インタビュー
[インタビュー]「地球防衛軍6」の壮大なシナリオは,前作からの緻密な伏線によって生まれた。岡島Pとサンドロットのメンバーが語る開発の裏話とは
多数の敵を吹っ飛ばす爽快感と熱い展開が人気となっているシリーズだが,前作「地球防衛軍5」の最後では,人類が辛くも敵を退けるも,地球の人口の大半が失われることになった。
6はその後日談が描かれるという直接的な続編であり,前作で語られたシナリオや設定が複雑に絡み合い,驚きの展開を見せていくという,シリーズで最もストーリーテリングに力が入っている内容が話題となった。
今でもインターネット上ではさまざまな考察がなされている本作だが,今回4Gamerでは,ディースリー・パブリッシャーのプロデューサーである岡島信幸氏,デベロッパであるサンドロットの本間毅寛氏,野口俊雄氏,五十嵐雅継氏に話を聞く機会を得た。
開発の裏話やゲーム内の何気ない会話に込められた開発の思い,巨大母艦登場の経緯などを語ってもらった。
なお,インタビューの性質上,6に関するネタバレが非常に多く含まれるので,未プレイの人はプレイ後の閲覧をお勧めする。
岡島信幸氏(ディースリー・パブリッシャー) 「地球防衛軍6」のプロデューサー。シリーズの初代からプロデューサーとして携わる |
本間毅寛氏(サンドロット) 「地球防衛軍6」のディレクター。「地球防衛軍」シリーズではシナリオを担当しており,ゲーム中のあらゆるテキストを1人で書いている |
五十嵐雅継氏(サンドロット) 「地球防衛軍6」のグラフィックディレクター。「地球防衛軍3」以外の作品で,敵メカやキャラクターのデザイン,全体的なグラフィックス周りのディレクションなどに携わる |
野口俊雄氏(サンドロット) 「地球防衛軍6」のディレクター/メインプログラマー。初代の「THE 地球防衛軍」からメインプログラマーとして携わりながら,ゲームデザインやミッションのセッティングなど,幅広いセクションに関わる |
「地球防衛軍6」公式サイト
5の開発時点で,6へ向けての伏線を張る。2タイトルを又にかけた壮大なストーリー
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,「地球防衛軍6」発売後の反響についてうかがわせてください。
岡島氏:
これまでのシリーズで最も反響が大きく,ポジティブな声も今までで一番多かったと思います。「ゲームが面白い」という声は今までもいただいていましたが,今回は特に「ストーリーが良かった」という反響が大きかったです。
4Gamer:
「地球防衛軍6」は,前作「地球防衛軍5」のエンディングを変えるために「タイムリープで何度も歴史をやり直す」ストーリーが特徴です。これまでのシリーズにはない,かなり思い切った内容ですが,不安などはなかったのでしょうか。
本間氏:
ゲーム中で異なる展開の歴史を何度もやり直すという構造が複雑なうえ,5をプレイしていないと全容が分かりづらいストーリーになるので,リスクが大きいことは理解していました。
もともと「地球防衛軍」は「ゲームが面白ければほかの要素はいいだろう」と振り切ったタイトルです。そうした中でストーリー方面に注力するということは,ゲーム内にいろいろな制約を作ってしまうという危険な側面もありました。
ただ,ユーザーの考察などをネット上で見ていると,非常に多くの方がストーリーを理解されていて,ホッとしています。
4Gamer:
タイムリープの構想は5のころからあったのでしょうか。後から考えられたにしては,あまりにもつながりがきれいだと思ったのですが。
本間氏:
私の中では,5の時点から連作のタイムリープものを想定してストーリーを書いていました。これまでのシリーズも2タイトルごとに世界設定はつながっていましたから,5のストーリーを書いている時点で6のコンセプトを練っておくのは当然のことです。
問題は5が大作だったこと。これまでの世界観の起点となった地球防衛軍の初代と3は比較的短い作品でしたので,次の物語につなげることができました。しかし,5は相当な準備がなければ物語がつながらない,とわかっていました。
ただ,こうした構想は今まで誰にも話していなかったんです。
4Gamer:
まるでリアルプロフェッサー(※)ですが,なぜ構想を秘密にしていたんでしょう。
