インタビュー
「ブレイブリーデフォルトII」のバトルバランスはどのように調整していったのか。プロデューサーと開発バトル班にインタビュー
2020年に「先行体験版」と,そのフィードバックによって改善された「Final Demo」の2つの体験版も配信されているので,すでにそのバトルを味わっている人も多いだろう。
今回4Gamerでは,「ブレイブリーデフォルトII」のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの髙橋真志氏と,プランニングスーパーバイザーの長谷雄太氏,デベロッパであるクレイテックワークスのディレクター 布花原(ふけばる)翔太氏にインタビューを行い,本作で相当こだわったというバトルバランスについて聞いてきた。
記事内には,本作を少し楽に進めるための開発陣からのアドバイスも含まれているので,これからプレイするにあたってそうした情報を見たくない,自力でゲームを進めたいという人はご注意を。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「ブレイブリーデフォルトII」がついに発売されましたが,バトルのバランスに関する反響はいかがですか。2つの体験版はどちらもかなり歯応えがあるものでしたが。
髙橋真志氏(以下,髙橋氏):
「簡単」という感想と「難しい」という感想,両方見られるなという印象です。本作は,進め方によって難度の感じ方が変わると思います。キャラクターをじっくり育成してから進める人,例えば「ファイガを序盤で習得しちゃった」という人は「体験版よりかなり楽になった」と感じているように見えました。
また本作の場合,序章がチュートリアルを兼ねていて,プレイヤーは段階を踏んでバトルの進め方を覚えていくようになっています。体験版は4人が揃った状態かつジョブチェンジとアビリティを最初から楽しんでいただくために,ゲーム本編の途中を切り出した形になっていたことや,自分で育成したキャラクターではなかったことで,手こずる人が多かったのではないでしょうか。その点について,少し中級者向けになってしまったようで反省しています。
4Gamer:
そもそも,本作のバトルバランスにおけるコンセプトや方針はどんなものだったんでしょうか。
髙橋氏:
「ブレイブリー」シリーズは,ブレイブとデフォルトを使ってターンを制しつつ,育成したキャラのジョブとアビリティで自分なりの戦略・戦術を見出してもらいたいゲームですので,大まかに言うと,そこに面白さを感じられるようするのが一番の目標でした。開発チームとは「単純にレベルを上げて,装備を調えて殴れば解決」「すべての人が1つの戦略・戦術を選んでしまう」というゲームではなく,プレイヤーがそこに一手間加えて「今回はこのジョブが適しているのではないか」と考え,アビリティを付け替えてボスバトルに挑むよなバランスにしようという話をしました。
長谷雄太氏(以下,長谷氏):
本作にはブレイブ&デフォルトという根幹のシステムがあり,そのうえで20種類以上の多彩なジョブがあります。「このジョブさえ使っておけば大丈夫」という「当たりジョブ」が生まれてしまわないよう,各ジョブの性能のバランスをきちんと取ること,かつそれぞれのジョブに得意不得意があることを第一に考えました。
それを実現するために重要だったのが「ジョブ特性」です。ジョブレベルを上げていくと2つめが解放されるんですが,その効果や内容が,もともとの案から全然違うものになったジョブもあります。
布花原翔太氏(以下,布花原氏):
ベースとなるすべての組み合わせはクレイテックワークス側で作りました。「黒魔道士は黒魔法を使う」といった,「ジョブらしさ」を重視したものでしたが,その後,長谷さんに加わっていただいてから,「ジョブごとの特徴が弱い」という話になって,半分くらい作り替えたり組み替えたりすることになったんです。
長谷氏:
最初はメインジョブとサブジョブを組み合わせた場合に,メインジョブのジョブ特性のみが発現するという仕様でした。私が入ったときに,「新規のアビリティや特性を作って,それによってメインジョブとサブジョブのジョブ特性を両方発現するようにしてほしい」とリクエストしたんです(導師などで習得できる「サブ特性発現」系と,ソードマスターの特性2が該当します)。そうすることで,ジョブ特性自体の効果の組み合わせやアビリティ同士のコンボのようなものが生まれる余地ができますから。
結果的にキャラクター育成が複雑になってしまうのですが,そのぶん組み合わせの妙を楽しめるしようになったと捉えています。
