[GDC 2025]オープンワールドの探索意欲を高める9つの手法──元RockstarのCameron Williams氏が語る「徹底ガイド」
![]() Cameron Williams氏 |
オープンワールドデザインの共通課題
Williams氏は講演の冒頭で,オープンワールドゲームが抱える普遍的な問題点を指摘した。「プレイヤーが探索しない」「時間投資に対する見返りが不明確」「メインパスから離れたコンテンツに興味を持たない」といった課題が,多くのオープンワールドゲームに共通して存在するという。
![]() Williams氏が提案する3つの要素から成る体系的アプローチの概念図 |
これらの問題に対処するため,Williams氏は「ツール」「境界線」「モジュラーな設計アイデア」という3つの要素から成る体系的なアプローチを提案。また,開発チームに共通の設計言語を提供することで,プレイヤー体験の質を向上させる方法を解説した。
1. 結果予測(Consequence Forecasting)
オープンワールドコンテンツにおいて最も重要な要素の一つが「結果予測」だとWilliams氏は強調する。これは,プレイヤーがコンテンツに取り組む前に,その結果や報酬を明確に理解できるようにすることだ。
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この考え方の基礎となるのは,Telltale Gamesの「The Walking Dead」シリーズで用いられた「即時的反応」と「長期的反応」のフレームワークだという。Williams氏によれば,プレイヤーの選択に対する結果が明確に示されることで,プレイヤーの満足度が高まるそうだ。
Williams氏はオープンワールドコンテンツにおいて,「結果予測」を以下の3段階に分けて設計することを提案した。
- ゴールド(完全予測):マップマーカー,報酬内容の明示など,あらゆる形で結果を予測できる
- シルバー(部分予測):マップには表示されないが,近づくと発見できる。完了までの進捗が表示される
- ブロンズ(予測なし):秘密のコンテンツ。発見自体が報酬となる
Williams氏は「予測のレベルによってプレイヤーの選択肢が変わる。どのレベルのコンテンツがゲームに最適かは,ゲームの性質によって異なる」と述べた。
2. 限定的再帰性(Limited Recursion)
「無限に続くように見えるコンテンツチェーン」はプレイヤーを萎縮させる原因になるとWilliams氏は指摘する。プレイヤーが「このクエストにどれくらいの時間を投資する必要があるのか」を事前に理解できるようにすることが重要だ。
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プレイヤー投資目標(Player Investment Goals)を設定し,コンテンツタイプごとに完了に必要な時間をおおよそ統一することで,プレイヤーは自分の時間をどう使うか,より良い判断ができるようになる。例えば
- コレクティブル:5~15秒
- オープンワールドイベント:30~50秒
- サイドミッション:200~350秒
この投資時間の明確化に加えて,「分析麻痺(Analysis Paralysis)」を避けるための手法も紹介された。Williams氏は,Call of Dutyのレイドモードにおける報酬構造の例を挙げ,選択肢があまりに多いと,プレイヤーの決断力が低下することを実証データとともに示した。
「2000年に行われたジャムの販売実験では,24種類のジャムを提示したグループより,6種類だけを提示したグループのほうが購入率が高かった」とWilliams氏は説明する。選択肢を適切に制限することで,プレイヤーの意思決定プロセスを円滑にできるという。
3. コンテンツブロードキャスティング(Content Broadcasting)
プレイヤーが世界のどこにいても,新しいコンテンツを発見できるようにするための手法として,「コンテンツブロードキャスティング」が紹介された。これは,ゲーム世界の各地域が持つ特徴や情報を,プレイヤーに効果的に伝える仕組みだ。
Williams氏は「The Elder Scrolls V: Skyrim」(PC/PS5/Xbox Series X|S/PS4/Xbox One)を例に挙げ,「影響圏(Influence Zones)」の概念を説明した。これは,特定の地域内のコンテンツが,その地域に関する情報やヒントをプレイヤーに提供するというアイデアだ。
![]() 影響圏(Influence Zones)の概念図 |
例えば,ある地域で出会うNPCが「ホワイトラン(White Run)という街の牢獄から脱出してきた」と語れば,プレイヤーはその街に牢獄があることを知り,興味を持つかもしれない。このように,地域ごとの情報を適切に配置することで,プレイヤーの探索意欲を高められるという。
さらに,プレイヤー間の社会的相互作用を活用した「ソーシャルブロードキャスティング」の手法も紹介された。「Sleeping Dogs」の自動的に起動するドライビングチャレンジや,「インフィニティニキ」(PC/PS5/iOS/Android)の写真共有機能など,ほかのプレイヤーの活動がコンテンツの発見につながる仕組みが有効だという。
4. ランドマークの特異性(Landmark Specificity)
オープンワールドにおける効果的なランドマークの設計については,「8の法則(Rule of 8)」が提案された。これは,ランドマークが少なくとも8つの異なる視点から視認できるべきだという考え方だ。
Williams氏は「バイオハザード ヴィレッジ」(PC/Mac/PS5/Xbox Series X|S/PS4/Xbox One/iOS)に出てきた城を例に挙げ,プレイヤーの位置把握を助ける視覚的なアンカーポイントとしてのランドマークの重要性を説明した。「プレイヤーに選択肢を与えるには,ランドマークが明確に区別できなければならない」と強調する。
また,「Call of Duty: Modern Warfare 3」(PC/PS5/Xbox Series X|S/PS4/Xbox One)のオープン戦闘ミッションにおけるプレイヤーの動きを分析したデータを示し,視覚的に目立つランドマークにプレイヤーが自然と引き寄せられることを実証した。プレイヤーの移動パターンを制御するには,ランドマークの視認性とデザインが極めて重要だという。
