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カプコンのゲームづくりを実際に体験しながら学ぶ。「CAPCOM: オープンカンファレンス RE:2022」レポート
このイベントは,2019年に開催された「CAPCOM: オープンカンファレンス RE:2019」の後継イベントとなるもの。ゲーム開発における開発環境,手法,ワークフローなどを公開するイベントで,講演のみだった前回から,一部フローが体験形式に変更となり,より分かりやすくゲーム開発の流れを確認できる内容になっている。
今回4Gamerは,カプコン 基盤技術研究開発部 テクニカルディレクター伊集院 勝氏の案内のもと,会場を回り,実際に体験※してきたので,その内容をお届けする。なお,本イベントの大阪回は9月30日に終了しており,次回開催は10月14日,15日に開催される東京回となるが,こちらもすでに予約が埋まっているとのことだ。
※体験コーナーは感染症対策のため,QRコードを使用した予約システムが用意されていた
「CAPCOM: オープンカンファレンス RE:2022」公式サイト
1.全てはここから,企画立案
会場には7つのテーマに対し,21のブースがあり,それぞれ映像コンテンツや体験コンテンツが用意されていた。
最初のテーマは,「全てはここから,企画立案」。ここでは,映像コンテンツのディレクターインタビューと,2タイトルのコンセプトアートに関するパネルが設置されていた。
ディレクターインタビューには,「モンスターハンターライズ」(以下,ライズ)ディレクターの一瀬泰範氏と,「バイオハザード ヴィレッジ」(以下,ヴィレッジ)ディレクターの佐藤盛正氏が出演。タイトルコンセプトや技術的アプローチが語られた。なお,こちらの映像はYouTubeに同一のものがアップされているので,内容が気になる人はぜひチェックしてほしい。
コンセプトアートのパネルは,コンセプトアートのパネルは,ライズのパッケージモンスターであるマガイマガドと拠点であるカムラの里,ヴィレッジのドミトレスク夫人とキーアートのデザインの変遷が紹介されていた。
2.面白さの設計,プロトタイピング
2つめのテーマは,「面白さの設計,プロトタイピング」。プロトタイピングとは「試作」という意味で,ここではアセットの配置やフリーカメラによるフィールド探索,当たり判定の確認などを体験できた。
アセットの配置によるレイアウト体験では,ヴィレッジに登場するキーアイテム「巫女のクレスト」を実例として用意。小屋の中に机やロウソク,クレストを配置するのだが,どのように配置すればプレイヤーがキーアイテムを見逃さないかという思考を体験できた。
フリーカメラによるフィールド探索では,ライズの大社跡の生態系や処理最適化の技術が紹介された。伊集院氏によると,ライズでは少しでも処理負荷を軽減するために,フィールドの遠景は極力シンプルな構成にし,ふつうは見られない景色の裏側はそもそも描画しないようにしているという。
当たり判定の確認はヴィレッジを使って紹介されていた。判定には,押し当たり,地形当たり,攻撃当たり,効果当たりの4つがあり,それぞれ使う形状や大きさも異なっているとのこと。モニタには左にゲーム画面,右に当たり判定のみが表示されており,実際に動かしながら,どんな判定が出ているかを確認できた。
3.より美しく!より速く!アセット作成
続いてのテーマは,「より美しく!より速く!アセット作成」。ここではキャラクターアセットのワークフローとフェイシャル技術,リギング作業を効率化するシステム,カットシーンの制作現場,攻撃エフェクトの調整に関する映像コンテンツが用意されていた。こちらは時間の都合ですべてに目を通すことはできなかったので,かいつまんで概要を紹介したい。
キャラクターアセットのワークフローでは,ヴィレッジにおけるハイエンドグラフィックスを作るための方法と,ライズにおける過去作からの継承が映像で紹介されていた。
フェイシャル技術については,多様なキャラメイクができるライズで,キャラメイクと表情の変化が不自然にならないよう,いかにうまく融合されているかが紹介された。また,体験コーナーでは,アイルーやハンターの表情に配置されたジョイントがどのようにコントロールされているかを確認できた。
リギング作業とは,リグ(関節)を調整する作業のこと。カプコンではリガーと呼ばれる専門職にすべて一任することで,リギング作業の効率化に成功しているという。
