プレイレポート
殺人鬼の老人に追われながら,無力な主人公は謎を解けるのか。サイコホラー「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ」プレイレポート
「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ」は,イタリアのDARRIL ARTSとStormind Gamesが2018年に発売したサイコホラーゲームだ。2019年には日本国内でもSwitch版がDICOから配信されていたので,聞いたことがあるという人もいるかもしれない(現在は配信停止中)。音楽は「ファイナルファンタジー」「Halo」「メタルギアソリッド」シリーズに携わった戸田信子氏と,イタリアの音楽家で「Mine」「Watch Them Fall」などの映画作品に関わったLuca Balboni氏が手がけている。
今回3gooから配信されるのは,先のDICO版に改善を施したSwitch版「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ リマスター」と,これと同等の内容を持つPS4版「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ」である。“DICO版を改善した3goo版が,今回SwitchとPS4に配信される”と言い換えてもいいだろう。
改善の内容は「全編にわたるローカライズの改善」「質感・グラフィック・テクスチャーのクオリティー改善」など多岐にわたり,Switchは先のDICO版があるためタイトルに“リマスター”が付き,初の配信となるPS4版には“リマスター”が付かない……というちょっとややこしい事情もある。
制作を指揮するChris Darril氏は,ホラーゲームの名作「クロックタワー」に魅せられた人物で,2009年に「クロックタワー」のファンリメイク「Remothered」の開発をスタートしていた。一旦プロジェクトはキャンセルになったものの,Darril氏は,「クロックタワー」を作った河野一二三氏の新ホラーゲーム「NightCry」にも参加している。その後,Darril氏は,再び「Remothered」を制作するためにStormind Gamesとのパートナーシップを締結し,2018年にはトリロジーの初回作「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ」をリリースした。
そんなDarril氏が手掛けた「リマザード」は,言うまでもなく「クロックタワー」からの影響が色濃く表れている。
本作の主人公・ローズマリーは,行方不明になった少女・セレステの行方を探るべく,その親であるフェルトン博士の元へと赴くのだが,なぜか博士にすげなく追い返されてしまう。ただローズマリーはここであきらめず,手がかりを得るために夜の屋敷に不法侵入する。しかし,そこには昼間と打って変わって錯乱した博士が鎌を片手に徘徊していた。捕まると殺されてしまう恐怖の中,ローズマリーは一人で館を探索しなければならないのだ。
本作をひとことで表現するなら,“無力な一般人が殺人鬼に追われながら謎を解いていくゲーム”と言えるだろう。ローズマリーはただの一般女性であり,戦闘にはまったく向いていない。そうした事情を反映してか,体力ゲージやコンパス,レーダーマップといったものもないため,プレイヤーは自分のコンディションや居場所すら正確に把握できない。
対するフェルトン博士は,年こそ取っているが理性のタガが吹っ飛んでいて戦闘能力は高い。全裸に前掛けのみを装備した“裸エプロン”状態で鎌を片手に屋敷を徘徊しており,こちらを見つけ次第追ってくる。鎌で斬り付けられるとローズマリーの体力が減少し,ゼロになると死亡してしまううえ,捕らえられた際のミニゲームに失敗しても殺されてしまう。
逆に,ローズマリーがフェルトン博士を完全に倒す手段はなく,後述する手段で撃退してもそれは一時的なものだ。しばらくすると何事もなかったかのように復活してくるのだから厄介極まりない。
博士とは出会わないのが一番だが,屋敷を徘徊しているため,完全に出会わないようにするのは難しい。なるべく接触を避けるために重要なのが,博士が立てるさまざま“音”である。ドアを開閉すると音がするし,歩き回りながらこちらを罵ったり,童謡を歌ったりもする。全身の神経を研ぎ澄ましてこうした音を聴き取り,博士のおおよその位置を掴み,遭遇しないように動くのだ。
屋敷は薄暗いうえ,博士に捕まると危険なため,ついつい手持ちのライトを点けたり,走って素早く用事を済ませたりしたくなる。しかし,そんなことをすると余計に見つかりやすくなるのがもどかしい。すぐにも逃げたいのに走れないというジレンマが焦燥感を掻き立て,近づいてくる博士の声が恐怖を増幅させるのだ。ちなみに,博士のお気に入りの歌は「ゆかいな牧場」。本来は暢気な童謡なのだが,本作では闇の向こうから聞こえてくる度に,びっくりして指を止めてしまうほどの恐怖の歌だ。
博士に対抗する手段は,家具に隠れたり,日用品を用いて防御したりすることだけ。屋敷にはソファーやクローゼットといった隠れ場所が点在しており,うまく逃げ込めばやり過ごすことができる。とはいえ,博士に発見された状態ではさすがに隠れることもできないため,まずは走って振り切らなければならない。
