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[GDC 2024]「原神」の開発者が語る,期間限定イベントで印象的なオープンワールドを作るコツ
この講演は,期間限定イベント用のオープンワールドマップ制作におけるコツを紹介するというもの。本編ストーリーやテーマと絡めた物語設計,プレイヤーの記憶に残る演出,マップ開放の手法など,期間限定コンテンツを作るうえで気をつけるべきことが語られた。
最初に紹介されたコツは「期間限定を意識した物語の終わり方のデザイン」だ。期間限定のマップやイベントは,いつかは終了して消えてしまうため,プレイヤーに寂しさや名残惜しさを残さないよう心がける必要があるのだという。そのため,限定マップ内に登場するキャラクターとの別れを壮絶に演出したり,クエストの最後にマップとの“最後の別れ”を挿入したりと,プレイヤーの感情を意識的に誘導する。
講演では,限定マップにいる妖精のようなキャラクターと触れ合い,イベント終盤にはその存在が次第に消えていくストーリーを展開したという過去の事例が紹介された。
このように,イベントの終焉とマップの消失を上手く重ね合わせることで,プレイヤーの感情をある程度コントロールするのだという。
さらに,イベント後にもそのイベントにちなんだ小ネタを仕込むことで,限定マップを懐かしむプレイヤーの想いに応えている。具体的には,最後に訪れた場所にプレイヤーが記念の目印を置けるように設計したり,高台からマップ全体を一望できる場所を用意したりと,追体験のきっかけを作り出しているそうだ。
こうした“名残”を演出する工夫によって,消え去ったコンテンツでさえ,プレイヤーの心に長く残り続けるという。
第二のコツは「活動とマップを絡めた探索の演出」だ。新マップと同時に実装される集めものやミニゲームといった「活動」コンテンツを,マップ探索の動機づけやストーリーテリングに巧妙に活用する。例えば,収集用アイテムを獲得するたびにマップの背景物語が語られたり,新たなクエストが発生したりするように設計するという。
過去には“残像写真”と呼ばれる収集品があった。これらを集めると写真のセリフが再生され,撮影場所の歴史や逸話が語られる仕組みだ。一見何気ないアイテム収集であるが,マップの世界観を紐解くきっかけになっている。
また,アイテム作成のシステムを搭載し,集めたアイテムで探索の助けになるガジェットを作れるようにしたことも,マップ探索とアイテム収集の相乗効果を高める一助となったそうだ。このようにコンテンツ間の相互作用を意識的に組み込むことで,プレイヤーの活動範囲が自然と広がり,マップへの深い理解が促されるようになる。
第三のコツは「イベントの進行に合わせた段階的な新エリアの開放」だ。イベントが複数フェーズに分かれている場合,そのフェーズの進行度に応じてマップの新エリアを順次公開していく。
オープンワールドのマップにも関わらず未開放の場所があると,プレイヤーの行く手を制限することになり違和感を持たれるが,ストーリー上で理由づけをしつつ,新エリア開放のサプライズを演出することで,探索への期待感を常に保てるのだという。
例えば,イベント開始時は小さな島が舞台だったが,プレイヤーの行動によってその島が徐々に隆起し,広大なマップが姿を現すという衝撃的な展開を演出したこともあるそうだ。物語とマップ開放のタイミングをリンクさせることで,プレイヤーが抱いた違和感を驚きと期待に昇華させた。
さらに,過去にはメインストーリーの終盤で,新マップの要となる巨大な祭壇の機能が復活し,より広範囲を自由に移動できるようになった。こうした段階的な開放をうまくやることで,マップをすべて踏破できたときの達成感や,開放を先取りした期待感などをプレイヤーに与えられるのだという。
第四のコツは「本編のストーリーや世界との関連づけ」だ。期間限定のマップはゲーム本編とは別のコンテンツだが,物語や設定,世界観などで本編との関連性を持たせ,プレイヤーに愛着のある世界を体験してもらえる。限定マップ内の施設や遺跡,地形などに,本編世界の歴史や文化的背景が投影されるように仕掛けるといった演出が効果的だそうだ。
過去の一例では,本編に登場する巨人の種族が関与した痕跡の数々が,限定マップ上に存在していた。謎に満ちた巨大な施設の存在から,プレイヤーの探索心がかき立てられる。さらに,そのマップが本編の世界と関わりがあると明かされたことで,マップのもつ意味合いが増し,存在理由がより明確になった。
このように限定コンテンツを本編の世界へ関連付けることで,コンテンツ同士の関係性が生まれ,より奥行きのある世界観を体感できるように工夫されている。
本編とのつながりは,単にストーリーやアセットの流用だけでなく,ゲーム内の矛盾のない設定を整合的に構築し,いくつもの要素が相互に作用するような大きな物語へとつなげていく。このような作り込みにより,マップや世界の存在意義が増し,プレイヤーの関心もより惹きつけやすくなる。
これら4つのコツを念頭において,期間限定イベントのマップやコンテンツを制作することで,限られた期間ながらも印象深く,リプレイ価値の高い体験を生み出せるという。
物語性の高さや世界観の深さなど,原神の強みを最大限に生かしたコンテンツ設計を心がけることで,時間の経過とともにいつか消えてしまう“儚げな”コンテンツでさえも,プレイヤーの心に刻まれる作品になり得るというわけだ。
さらに講演では,イベントのコンセプト立案やゲームプレイのボリュームコントロール,記憶に残るテーマ設定なども重要なポイントとして挙げられていた。
プレイヤーから支持され,話題になるためには,単に新規コンテンツを投入するだけでなく,そのゲーム開発の根幹に関わる部分にまで思慮を払う必要があるのだという。時間の経過による“消失”を前提としたコンテンツの場合,一過性のモノでは終わらせず,永続的な価値を見出すための工夫が重要というわけだ。
例えば,親子の絆を描いたときがあり,プレイヤーの共感を呼んだそうだ。家族や友人への想いにも通じる普遍的なテーマを描いたことが理由ではないかと,Yixuan氏は分析していた。ゲームの根本に据えられたメッセージ性の高いテーマは,時間が経っても色あせることのない価値を作り出すようだ。
また,プレイヤーの記憶に残るゲームプレイの演出という点でも,過去のイベントでは“乗り物”をモチーフにした要素が盛り込まれていた。プレイヤーの思い出にある,遊園地のアトラクションのような体験を提供することで,より親しみやすく印象に残るコンテンツにしたそうだ。
サービスインから2年以上が経過した「原神」だが,このように完成されたコンテンツ設計思想のもと,コンテンツの投下が行われ続けている。この先の展開にも期待がもてそうだ。
「原神」公式サイト
「原神」ダウンロードページ
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