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カフェを舞台に“甘くない”物語が繰り広げられる。異色のバリスタ体験アドベンチャー「コーヒートーク」プレイレポート
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印刷2020/02/01 00:00

プレイレポート

カフェを舞台に“甘くない”物語が繰り広げられる。異色のバリスタ体験アドベンチャー「コーヒートーク」プレイレポート

 コーラス・ワールドワイドは,インドネシアの開発スタジオToge Productionsが開発するアドベンチャーゲーム「コーヒートーク」PC / PS4 / Xbox One / Switch ※Steam版のみToge Productionsがパブリッシング)を2020年1月30日にリリースした。本作は夜間営業の喫茶店のマスターとして客をもてなしながら,彼らから語られる物語を楽しんでいくという作品だ。飲み物を提供して客から話を聞くゲームというと,Sukeban Gamesの「VA-11 Hall-A」(ヴァルハラ)が思い浮かぶが,少なからず影響を受けていることは間違いないだろう。

ダウンロード版(PS4 / Switch / Xbox One)は1600円(税込)で,パッケージ版(PS4 / Nintendo Switch)は3980円(税別)だ。パッケージ版には初回特典としてオリジナルサウンドトラックSONOCAカードが付属する
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 現代のアメリカを舞台にしながら当然のようにエルフや狼男が登場し,テキストアドベンチャーでありながら選択肢を選ぶ場面が1回もないという一風変わった本作。今回は日本語版の発売直前に,Switch版をプレイできたので,そのレポートをお届けしよう。

「コーヒートーク」公式サイト



エルフやオークが行き交う現代のシアトルで,居心地の良いカフェを目指そう


 コーヒートークの舞台は2020年のアメリカ合衆国・シアトルだ。雨が多いこの都市で,プレイヤーの分身となる主人公は,夜のみ営業する喫茶店「COFFEE TALK」のマスター兼バリスタとして働いてる。
 プレイヤーが目指すのはお客様が本当に求める飲み物を提供し,少しでも居心地のいい空間を提供すること。COFFEE TALKは純粋な喫茶店なのでお酒は提供してないどころか,ケーキなどのサイドメニューすら存在しない。つまりバリスタとしての腕前がそのまま,店の評判に繋がっているわけだ。

COFFEE TALKの外観や街の様子は限られた場面でしか描かれず,ゲーム中はほぼ店内のみで話が進む。視点も一人称であるためマスターの姿は手しか表示されず,会話から男であろう……というぐらいしか推測できない謎めいた存在になっている
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新聞やSNSはプレイヤーにとって,数少ない外の情報を得る手段の一つ。内容はストーリーの補完情報といった存在だ
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 COFFEE TALKには日々,つかの間の休息やお気に入りの飲み物を求めて,客が訪れるが,そのほとんどが“普通の人間ではない人々”となっている。というのも,この世界では人間は単なる一種族に過ぎず,エルフやオーク,サキュバス,吸血鬼などが共存する社会となっているからだ。
 彼らは(我々の世界の)現代人と同じく,大なり小なりさまざまな悩みを抱えているが,それが種族に起因していることも珍しくない。例えばエルフとサキュバスの身分違いの恋だったり,人狼(ウェアウルフ)が変身という名の“病気”に苦しんでいたりする……といった案配だ。
 といっても世界観自体は,俗に言う“ファンタジー世界”ではなく,我々の現実と同じようにテクノロジーが発展しており,文化に違いはほとんどない。暇ならスマホをいじり,メールで知り合いとやり取りし,SNSに自撮り写真をアップロードするといった感じで,まさに“今風”だ。

出てくる種族は多いが,見た目や知性は(一部を除き)人間とあまり変わらないようで,多少の軋轢はあれど平和的に共存していることがうかがえる。技術的には我々の世界とまったく同じなので,「スマホを駆使するオーク」といった,ほかのゲームではあまり見かけないような姿も拝める
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ゲーム本編で描かれるのは喫茶店「COFFEE TALK」での2週間で,1周あたりにかかるのは4〜6時間程度。任意の日付からやり直すことができ,さらに誰が来たのかも確認できるので,再プレイの参考にしよう
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 さまざまな悩みやコンプレックスを持つお客をもてなすのが主人公の仕事だが,前述のようにカフェの店主に過ぎないので,医者やカウンセラーのように心理的な治療やアドバイスができるわけではない。彼らの話を聞き,飲み物を提供することだけがプレイヤーに“できること”だ。
 店舗にお客を呼び込んだり退店させたりはできないし,会話の選択肢を選ぶ場面すらない。そういう意味では,少々尖ったテキストアドベンチャーと言えるだろう。