※「地球防衛軍6」のキーマン。作中では彼と主人公・ストーム1だけがタイムリープのことを知っている
本間氏:
恥ずかしいからです。5も完成していないし,続編を作ることも決まっていないのに「実はタイムリープもので,次回作に続く構想があるんだよ」なんてことを言ってたら,厨二病のヤバいヤツじゃないですか(笑)。ただ,5の時点から伏線になるセリフはたくさん入れています。
●「地球防衛軍5」ミッション11「天空の炎」
総司令官:
10日ほど前,地球軌道上に無数の飛行物体が確認された。前兆はなく,出現は突然だった。
たとえばこのセリフでは,「プライマーが宇宙の彼方からやってきた」という描写はしていません。タイムリープで未来から転移してきているからなんです。
●「地球防衛軍5」民間人時代のエアレイダーが,航空支援を要請した際
EDF隊員:
お前は民間人か。なぜ空爆要請コードを知っている。
これも伏線の1つです。民間人がEDFの空爆要請コードを知っているなんてまったくおかしな話ですが,その謎は5では明かされません。6をプレイすると,このエアレイダーはEDFで戦った後にタイムリープで過去へ戻った人物であり,その記憶があるからコードを知っているということが分かります。
●「地球防衛軍5」エンディング
だが,希望はある。
なぜなら,我らがいる。
我らの名は……
●「地球防衛軍6」ミッション1「ベース251†††††」
かつて私はこう言った。
希望はある,と。
希望はある。
なぜなら,我らがいる。
我らの名は……
最終決戦を終えて地球はボロボロになっているのに,「希望はある」という謎の言葉で終わりますが,これは6につなげるために意識して書いたものです。実は6で初登場するプロフェッサーが,5のエンディングでこのセリフを言っているわけです。また,6の冒頭でもプロフェッサーが同じセリフを言っています。
短いセリフなのですが,5と6をつなぐ重要な部分で,この一文を書くために,1〜2週間はかかったのを覚えています。
4Gamer:
言われてみれば,たくさんの伏線が張られていたことが分かりますね。
ただ,5の時点で6の話が完成していたわけではありませんし,皆の意見をもらっていろいろと変化してはいます。例えば,敵の「リング」と遭遇して歴史が変わり,同じミッションでもタイムリープするごとに中身が変わっていく……という見せ方は,開発チームの皆からアイデアをもらった部分の1つです。
4Gamer:
1つ疑問なのですが,5の時点でタイムリープものの構想があったことを,ほかの皆さんが知ったのはいつだったのでしょう。
岡島氏:
僕が5の時点から構想があったとハッキリ聞いたのは2週間ほど前です。
五十嵐氏:
今初めて聞きましたね(笑)。
野口氏:
私も今知りました。ただ,思い返すと本間が開発中にそれを匂わせるようなことを言っていたなというのをぼんやりと記憶しています。
4Gamer:
「地球防衛軍6」発売後まで本間さんしかこの事実を知らなかったというのも,なかなか衝撃的ですね。開発スタート時にタイムリープものでいくということを聞いた際,どう思っていたのでしょう。
岡島氏:
アイデアを聞いたときに私から本間さんに「タイムリープものはシナリオが難しくなるのでは?」という話はしました。今思えば,そのときに「実は伏線になる要素は散りばめてある」という話を本間さんから聞いていたような気がしますね。
4Gamer:
では,話し合いの方向性によっては6が別のストーリーになる可能性もあったのでしょうか。
本間氏:
そうですね。違う道に行っていたら,この伏線が使われることもなく,別の話になっていたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
別の歴史が展開していたかもしれない。制作現場が既に「地球防衛軍6」のような世界だったわけですね。
岡島氏:
しかし,タイムリープものということでプロモーションにはかなり悩みました。ネタバレ防止のため提供可能な情報が制限されるなか,生放送やユーモアに走ったプロモーションなど,いろいろな手段でイメージは死守していました。
4Gamer:
援軍を信じて耐え続けていたわけですね。
岡島氏:
はい。サンドロットさんとはお付き合いも長いですし,絶対の信頼がありました。「ここで我々が堪え忍べば,優秀なクリエイターたちがいいものを作ってくれる!」という気持ちでプロモーションを行っていましたね。
