における役割や立場などをお聞かせください。
池 大輔氏(以下,池氏):
本作の開発ディレクターを担当しております,池 大輔です。
松崎史也氏(以下,松崎氏):
松崎史也です。普段は主に演劇の演出や脚本,あと役者を少々やっております。ゲームシナリオを書かせてもらうのは今回が初の試みです。
4Gamer:
松崎さんは異業種からの抜擢ということで,よろしければ今回の人選が実現した経緯を教えてもらえますか。
池氏:
「サクラ」シリーズの中心には「歌劇」がある以上,シナリオにも役者や演劇に対する熱量が求められます。そういった“舞台の熱”をどうやってゲームに取り込んでいくのかは,企画当初からの課題でした。
そんなとき,僕が松崎さんの舞台を見て,すぐさま「これだ! これしかない!」となり,オファーさせていただくことになったんです。
4Gamer:
松崎さんがゲームシナリオの未経験者であると知ってもなお,それを補って余りあるほどの魅力が,松崎さんの舞台にあったと?
池氏:
ええ。そのとき松崎さんが見せてくれたのは「これなら舞台と演劇と役者への“熱”をゲームに持ち込める」と確信できるものでした。たとえゲームシナリオを書いたことがなくとも,関係ないと思えるほどに。
4Gamer:
そんなオファーを受けた松崎さんですが,所感はいかがでしたか。
松崎氏:
率直に「僕じゃないほうがいいのでは」と思いました(笑)。
「サクラ」シリーズに関わらせていただけるなんて,すごくありがたい話でしたが……自分がメインシナリオを担うとなると,やっぱり話が違ってくるじゃないですか? しかも大きな歴史のあるIPで。ゲーム内のテキストやセリフは生身の演劇のそれとは絶対に違いますし,そのノウハウがない状態で執筆するというのは,正直とても怖かったです。
4Gamer:
冷静に考えれば,そう感じるのが自然ですよね。そこからなぜ,どのような心境の変化で,引き受けることを決めたのでしょう。
松崎氏:
池さんに直接お会いしたときの「とにかく熱いものを作りたいんだ」という言葉……いや,言葉だけじゃないかな。そのときの池さんの佇まいも含めて,そのときに感じた志とエネルギーが自分のなかに響いたんです。「これに応えないのは作り手としても,人としても違うな」と。
であれば,作法やテクニックの部分はサポートをしていただくものとして,僕が勉強しながらでもよければお引き受けしたいです,と。
4Gamer:
熱意に打たれたと。
松崎氏:
池さんとは異業種の関係ですが,“ものづくり”の括りでは同業者なんですよね。そしてなんというか,ものをつくる人たちの言葉は,ある種の共通言語的なものがあって,少なからず感覚を共有できるんです。
池さんの言葉からも“ものづくり”に対する本気さ,堅実さ,冷静さ,なにより賢さを強く感じました。だからこの人が僕に頼むようなら,それもきっと大丈夫なんだろうと思えてきて。
4Gamer:
ちなみに,池さんはどのように口説いたんですか。
池氏:
「サクラ革命」は既存の「サクラ」シリーズと同じ世界観でいて,かつ“起こりうる未来の話”となりますが,核はあくまで「サクラ」作品です。そして「サクラ」の核とは“乙女たちが精一杯生きること”と考えています。だからこそ,彼女たちが歌う姿や,戦う姿が美しくなるんだと。
松崎さんと会ったときも,まずはこの話からしました。これこそが「サクラ革命」の原点にして,シナリオの精神性のすべてです,などと。
4Gamer:
シリーズの核を明確にして伝えたんですね。ただ,それもなかなかの難題かと思いますが,企画当初からその結論は出ていたのでしょうか?
