紹介記事
「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」を紹介。新たな表現によって,オリジナル版の雰囲気そのままに広い世代が楽しめる作品に
「消えた後継者」と「うしろに立つ少女」は,1988年発売「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」と1989年発売「ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女」という,2つのコマンド式アドベンチャーゲームのSwitch版だ。ファミリーコンピュータ ディスクシステム向けにリリースされ,のちに移植作品やバーチャルコンソール版が展開されたオリジナル2作品のゲーム性はそのままに,ビジュアルや音声,演出などを一新。アニメーションやフルボイスによる会話シーンなど,“現代的”になった表現によって楽しませてくれる。
そんな「消えた後継者」と「うしろに立つ少女」はどんな作品に仕上がっているのか。オリジナル版のプレイヤーの視点を交えながら紹介していこう。
「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」公式サイト
ビジュアルと演出の進化により物語の没入感が向上
記憶を失って倒れていた主人公が,天地という人物に助け起こされたところから始まる。自身が倒れていた現場で記憶の手がかりを探していた主人公は,空木(うつぎ)探偵事務所の橘 あゆみと出会い,自身があゆみとともに空木事務所で働く探偵助手であること,出かける前にメモを残していたことを聞く。
記憶を失った主人公を見つけて助け出した天地(CV:杉田智和)。事件に向き合う主人公にいろいろと助言をしてくれる |
主人公とともに空木探偵事務所で助手として働く橘 あゆみ(CV:皆口裕子)。主人公と手分けして事件の調査にあたる |
そのメモを頼りに明神村という村にやってきた主人公は,村の名士で資産家である綾城家の屋敷にて,自身がとある依頼を受けてこの地に来ていたことを知る。
その依頼とは,綾城家当主である綾城キクの死に関する調査。遺産相続についての遺言を公開した直後という,不審な点のあるその死について,執事の田辺善蔵から調査を依頼されていたのだ。こうして主人公は,失った記憶を取り戻しながら,キクの死と,それを発端に巻き起こる事件の謎に挑むことになる。
ふとしたきっかけで空木俊介と出会い,探偵助手となって数か月がたったころ,とある少女の殺人事件を担当することになった主人公。被害者である丑美津高校(うしみつこうこう)の1年生・小島洋子の死について調査を進めていくうち,「うしろの少女」の噂や15年前に起きた女生徒の失踪事件といった,丑美津高校にまつわる不可解な話や出来事を知ることになる。
それらの噂や出来事と今回の事件に関連性はあるのか。小島洋子の死の裏にどのような事実が隠されているのか……。洋子の親友で,事件解決のため調査に協力してくれる橘 あゆみとともに,事件の真相に迫っていく。
ここからは,ゲームの進め方やシステムやついて説明しよう。2作品とも基本は同じで,プレイヤーは探偵助手の主人公となり,さまざまな場所に移動してその場を調べたり,人に話を聞いたり,それらで集めた情報を整理したりしながら推理し,事件を調査していく。それらの行動はシンプルで,「聞く」「見る・調べる」「考える」といったコマンドの中から選択するのみだ。
例えば「消えた後継者」でキクの遺言書について調べているときであれば,関連する人物から「聞く」で該当の話題を聞けば,それに関する話をしてくれる。こういった調査を繰り返して情報が集まっていくと,それらの情報をもととした質問や新しい場所への移動などが可能となり,それを繰り返し事件の真相へと迫っていくのだ。
推理モノやコマンド選択のゲームに不慣れな人は,「『現在どの選択肢が適切なのだろう』『どの行動を取れば次に進めんだろう』と悩むのでは……」と思うかもしれないが,そのあたりは安心してほしい。コマンドで表示される選択肢は,基本的にその場面に必要なものに絞られているため,迷ったとしてもとりあえずすべての選択肢を試してみれば次に進める。謎解きに囚われすぎてメインである物語の全体が掴めなくなるようなことはなく,“物語をしっかりと楽しみながら,プレイヤー自身で正解に気がつける”作りとなっているのだ。
このあたりの,物語をスムーズに楽しませるための“気配り”はオリジナル版からも感じられた要素で,Switch版でもそれが踏襲されている。