本間氏:
発売が延びたうえに8月のギリギリまで開発の作業を続けるのは初めての体験でしたね。本編がマスターアップしても,発売直後に当てるパッチを作らなければならなかったので。
岡島氏:
一方で発売日が延びたといっても,悪いことばかりではありませんでした。5をプレイしているほど6のストーリーへの理解度が高まりますから,延期の間に5のユーザーを増やすことに成功したのは良かったですね。
少ない言葉でゲームの背景世界まで伝える。一言に複数の意味を持たせたEDFらしいセリフ
4Gamer:
「地球防衛軍」はさまざまな魅力を持ったタイトルだと思いますが,その1つが練り込まれたセリフだと思います。短い中で状況を説明し,キャラクターの感情を伝え,聞く人の心に残る言葉の数々は,新作が出る度に驚かされます。
本間氏:
もちろん,これは意図的にやっています。ストーリーを語るムービーがあるわけでもないなか,セリフだけでユーザーに情報を伝えないといけないので,相当考えて作っている部分です。
4Gamer:
情報というのは具体的にどのようなものでしょうか。
本間氏:
まず伝えなけばならないのは,ミッションの内容や敵の弱点など,ユーザーが知らないと遊びにくい情報です。それだけではなく,作品世界の情勢なども伝えるようにしています。これらの要素が単なる長い説明ではなくちゃんと物語になっていて,一言一言が面白くて熱いセリフになっているとさらに良いですね。
4Gamer:
セリフ作りの際に心がけられていることはありますか。
本間氏:
一言がいろいろな意味を持つように,なるべく少ないセリフで多くの情報を伝えられるようにということは心がけています。
例えば,6でキャラクターが話す言葉の中に「たこ焼きの缶詰を食べたが,意外とイケるな」というものがあります。これは単にたこ焼きの缶詰を食べたという意味だけではなく,“世界が荒廃して深刻な食糧不足が起こっているので,缶詰がごちそうになっている”という世界の背景を表現しています。また,こういった世間話している間は“戦闘中ではない”ことを伝えており,「今は気を抜いて大丈夫なんだな」ということがわかるわけです。
4Gamer:
荒廃後の世界の会話はタイムリープしていくと,同じ状況でもセリフがどんどん変わっていきますよね。
本間氏:
はい。情勢が不利になってくると,先ほどの会話も「スシの缶詰を食べた」という形に変わります。スシの缶詰なんてありませんから,“食糧事情も更に悪くなり,ありもしない缶詰の妄想をするほど追い詰められている”ことを表現しているんです。こうしたセリフがあるからこそ,ゲームの背後に世界が広がっていることを感じ取れるんですね。
4Gamer:
セリフといえば,マルチプレイでは,みんながテキストチャットの定型文を使って,“EDFごっこ”をする文化が自然発生しています。敵の増援が来たら定型文で悲鳴を上げ,愉快な会話の後には定型文で笑うというように,ゲームとして攻略するだけでなく,ユーザーが物語の一部になっている。
本間氏:
ただ叫ぶばかりではEDFごっこ的な遊びは生まれないと思います。戦況が悪化していくにしても,説明的な言葉を並べるのではなく,セリフでうまく伝えていく。そうすると世界の情勢が見えてきて,この兵士たちは不利になっても勇気を振り絞って戦っているということが分かる。だからこそユーザーも盛り上がるし,遊び心を持ってくれたんじゃないかとも思います。
実は作中で「敵だ!」とか「アンドロイドがきたぞ!」みたいなセリフはそれこそ何十回も流れるんですが,使い回しはほぼやっていないんです。
4Gamer:
確かに「敵だ!」と言わせるにしても,EDFが優勢なのか劣勢なのかでもニュアンスは全然変わってきますね。こうした演出方法はいつ始めたものなのでしょうか。
本間氏:
キャラクターのセリフでプレイヤーに情報を伝える取り組みを始めたのは,弊社が開発に携わった「鉄人28号」(PS2,バンダイ)が最初です。その後さまざまな作品を経て表現の幅を広げていきました。
作品世界の奥行きを感じられる演出は,弊社の原点に近い作品で取り組みがスタートしています。
どちらも,巨大ロボットを操って街を守るゲームですが,故意か否かを問わず,ビルを破壊すると困った事態が発生します。「リモートコントロールダンディ」(PS,ヒューマン)では賠償金を取られますし,「ギガンティック ドライブ」(PS2,エニックス)だと友達のアルバイト先や会社が壊されるかどうかで展開が変わります。
