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  • Ubisoft Entertainment
  • 発売日:2021/10/07
  • 価格:通常版:9240円(税込)
    ゴールドエディション:1万3200円(税込)
    アルティメットエディション:1万5840円(税込)
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[GDC 2023]「ファークライ6」はどのように革命を描いたのか。AAAタイトルにおけるナラティブ・デザインを解き明かす講演をレポート
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印刷2023/03/23 15:29

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[GDC 2023]「ファークライ6」はどのように革命を描いたのか。AAAタイトルにおけるナラティブ・デザインを解き明かす講演をレポート

 世界的な大手ゲーム開発会社が定期的に発表する大型ゲームタイトル(AAAタイトル)は,ゲーマーだけでなく,普段あまりゲームを遊ばないような層にも注目されることが多い。一方で,そういったAAAタイトルは,各社が持つゲーム開発技術のショーケースでもある。グラフィックスにせよサウンドにせよ,もはや「映画のような」という言葉が陳腐化しているのが現状だ。
 そして当然ながら,この技術的進歩はゲームの物語面にも及んでいる。GDC 2023の2日目,Narrative Summitで行われた講演「AAA-TYPICAL: CHARACTER AND STORY ARCS IN OPEN GAMEPLAY STRUCTURES」では,UBIトロントで活躍するBrendan Hennessy氏(Narrative Designer)と,Heli Kennedy氏(Team Lead Writer)が,大型タイトルで使われているナラティブ・デザイン技法を解説していたので,その模様を紹介しよう。

左がBrendan Hennessy氏,右がHeli Kennedy氏
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「広大な世界を探索し,革命運動のさまざまな側面を体験するゲーム」を目指して


 講演では,UBIが開発した3つの作品「Watch Dog Legions」「Far Cry 6」「Far Cry 6: Lost Between Worlds」における,大きなレベルでのナラティブ・デザインが語られた。本稿では特に「Far Cry 6」(以下,FC6)についての解説を紹介する。

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 まず大前提として示されたのは,FC6のような現代的な「大きなゲーム」の多くには,オープンワールドが採用されているという点だ。このようなゲームデザインでは,プレイヤーがいつ,どこに向かうかをゲーム側で完全には制御できないため,いわゆる一本道のシナリオを提供するわけにはいかない。

 一方,FC6においてプレイヤーが目指すべきゴール(腐敗した体制に抵抗するゲリラ戦士として革命を成し遂げる)は定まっており,そのためにすべきこと(現大統領アントン・カスティロを排除する)も決まっている。これはナラティブ・デザインを始めるにあたって,とても強力なスタート地点となる。

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 とはいえ「プレイヤーにゲリラ戦士として戦わせ,大統領を排除させる」ような導線を引いておけばそれで良い,というわけではない。
 FC6のようなオープンワールドのゲームにおいては,プレイヤーが世界を自由に探索することが,大きな楽しみとなっている。従ってFC6のナラティブ・デザインも,「プレイヤーが広大な世界を探索する」ことを後押しするような構造でなくてはならない。極端な話,チュートリアル的なフィールドを走り回っているだけで物語がエンディングを迎えるようではダメなのだ。

 そしてこのオープンワールドという前提があったうえで,「革命」という無数のキャラクターが関わる複雑なテーマを,上手く扱っていかなければならない。
 一口に革命運動といっても,歴史上発生した革命を振り返れば,さまざまな立場の人が,さまざまな形で関与してきた。陣営を乗り換える者もいれば,逃げ出す者,やむを得ず参加する者もいた。つまり,陣営同士がドンパチして,勝利した側の思い通りに社会が変わる,なんてシンプルな内容では,革命を描いたことにはならないのだ。
 広大な世界を探索したくなるような構造と,革命というテーマを多角的に描く構造。この2つを両立させるという仕事が一筋縄ではいかないのは,想像に難くないだろう。

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敵の視点から主人公の活躍を描く


 この課題に対しKennedy氏は「世界そのものが物語を語るように設計する」という方針を選ぶことにした。とはいえ,広大な世界に革命運動が持つ多様な側面を無節操に盛り込んでは,物語が破綻してしまう。
 そこでFC6においては,登場人物全員が「革命」という共通したテーマを持つ,といった構造が採用された。純粋にリアリティだけを追えば「革命にまったく関わらない」人物が相当数いるはずだが,そこはゲームとして「誰もが革命をめぐって戦っている」という誇張を行うわけだ。

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 しかし,この路線には別の問題もある。「誰もが革命をめぐって戦っている」世界において,主人公を主人公として活躍させるのは簡単ではないという問題だ。主人公もまた,革命をめぐって戦う無数の人々の一人でしかないのだ。そこで,FC6最大の悪役であるアントン・カスティロ大統領に対し,なんらかの影響を及ぼせることが,主人公を主人公たらしめる条件となる。
 だが,これもまた簡単な課題ではない。相手は一国の大統領であり,主人公はただのゲリラ戦士だ。端的に言って,住んでいる世界が違う。FC6は主人公の視点でゲームが進む作品なのだから,そのままでは画面にカスティロ大統領が登場する機会はほとんどなく,プレイヤーは「これできっと大統領は打撃を受けたに違いない」という憶測しかできない。

