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[GDC 2024]動物カフェシム「カリコ」はゲームデザインよりもプレイヤーの願望を大切にした。開発者が分析した事後検証のセッションを紹介
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印刷2024/03/21 20:03

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[GDC 2024]動物カフェシム「カリコ」はゲームデザインよりもプレイヤーの願望を大切にした。開発者が分析した事後検証のセッションを紹介

 2020年にリリースされた動物カフェシミュレータ「カリコ」PC / Switch)は,Nintendo Switchのダウンロードソフト売上ランキングで7位にランクインするなど,インディーゲームとしてはヒット作となった。

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 そんなカリコのクリエイターであるKells Tate氏が,ポストモーテム(事後検証)講演「Connection Over Purrfection: A 'Calico' Postmortem」を,Game Developers Conference 2024で行った。Tate氏自身の経歴や本作のコンセプトの変遷,ゲームデザインの決定理由,そしてマーケティングの方針や成功の基準といったことが語られた講演内容を紹介しよう。

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 Tate氏はミネソタ州の企業でQA職からゲーム業界に入り,コンピューターサイエンスとイラストレーションを大学で学んだのちに中退。そして2017年に奨学金を得てGame Developers Conferenceに参加したことがきっかけとなり,自身でゲーム制作に乗り出すことになったという。

 カリコの開発は“猫カフェと魔法少女がテーマ”というアイデアから出発したが,ゲーム制作の専門知識や予算が足りず,当初目指していた本格的なシミュレーションゲームを作ることは現実的ではなくなった。そこでTate氏は自身の長所を生かし,独自要素に注力することを決意する。

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 X(旧Twitter)などのプラットフォームを活用し,投稿した企画のGIFアニメーションがどのような反応を呼ぶかフィードバックを集めながら,「プレイヤーの願望を叶える体験」ということをゲームのキーコンセプトにすえた。具体的には,大きな動物に乗ったり,自由に服を着せ替えたりと,リアルな世界では体験できないことをゲーム内で実現することが大きな魅力になると考えたという。

 ゲームの構造自体はシンプルにし,プレイヤーに自由を与えてそれぞれ好みの部分に専念できるようにデザインした。バービー人形をポケモンの家で遊ばせるような,想定外の遊び方をしてもらうことにしたという。

 一方で,ゲームにはリアリティも必要と考え,キャラクターの動きは物理演算を用いて,現実的なものにした。その影響で体が不規則に動くようになり,バグのようにも見えていたが,プレイヤーから非常に好評だったため,あえて残すことを選んだ。制限をかけずに自由度を上げた結果,プレイヤーの体験がより楽しく“アクティブ”なものになったのだ。

 ストレス解消やリフレッシュを求めるプレイヤーに向け,ゲーム体験においても「くつろげる安らぎの空間」という側面を強く意識した。難しい操作やストレスを高める要素の実装は避け,多くの人が安心できるゲームを目指して開発を進めていったという。

 また,キャラクターの多様性を確保し,多くのプレイヤーが疎外感なく遊べるよう,細かな配慮を怠らなかった。意図的に排除するのではなく,包括的な表現を心がけたのだ。

 さらに発売当初から他タイトルとの差別化を図るため,鮮やかなピンク色を基調にした独自のカラーパレットの制作にも時間を費やした。ほかにも,当時あまり見られなかった魔法少女やウィッチといったキャラクターモチーフを取り入れ,同ジャンルの作品とは一線を画す路線を打ち出したという。

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 このようなユニークさを追求した結果,カリコはニッチな層にも受け入れられた。Tate氏自身が好んでいたスタイルを反映させたことで,想定以上に幅広い年齢層のプレイヤーから支持を集められたという。

 広告展開は誠実さに注力した。いわゆる釣りイラストで関心を集めるといった手法は取らず,キービジュアルでプレイ時の雰囲気を正確に伝え,ゲームに対する期待値を無理に高めないよう心がけたそうだ。発売当初は「期待はずれ」といった声もあったが,次第にコアなファンが増えていき,最終的には「人生で最も落ち着く空間」と言われるゲームになった。

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 またTate氏は,ゲーム開発の現場でメンバーそれぞれの個性や事情に寄り添うことが不可欠だと説く。自身もADHDの傾向があり,スタッフ全員にもなんらかの“個性”があった。制作を通してメンバーの多様性を尊重し,柔軟な働き方を受け入れたことで,ゲームにもユニークでバリエーション豊かな表現が生まれたのだという。

 ちなみに,Tate氏は開発期間中に妊娠し,発売時には6か月の身重だったそうだ。つわりなどで制作に支障が出るなか,「パブリッシャの手厚いサポートのおかげで何とか発売できた」ことも語られた。

 Tate氏は,“ゲームよりも人間”を最優先する現場であったと振り返る。その方針のおかげで,制約の多い環境でありながらも,自由でクリエイティブな発想を形にできたのかもしれない。

 Tate氏はこうした開発の裏側を語り,最後に以下のメッセージで講演を締めた。

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 「本当の“成功”とは,ゲームの売上やメディアの評価ではありません。それよりも,ゲームを心から愛してくれる人々の存在に意味があるのです。クリエイターとして,プレイヤーからそんな言葉をいただけることが,何よりの喜びです」。

 ゲームを通して人々に“安らぎ”を提供できたこと。それがTate氏にとって最大の“成功”だったのではないだろうか。

Kells Tate氏
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