4Gamer:
罰金の仕組みは印象的でした。自分の行動で人が困るというところにある種のインタラクティブ性とリアリズムがあり,ここに世界がある,と感じたのを覚えています。
本間氏:
ビルといってもゲーム内ではポリゴンの箱に過ぎません。でも,“人が住んでいるので,壊すと罰金を取られる”“壊すと友達が困る”という演出を加えることで,ユーザーが「このビルを壊したら,住んでいる人や友達が困るんだ」とごっこ遊びをしてくれて,それによってアクションゲームとして遊ぶ感覚や楽しさも変わってくるんです。
4Gamer:
世界の広がりという意味では,4で初登場したエアレイダー関連のセリフも印象的でした。例えば「要塞空母デスピナ」や「攻撃衛星ノートゥング」といった兵器類はセリフの中でしか登場しませんが,それがあるからこそ,さまざまな部隊が世界中で戦っていることが想像できるんです。
本間氏:
5ではセリフだけだった「潜水母艦パンドラ」も,6ではゲーム内に登場させることになったので,ようやくここまできたなという感じで,作り手としても嬉しいですね。
4Gamer:
「潜水母艦パンドラ」の登場は感慨深かったです。今までのシリーズでも巨大母艦はセリフだけの存在だったので,今回もまあ実際には出ないだろう……と思っていたら,実物が姿を現したわけですから。「潜水母艦パンドラ」のメカデザインは5の時点で存在していたのでしょうか。
五十嵐氏:
いえ,6で初めてデザインしました。プログラム的な仕組みがいろいろ足されていって,ああした大きなものを出せるようになったのでメカデザインをしましょうということになったんです。全長1kmもある超巨大母艦で,大砲1つ取っても非常に大きく,あまり現実感のあるスケールとは言えないものなんですけどね(笑)。
実は,甲板が開閉して中から戦闘機を出せるようにデザインしてあるんですが,残念ながら今回のミッションではそうした展開になりませんでしたね。
野口氏:
最初はかなり沖の方に置いておく予定だったんですよね。だから見えやすいように大きく作ったんですが,結局岸に配置することになった。
五十嵐氏:
あれを最初に見たときはびっくりしましたね。岸に浮かべていて「それじゃ水深が足りなくて座礁するでしょ」って(笑)。
野口氏:
本間にも「パンドラの位置は本当にこれでいいの?」と何度も聞かれましたね。ただ,巨大潜水母艦が海中からバーンと出てくるなら,大きく見えないと盛り上がらないと思って,私がかなりしつこく食い下がりました。
本間氏:
結局,野口の意見を汲んで岸にパンドラを置くことになりました。その状況をどうシナリオでフォローするかも私の役目ではありましたね(笑)。
ギリギリ生き抜けるバランスを目指す「地球防衛軍」のミッション作り
4Gamer:
6はタイムリープをテーマとしているので,同じようなミッションを繰り返しプレイすることがあります。悪い言い方をすれば“使い回し”と受け取られかねない部分ですが,不安はなかったのでしょうか。
本間氏:
特に気にしていませんでしたね。使い回しの何が悪いかというと,新要素を少なくする水増しやごまかし的なものだと思います。ただ,6で追加された新たな敵や要素は,5と同じかそれ以上の量があります。言い換えれば“新しいものを加えて量が倍増しているのだから,悪い意味での使い回しではない”と私たちは思っています。
岡島氏:
タイムリープの物語を描くには,前回と今回で歴史がどう変わったかの比較が必要です。そのためには同じミッションをあえて何度も見せる必要があるので,使い回しというよりは比較のための演出ですね。
野口氏:
内部的な話になりますが,システムも新しいものになっているので,5の時に使っていたスクリプトはもう動きません。なので,5と同じ展開があったとしても,スクリプトを作り直して確認を行い,一部のセリフを変えて……ということをしているので,むしろゼロから新しく作った方が楽なくらいでした。
4Gamer:
セリフも新たに撮り直しているのでしょうか。
本間氏:
必要に応じて撮り直しています。声優さんには,5年前の音声と混在した状態で違和感のない演技をしていただくことになるため,デリケートな作業となりました。使い回しをして楽になった,なんてことは全然なかったですね。
