プレイレポート
シリーズ2作品を収録したSwitch版「メトロ リダックス ダブルパック」を紹介。核戦争後の地下世界をめぐる旅路で青年が見るものとは
ダブルパックに収録されている「メトロ2033」と「メトロ ラストライト」のオリジナル版は,それぞれ2010年と2013年にXbox 360でリリースされている。本作はそれに加えて各種DLCをすべて収録した“全部入り”だ。本稿では,メトロ2033のストーリーを中心にシリーズを遊んだことのない人向けにダブルパックを紹介していこう。
物語の舞台は核戦争後のモスクワ。地上は放射性物質による汚染と,放射線の影響で現れたミュータントの脅威により人間の住めない世界となっていた。そして,わずか数万人にまで減少したモスクワ市民はメトロの構内で生き延びていた。
メトロは,当初は職員による一括した管理が行われていたが,終末戦争から20年を経た2033年現在は,各駅が独立国として分裂している。それらを結ぶ路線が交易路のような役割を果たしているのだ。
また環状線の駅同士による通商同盟「ハンザ」,北東から南西に縦断する路線を支配する「共産主義者」,スラヴ人の他民族への優越性やミュータント撲滅を掲げる「第四帝国」など,複数の駅を保有する勢力も存在し,互いに覇権を競う情勢だ。
ただ,この地下世界はけして人類にとっての安息の場所というわけではない。ミュータントたちは絶えずメトロ内に侵入しており,その圧力に耐えきれなくなった駅はひとつ,またひとつと放棄されている。また盗賊が跋扈し,各駅間の移動は大きな危険を伴う。
……と,なかなかにユニークな設定を持つ世界だが,ストーリーはそれほど荒唐無稽というわけでもない。実際,ソビエト連邦時代に作られた地下鉄は,有事には核シェルターとしても使える作りになっており,冷戦時代には大量の食料や生活物資なども備蓄されていたという。その規模や設備は日本のそれの比ではない。
また「第ニ地下鉄」と呼ばれる,戦時に使用される秘密の路線の存在も信じられており,都市伝説的なエピソードも数多存在する。ロシアのメトロは,我々日本人がイメージする「地下鉄」とは似て非なる,ちょっとした異世界なのだ。
さて,メトロ2033の主人公・アルチョムは,幼少期に勃発した核戦争によってメトロに避難し,以後20年間「エキシビジョン駅」で暮らしてきた青年である。このまま何も起こらなければ,この駅で一生を終えていたであろう。
しかし,エキシビジョン駅はそれまでに知られていたミュータントとはまったく異質な存在「ダークワン」(原作ではチョルヌィと呼ばれている)の襲撃を受ける。彼らは人間の精神に影響を与える力を持ち,手練の兵士たちですらまったく歯が立たないのだった。
そんなとき,エキシビジョン駅にハンターという男がやってきた。ミュータントに対抗し,地上に残る人類の遺産を探索する組織「レンジャー」の一員である彼は,エキシビジョン駅の苦境を救いに来たのだ。
「万が一,俺が朝までに戻らなかったら,ポリス駅でミラーという男を探せ」
彼はそう言って自分のタグをアルチョムに渡し,ダークワンの侵入を防ぐために駅の北のトンネルを爆破しに向かう。だが,彼はそのまま帰ってこなかった……。
ハンターから託された使命を果たすため。そして自分の第二の故郷となった場所を救うために,アルチョムはエキシビジョン駅を旅立った。
ちなみにメトロシリーズには原作小説が存在する。ロシア人作家ドミトリー・グルホフスキー氏の手による「Metro2033」は小学館から日本語版(外部リンク)が出ているので,興味を持った人はぜひダブルパックと合わせて楽しんでみてほしい。
ひとつひとつの判断の重さが没入感を生む
かなり絶望的な導入部から始まるだけあって,メトロ2033の難度はかなり高めだ。プレイヤーはFPSの要領でアルチョムを操作し,クエストを達成したり,敵と戦いつつゲームを進めていくことになるが,とくに難しい場面では何度もゲームオーバーになることも珍しくない。
地下世界では,いつ盗賊やミュータントに襲われるか分からないにもかかわらず,基本的に武器や弾薬は常に不足気味だ。手持ちの残弾を把握せずに戦うとすぐ弾切れになってしまうため,余裕がある時は周辺を探索し,弾薬などの物資を集めておくことが大切だ。
また物資だけでなく,エネルギーも自分で賄わなければならない。暗い場所で重宝するヘッドライトや暗視装置は手動で充電する方式で,忘れていると戦闘の途中でライトが消えてしまい,抜き差しならない事態に陥ってしまう。
空気が汚染されている場所ではガスマスクの着用が必須だ。マスクに使用するフィルターは数分程度しか持たないため,つねにストックを持ち歩き,使い切ったら交換していかなければならない。
このように,メトロシリーズの世界は何もかもが不足しており,制限を受けがちな環境である。敵と出くわしてしまっても,可能な限りやり過ごしてしまうのが無難だ。それがだめなら,相手に気づかれる前に背後から仕留めてしまうのがいいだろう。敵の集団に囲まれるくらいなら,積極的に相手の数を減らしていくのもひとつの切り抜け方である。
しかし敵もこちらを発見したあとは,仲間を呼びつつ対処してくる。その場合は,腹をくくって撃ち合いを挑むしかない。
ただ前述したように,この世界で弾薬は貴重品である。弾をケチりすぎず,無駄使いせずといった,絶妙な戦い方を求められる。また中距離の敵にはライフルで確実にヘッドショットを決めたり,近距離の敵は道のまがり角で待ってショットガンで仕留めていくなど,一種類の弾薬だけを使わず,バランスよく消費していくのもコツだ。
