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[GDC 2021]「原神」の魅力的なキャラクターと背景グラフィックスはどのように生まれたのか。miHoYoのCEO自ら解説
GDC 2021では「'Genshin Impact': Crafting an Anime Style Open World」と題された講演が行われ,ここではどのようにしてこのように幅広い支持を集めるに至ったキャラクターや世界が作られていったかが紹介された。登壇したのはmiHoYoのCEOであるHaoyu Cai氏だ。
「美しい風景」という普遍的な価値
まずCai氏は原神に至るまでのmiHoYO作品を振り返った。そのうえで,日本でも有名になった「崩壊学園」(iOS / Android)や「崩壊3rd」(iOS / Android)と比較し,原神はより幅広い層にアピールする作品にしようと決めたという。そのため原神ではプレイアブルキャラクターにも最初から男性キャラクターを登場させ,ちょっとハードコアな印象を与えるSF世界ではなく,純粋に美しさを追求したファンタジー世界を舞台とすることにした。
また,現実世界の文化を取り込むことで,ゲーム世界の多様性を確保することを目指したという。これはゲーム世界に深みを与えるだけでなく,世界中のファンが楽しめるゲームにするという意思も影響している。
現実世界をモチーフとした世界を作るにあたっては,世間に広がるステレオタイプなイメージ以上のものを提供することを心がけた。例えば原神世界にある7つの国(2021年7月現在では3つが公開中)の1つは中国がモチーフとなった国だが,この国は「中国といえばパンダ・クンフー・三国志」というイメージしか持たないプレイヤーに対しても,そういったステレオタイプな世界観以上のものを提供すべく,現実に存在する中国の様々な美しい自然をゲーム内に取り込んでいる。
この「美しい風景を取り込む」という姿勢についてCai氏は,「美しい風景は全世界の人が美しいと感じられる」と説明。「美しい風景」には普遍的な価値があるというわけだ。ここでCai氏が話した「文化の多様性を伝えるにあたっては,アニメスタイルのほうが伝えやすい」という指摘も興味深い。
社員全員が作る「原神」のキャラクター
さて,とはいえ原神の魅力の大きな柱となるのは,やはりキャラクターであるとCai氏は語る。
原神ではこの講演が録画された段階において33キャラクターがプレイアブルとなっており,Ver2.0のリリースでこの数は36になる。また今後も年17キャラのペースでキャラクタを追加する予定だということで,これはオープンワールドのゲームとしてはかなり多い部類に入る。
またCai氏は「キャラクターはプレイヤーに最も望まれるコンテンツだ」とも指摘。
原神のキャラクター重視路線は日本のカードゲームを踏まえたものだというが,それだけにCai氏自身,このキャラクターを重視し,キャラクターをコレクションしていく路線が,西洋のゲーマーに受け入れられるかには不安があったという。もっとも蓋を開けてみれば西洋のゲーマーも「予想を遥かに超えて」(Cai氏)歓迎したわけだが。
そのうえで,原神における物語は,あくまでキャラクターが主体となったものであり,世界とキャラクターはパラレルな関係にあるとCai氏は指摘。このことは多くのAAAタイトルや映像作品で見られるような,「プロットが先にあって,そこにキャラクターが追従する」姿勢とは逆であると語った。
では実際に,原神ではどのようにしてキャラクターを作っているのだろうか?
原神はまず,世界設定を固めるところから作業が始まったという。そして世界設定が決まったところで,そこで活躍するキャラクターが設定される。
そしてこの「キャラクターの設定を決める」フェイズにおいては,miHoYoの全社員が(それこそIP管理部門といった,比較的事務的な仕事がメインとなる部門の社員であっても),新キャラに対するアイデアがあればそれを提示し,グループミーティングに参加する資格を有するという(この方式は「リーグ・オブ・レジェンド」におけるRiot Gamesの方針を想起させる)。
そして驚くべきことに,原神にはいわゆるクリエイティブディレクターやアートディレクターが存在せず,あくまで会社全体でキャラクターを作り上げていくという。結果,今回の発表(GDCにおける講演ジャンルとしては「Visual Arts」)にも全社を代表してCEOであるCai氏が登壇することになったというわけだ。
この方針は,広くアイデアを募ることができるだけでなく,関係者それぞれの立場(ゲームデザイン・アート・IP展開などなど)において「こうあってほしい」と思う要素が,逆にそれ単体ではキャラクターの可能性を制限してしまうことを防ぐためにも行っているという。
このようにしてキャラクターの設定が固まったら,次はキャラクターの外見を作っていく。
まずはアーティストによってコンセプトアートが描かれ,これを可能な限り再現した3Dモデルが作られる。ここにおいて「モデルとテクスチャはコンセプトアートを完全に再現する必要がある」とCai氏は指摘した(言葉にすれば簡単だが,高度かつ膨大な作業量である)。
その後,ゲームデザイン部門とも協力しながらキャラクターのモーションなどを設定していくというワークフローになる。
だが原神のキャラクターに対するこだわりは,ここに留まらない。