ただでさえ怖い状況なうえ,博士に追われるうちに自分がいまどこに居るのかが分からなくなるようなこともあり,どんどん恐怖が増していく。たとえ隠れることができても,博士が近くに来るとローズマリーが動揺し,ミニゲームが発生する。失敗すると見つかってしまうので,隠れながらも「近くに来ないでくれ」と願うことになるはずだ。
こちらは博士を退けることしかできないが,博士はこちらを殺せるという状況は,理不尽だが不気味なリアリティがある。ずっと隠れているとローズマリーがすすり泣きながら弱音を吐くのだが,この有様がプレイヤーの心と見事にシンクロしていて,筆者も「このまま消えてしまいたい」「屋敷の外へ逃げ出したい」と願ってしまった。
屋敷の中には日用品が転がっているので,これを利用すれば博士を怯ませたり,ダメージを与えたりできる。日用品には「防御アイテム」と「装備アイテム」の2系列が存在し,防御アイテムはペーパーナイフや園芸用の小さなスコップといったものだ。いささか武器としては心許ないが,博士に捕獲された際,“指定されたボタンを連打する”ミニゲームに成功すればダメージを与えられる。
装備アイテムには,ワインのボトルやオモチャの人形,ロープといったものがあり,博士に投げつけて怯ませたり,音を出させておびき寄せたり,ドアを一時的に封鎖できたりする。こちらも頼りない品々ではあるものの,うまく使えば博士の行動を制御できるのがありがたい。
さまざまなものを利用して,ある時は博士をやり過ごし,またある時はアイテムで難を逃れつつも探索を行っていかなければならない。屋敷は薄暗いうえ,前述のようにレーダーマップがないので迷いやすい。当然,博士の接近を探知するレーダーなんてものもないし,セーブと体力回復ができる「鏡とメトロノーム」の数も非常に少ない。セーブもできないままに道に迷い,博士と鉢合わせしてしまうようなことも起こるのだ。
また,特に厄介なのが,手がかりのある部屋を探索したいのに,博士がうろついているので近づけないという状況だ。博士の正確な位置は分からないため,音がしなくなっても立ち去ったとは言い切れない。別の場所で音を立てて博士をおびき寄せるという手もあるのだが,一度この場所を離れてしまったら,戻ってこられるかどうか分からない。一歩を踏み出すのが恐ろしいのだ。
本作は襲ってくる敵が異形ではなく,裸エプロン状態で徘徊するひ弱そうな老人とすることにより,理解を超えた感覚と,見てはいけないものを見てしまったかのようなタブー感をうまく演出している。字面とスクリーンショットからすると少しコミカルに見えてしまうかもしれないが,実際にプレイすれば,その怖さと奇怪さが分かると思う。
音の演出も印象的だ。博士が立てる物音にフォーカスし,音が聞こえてくる方向を示すインジケーターなどのゲーム的なインタフェースをあえて用意しないことが効果を上げている。また,児童が歌うような童謡がこんなに恐ろしく聞こえたことはない。
プレイを進めていくと,フェルトン博士に関する謎はさらに深まっていく。本作は3部作の1作目であり,完全な解決にはシリーズの3作目を待たねばならないだろう。幸い,2作目「リマザード:ブロークンポーセリン(Remothered: Broken Porcelain)」は今夏配信される予定で,1作目と2作目をセットにしたパッケージ版がSwitchとPS4で発売されることも決定しているとのこと。
戦わないホラーゲームを求めている人,そして精神的な恐怖を求めている人は,本作をプレイして深まる謎に酔いしれてみよう。
「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ リマスター」(ニンテンドーeショップ)
「リマザード:トーメンテッド ファーザーズ」(PS Store)
- 関連タイトル:
リマザード:トーメンテッド ファーザーズ
- 関連タイトル:
リマザード:トーメンテッド ファーザーズ リマスター
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Created by Chris Darril Remothered: Tormented Fathers (C)Darril Arts - All rights reserved Remothered, the game, the franchise and its derivatives, is licensed by and belongs to Darril Arts s.r.l. Developed by Stormind Games(R) | Stormind Games(R) is a registered trademark of Stormind srl. Powered by Unreal(R) Engine | Unreal(R), Unreal(R) Engine, the circle-U logo and the Powered by Unreal(R) Engine logo are trademarks or registered trademarks of Epic Games, Inc. in the United States and elsewhere. Published and distributed by 3goo K.K. in Japan.
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