4Gamer:
ミッションを制作する際,内容はストーリー主導で決まっていくのでしょうか。
本間氏:
ゲームが面白いことが最も大事なので,すべてのミッションをストーリーに合わせた形で作ろうとはしていません。制作初期はストーリーの細部が明確に決まっているわけではないので,大筋に沿う形で面白くなるようにいろいろなミッションを作っています。
とはいえ,語らなければならないことはあるので,ストーリー重視にさせてほしいと言って作ったものもあります。それ以外は自由に制作してもらっていて,全体の半分以上がこちらに相当します。
野口氏:
タイムリープの各ループで何をするかは導入とオチの部分以外決まっていませんでした。ループの1周目は,過去に戻って,また戦うという,タイムリープでやるべきことを説明する。2周目は,ループした結果として新エイリアンが登場し,地球がメチャメチャにされるけれど奮起するという感じで,皆でいろいろ考えましたね。
ループしたプレイヤーが行動した結果として未来がこう変化した……という起承転結を1つのループごとに作ることを心がけていました。
本間氏:
当初は予定されていなかった要素もいろいろ追加されたんですよね。
野口氏:
先ほど話題に出た「潜水母艦パンドラ」はいい例ですね。当初はパンドラを救うミッションにしか登場する予定はなかったんですが,「せっかく助けたんだから,後のミッションでも出しちゃえ!」と,勢いで出すことを決めてしまいました(笑)。
本間氏:
想定外の要素という意味でキツかったのは魚人「スキュラ」の設定ですね。元々は水の邪神という設定でしたが,飛行する怪獣「グラウコス」がスキュラを召喚したら面白いんじゃないかという話が出て,実装することになりました。完全に後づけの設定だったので,シナリオ側でフォローするのがすごく大変で……。
野口氏:
ループ3周目に登場する敵の中で,スキュラとグラウコスの立ち位置が宙ぶらりんになってしまっていたんです。そこで3周目のコンセプトを「怪獣系の敵をどんどん登場させるループ」と決め,スキュラとグラウコスにつながりを持たせようと作り始めたら,けっこう大変なことになったんです。
本間氏:
まったく関係のなかったグラウコスとスキュラに関連性を作るわけですから,シナリオ的に最も難しいポイントでした。
野口氏:
とはいえ,「こうしたら面白いんじゃないか」という思いつきを取り入れ,これを作り込む作業は最後の瞬間までやるという心がまえで作っていました。調整していたら,最初に考えていた内容と全然違ったミッションになったこともありますが。
4Gamer:
話は少し変わるのですが,「地球防衛軍」における良いミッションというのは,どういうミッションなのでしょう。
野口氏:
一概には言えないと思いますがあえていうなら,序盤のミッションは「キャラクターの顔出し」がきっちりとできていて,後半になるにつれて「やりがいのあるミッション」になっていくという感じでしょうか。ユーザーの腕前もさまざまですが「采配によってギリギリ生き抜けるバランスのミッションをなるべく多く用意する」というのも大きな目標の1つです。
4Gamer:
ギリギリ生き抜けるバランスというのも,なかなか難しいテーマだと思います。
野口氏:
そうですね。ギリギリの基準を自分に合わせてしまうと,ユーザーには難しすぎるものになるので,いろいろな人の意見を聞きつつ,飛び出たところを潰しています。そうした意味で,ユーザーにとってのいいミッションは「難度調整が適切に取れていて遊びやすい」というところでしょうか。
4Gamer:
4以降は兵科が4つあり,敵の種類もどんどん増えていくわけですから,大変ですよね。テストプレイヤーの中でも意見が分かれたりするのではないですか。
野口氏:
どのミッションを難しく感じるかというのは人によってだいぶ違いますね。最難関になるように調整したミッションも,社内で別の人間に遊ばせるとそう感じないということもあって,毎回悩まされます。
本間氏:
人によって苦手種目が違うんですよね。私が難関と感じるところも,ほかのスタッフはまったく引っかからないようなこともありますし,同じミッションでも武器やアーマーを稼ぐとそれで難度が変わってしまうため,正解を見つけるのが難しいのです。