AAAタイトルの品質を目指したというヴィレッジでは,カットシーンの撮影を実際のハリウッドで撮影したとのこと。ハリウッドでは高品質な演技とフェイシャル(表情)を同時収録できるメリットがあるそうで,実際の映像と共に撮影工程が紹介されていた。
攻撃エフェクトの調整では,エフェクトを作る目的や意図を解説しつつ,実際に見た目と内容をすり合わせていく工程が紹介された。エフェクトの調整はゲームプレイの納得度につながるものであり,ここがおろそかになってしまうとプレイヤーからの不満の声が大きくなってしまうそうだ。
4.魅力を創出,キャラクター制作
4つめのテーマは,「魅力を創出,キャラクター制作」。ここではモーションマッチングとモンスターのアニメーションの秘密,敵AIの作成について紹介された。
モーションマッチングとは,Ubisoftが開発した「モーションキャプチャデータから場面ごとに適したデータを選択する手法」のこと。導入理由や技術概要が紹介されたほか,実際にドミトレスク夫人などを動かして,どのモーションが自然に選択されているかを確認できた。
モンスターのアニメーションの秘密では,ライズに登場するメル・ゼナとティガレックスを例に,視線移動や自然な動きに見せる羽ばたき,地形によって傾きや重心を変更するパラメータ調整などが紹介された。ふだん遊んでいるととくに気にならないが,比較画像を見るとその差は一目瞭然で,これらの調整を加えることで生物としての納得感につながっている。
敵AIの作成では,ヴィレッジに登場するライカンの群れを例に,ゲーム体験とホラー体験を両立するためにどのようにAIが調整されているかが紹介された。
ヴィレッジはホラーゲームであり,怖さをフィーチャーしているが,ゲームの難度としてはそこまで高くないという。ただし,ホラーゲームは簡単すぎると怖さが薄まってしまう面があり,そこをどう両立させるか。今回提示された例はライカンの群れだが,一見すると画面に5体もの敵がいて,突破するのは難しそうに見える。しかしライカンのパラメータを確認すると,プレイヤーに襲い掛かってくるのはピンク色で表示された2体だけであり,順に処理していけばそこまで苦労しないという寸法だ。
5.手応えと課題の確認,中間チェック
5つめのテーマは,「手応えと課題の確認,中間チェック」。カプコンでは,制作の途中で1度完成に近いビルドを作り,ゲームのコンセプトや目的,難度を調整するという。ここで使われるビルドは「バーティカルスライス」と呼ばれるそうで,今回は実際に使われたものが用意された。
6.もうひと押し!完成度向上
6つめのテーマは,「もうひと押し!完成度向上」。いよいよ佳境とも言える本テーマでは,リアルタイム通信のテクニック,シェーダー表現,デバッグなどに使われるDIP機能,シーンメモ,マップの自動画像化フローが紹介された。
リアルタイム通信のテクニックでは,ライズを例に快適なマルチプレイがどのように実現されているか,その裏側が映像コンテンツで紹介された。ここもすべてに目を通せなかったため,一部を紹介するが,ライズではある程度プレイヤー間のアクションのズレは許容し,ワープ対策を行っているという。
というのも,ライズの4人プレイですべてのデータを転送してしまうと,莫大な情報量になってしまい,現実的ではなくなってしまうそうだ。それらの情報群を削減するため,ある程度のズレを許容したデータ転送を行い,おかしくなりそうな部分はゲーム側で調整しているわけだ。
シェーダー表現のコーナーでは,ライズで使われた提灯や風車のシェーダーの仕組みが紹介された。シェーダーとは,3Dオブジェクトのシェーディング(残影処理)をするプログラムのことで,おもに質感表現や画面効果などに使われるが,それだけに限らず,特殊な表現にも用いられているという。
例えば,風車シェーダーであれば,モデル自体を回転させるのではなく,シェーダーを使って回転や揺れなどを表現している。
続いて紹介されたDIP機能は,おもにデバッグ作業などで重宝する機能で,キャラクターを無敵にしたり,移動速度を高速化したり,モンスターを弱体化したりと,ふだんのゲームプレイではありえない状況を簡単に再現できるものとなっている。DIPと聞いてピンとくる人もいると思うが,アーケード基盤のDIPスイッチが名前の由来とのこと。
シーンメモ機能はゲーム内に付箋のようにコメントを残せる機能。文章や口頭の連絡だけではわかりにくいことも多いため,シーンに直接的にメモを貼れるようにし,より精度の高いコミュニケーションを実現したという。