また,調査で得た情報がまとめられた「手帳」の「調査メモ」もあるので,いままで調べたことを整理したいときに使えるのはもちろん,たくさん登場する人物たちの関係性に迷ったときも安心だろう。さらにSwitch版では,新たに追加されたコマンドは黄色文字で強調表示されるため,不必要な選択肢を選ぶことなく,スムーズに物語を進められるはずだ。
推理するための情報まとめに役立つ「調査メモ」。おそらくベースは「うしろに立つ少女」のスーパーファミコン版に追加された機能で,同作をプレイした人なら二重に嬉しい新要素だ ※画像は「消えた後継者」 |
いろいろと選択肢を選んで話を聞いたら,黄色文字の「移動する」が表示された。つまり,ここのパートでの調査は完了。ここで得た情報を活かし,次の場所での調査に進もう ※画像は「消えた後継者」 |
人物の表情も謎を解くヒントになっているのも,オリジナル版からの特徴の一つ。Switch版でなにより注目なのが,アニメーションによってより緻密に表現された人物の動きや表情の変化だ。オリジナル版でも表情の表現は豊かだったが,風になびく髪や衣服といった動きも滑らかで,とくにオリジナル版を知っている人は,ゲームの技術の進化に驚かされるだろう。
また,登場人物の表情や動きだけではなく,各シーンの構図なども現代的にアレンジされたものになっているので,もとが30年近く前の作品とは感じさせないビジュアルでゲームが楽しめる。オリジナル版のプレイヤーも,新鮮な気持ちでゲームが楽しめるはずだ。
音楽やサウンドも,物語を盛り上げてくれる重要な要素だ。怪しいものに気づいたときや,謎を解くうえで必要な情報が手に入ったときに,それを知らせる効果音が鳴るなど,ゲーム進行においても重要なものとなっている。Switch版では,オリジナル版の音楽をベースとした新アレンジのBGMが収録。さらに新規追加されたボイスによってよりドラマチックに物語が展開していく。
なお,コンフィグでオリジナル版のBGMに変えることや,ボイスを当時の文字送りの音に設定することも可能だ。原曲も素晴らしいものばかりで,「うしろに立つ少女」ではスーパーファミコン版のBGMにも変更できるため,オリジナル版のプレイヤーとしてはこちらでのプレイもオススメしたい。テキストのフォントもオリジナル“風”に変更できるので,こちらも設定すればよりオリジナル版に近い雰囲気でゲームが楽しめるだろう。
ほかにもオリジナル版プレイヤーとして気づいた部分だと,オリジナル版ではいわゆる“地の文”で説明されていたテキストが,それを補うような形で調整されたセリフや主人公の独白によって会話劇にまとめられていたのが印象的だ。とても細かい部分ではあるが,基本的にはオリジナル版そのままの内容で,それらの調整はオリジナル版を最大限に尊重しつつ行われていることが感じられる。
ゲーム進行や物語といった基本の部分はそのままに,ビジュアルや演出面を現代的にアレンジすることで“現在(いま)”のアドベンチャーゲームへと生まれ変わった「消えた後継者」「うしろに立つ少女」は,リメイク部分の丁寧さとともにオリジナルの完成度の高さを再確認できる,オリジナル版のプレイヤーには嬉しい仕上がりとなっていた。
Switchで初めて遊ぶ人のなかには,複数のコマンド選択が手間に感じたり,テンポよく進んでいく物語がかえって淡泊に思えたりすることもあるかもしれない。しかし,トリックの意外さや,事件の発端から真相に至るまでの細かな部分や構成など,時代を超えた“ミステリーの普遍的な魅力”のある物語なので,時間を忘れて推理や謎解きに没頭できるはずだ。
細かな表情や動きを表現しているアニメーションと,各種イベントシーンの演出によって生まれる物語への没入感はなかなかのもの。オリジナル版を知る人もそうではない人も,アドベンチャーゲームの新たな表現が体験できるこの2作品をプレイしてほしい。
「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」公式サイト
- 関連タイトル:
ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者
- 関連タイトル:
ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女
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