4Gamer:
実際に製品版をプレイしましたが,時間をかけてキャラクターを育成する楽しさは伝わってきましたね。
長谷氏:
ありがとうございます。もう一つ,UIについても,当初はキャラクターの行動順を画面端に表示する仕様でした。しかしブレイブやデフォルトと組み合わせると,あまり意味のない表示になってしまい,逆に分かりにくくなったり,煩雑になったりしてしまうので,「FINAL FANTASY」シリーズの「アクティブタイムバトル」(ATB)に近い行動順ゲージを採用しました。もともと「ブレイブリー」シリーズは,「FINAL FANTASY」シリーズの遺伝子を受け継いだものでもあったので。
加えて行動順は,装備の重量や速度によっても変わります。これもバトルバランスやジョブごとの差別化に役立っていますね。シーフやファントムといったジョブは素早さがきわ立つようになりましたし,シールドマスターやベルセルクのようなジョブは遅い半面,防御力や攻撃力が抜群に高くなったという具合です。
髙橋氏:
「ブレイブリーデフォルト」と「ブレイブリーセカンド」はターンごとに区切られていて,1ターンに行動順が2回回ってくることは基本的にありません。今回の仕様になったことにより,「強いけれどもなかなか行動順が回ってこない」「1つ1つの行動は軽いけれどもたくさん行動順が回ってきて手数で勝負できる」というように,今までよりもジョブの特徴付けができたかなと感じています。
4Gamer:
そういった開発の過程は,スクウェア・エニックスとクレイテックワークスの間でどのように進められたのでしょうか。
布花原氏:
行動順をATBのような形にすることを提案したのは,クレイテックワークスでした。1ターンに1人1回ずつ行動順が回ってくると,前作,前々作ではブレイブを使って4人合計で最大16回行動できることになり,バトルのコマンド入力フェーズと見ているだけのフェーズがすごく長くなってしまうんですよね。もう少しプレイヤーの介入タイミングをまばらにしたかったので,1ターンに1人1回ずつ行動するのではないターン制──開発中は随時ターンと呼んでいたんですけれど──に挑戦しました。
日本のコマンドRPGが培ってきた“RPGの文法”でヒントを示す
4Gamer:
本作のバトルバランス調整は,開発中もっとも難しかったと聞いています。
長谷氏:
要した期間は明かせないんですが,私が途中から関わるようになってからマスターアップまで,ひたすらバランスを取り続けるくらい大変でした。お話したようにアビリティの効果を考え直すことに加え,細かい数値の調整やバグ取りを含めて,いろんなところに手がかかりましたね。
髙橋氏:
開発初期からマスターアップまでずっとバトルバランスをいじっていましたね。「何か月でできました」と言えるものではなさそうです。
4Gamer:
と言うことは,マスターアップがなければ今でも調整し続けていたということもあり得るわけですか。
髙橋氏:
それは間違いないですね。アイデアはいくらでも出せますから。
ただそうなると,だんだん玄人っぽい発想になっていくと思います。そうならないよう,チーム内のプレイしたことがない人にも定期的に通しプレイに協力してもらっていました。そうして「このジョブ,どうして使わないの?」「あまり強さが分からなくて」みたいなやり取りから,「最初にちゃんとジョブの長所が分かるようにアビリティを調整しよう」となったりするわけです。
ほかにも,デバッグをしてくれているQAチームからいろんな人に触ってもらったプレイレポートを都度送ってもらいました。とにかく,たくさんの人にたくさん時間をかけてバトルをプレイしてもらって,そのフィードバックに基づいて調整して,またプレイしてもらって……の繰り返しでした。
4Gamer:
おそらく,ボスごとに開発チームが設定した最適解のパーティがあると思うのですが,本作の仕様だとプレイヤーがその最適解を使わないケースが多いですよね。組み合わせが膨大ですから。そうなると,最適解でなくともボスに勝てるようにしなければならないので,調整は大変だろうなと思いながらプレイしていました。
髙橋氏:
おっしゃるとおりですが,抜け道は結構あるんです。SNSを見ても,すでに「序章でジョブレベルをカンストした」「草を刈りまくって,お金を集めて何でも買えるようにした」といった報告がありましたが,そういったある意味ズルができる余地はあえて残しています。