コーヒー,紅茶,抹茶,ココア……。どの飲み物を入れ,どうアレンジするかはプレイヤー次第


 飲み物を淹れることしかできない主人公だが,提供できる飲み物の選択肢は結構広い。店名になっているコーヒーはもちろんのこと,紅茶や抹茶,ココアやミルクなど一通りの種類は揃っている。ここからお客が望む,あるいはマスターが適切と思うものをチョイスして提供するのだ。

バリスタ業務のメイン画面。まずはコーヒーやココアといったベースとなる飲料を選び,それから“トッピング”のように別の材料を加える。といっても,ベースの素材を繰り返し使うシンプルな飲み物も少なくない
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材料を選べばあとは勝手に飲み物が完成し,できあがりの姿と名前を確認できる。決められたレシピ以外は,入れた材料がそのまま名称として採用される。なお,一部の飲み物のみ,ラテアートを描くこともできる
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 具体的な手順としては,まずコーヒーや紅茶といった「ベース」になる素材を選び,次に「メイン素材」「サブ素材」を選択して飲料を完成させる。
 例えば,すべての材料にコーヒーを選べば濃くて苦い「エスプレッソ」になるし,逆にベースにコーヒーを選び,残りをミルクにすれば,「カフェラテ」になる。基本的なメニューは,ゲーム内でマスターが所有するスマホアプリの中に記録されていて確認できるが,多くは「未発見」扱いになっていて,自分で作ってみるまで詳細がわからない。メインやサブの材料は「しょうが」や「シナモン」など計5種類あって,組み合わせの選択肢は広い。
 また,材料の投入順も重要だ。ベース,メイン,サブを正しい順番で投入して初めてメニューとして記録される。通常,オリジナルレシピは「しょうが レモン コーヒー」など単に投入した材料がそのまま表示されるのだが,レシピが“当たった”場合は固有名になるので完成時にわかる,という仕組みだ。

レシピはゲーム内のスマホアプリから確認できる。最初から登録されているのは,ごく基本的なもののみ。残りはお客のオーダーや会話などからレシピを推測し,完成させる必要がある
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実はロード画面は重要なヒントだ。メニュー名と見た目が確認できるので,使う材料の選択肢がグッと狭められる
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 客のオーダーは細かく指定されることもあるし,その時の気分で「苦めで〜」とか「甘くてヘルシー」といった“ぼんやり”した形で指示されることもある。こういったときは作成中に表示される「ほっこり」や「甘み」といったゲージを参考にして,材料を調節していく形になる。多くのシチュエーションでは,注文前の会話がヒントになっている。
 とはいえ,ヒントらしいものがほとんどなく,メニュー名だけ指定されるといった例外もある。手元のレシピになければ,ほぼ純粋にプレイヤーの知識だけが試される形となり,飲料に詳しくないと正解するのは難しい。1日に5杯までは作った飲み物を廃棄できるが,枠を使い切ってしまうと,その日は満足できないものでも提供するしかない。それでゲームオーバーになることはないが,プロのバリスタとしては不満の残る仕事になってしまうだろう。

比較的レシピが推測しやすい注文(上)と名前だけで注文されるかなり困るパターン(下)
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あまり頻度は高くないが,アレルギー持ちのお客に危険な飲み物を提供すると強く非難されることも
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 マスターが満足するかは別として,いったん提供してしまえばあとは客が満足するかどうか。納得すれば店に対する印象も上がり,よりリラックスして落ち着いた気分になるだろう。これこそが,本作のキモとなる部分だ。
 前述のとおり,プレイヤーの分身のマスターは直接会話に対する反応を選ぶことはできない。実は会話のメインとなるのはマスターではなく,多くは同席する別の客だ。話の流れで客同士が相談に乗ったり,知恵を貸してくれたりして,何かを決断をするときに賢明な判断をする可能性が高まる。また,提供する飲み物によって次に来店するかどうかが変わる,なんてこともある。