![]() 「8の法則」に基づくランドマークの視認性分析例 |
5. コンテキスト割り当て(Context Assignment)
オープンワールドの探索要素に意味を持たせるには,適切な「コンテキスト(文脈)」が必要だとWilliams氏は説明する。プレイヤーがシステムを理解し,それに意味を見出すためには,ゲームのメインストーリーや重要な要素と関連付ける必要があるという。
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この手法を実現するために「コンテキスト発見計画(Context Discovery Plan)」の作成が提案された。これは,オープンワールドのコンテンツをメインミッションの流れに沿って配置し,プレイヤーが自然に発見できるようにする設計図だ。
たとえば,フィッシングミニゲームを紹介するなら,メインストーリーのミッション中に自然な形で登場させ,コンパニオンキャラクターとの会話を通じてその魅力や意義を伝えるといった手法が効果的だという。
また,「Mafia 3」(PC/PS4/Xbox One)のように地域ごとに異なるテーマや背景を持たせることで,探索に文脈を与える手法も紹介された。地域の特性がゲームプレイに影響することで,プレイヤーの選択に意味が生まれるという。
6. コンテンツ拡散パターン(Content Diffusion Patterns)
オープンワールドにおけるコンテンツの配置パターンとして,Williams氏は以下の4つを紹介した:
2. ホットスポット:特定の関心地点周辺にコンテンツを集中させる
3. 放射状:中心点から周囲に向かってコンテンツを広げる
4. 時間ベース:プレイヤーの移動速度に基づいて一定間隔でコンテンツを配置
「最も効果的なのは,これらのパターンを組み合わせることだ」とWilliams氏。また,「コンテンツケイデンスルール(コンテンツをどの程度の頻度/タイミングで公開するかを戦略的に定めた計画やルール)」として,プレイヤーが世界を探索する際の遭遇頻度に関する設計指針も示された。これは「プレイヤーが少なくともX秒ごとに何らかの興味を引くコンテンツに遭遇すべき」というルールだ。
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Williams氏は「オープンワールドイベントは30秒ルール,コレクティブルは40秒ルール,サイドミッションは120秒ルールに従うべき」と提案。これらのルールに従ってコンテンツを配置することで,プレイヤーが「何もない」と感じる時間を最小限に抑え,継続的な発見の喜びを提供できるという。
選択した拡散パターン(トレイル,ホットスポットなど)に関わらず,このケイデンスルールを適用することで一貫した探索体験が実現できるとのことだ。
7. 二重処理理論(Dual-Process Theory)
ゲーム開発における心理学的アプローチとして,Williams氏は「二重処理理論(Dual-Process Theory)」の応用を提案した。これは人間の思考を「システム1(無意識・自動的・速い)」と「システム2(意識的・熟考的・遅い)」に分ける理論だ。
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Williams氏によれば,プレイヤーがゲームを20時間以上プレイすると,行動が自動化し,探索に対する意欲が低下する傾向があるという。「長時間プレイしたプレイヤーを再び『システム2』の思考モードに戻すコンテンツを設計することが重要だ」と強調する。
具体例として「ワンダと巨像」が挙げられた。プレイヤーは最初の巨像を倒した場所を,後のゲームプレイで再び訪れることになるが,その際には新しい文脈(次の巨像への道)で見ることになる。同じ場所でも異なる目的を持たせることで,プレイヤーは意識的に環境を再評価するという。
8. モジュラーステージドコンテンツ(Modular Staged Content)
限られた開発リソースでより多くのコンテンツを提供するための手法として,Williams氏は「モジュラーステージドコンテンツ」を提案した。これは,同じ場所やNPCを異なるコンテキストで再利用する方法だ。
例として,「酔っ払った男性を町まで送り届ける」という単純なミッションを挙げ,後に同じ場所に戻った際には「熊に襲われた酔っ払いの男性を助ける」というバリエーションを提供する手法を説明した。基本的な要素(場所,キャラクター)を保ちながら文脈を変えることで,プレイヤーに新鮮な体験を提供できるという。
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「プレイヤーが作り出す物語」を重視するこのアプローチは,開発リソースを効率的に使いながらも,世界の反応性を高める効果があるとWilliams氏は主張する。
9. プレイヤー主導のストーリーテリング(Player-Driven Storytelling)
最後の手法として,Williams氏はプレイヤー自身が物語を作り出す余地を残すことの重要性を説明した。オープンワールドの醍醐味は,予期せぬ出来事や偶然の出会いから生まれる個人的な物語にあるという。
「Red Dead Redemption 2」(PC/PS4/Xbox One)の例を挙げ,ランダムイベントが後の展開につながる仕組みや,プレイヤーの行動に世界が反応する設計が,探索のモチベーションを高めると説明した。「プレイヤーが自分の行動によって世界が変わると実感できれば,探索への意欲も高まる」とWilliams氏は結論づけた。
体系的アプローチの重要性
Williams氏は講演の最後に,オープンワールドデザインにおける体系的なアプローチの重要性を強調した。「各手法は単独でも効果的だが,最も重要なのは,一貫した設計言語を構築し,プレイヤーが探索のルールを理解できるようにすることだ」と述べている。
また,すべての手法がすべてのゲームに適しているわけではなく,各プロジェクトの特性や目標に合わせて適切なものを選択すべきだとも指摘した。「オープンワールドデザインに完璧な解決策はないが,これらの手法を理解し応用することで,より魅力的な探索体験を提供できる」というメッセージで講演は締めくくられた。
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