なお,Nintendo Switch版のダブルパックは,ジャイロでのエイムにも対応している。「スプラトゥーン2」などでジャイロエイムに慣れている方は,ぜひこちらも試してみてほしい。照準操作がより感覚的になり,作品への没入感も高まるはずだ。
基本的にはステルスで進めていくゲームだが,プレイヤーが移動したルート,見つけた物資の量,そして戦闘の手際によってゲーム展開は大きく変わっていく。
局面によっては,ミュータントの大群を相手にしたり,ガスマスクのフィルタが大量に必要になったりするなど,倒した敵から物資を集めておくと楽になる場面も少なからず存在する。ステルスで進めることが必ずしも正解とは限らないのが悩ましいところである。
またこの世界のユニークな点として,終末戦争前に製造された軍用の弾が貨幣として流通していることが挙げられる。普段はこれを買い物などに使うわけだが,弾が不足した際には銃に装填して撃つこともできる。普段使っている弾は地下で作られた粗悪品であり,それに比べて軍用弾の威力はかなり高い。
弾をお金として使うか,難所で弾丸として使うか,これもなかなかに悩ましい選択なのである。
ただ,こうしたひとつひとつの判断の重さこそがメトロシリーズの核をなしていることは確かで,アルチョムの旅路がプレイヤーの一挙手一投足によって完成に近づいていく手応えは,ほかのタイトルではなかなか味わえない。
ちなみに,メトロシリーズをプレイしていて特にシビアに感じられるのは,地上を舞台にした場面である。地上ではガスマスクの着用がほぼ必須であり,フィルターの残量はすぐに心もとなくなる。しかも空からは有翼のミュータント「デーモン」まで襲ってくる。
プレイヤーは,はじめて地上の世界に出たときに,おそらく開放感を感じるだろう。しかし,地上での過酷な体験から,すでに人間の世界ではなくなっていることを痛感する。そしてゲームの舞台が地下に戻ったとき,奇妙な安堵感を覚えていることに気がつくはずだ。
人間の居場所はもはや地下にしかない。おそらく作中の人間たちも同じことを感じ,地下世界に留まり続けているに違いない──。
以上がメトロ2033の基本的なプレイ感だが,スタート時にプレイスタイル「スパルタン」を選択すると,より爽快に銃撃戦を楽しめるゲームに早変わりする。敵がこちらを発見しにくくなり,さらに敵の攻撃が緩和されるため,FPSが苦手な人や,ゲームをテンポよく進めてストーリーや世界観に浸りたい人にはこちらをオススメしたい。
ただその場合は,原作の設定を反映したシビアな手応え,死と隣合わせの感覚は薄れてしまう。ゲームの腕に自信があり,かつアルチョムとしての体験をリアルに味わいたいという方は,ぜひプレイスタイル「サバイバル」でプレイしてみてほしい。
ちなみに「メトロ2033」と「メトロ ラストライト」のストーリーはダイレクトにつながっているため,「2033」「ラストライト」の順にプレイするのがベターだ。
どちらの作品もアルチョムが旅路で見たものが描かれるわけだが,「2033」は同時にアルチョムの内面にも迫るような,RPGとしては一風変わった感覚がある。一方,「ラストライト」はこの世界のバラエティ豊かな側面を描いており,よりオーソドックスなRPGのプレイ感に近づいている。
単なるサバイバルものともホラーものとも少し異なる,どこか遠い異国をさまようなメトロの旅路は,ゲーム歴の長い人なら往年の名作「クーロンズ・ゲート」などを思い出すかもしれない。
ひとつだけアドバイスをしておくと,本作のストーリーやビジュアルを中心に楽しみたいという方は,ゲームの難度は思い切り下げておくことをお勧めしたい。繰り返しになるが,ゲームとして簡単なのは「サバイバル」ではなく「スパルタン」である。お間違えなきように。
「メトロ リダックス ダブルパック」公式サイト
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(C)and published 2020 by Koch Media GmbH. Deep Silver is a division of Koch Media GmbH, Gewerbegebiet 1, 6604 Höfen, Austria. Developed by 4A Games. 4A Games is a registered trademark, and 4A Games Limited and their respective logo are trademarks of 4A Games Limited. "Metro 2033 Redux", "Metro: Last Light Redux", "Metro Redux" are inspired by the novels "Metro 2033" and "Metro 2035" by Dmitry Glukhovsky. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners. Published and distributed by 3goo K.K. in Japan.
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