池氏:
いえ,そうでもなく。シリーズの核,つまるところ「サクラ大戦はなぜ楽しいのか?」を因数分解するまでには,立ち上げスタッフたちとかなり時間をかけて議論してきました。「サクラ革命」は企画時から新シリーズとして展開すること,スマートフォン向けに提供することが決まっていたため,あらかじめきちんと整理しておくべきものも多かったので。
おかげで,こうして松崎さんに伝えることもできたわけですが。
4Gamer:
本作の舞台は「太正100年」。つまり,これまでの「サクラ大戦」におけるスチームパンクかつ大正浪漫な太正世界が,ほぼ現代にまで至ったとも言えます。これらの設定について,第一印象はいかがでしたか。
松崎氏:
とてもワクワクしました。仮に僕がいちユーザーだったとしても,これほど刺激的な設定なら楽しく遊んでいただろうと思える設定です。
物語の具体的な構成については,池さんをはじめとするスタッフの皆さんと一緒に組んでいきましたが,そこでもあらかじめ設定の土台がきちんと整備されていたおかげで,この世界にはどんな人物がいて,どんな物語が展開するのか,比較的スムーズに見えてきてよかったです。
4Gamer:
物語の序幕も「青ヶ島司令部通信」などで徐々に明かされましたが。
池氏:
「青ヶ島司令部通信」では,主人公の大石がヒロインの母「咲良なでしこ」から「帝国華撃団」の復活を託され,青ヶ島にいるヒロイン「咲良しの」とともに全国を巡っていく大筋を説明いたしました。今までの「サクラ」シリーズの歴史もまとめているので,ぜひ見ていただきたいです。
また,しのたちが「帝国華撃団」となるまでの物語については,9月に公開しました「スペシャルアニメ」をご覧いただければと。
4Gamer:
そのうえで,本作ではどのような物語を描くのでしょうか。
松崎氏:
手触りとしては「ひたすら熱くて,少しおバカ」……まぁ,だいぶおバカな部分もありますが(笑)。とにかく,とびきりおもしろカッコイイ。「サクラ」シリーズのスピリットだと捉えたそれを最重視しています。
もうちょっと具体化すると「持たざる者たちが手を取り合い,歯を食いしばって,とんでもない強敵に立ち向かう」この流れを,物語の軸としました。敵とはいえ絶対悪ではなく,その人なりの強い信念を持っていて,ともすれば相手のほうが物理的にも精神的にも優れている。それでも持たざる者たちは,敵の強大さに膝を屈することなく,自分たちが取り戻したい未来のために戦火に身を投じる。そんなイメージですね。
4Gamer:
そこで,どういった思いを伝えていきたいのでしょう。
松崎氏:
僕は,本物の強い意思を持った人の生き様や言動は,それに触れた人に大きな影響を与えると思っています。「サクラ革命」の物語もまた,受け手にとってなにか原動力になるようなものをと考え,執筆しています。
僕がやっている演劇というのは,劇場に訪れた人にだけ届くものです。だからこそのよさがあるのですが,対してゲームが与えうる影響の広大さは圧倒的で,比べようもありません。それこそ世界を変える可能性のあるメディアと言えるくらいにです。だから僕も,大きな影響力を備えるゲームという媒体ゆえに,閉塞的な社会や世界の変革に臨む意思という,強めのテーマを込めることにチャレンジしてみました。
4Gamer:
媒体もテーマも,大きなスケールに合わせたわけですね。
松崎氏:
でもそれって,なんとも押しつけがましい話で,僕が今の若い人たちに勝手に求めてしまっていることでもあるんですよね。
僕はもう40歳で,精神的な若さはともかく,年齢的にはオジサンの側にいると自覚しています。だからせめて,若い人たちにはいつまでもキラキラと未来を見ていてほしいし,自分自身の若さもそうあり続けたいと思っている。そんな気持ちを,この物語をとおして,押しつけがましくないような切り口で伝えられればって,「サクラ革命」に臨んでいるんです。
4Gamer:
いいですね。一方で,新たな世界観を作るうえでの懸念などは。
松崎氏:
発信側が“もうひとつの未来の可能性”とかなんとか言っても,受け手が「サクラ大戦の続編だろう」と見るのは仕方のないことですから。新シリーズと銘を打ったところで,IPを背負う責任は小さくはありません。
それだけに,先ほど話したとおり“サクラのスピリット”をきちんと継承できるよう,核だけは外さないようにと制作を進めています。
池氏:
例えば「サクラ大戦4 〜恋せよ乙女〜」のラストシーンで,米田司令が「命短し恋せよ乙女、紅き唇褪せぬ間に。」と語り,みんなが感動した。こういう,ひとつひとつの演出に込められているものが「サクラ」の核を成していて,私たちが守らなければいけないものになっています。
逆もまた然りで,核をきちんと保ち,「帝国華撃団」があって,乙女たちが全力で前向きに生きていれば「サクラ」作品として成立する。「サクラ大戦は,生きる力の物語……生命賛歌だから美しく楽しいんだ」。開発一同はそう考えています。
4Gamer:
さらに「サクラ」シリーズは,音楽も切っても切れない関係にあると思いますが,楽曲担当の田中公平さんとの意思疎通はありましたか。
池氏:
田中先生は“Mr.サクラ大戦”なので,私たちの疑問に対するほぼすべての回答を持っていらっしゃいます。実際,曲についてのお話をするときも,意見のすり合わせというより答え合わせの感覚ですね。
私自身,田中先生との仕事は勉強になったり,「俺は今,サクラ大戦の現場にいる!」という実感につながったりします(笑)。
松崎氏:
まさに,生きる「サクラ大戦」ですよね(笑)。
池氏:
先生は現場でも積極的で,「次の曲はどんな内容だい?」と常に聞いてきていただけるんです。そこで曲を使う場面などを説明すると,「だったらディレクションはこうやるんだよ!」と熱く教えてくれるんですよ。
私の至らなさはあれども,これ以上に心強い味方はいません。
4Gamer:
物語や音楽については尋ねましたが,やはりスマホゲームである以上,バトル部分なども気になっています。まだ話せる範囲は少ないかと思いますが,このあたりでこぼせる話はありますか?
池氏:
抽象的ではありますが,本作はバトルもストーリーもキャラクターを成長させる最中ですら“どこを取ってもエモいゲーム”を目標としています。スマホゲームらしく生活の合間に遊ぶ人に,大好きな乙女たちと気軽に出会ってもらい,そして「かわいい」――その感情を生み出すことを絶対の真理とし,最適化しているのがゲームとしての「サクラ革命」です。
4Gamer:
バトル画面は,発表時のPVにも少しだけ出ていましたね。
池氏:
実はあの映像からバトルはアップデートされているんです。より良いものをと議論と調整を重ねた結果,現在は別物のようになっていまして。近々の「青ヶ島司令部通信」などでお見せできればと思います。
あと,バトルについては見た目よりも,やってみると「案外サクサク進む」と感じていただけるはずです。
松崎氏:
僕もちょっと遊ばせてもらいましたが,バトルめっちゃ面白かったですよ。おっしゃるとおりの絶妙な難しさで。
池氏:
バトルは本当に苦労しています。もうずっと作ってます(笑)。「サクラ」の名を冠する以上,シミュレーションゲーム特有の満足感は必要ですし,かといってスマホでガチンコ戦略じゃ難解すぎはしないか……と。
シミュレーションRPGらしいゲーム体験を追求しつつ,爽快でエモい演出をビシッと決める。開発陣には難しいことを要求していますが,プレイヤーの皆さんに喜んでもらえるよう,仕上げもがんばります。
4Gamer:
最後に「サクラ革命」の見どころをあらためてお聞かせください。
松崎氏:
新生する「帝国華撃団」。立ちふさがる「大帝國華撃団B.L.A.C.K.」。「サクラ革命」には新たな乙女たちが続々と登場します。そのひとりひとりが主人公級と言っていいほどの重厚な物語を背負っていますので,まずは彼女たちと出会える日を楽しみにしていてくれるとありがたいです。
女の子たちと一緒に戦い,ときには歌劇に浸る。生活と冒険の日々に美しく彩られた「サクラ革命」の世界に,ぜひともハマってください。
池氏:
本作では「サクラ」おなじみの“何気ない日常のやり取り”も,皆さんのご期待に応えられるようがんばっていきます。というのも,最初はオマケのつもりで作っていたのが,開発一同が途中から楽しくなっちゃって,どんどんボリュームが増えていきましたので(笑)。乙女たちとの会話を通じて,自分だけの推しを見つけちゃってください。
それと,作中では全国津々浦々を旅することなります。乙女たちの出身地は市区町村まで細かに設定しているので,ひょっとしたら皆さんの暮らす土地と縁があるかもしれません。「えっ,この町に来るの!?」と驚いていただきたい「帝国華撃団」の行脚,ぜひ楽しみにしていてください。
「サクラ革命 〜華咲く乙女たち〜」公式サイト
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