原神はアニメ調のグラフィックを有するため,キャラクターに光があたった場合,光と影の境界線が発生する。近年においてこの境界線は自動的に生成することも可能になったが,Cai氏は「それでは魅力的なアニメ表現にならないことがある」と指摘。
特にキャラクターの顔に対しては,アーティストが陰影用のマスク情報を正面・左右・背後といった光の方向にあわせて手作業で設定することで,「どんな状況においても完璧な表情になるようにした」という。
また,原神においてはキャラクターと背景で,レンダリングのパイプラインが異なるという。Cai氏自ら「あまり普通の処理ではないと思う」というこの処理によって,常にキャラクターの印象的な姿を(さまざまなエフェクトや,背景情報を踏まえた影の色合いなども含めて)画面に表示できるようになったそうだ。
統一感のある背景グラフィックを作るために
キャラクターと同様に,背景に対するこだわりもまた凄まじいものだ。
原神におけるライティングはすべて動的に制御されており,ローカルな光源であっても,ほかのオブジェクトや環境に対して直接的・間接的な影響を与えるようになっている。このことは原神世界が時間経過によって朝・昼・夕・夜のサイクルをくり返すにあたって,重要な意味を持つ。
またシェーディングも特殊な処理を行っており,樹木が落とす影の下をキャラクターが歩くときは,キャラクターに対してその影がかかるようになっている。
さて,前述したように,原神世界には7つの国があり,それぞれ異なる現実世界の国家(ないし文化)をそのモチーフとしているが,これを実際にゲーム内のグラフィックスとして作り上げようとすると,非常に多くの問題が発生する。
というのも,現実世界が持つ多様性をそのままゲームに持ち込めばゲームとしての統一感が消え失せるし,それぞれの国を別のアーティストに任せるといった方法でもやはり統一感は得られないからだ。同じゲームとしての統一感を担保しつつ,プレイヤーが「違う国に来た」と感じるものにしなければならない。
コンセプトアートを大量に作って統一感を担保したうえで,それをゲーム内で再現するという方向性が基本となるものの,現実には「グラフィックスのアセットを無尽蔵に持つわけにはいかない(いくつかのオブジェクトはどこにいっても同じ絵にならざるを得ない)」といった課題もある。
実際,背景グラフィックの品質と統一感を確保するのは「正直なところキャラクターを作るよりもずっと難しかった」(Cai氏)という。ただ原神はキャラクターが最も重要なゲームでもあるため,「既に存在するキャラクターと調和する美しい背景でなくてはならない」というひとつの明確なルールを設定できたのは大きかったそうだ。
とはいえ巨大なオープンワールドのゲームとして,背景グラフィックスの規模もまた膨大なものとなる。これを現実的な範囲で,かつ美しく印象的なものとして作り上げるにあたっては,いくつもの「現実とは異なる処理」を行っているという。以下,その代表例として指摘されたものを簡単に紹介する。
草原
草原は広大なことが多いので,「どこにいっても同じ」印象を与えないためにも,たくさんのモデルを作り,国家ごとに異なる適用も行っている(植生やその密度などがそれぞれ異なる)。また,草原の色合いには地面の色合いが反映されるようになっているが,これはアーティストが自分で調整することもできる。
岩
原神では山や崖が重要になるので,岩肌の表現にも気を使っている。原神では岩肌のテクスチャとして3種類を用意し,距離によって表示するテクスチャを変えているそうだ。
樹木
アニメで見る樹木の表現(光と影のコントラストが強め)に近づけるため,シェーダーに特殊なものを使っている。一方,そうやって生成された「アニメ調の樹木」を大量に並べると印象が強くなりすぎるため,境界線がより自然に見えるようにするための処理も行っている。
雲
原神において雲は時間とともに形状が変化し,また天候や環境に応じて色を変えるという,動的な生成が行われている。
このため,まずアーティストが雲のシルエットと,その変化のアニメーションのキーフレームを作成。これをもとにして動的変化に必要な各種データを生成し,ゲームに反映している。
原神は非常に高度な技術を用いて制作されている一方で,随所に「アーティストが手動で行う」「アーティストによって変更可能」といったワークフローや仕様が絡んでいることが分かる,なかなかゾッとする講演であったといえる。ここまでのこだわりがあってこそ,世界が熱狂するキャラクターが生まれたのは間違いないが,全体の作業量を想像すると背筋が凍る人も少なくないだろう。
一方,講演を聞けば聞くほど「そりゃあ原神のクライアントはマンモスサイズになりますわ」と思わざるを得ない側面も多く,今後マップが広がりコンテンツが増えていくなか,果たして原神の「モバイルMMORPG」という側面はどこまで現実的に維持可能なのかという点も気にはなった――現状ですら,原神専用スマートフォンが欲しくなっている人もいるのではないだろうか。
とはいえ,1人が複数台のスマートフォンを持つことは,決して珍しくなくなりつつある(そもそも一部の国では複数台の所有がかなり前から常態化している)。またSteam DeckやゲーミングUMPCのような,新たなモバイル環境も勃興しようとしている。こういったビジネス面も含めて,原神がどんな展開をしていくのか注目したいところだ。
「原神」公式サイト
4Gamerの「GDC 2021」記事一覧
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