 つまりプレイヤーの本当の仕事は,単に飲み物を提供するというよりも,良質な飲み物で店舗の居心地を良くし,それによって「客同士の繋がりを作ること」と言えるだろう。公式サイトによると,本作の正式なジャンルは「コーヒーをいれながら,心と心をかよわせるノベルゲーム」となっているのだが,言い方を変えれば「コーヒーによって,お客同士が心と心をかよわせる手伝いをするゲーム」という感じになるかもしれない。


ドット絵で良く動く魅力的なキャラクターは一見の価値あり。シナリオは見た目と違い,コーヒーのように“甘くない”


 スクリーンショットを確認してもらえばわかるように,本作は20世紀のファミコン〜スーパーファミコン時代のようなレトロチックなグラフィックスだ。筆者の場合は,昔のPCエンジンの作品を思い出して純粋に「懐かしい」と感じたが,世代によっては逆に斬新に映るかもしれない。
 とはいえ,このグラフィックスは単にレトロなだけでなく,登場するキャラクター達は展開や会話によってコロコロと表情や見た目を変えるため,印象に残る場面も多い。
 特にヒロイン的な立場の緑髪の女性フレイヤは,常連としてほぼ毎日カフェに現れ,プレイヤーであるマスターと悪友のようなやり取りを日々繰り広げる魅力的なキャラクターだ。ほかのお客とのやり取りも,彼女が最初の切っかけになることが多く,そういった点でも重要なキャラクターと言えるだろう。

表情のバリエーションも多く,見ているだけで楽しいフレイヤ。ライターを営む明るくて社交的な性格だが,彼女自身も仕事の悩みを抱えて店を訪れる一人だ
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エンドレスモードでは,好きなだけ自由に飲み物を作れる「フリーサーブ」と,制限時間内に何人のお客を捌けるか競う「チャレンジ」を楽しめる
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 ストーリーに関しては,お客として登場するキャラごとに同時並行で進むオムニバス形式になっているが,前述のように客同士の交流が頻繁に起こるため,完全に独立しているわけではない。あるお客の問題が,別のお客に影響して後味の悪い結果に……なんてこともあるので,なるべく多くの客を満足させるように心がけたいところだ。
 物語は仕事,恋愛,病気など大人向けのものが多く,全体的にはシリアスな印象が強い。ただ暗いばかりではなく,前述のフレイヤが適度に場を“かき回して”くれるため,そこまで重たくなる感じはない。

 特筆すべき点としては,知らなければ普通に日本のゲームと勘違いするかもしれないくらい,翻訳の品質が高いことだ。特に規模が小さい作品だと,フォントなどを含めローカライズの質が今ひとつの作品も少なくないのだが,本作は本当に丁寧に訳してある印象だ。アドベンチャーゲームにおいてテキストは主役とも言える存在だけに,これは嬉しいところ。

 ゲームとしては前述のように「飲み物を淹れる」ことしかできないので,単調とまでは言えないものの,もうちょっと別の行動ができても良かったかな……と感じるときはあった。店舗のマスターではあるが経営的な要素はなく,売上げやお金といった概念もない。また展開を変えるために,例えば意図的に指定とはまったく違う飲み物を提供し続けても,お客は不満を漏らすものの,すぐに大きな変化が出るわけではない。もちろんエピローグなどが変わったりはするのだが,個人的には「まったく違った話が展開される」ぐらいの違いがあっても良かったと思う。
 またロード画面やレシピのシルエットなど,ヒント自体はゲーム内にちりばめられているものの,突発的にノーヒントに近い注文が来て当てずっぽうで作るしかなくなる……なんて場面もあったのが少々気になった。

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 とはいえ,特徴的なグラフィックスをはじめ,ジャズやポップ調の若干ノイジーな独特のミュージック(「ローファイ・ヒップポップ」というジャンルらしい)は作風にしっかりマッチしていて印象に残り,おそらく多くの人にはあまり縁のないバリスタという仕事を簡易的でも体験できるのはなかなか面白い。バリスタの仕事が気に入ったら,「チャレンジ」というタイムアタックモードもあるので,こちらを極めてみるのも良さそうだ。
 大作ではないのでボリュームたっぷりとは言えないが,特有の雰囲気に惹かれるものがあったり,あるいは普通とは違うテキストアドベンチャーに興味があるなら,ぜひ手に取ってみてほしい。

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