マップの自動画像化フローは,4つの画像を自動的に出力し,合成し完成されるというもの。最終的にはUIデザイナーが描き込みを行うが,一部作業が簡略化されたことで,分かりやすさの向上に注力できるようになったそうだ。
7.ラストスパート!!製品化に向けて
最後のテーマは,「ラストスパート!!製品化に向けて」。ここでは,QA業務における開発との連携と,低容量パッケージを実現するアセット管理について紹介された。
QA業務において重要なのは,開発者のほしい情報を過不足なく報告できることだという。バグチェックでは人の目で見た情報も重要だが,同時に内部情報も自動で読みだして,RE ENGINEを介して報告されるシステムが組まれているそうだ。人力だけでは漏れがちな情報を拾い上げることで,より精度の高いQA業務を実現している。
コンテンツの最後は,パッケージ容量を削減するアセット管理について。4Kグラフィックスが一般化した今,通常の制作では大規模タイトルの容量は300GBを超えるという。これをそのままユーザーに提供するのは厳しいため,RE ENGINEでは大量のファイルから必要なものだけを自動的にリストアップする機能が搭載されているとのこと。そのほか,さまざまな削減機能により,ヴィレッジとライズの実販売時の容量は両タイトルとも20GB台の容量に収まったそうだ。
会場を1周回った後は,案内役を務めていただい伊集院氏への質疑応答がメディア合同で行われた。こちらを最後に紹介して,本記事の締めくくりとしたい。
――オープンカンファレンス RE:2019もそうですが,今回のようなイベントを開催する意義や目的をどのように考えていますか。
伊集院氏:
開催目的は,情報発信による業界への貢献になります。前回開催時も目的は同じだったんですが,業界関係者向けの内容になっていたことと会場のキャパシティの問題で,学生の方などを呼ぶのが難しかったという課題が残りました。
今回は方針を変え,学生と社会人,どちらの方にも興味・関心を持っていただけるよう,講演形式だけの内容から体験形式を織り交ぜました。また,新しい伝え方を模索することで,従来型のカンファレンスから1歩踏み出したチャレンジをするという目的もあります。こういった変更によりさまざまなフィードバックが得られることを期待しています。
――カンファレンスではカプコンの開発の流れが紹介されていますが,カプコンは他社の開発の流れを把握しているのでしょうか。
伊集院氏:
業界関係者と横のつながりはあって情報交換の機会もありますが,体系的にまとまった情報というのはなかなか得られません。それぞれの企業にはその風土がありますし,これまで積み上げてきた開発の歴史がありますので,その本質も含めて把握しているかと言われると難しいところです。
ただ,我々にも他社のさまざまな開発情報を知って自分たちの開発に生かしたいという思いがあります。それであればまず,我々が積極的に情報を開示していくことが重要だと考えています。
――オープンカンファレンス RE:2019のときは,開催後に他社からの情報提供などはありましたか。
伊集院氏:
アンケート形式でフィードバックをいただきましたが,その中では我々が提示した情報に対しての反応や気付きなどのご意見や感想などが得られました。最近はカプコンも含め,独自にカンファレンスを行う企業も増えていますし,CEDECの開催規模も拡大しています。我々がアクションすることで,業界内の情報オープン化の動きがより活発になることを期待しています。
――すでに参加者の応募は締め切られており,大阪会場も東京会場も満員御礼とのことです。率直な感想を聞かせてください。
伊集院氏:
応募総数が約2500人,参加者の内訳は学生が6割,社会人が4割くらいの割合でした。このように非常に多くの方にご応募いただけて,大変うれしく思います。一方でコロナ禍ということもあり東京・大阪両会場の合計で,キャパシティを1300人とさせていただいた結果,約半数の方に残念なお知らせをする形になり,申し訳ない気持ちでいっぱいです。
そのため,急遽ではありますが,大阪開催の手ごたえが好評で,皆様のご協力により感染症対策が守られていたことや,東京会場の会場面積を広く確保していることを踏まえ,当選者数をプラスし,約1400人とすることになりました。追加枠に入った方にはあらためてご連絡させていただきます。
「CAPCOM: オープンカンファレンス RE:2022」公式サイト
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