敵単体の例を挙げると,小さなイカのような姿をした「ヘイズ」は,開発終盤ギリギリのタイミングでマイルドにする調整をしました。倒すと黒いスミをまき,視界を遮って邪魔をするのがコンセプトではあるんですが,スミの広がりが少し大きくなるだけで,人によっては,プレイが著しく阻害され,まったくクリアできないということになっていました。
4Gamer:
難度を上げるにしても,単に敵の数が増えるだけといった調整はされていませんよね。
野口氏:
敵のアルゴリズムや動作速度といった部分が調整の要になっています。
また,マルチプレイだとターゲットが分散しますから,難度や印象が変わってくるんですよね。こうした部分も含めて多くのユーザーが楽しめるようにするためには,チェックを繰り返すしかないんです。
本間氏:
現場にはミッション製作用のツールがあり,社内の誰でも作れるようにはなっているんですが,製品に収録されているのは,ほとんどが私か野口の作ったミッションです。適当に敵味方を配置しただけでは面白いミッションにならないので,センスが必要なんですが,そのセンス自体はなかなかうまく説明できないんですよ。
「NORMAL」で楽しく遊べ,「HARD」や「INFERNO」だと手応えを感じられ,オンラインで4人が揃った状態でもしっかり遊べる……これらすべてを満たすミッション作りはかなりテクニカルですね。正直なところ,ストーリー重視のミッションだと,そこまで手が回っているかどうか怪しいところがあります。
4Gamer:
チェックも作るのも大変ということですが,ミッション数は作品を経るごとに増えています。4では94,4.1では98,5では111(※いずれもDLC除く)と増えていき,6では147になりました。やはり「前作のミッション数を超えよう」という意識があるのでしょうか。
本間氏:
いえ,むしろ逆で毎回「ミッション数を減らそう」といって新作の開発にかかるんです。ただ,終わってみるとなぜかこうなっているんです。
野口氏:
今回は最初にあげた草案の時点でミッション数が100を越えていたので,5を超えるだろうなとは個人的に思っていましたが(笑)。
本間氏:
似たようなミッションを3〜4個作り,どれが一番面白いか試してみるということもやっているのですが,その結果「選ぶのにエネルギーを費やすくらいなら,残りも面白いから収録しよう」となることもあるんですよね。
野口氏:
ストーリーを説明するミッションは削れないので,そのぶん数が増えることにもなりますね。6は導入→転換点→最終決戦の流れがループの数だけ繰り返されるので,こちらもミッション数が増える要因のひとつになっています。
4Gamer:
あと,ミッション関連で1つ聞きたかったのが,アイテムの回収システムに関してです。敵を倒すと出現するアイテムの自動回収機能が追加されないのはなぜなのでしょうか。
本間氏:
これはミッションやゲームの設計にも関わる難しい点です。具体的に言うと,敵陣の中にアイテムを取りに行くか否かを選択させるというゲーム性があるからです。
4Gamer:
武器やアーマーを回収式ではなく,クリア報酬にするとそのゲーム性が失われると。
本間氏:
社内でもドロップしたアイテムを自動回収するシステムを試験的に入れたことはあるんですが,すごく淡泊なゲームになってしまいました。ただひたすら逃げながら撃っていればいいので,同じような戦いを繰り返すだけになる。状況判断させる部分の要素が削られてしまい,いろいろな戦略や選択がごそっと抜け落ちてしまう。結果,ゲームとしての面白さが落ちてしまうんです。
4Gamer:
確かに,体力が減ってきた時はアイテムを取るか否かの状況判断のおかげでスリルを味わえますよね。
野口氏:
今の「地球防衛軍」を構成するゲームシステムが,アイテムのドロップと密接に絡み合っているので,今のままのシステムである以上,アイテム回収をなくすことは考えていません。
とはいえ,現在も逃げながら撃って出たアイテムを後でまとめて回収するという流れになりやすいのは確かで,改善したい部分ではあります。「プレイヤーの行動に選択肢を増やす」という目的を果たせる良いアイデアを思いつけば,変えることはあると思いますが,代替案を思いつかないのが現状です。
キーワード
(C)SANDLOT (C)D3 PUBLISHER
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