そういう余地は,自分も好きですし,あったほうが楽しいと思うんです。「OCTOPATH TRAVELER」でも,成功率1%の「盗む」が成功するまでリセマラする人がいたりして(笑)。それをやらないと進めないものとなると苦痛でしかありませんが,「普通はやらないけれど,がんばればがんばった分だけ良いアイテムが手に入る」と楽しんでやってくださるのであれば良いんじゃないかと。よく開発サイドからも「これ抜け道になりますけど,大丈夫ですか?」と聞かれるんですが,「楽しんでもらえるのであれば大丈夫」と答えています。
長谷氏:
加えて,本作はシリーズ過去作より装備が強くなっています。装備をガチガチに固めてしまえば戦闘が楽になるので,バトル中のコンボを考えるのが苦手な方や,初めて「ブレイブリー」シリーズをプレイする方でも突破口を見出せるんです。そこは意識して設計しました。
体験版だと,そこまで装備を揃えることなくバトルに入って「あれ,倒されちゃった。これは難しい」という方が多かったように見えたのですが,製品版では逆に「まずはショップで品揃えを確認して……」という遊び方に切り替わっているようで,想定したプレイスタイルと合致して一安心しました。
4Gamer:
実際,麻痺のアビリティを使うボスが登場するダンジョンで,麻痺無効のアクセサリーが宝箱から出てきて,ずいぶん大胆なヒントだと驚きました。そのあとも同じようなことが何度かあって。
長谷氏:
そういった,いわゆる“RPGの文法”は露骨に使っています。とくにダンジョンの宝箱から出てくるアイテムは,そのときに出てくる敵やあとで戦うボスのヒントになっていることが多いです。
4Gamer:
今,RPGの文法という言葉が出ましたが,本作には日本のコンシューマRPGが培ってきたお約束的なアレコレがふんだんに投入されているという印象を受けました。「ここは,とくに意識した」という部分があれば教えてください。
布花原氏:
死んで覚える,食らって覚えるという部分でしょうか。私自身は「プレイヤー側が死にまくる」こと自体は良いという意識で開発を進めました。ただ,死んだことから何かを学べるようにという意識もありました。「わかんないから攻略サイトを見よう」ではなくて,自分で経験して,考えて,対応を自分で構築したくなるゲームにしようと思ったんです。
4Gamer:
死んで蘇生して,また死んで……を1回のボスバトルで何度も繰り返すので,「倒れてしまうことが前提のゲームだな」と思いながらプレイしています(笑)。蘇生アイテムも安いし。
髙橋氏:
1回の行動順で蘇生も回復もできるゲームなので,1人2人死んでも次のターンで取り返せるというのが,初代「ブレイブリーデフォルト」からの伝統で,ほかのRPGにはない戦略・戦術が取れるというこのシリーズの特徴かなと思っています。
長谷氏:
やはり「FINAL FANTASY」シリーズや「ドラゴンクエスト」シリーズを作っている会社ですので,コマンドバトルをより新しいもの,よりプレイヤーの皆さんに楽しんでいただけるものにしていくためのシステム作りやバランス調整はかなり意識して進めています。
倒れてしまうことが前提というのも,何せ白魔道士が1回の行動順で4回行動できるので,回復させ放題なんですよね。それに合わせて,敵を強くしていくバランスを取るほうが難しいという。
髙橋氏:
味方がどんどん強くなるので,敵をどうやって強くするかに試行錯誤していましたよね。
4Gamer:
そのおかげでボスバトルはかなり苦戦しました。印象に残っているのは,HPを回復してくるボスです。本作の一部のボスは,驚くぐらい回復してくるじゃないですか。
長谷氏:
いつの頃からか,HPを回復しないボスが一般的になりましたよね。「ドラゴンクエストII」や「FINAL FANTASY III」はボスがHPを回復していましたし,スーパーファミコンの時代もそういうタイトルが多かったと思います。そんな作り方もできるんじゃないかと思って,一部のボスには回復技を入れてしぶとさを演出してみました。
4Gamer:
久しぶりの体験で,ある意味新鮮でした。
髙橋氏:
その調整の裏には,開発チーム内でのせめぎ合いがありました。テストプレイで自分が「このボス,強すぎるんだけど」と言うと,「じゃあ回復は何回までにしましょうか」みたいなやり取りがあったりして。
布花原氏:
序章のボス・オルテンがそうでしたね。最初はHPが減ってきたらモンクのアビリティ「内転」を使って回復し続けていたんですけど,「これはやり過ぎです」と。
髙橋氏:
その時は,HPが減ったら回復するの繰り返しで,いつまでたっても倒せないという状態だったんです。さすがに序章でここまでプレイヤーに攻略を強いる必要はないだろう,まだ勉強するフェーズだから「ブレイブで畳みかけて一気に倒さなければいけない」ということさえ分かれば,あとはすんなり倒せた方がプレイヤーも楽しく感じるだろうと考えて,「オルテンの回復は止めてほしい」という話をしました。
そうしたら「回復がないと簡単になってしまう」「じゃあ,1回使ったらMPが切れることにしたらどうですか」「あ,それはオルテンっぽくて好きですね」というやり取りになって。結果,オルテン自身が持つ間抜けな感じも活かせる調整になりました。
これを知っていると攻略が少し楽に
開発陣からのアドバイス
「ブレイブリーデフォルト」の最新作として求められているものを作る
4Gamer:
本作は,ガッツリ時間をかけて遊べたり,お話にあったように昔のゲームを意識していたり,あるいは絵柄などに懐かしさを感じさせる半面,バランス調整には昨今のゲームらしい細かな配慮がなされている印象があります。それはほかの「ブレイブリー」シリーズも「OCTOPATH TRAVELER」も同じで,ただ懐かしいだけではないと言いますか。
髙橋氏:
今日ここにいる3人は,「こういうゲームで遊んでいた」という原体験が結構共通しているんですよね。一番最初に遊んだRPGが「FINAL FANTASY III」だったとか,ジョブチェンジは「FINAL FANTASY III」と「V」で体験したとか。単純にそうしたゲームが好きで,今自分達でゲームを作ろうというときに,その好きなジョブチェンジというシステムを,遊んでもらう人達にきちんと楽しんでもらうために,どういう見せ方をすればいいのか……という考え方で作っています。
4Gamer:
そこにブレイブとデフォルトという,一般的なコマンドRPGだとバトルバランスを崩壊させかねない仕組みまで加えてしまうから,バトルバランス調整をずっと続けることになるわけですね(笑)。
髙橋氏:
そこは十字架を背負ってしまったとしか(笑)。
私と浅野(「ブレイブリーデフォルト」プロデューサー 浅野智也氏)と開発チームで「ブレイブリーデフォルト」を作ったときは,「好きなものを詰め込んで作るぞ!」という気持ちだけでしたが,シリーズを続けている以上,そこは外せないかなと。「ブレイブリーデフォルトII」はシリーズの最新作として,皆さんに求められているバトルと感じていただければ嬉しいです。
4Gamer:
最後に,今まさに「ブレイブリーデフォルトII」で苦戦している人,あるいは「体験版が難しかった」と聞いて本作を購入するかどうか悩んでいる人に向けてメッセージをお願いできますか。
髙橋氏:
今日は0時からずっと皆さんの反応が気になっていて,プレイヤーの皆さんの反応をハラハラしながら見守っているんですが(※インタビューは発売当日の2月26日に行われている),多くの方に楽しんでいただけているようには見えたので良かったです。
色々な攻略法の方がいて,皆さんが自分なりの楽しみ方を見つけてくださっていると感じて嬉しくなりました。お気に入りのジョブや鉄板のパーティ編成を見つけて,友達同士で情報を交換し「あれ,こんな方法があるの?」と盛り上がっていただけると幸いです。
長谷氏:
このインタビューを読んでくださった方は,おそらく「ブレイブリー」シリーズに興味があると思います。興味を持ってくださって,ありがとうございます。ファミコン時代から続いているコマンドバトル,ジョブを切り替えていく楽しさ,自由にファンタジーの世界を歩き回る楽しさ……もう何十年も続いてきたRPGの面白さをきちんと受け継ぎつつ,今のノウハウや技術で作ったつもりです。
序章から遊んでいけば少しずつ自分のキャラクターが強くなる,それにつれて敵も手強くなっていくという形で,おそらく何十時間も楽しめると思いますので,ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
布花原氏:
いろいろな苦難を乗り越え,大切に作ってきたタイトルではありますが,プレイヤーの皆さんが本作に興味を持つきっかけは何でも良いと思っています。楽曲を提供していただいたRevoさんのファンだから,レビューの評価を見たから……どんなことでもいいので,さまざまなきっかけから興味を持って,遊んでいただけると幸いです。
4Gamer:
ありがとうございました。
「ブレイブリーデフォルトII」公式サイト
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