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 この問題に対するシンプルな回答が,「ストーリーの進捗に従って,大統領視点でのカットシーンを入れる」という方式だ。例えばプレイヤーがカスティロ大統領の腹心の部下を殺害し,物語が大きく前進したら,その段階で「部下を殺されたという報告を聞くカスティロ大統領」のカットシーンが挿入されるのだ。
 なお,「Far Cry 5」ではカットシーンのほとんどはプレイヤーキャラクターの一人称視点だったが,FC6では三人称視点へと変化している。これにより視点の変更をより柔軟に表現でき,主人公の行動が大統領のあり方に影響を与えていることがより明確に表現できる。

FC5では一人称視点だったカットシーンのカメラが,FC6では三人称視点になっている
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世界を分割し,異なる物語とキャラクターを与える


 主人公の特別感は上記の施策で描くとして,課題はまだまだ多い。少なくとも上記の手法は,「プレイヤーが広大な世界を自由に探索したくなる」動機にはなっていない。
 この点についてKennedy氏は,まず3つの大原則を掲げた。

・プレイヤーはどこにでも行ける:プレイヤーがどこにいようとも,物語が進捗している感覚が得られなくてはならない

・環境そのものが特定の物語を語る:世界のあらゆる領域において「革命」が存在していなくてはならない

・出会うべきキャラクターは無数に存在する:敵にも味方にも魅力的なキャラクターが存在し,彼らとの関係のなかで物語は進行する

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 この前提を踏まえてFC6で採用されたのは,オープンワールドのゲームとしては比較的一般的な手法だ。マップ全体をいくつかの大きな地域に分割し,それぞれの地域ごとに異なるテーマの物語が,異なるキャラクターたちによって進行する,という形式である。

 FC6のマップは大きく5つに分割されており,最初の地域はチュートリアル的なエリアで,そこをクリアすると3つの異なる地域が開放される。3つの地域ではそれぞれ異なるテーマの物語が進行し,倒すべき敵も異なる。その3つの地域すべてにおいて倒すべき敵を倒したら,最後のエリアとなる首都に突入できるようにになる。

それぞれの地域で,プレイヤーが関わるキャラクターも,対峙する敵も,物語のテーマも,すべて異なる
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 各地域のシナリオは,ミッションを道標として進行する。物語の中核を担うミッションをクリアすると,その結果に従って次のミッションが発生し,それらを順番にクリアしていくというスタイルだ。
 これ自体は一般的な手法だが,FC6においてはこの「物語を進行させるミッション」を,その地域で活動するキャラクターの行動や判断の変化として実装している。ミッションを進めることでキャラクターと出会ったり,そのキャラクターとより深い因縁ができたり,ときには問題のキャラクターが逃げ出したりもする。

ある地域における「メインストーリー」を構成する,イベントのフロー
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 このように,ミッションを「目の前の問題を解決する」というよりは,「キャラクターとの関係性を深める」ものとして設定することで,プレイヤーはその地域のキャラクターと自然に,より深く交流していくことになる。
 さらに,プレイヤーが何かしら大きなことを成し遂げたときは,前述した大統領カットシーン同様,敵のリアクションでそのことを表現するようにもなっている。

もちろん,それぞれの地域にはサイドクエスト的なものも用意されている
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新しい体験を目指した,果てなき挑戦


 以上がFC6における,最も大きなナラティブ・デザインだ。当然ながらこのデザインは,FC6というゲームに最適化されたものであって,同じ講演で示された「Watch Dog Legions」ではまったく異なる設計が採用されているし,FC6のDLCである「Far Cry 6: Lost Between Worlds」ですら,根底から異なる設計が採用されている。本編とDLCで異なるナラティブ・デザインをするというのは,一種の冒険とすら言えるだろう。

「Watch Dog Legions」では「Play as Anyone」(誰としてでもプレイできる)というゲームデザインが,決定的かつユニークな影響を与えている
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「Far Cry 6: Lost Between Worlds」では,ローグライク的な要素がナラティブ・デザインに大きな影響を与えている
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 UBIのゲームでは,意欲的(かつ先進的)なナラティブ・デザインが行われることが多いように感じられる。そして,必ずしもそれが上手く機能しきれていないこともある。だが,大きな開発会社が新しい技術への挑戦をやめてしまったら,ゲーム産業全体が停滞することにもなりかねない。実際,最初の挑戦においては機能しきれなかった試みが,後の作品において見事な成功を収ることもある。今後とも,UBIの意欲的な挑戦を見守っていきたい。

「ファークライ6」公式サイト


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